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2020.08.01

【vol.06】人生初の着物を仕立てる/前編〜仕立て〜

これぞ男の最終目的地!? 人生初めての「着物」を仕立ててみた

いい大人になってお付き合いの幅も広がると、意外と和の素養が試される機会が多くなるものです。モテる男には和のたしなみも大切だと、最近ひしひし感じることが多いという小誌・石井編集長(46歳)が、最高峰の和文化体験を提供する「和塾」田中康嗣代表のもと、モテる旦那を目指す連載です。

CREDIT :

写真/トヨダリョウ 文/井上真規子

第6回目となる今回のミッションは人生初の「着物を仕立てる」こと。現代において嗜好品となりつつある着物は、センス、品性など男としての熟成度が如実に表出する究極のお洒落着です。まさに余裕のあるオヤジにしか着こなせない、男の最終目的地!?

というわけで今回は、小誌がこれまで度々お世話になっている“男の着物と言えば”の「銀座もとじ」さんにご協力いただき、和装の粋とはなんなのか?を全3回でたっぷりお届けしていきます。

編集長、人生初の着物を仕立てに「銀座もとじ」に到着

銀座3丁目にある「銀座もとじ 男のきもの」店に到着した、石井編集長と田中代表。本日、編集長の仕立てを指南してくださる、銀座もとじの二代目・泉二啓太(もとじ・けいた)さんがお出迎えくださいました。

田中・石井「啓太さん、こんにちは!」

啓太「お待ちしておりました」

石井「相変わらずイケメンですねぇ。今日はよろしくお願いします!」

啓太「いやいや(笑)、石井編集長、よろしくお願いいたします! 田中さん、今日もキマってますね。ハットも粋です」
田中「いやいや、おかげさまで。今日の着物は、もとじさんで仕立てたものです」

石井「そうだったんですか! めちゃくちゃカッコいいですね。啓太さんもいつも着物ですよね!」

啓太「はい、9割方着物です。今はご時勢的に難しいですが、銀座で飲む時も着物で気軽に出かけています」

石井「銀座のバーで着物って憧れるな〜。いろんな意味で待ち遠しい」
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銀座もとじの二代目・泉二啓太(もとじ・けいた)さん。
田中「最終目標はそこだね。それにしても最近の呉服屋は、洋服で接客するのが当たり前でしょ。でも、僕はなぜ普段、着物を着てない人から着物を買うの?って思ってしまう。その点、もとじさんはみんな着物だから気持ちがいい」

啓太「父(社長)も自分も着物が大好きですし、お客様に対してもその方が説得力が出るだろうと」

田中「ほんとに。買うなら着物が大好きな人から買いたいよね」

石井「スーツ屋行ったら、デニムで対応されるみたいな感じですもんね(笑)」

田中「そうそう。だから着物の店選びは、まず従業員が着物を着ているかで選んでもいいくらい」

【ポイント】

■着物を仕立てるなら着物で接客してくれる呉服屋を選べば間違いない

男の着物は「表は地味に、裏で遊ぶ」のが粋

田中「で、石井編集長。今日は、粋な着物を一式仕立てるということで」

石井「お、押忍!  懐の紐を緩めてきました(笑)。清水の舞台から飛び降ります!」

田中「そうこなっくちゃね(笑)。じゃあ啓太さん、めちゃくちゃ粋なお見立てでお願いしますよ」
啓太「了解です! ではまず、着物と羽織(着物の上に羽織るもの)の生地を選んでいただきたいので、反物をお出しします。(あわせ/裏地のあるきもの)と単衣(ひとえ/裏地のないきもの)は、どちらにしますか?」

田中「1枚目だし、まずは単衣がいいと思いますよ」

啓太「特に最近は温暖化で、単衣を長く着られる方が増えていますね」

石井「じゃあ、単衣かな。田中さん、反物の選び方を教えてください!」
※袷は10月〜5月、単衣は6月、9月の着用が一般的。暑くなる7、8月は薄物(上布(じょうふ)、紗(しゃ)、絽(ろ)など織の密度が粗く、透ける生地の総称)などを着る。お茶などでは厳密にする必要があるが、一般的に楽しむなら単衣は4~5月頃から使える。
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田中「よく京都のお茶屋にお客さんを連れて行く時、『何を着ていけばいい?』って聞かれるんで、お茶屋の大女将に聞いてみたら『お茶屋は舞妓が主役だから、舞妓を立てるような服にしいや』って言われて」

