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2025.09.08

この秋目指すは知的なオヤジ! 森美術館「藤本壮介の建築:原初・未来・森」でアタマとココロをアップデイト

今最も注目すべき日本人建築家の一人であり、関西・大阪万博の大屋根リング設計者としてもお馴染みの藤本壮介さん。初の大規模個展「藤本壮介の建築:原初・未来・森」が、現在六本木「森美術館」開催中なのですが、その展示がすごいことになっている噂。ということで、実際に訪れた様子をリポートします!

BY :

文/矢吹紘子
CREDIT :

写真/森美術館、矢吹紘子

藤本壮介の建築 六本木 森美術館 WebLEON
▲ 画像提供/森美術館
猛暑の夏もひと段落し、暦の上ではもう秋。徐々に過ごしやすくなるこの時期は、何か新しいことを学ぶのにも最適ですよね。例えば、知的刺激を求めてミュージアムに行ってみるなど? 今回ご紹介する「藤本壮介の建築:原初・未来・森」は、そんなアナタにおすすめのエキシビションです。藤本氏といえば、言わずと知れた日本を代表する建築家の一人。そして彼がこれまでたどった軌跡を、実に斬新な方法でビジュアル化したのが同展なのです。
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藤本の頭の中の“森”を垣間見て、その一部になる⁉

同展は藤本さんの最初期1990年代後半から現在進行中のものまで、30年にわたる軌跡を8つのカテゴリーで展開します。のっけから「やられた!」と思ったのが、そのユニークな展示方法です。エントランスを入ってすぐの「思考の森」ルームは、彼の頭の中を垣間見たような気持ちになる、これ自体がインスタレーションアートな空間。大小のスタディ模型や素材、自問自答の断片が窺える言葉が添えられたオブジェなどが、約300㎡という広々とした空間を最大限に使って展開します。
藤本壮介の建築 六本木 森美術館 WebLEON
▲「サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン」はロンドン・ケンジントンガーデンズ内の同ギャラリー横に夏の間だけ現れ、毎年異なる建築家が手掛ける。藤本さんが担当した2013年は、スチールパイプを格子状に組み上げた「透明なパビリオン」と話題に。
「House N」(2008年)、「青森県立美術館設計競技案(構想)」(2000年)といった初期の代表作をはじめ、FUJIMOTOの名を世界に知らしめた「サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン2013」、さらには「UNIQLO PARK 横浜ベイサイド店」(2020年)、「太宰府天満宮 仮殿」(2023年)、「NOT A HOTEL ISHIGAKI EARTH」(2025年)などLEON読者にもお馴染みであろうショップや施設もずらりと。その圧倒的存在感たるや……!
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藤本さんが生まれ育ったのは北海道旭川市の隣町、東神楽町という緑豊かな土地。家のすぐ裏に雑木林があり、その中を動物のように走り回って過ごしたという幼少期の原体験に基づく空間感覚が、無意識のうちに創作の面でも滲み出てくるのだと、同展のインタビュー動画中で語っています。

彼によると東京のような都市にも、その“森的なもの”を見出せるそうで、例えば密集した木造家屋や電柱、自転車といった雑然としたものが街の風景を作っているのだとも。様々な太さの枝が乱雑にあって、その密度の高い状態の中で守られているような安心感と、同時に外に開かれているという矛盾。
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藤本壮介の建築 六本木 森美術館 WebLEON
▲模型の間に来場者が入り混じり、写真を撮ったり、眺めたり。自分自身が「森的なもの」の要素の一部になるプロセスも楽しみたい。
「建築家として必ず作らなければならない内外の境界が曖昧で、色々なものを受け止め、受け入れる許容力がある」。そんな彼独特の森の概念は、なんともユニークだけれど、どこか納得。特に東京の街の解釈の仕方は、地方都市育ちの私にも重なる部分がありました。
藤本壮介の建築 六本木 森美術館 WebLEON
▲自身が描いた「思考の森」の模型配置図。3つの要素が重なり合いながら増殖するようにも見え、森の有機性にも繋がる印象を覚えた。
「思考の森」の展示物にはオレンジ、緑、青のマークが付いていて、それぞれ「たくさんのたくさん」(多数が一つを構成する)、「未分化」(空間の用途や性質が曖昧で多義的)、「ひらかれ、かこわれ」(閉じられているはずの円環が外部に開かれている)という藤本建築の特徴的な要素を意味しています。そして、それらを追いかけながら一つ一つを改めて見ていくと、また違った面白さが見えてくるのです。
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藤本壮介の建築 六本木 森美術館 WebLEON
▲それぞれの模型の説明文には、3色のキューブ状のマークが添えられていて、分かりやすいガイドラインとしても機能。

今年一番の話題をさらった関西・大阪万博「大屋根リング」の舞台裏とは

仮に藤本壮介という名前を知らなかったとしても、現代日本に暮らす人なら誰もが見聞きしたことがあるはずの建築物があります。それはズバリ、関西・大阪万博のアイコン「大屋根リング」。藤本さんが会場デザインプロデューサーを務めた万博にて当初から話題をかっさらい、今や大阪観光の目玉ともなっているあの世界最大の木造建造物です。
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▲オリジナルは高さ約20m、幅約30m、一周約2kmと木造建築としては世界最大。1/5とはいえ、高さ4m超という圧倒的な規模。画像提供/森美術館
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「藤本壮介の建築:原初・未来・森」では「開かれた円環」というカテゴリー展示室の中で、構想段階の葛藤が垣間見られるスケッチや記録写真、実物の高さ1/5サイズの木造模型を紹介しているのですが、その内容がこれまた濃い!
藤本さんに万博の依頼がきたのはちょうど東京オリンピックに関する一連のゴタゴタの真っ最中。引き受けるのには相当な覚悟を要したそう。「(コロナの影響もあり)リアルに人と人が、世界が出会うことの価値が、今まで以上に大きくなっている。多様な国々が集まって、そこで何かを共に行うことが、未来を指し示すのではないかと思った」という言葉にグッときました。
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地上約230mの絶景図書室にぬいぐるみショー、未来都市の構想まで盛りだくさん