石井「それは、粋っすね〜」

田中「江戸時代では、連れ添う人や行く場所を軸に着物を選んでいたから、自然と地味になっていったんです。最近は、日本でも自己主張の文化を持つ西洋の価値観に染まってきて、洋服選びも自分の個性をいかに出すか、目立たせるか、が大事になってきてるけどね」

啓太「江戸時代に奢侈禁止令が出されて、表向きには贅沢ができなくなったことも背景にありました。江戸以前は、確かに日本にも艶やかな色や柄を楽しむ文化があったんですよね。その名残で、表地は地味だけど隠れた部分でしっかり個性を出すというチラ見せのお洒落が粋とされるようになったんです」
石井「相手を立てる美意識は、モテるオヤジの必須条件ですよね。とはいえ、着物でも自分のこだわりは持っていたいな。奥ゆかしさの中に、『俺のこだわりはこうだ』っていう上品な主張も入れていきたいですね」

田中「そう! だから、襦袢(じゅばん/着物の下に着る下着)や羽織の裏地を華やかにするんです。自己主張は忘れないけど、奥ゆかしく。僕はその視点で着物を選ぶとカッコ良くなると思っています。春画のエロティックな柄の襦袢なんか遊びが効いてて粋だよね(笑)」

【ポイント】

■着物は、連れ添う相手や行く場所に合わせて選ぶのが粋
■自己主張は見えない部分で奥ゆかしく、が鉄則
■羽裏、襦袢は柄や色で思いっきり華やかに!

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生地選びがモテを制す。初仕立ては、「単衣・フォーマル・シック」で選べ!

石井「着物の生地選びは、素材、色、柄と、選ぶ項目がたくさんあって難易度が高そうですね」

田中「絹は上質感もあって、着心地もいいよね。フォーマルにも使えるお召とか」

啓太「当店で扱う反物は、9割が正絹です。ただ同じ絹でも、糸のとりかたでTPOが変わってきます。例えば、繭から機械でとったきれいな糸は、フォーマルな生地とされています。お召や羽二重と言う素材は、そのきれいな糸を使っていて、将軍や上級身分のかたが着ていたものでした」
※お召は最高級の素材として略礼装・洒落着に好まれる。羽二重は撚りをかけない生糸を用いて平織りにした高級な絹織物。
啓太「一方、繭を引き延ばして乾燥させた真綿から手作業で紡ぐ、紬糸で織った生地、(つむぎ)はカジュアルな生地とされています。庶民の着物に使われていたため、今は手間がかかって価格も高いのに、カジュアルな生地として扱われているんです」

石井「なるほど。高級品でもフォーマルには着れないってことか」

啓太「ただ紬は産地色が豊かで、美しいものがたくさんあるので贅沢品として好まれます。中でも一級品として有名なのが、茨城県結城市で生産される結城紬(ゆうきつむぎ)や、奄美大島などで生産される大島紬もそうです。こちらはよく見ると柄が亀の甲羅の形になっています。長寿を願った吉祥紋様としても古来より好まれてきたお柄です」
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▲結城紬
田中「結城紬は亀甲の細かさで値段が変わってくるんだよね」

啓太「亀甲が増えるほど細かい作業になるので、価格も跳ね上がります。こちらは、結城紬の老舗の産地問屋で知られる「奥順」さんのもので、横一列に100個あるので100亀甲。一反で148万円(お仕立て代・税込み)です」

石井「本当にものすごい細かさ!」
田中「なのに、むちゃくちゃカジュアルっていう(笑)。僕もこのあいだ奥順へ行って、250亀甲で一反6000万円のものを見せてもらった(笑)」

石井「……(絶句」」

啓太「うちには220亀甲で4800万円のものがありますよ」

田中「見せて〜!(笑)」
石井「こ、これはもはや超絶技巧の域ですね。見る人が見ればわかるんだろうけど、言われなかったら普通の人には到底価値がわからない。それってものすごい大人の贅沢であり、究極の遊びですよね。まあ、俺が買える紬はせいぜい2亀甲ってとこかな(笑)。って、ものすごい派手になるじゃん!!」
▲こちらが超絶技巧で作られた220亀甲の結城紡。

【ポイント】

■生糸で織られるフラットな生地が主にフォーマル仕様
■手紡ぎ糸で織られた質感たっぷりの紬地はカジュアル仕様
■紬は亀甲の数が多いほど手間がかかり、亀甲の数で価格が決まる

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粋なオヤジは、一見シックで近づくと華やか!

田中「男の着物は、表の色柄は地味なんだけど、近づいたら柄が見えてくるくらいの感じが粋だよね。粋筋は、江戸小紋(全体に細かい染模様が入っている生地)か。江戸の粋なら、やっぱり縞かな!」
▲一番下が江戸小紋。上の3つは縞。
啓太「江戸小紋と縞だと、このあたりですね」

石井「わ〜、ワルっ(笑)。でも、品があるという。ちなみに、羽織は違う生地で作るものなんですか?」

啓太「決まりはないですね。長着と羽織を同じ色柄で作るとアンサンブルでクラシックな雰囲気になります。あえて色柄を変えて遊ぶことも多いです」

田中「真面目すぎるのもつまらないし、着物は地味めで羽織で変化をつけてもいいんじゃないですか」

石井「スーツとジャケパンの違いと同じなんだ! 柄なら縞がいいな」

啓太「じゃあ、控えめな縞が入ったブルーグレーのこちらはいかがでしょう」
石井「いい感じですね!」

田中「じゃあ、さっそく生地をあててみよう」

啓太「鏡の前に移動して実際に反物を身体にあてて顔写りなどをチェックします」
▲反物を実際の着物のように身体にあてた仮着付けの様子。(鏡越しなので、衿が反転しています )
田中「いいね〜石井くん。着物似合うね!」

石井「あざ〜っす!!」

啓太「羽織もグレーで揃えるか、雰囲気を変えるなら濃い目の色柄ものを合わせてもいいですね」
▲羽織は左右で違う色の生地をあてて組み合わせを見る。(鏡越しなので、衿が反転しています )
石井「グレーは結構同化するね。この色好きだな〜! 羽織は柄の方が好きです」

田中「帯を華やかなものにすると印象が変わるね」

啓太「もう一つの色も合わせてみてください」
石井「こっちもいい! でもやっぱり色はシックな方が着やすいのかな」

啓太「普段、洋服でよく着る色味を選ぶとしっくりくると思います。黒、グレー、紺は、合わせやすいし、どんな方でも間違いないです」

石井「ふむふむ。じゃあ、1枚目のブルーグレーで! 羽織は柄で。お値段何も見ていないけど決めたっ!!!(笑)」

田中「ワハハ!(笑) 気に入ったものを買うのがいいよ! 着物は100年着られるから大丈夫! 日数で割ったら安いもん」

【ポイント】

■江戸の粋は、遠目地味めの江戸小紋or縞
■ジャケパン感覚で羽織で遊ぶ

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粋なオヤジは、襦袢と羽織の裏で魅せる!

▲羽織の裏は男の遊び心が楽しめるところ。
啓太「最後に、羽裏(羽織の裏地)の生地を選んでいただきます」

田中「羽裏と長襦袢は、うんと華やかにしていいんだよ。個性の見せ所だから」

石井「羽裏は脱いだ時に見える部分ってことか。羽織は、ジャケットみたいな感じで、室内では脱ぐものなんですか?」

啓太「マナー的に脱ぐ必要はないのですが、うちの父なんかは、暑くないのによく羽織を脱いで羽裏をチラ見せしてます(笑)。なんか暑いな~みたいな感じでさり気なく脱ぐんですよ」