会場内には森タワーの絶景を目前に読書ができるスペシャルなブックラウンジ「あわいの図書室」が出現。「間(あわい)」を着想源に『「本を読む」「読まない」の間としての空間』を演出したという、非常にコンセプチュアルなスペースです。書籍のキュレーションを担当したのは「BACH」を主宰する選書家の幅允孝さん。藤本建築から着想を得た5テーマをベースに、40冊の本をセレクト。椅子には本の中から引用された言葉が引用されていて、ドキッとさせられます。
藤本壮介の建築 六本木 森美術館 WebLEON
▲都市の風景としての“森”を眺めながら、本を読んだり、読まなかったり。デートで訪れたと思わしきカップルたちが、本を交換し合う微笑ましい姿も。画像提供/森美術館
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他にも、「藤本壮介の建築:原初・未来・森」展には予想を覆す仕掛けが散りばめられています。例えば「ゆらめきの森」展示室では、模型にプロジェクションマッピングを施して人の流れを可視化していて、妙に中毒性がある(笑)。

東日本大震災のメモリアル施設を兼ねた音楽ホール「仙台市(仮称)国際センター駅北地区複合施設」の模型を、一週間かけて天井から吊るしたコーナーは思わず様々なアングルに回り込んで見てしまうど迫力。

そして筆者が「とても日本的!」と思ったのが、藤本建築の代表作5作を擬人化し、それぞれキャラ設定まで決めた上で座談会を行うという企画。これは「建築家が上から目線で語るのではなく、建物自身に語ってもらおう!」というご本人の熱い希望のもと生まれたアイデアで、シナリオを何度も練り直し、ギリギリまで調整したのだそう。来場した子どもたちはもちろん、海外からと思われる人たちが興味深そうに眺めていたのが印象的でした。
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さらにラストの「共鳴都市 2025 Resonatia」の構想。そこで描き出されていた未来の生活は、人が本当にこんなところで暮らせるの? と思うような奇想天外な球体の中。「最大多様の最大幸福」というコンセプトもさることながら、そのビジュアルのインパクトたるや。一見すると極端に思えますが、それぞれの球体の“外”と“中”が混在しているあたりは、藤本さんが作り続けている建築物、とりわけ万博の大屋根リングが人工物であるパビリオンをぐるりと覆い、木や植物が生い茂る森を擁する構造にもしっかりと通じているように思えました。
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駆け足で紹介した「藤本壮介の建築:原初・未来・森」ですが、畏れながらひと言で感想を述べると「想像の100倍面白かった」です。SNSなどで大阪万博に関する批判や意見を耳にしていたので、訪れる前は正直ややネガティブなマインドでもあったのですが、いい意味で予想を裏切られました。

分断や排除が危惧される今の世の中に私たちができることだとか、(彼のように具体的な何かを作ることはできずとも)持ち続けたい姿勢や目線を再認識させられましたし、模型やミニチュアがドーンと目の前に迫る展示が純粋に面白い。

建築に詳しくなくとも楽しめる仕掛けが満載で最後まで飽きさせず、時代を象徴する建築家の頭の中を覗き見て、そのパッションを共有したような気持ちにさせてくれるというか。私たちの未来はきっと複雑で多様で、もっと良いものになる。そんな希望に満ちたエキシビションでした。会期は11月9日まで。いよいよラストスパート突入の大阪万博とセットで、ぜひ訪れてみてください!
藤本壮介の建築 六本木 森美術館 WebLEON

藤本壮介の建築:原初・未来・森

場所/森美術館(六本木ヒルズ森タワー53階)
住所/東京都港区六本木6-10-1
会期/開催中。2025年11月9日(日)まで
時間/10:00~22:00 火のみ17:00まで、9月23日(火・祝)は22:00まで(最終入館は閉館時間の30分前まで) 会期中無休
お問い合わせ/050-5541-8600(ハローダイヤル)
HP/藤本壮介の建築:原初・未来・森 | 森美術館 - MORI ART MUSEUM

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藤本壮介の建築 六本木 森美術館 WebLEON

● 藤本壮介 (ふじもと・そうすけ)

1971年北海道生まれ。東京大学工学部建築学科卒業後、2000年藤本壮介建築設計事務所を設立。2014年フランス・モンペリエ国際設計競技最優秀賞(ラルブル・ブラン)に続き、2015、2017、2018 年にもヨーロッパ各国の国際設計競技にて最優秀賞を受賞。2025年日本国際博覧会会場デザインプロデューサーに就任。主な作品に、ブダペストのHouse of Music (2021 年)、白井屋ホテル(2020 年)、L’ Arbre Blanc
(2019 年)、ロンドンのサーペンタイン・ギャラリー・パビリオン2013 (2013 年)、House NA(2011 年)、武蔵野美術大学 美術館・図書館
(2010 年)、House N (2008 年) など。

● 矢吹紘子 (やぶき・ひろこ)

ライター、編集者、通訳案内士。小誌のほか『BRUTUS』『POPEYE』などライフスタイル誌を中心に記事を執筆・編集。ロンドン大学で修士課程修了後、プライベート通訳としても活動。京都を拠点に海外からのVIPゲストのアテンドや旅のキュレーションを行なっている。
Instagram: @hiroko__yabuki

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