石井「そういえば、このあいだ裏地がエトロの羽織を持ってるって仰ってました!」

啓太「そうです! お店の人に羽織を預けると『あら、これ素敵な裏地ですね』って、そこから話が始まるんですね」

石井「まさにLEONの世界ですね(笑)。最高です!」
▲田中さんの羽織には富士山が描かれた額裏が
啓太「裏地は本当に楽しいです!  確か田中さんの長襦袢は、江戸の古地図ですよね」

田中「そうそう。長襦袢ももとじさんで買わせていただいて」

石井「それでバーとかで、袖からチラチラ長襦袢を見せたりするんですか?」

田中「わざわざ見せたら野暮だから(笑)」

石井「じゃあ『見えちゃった感』はどうやって出せばいいのかだけ、教えてください!!(笑)」
▲絞りで表された紋。
啓太「例えば、これは家紋の絞り。他にも矢羽根、名所百景なんかもあります。羽織の裏地を『羽裏』、ひとつの絵柄になっているものを『額裏』と呼びます」

田中「もとじさんは羽裏の種類がたくさんあるから、羽裏に凝りだしたらキリがないです。羽裏の方が高かったりするし」
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▲若冲の額裏。
啓太「これは若冲柄の額裏です」

田中「洋服の生地を羽裏に使ってもらうのもありだよね」

啓太「エルメスのスカーフで作られる方とかもいらっしゃいますよ」

石井「あ〜、それは間違いない!!」

田中「初めからそこまでしなくてもいいと思うけどね! 初めての仕立ては、着物、羽織から小物まで一式揃えないといけないから、価格的にもハードルが高くなるしね」
石井「でも結局、僕も若い時に迷ってタキシードをちゃんと作ったんですけど、3、4年経ってシルエット変えたりしながら、結局10年以上着れましたから」

啓太「ほんとですか! 着物は100年持ちますから。損はないと思いますよ」

いよいよ次回は仮縫が上がってきます。お楽しみに!

【ポイント】

■ 羽裏で個性を出すのが粋
■ 自分の好きな生地を羽裏にしてもよい
■ 着物は100年ものだから、実は洋服よりコスパがいいかも

田中康嗣

「和塾」代表理事。大手広告代理店のコピーライターとして、数々の広告やブランディングに携わった後、和の魅力に目覚め、2004年にNPO法人「和塾」を設立。日本の伝統文化や芸術の発展的継承に寄与する様々な事業を行う。

和塾

豊穣で洗練された日本文化の中から、選りすぐりの最高峰の和文化体験を提供するのが和塾です。人間国宝など最高峰の講師陣を迎えた多様なお稽古を開催、また京都での国宝見学や四国での歌舞伎観劇などの塾生ツアー等、様々な催事を会員限定で実施しています。和塾でのブランド体験は、いかなるジャンルであれ、その位置づけは、常に「正統・本流・本格・本物」であり、そのレベルは、「高級で特別で一流」の存在。常に貴重で他に類のない得難い体験を提供します。

■和塾HP
URL/http://www.wajuku.jp/
最高峰の和文化体験のご案内・お申込みはこちら
URL/http://www.wajuku.jp/index.php/archives/11089
和塾が取り組む支援事業はこちら
URL/http://www.wajuku.jp/index.php/archives/11116

銀座もとじ

1979年創業。銀座に染と織の女性の着物専門店「銀座もとじ和織・和染・ぎゃらりー泉」と、日本発の男性の着物専門店「銀座もとじ 男のきもの」を構え、フォーマルからカジュアルまで、全国の作家・産地とともに現代の街並みに合う装いを提案。世界初の純国産・オスだけの蚕品種「プラチナボーイ」の絹糸による一本の糸からこだわったものづくりも行っている。
■「銀座もとじ 男のきもの」
住所/東京都中央区銀座 3-8-15
TEL/03-5524-7472
HP/https://www.motoji.co.jp/
◆銀座もとじ公式Instagram  https://www.instagram.com/ginza_motoji/
◆銀座もとじ公式Facebook  https://www.facebook.com/ginza.motoji/

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