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2025.07.11

【第26回】

イタリアでは古くなったパンを捨てる時は、敬意のしるしにキスをしてからって知ってた?

イタリア生まれのフード&ライフスタイルライター、マッシさん。世界が急速に繋がって、広い視野が求められるこの時代に、日本人とはちょっと違う視点で日本と世界の食に関する文化や習慣、メニューなどについて考える連載です。

CREDIT :

文・写真/スガイ マッシミリアーノ 編集/森本 泉(Web LEON)

イタリアと日本の食マナーの違いに驚くことも

「サイゼリヤの完全攻略マニュアル」(note)でおなじみのイタリア人ライター、マッシさんが、今回はイタリアにおける食事のマナーのあれこれについてお話しします。
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イタリア料理を食べたことがない人はほとんどいないというか、絶対にいないと思う。イタリア現地だろうが日本国内だろうが、どこで食べても基本的に美味しくて最高に楽しめるし、人生のリフレッシュまでできると言っても過言ではない。日本料理も同じことを言えるよね? だけど、こんな楽しくて美味しい食卓の空間に、食マナーや不思議な国民性、理解しにくい食文化が隠れている。おそらく、多くの読者が考えたこともないか、知っていても解決していないことがあると思うから、今回は丁寧に説明しようと思う。
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▲ カゴから取ったパンはどこに置くか迷うよね。

取り皿文化のないイタリアではパンはテーブルに置く

イタリアンを食べている最中の最大の疑問が「パン」にある。イタリアのレストランだと、パンはテーブルのカゴや紙袋などに入っているけど、そのパンを取った後にどこに置けばいいのか、またカゴに戻せば良いのか、このような悩みは珍しくないだろう。

僕らはどうするのかというと、取り皿文化のないイタリアでは、取ったパンを千切ってそのままクロスを敷いたテーブルに置くんだ! 毎回、食べたい分を千切って、テーブルに置いてからまた食べる。

食後にはテーブルクロスがパンくずだらけになるから、僕が子どもの頃は食べた後にクロスを庭側の窓に出してパンパンしていた。その後、なんだか騒がしいなぁと思い窓から地面を見たら、鳥が集まっていたよ。日本ではあまりない習慣かもしれないけど、イタリアでは現在もこの習慣が続いているんだ。
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▲ こんなふうにパンはゴロリとクロスの上に置いてあるのが普通。

残ったソースをパンで拭って食べる美味しさは我慢できない

イタリアを訪れた読者はサラダを頼んだ時に、何もかかっていないという驚きがあったんじゃないかな。日本ではドレッシングがかかっていたりテーブルに置いてあったりするけど、イタリアではドレッシングの存在がほとんどない。オリーブオイル、塩胡椒、バルサミコ酢しかないんだ。かける量によって自分好みの最高の味を作れるし、サラダの新鮮さも味わえる。

ここから、僕も謝らないといけないマナー違反がある。日本では知られているようでもしかしたら知られていないかもしれない。それは、イタリア料理の中ではかなりNGゾーンになると言いながらも、未だに多くのイタリア人がそれを無視している「スカルペッタ(お皿のソースをパンで拭う行為)」だ。

高級なレストランはもちろん、カジュアルなお店でもNGなこと。だけど、パスタの残ったソースがもったいなくて、ついついやっちゃう。残ったソースにパンを漬けるだけで、美味しくてたまらない! 一回やってしまえば、我慢しようとしても自分に負けてやっちゃうのよ!

実は、日本にもスカルペッタに似たような行為があるよね。それは「ねこまんま」。ご飯に味噌汁や鰹節と醤油をかけて食べることだ。「味噌汁かけご飯」と言われることもあるよね。面白くない? 
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▲ レストランの食卓もマナーは家庭と同じ。

ナイフを2本交差させるのは「あなたへの挑戦」

もう一つ例を挙げると、ラーメンの残り汁にご飯を入れる食べ方もあるよね! これは、ラーメン店側が「〆のご飯セット」としてメニューに加えるなど、割と市民権を得ている感じがする。ラーメン屋さんならセーフなのかもしれないね。スカルペッタやねこまんま然り、不思議なことに食マナー違反だとしても(マナー違反ゆえに?)、めちゃくちゃうまいご飯になると思わない?

イタリアの食マナーとして、カトラリーの置き方にもさらに深い意味が込められていることがあるよ。カトラリーを十字に交差させて置くことは、キリスト教の「十字架(磔刑)」を連想させるため、テーブルマナーでは避けないといけないんだ。この慣習は、その昔に栄華を誇ったフランスの宮廷文化から生まれたもの。

さらに、そこにはもう一つ強い意味合いが隠されているよ。それは、ナイフを2本交差させた場合だ。これは、食事中の他の客に対して「あなたに挑戦するぜ」という決闘の申し込みを意味している。子どもの頃はふざけてよくやっちゃっていたけど、その度におばあちゃんに怒られていた記憶が今も残っている。
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▲ カトラリーを十字に交差させて置くことは、キリスト教の「十字架(磔刑)」を連想させるんだ。
これに対して、日本でもお箸でやってはいけない行為があるよね。僕が日本に来た当初、あるカウンターの飲食店で1人ランチしていた時、何も考えず白米にお箸を刺してしまったんだ。その瞬間、焦った表情の店員さんが来て、すぐ説明してくれた。

ご飯に箸を立てる行為は、日本では「枕飯」として、亡くなった方の枕元に供えるお供え物の一部だ。故人があの世へ旅立つ時に食事に困らないように、そして、あの世とこの世を橋渡しする意味が込められている。お葬式の時に行うこの習慣は、毎日の食事で行うと縁起が悪い。今でも当時のことを思い出すと恥ずかしいよ。

異文化を知らないと、このような失礼な行動になりがちだよね。きっと、読者も海外旅行中に似たような経験があるだろう。こういった文化の違いは現地で学ぶことで、人生において貴重な経験になるはずだ。そのあと、思い出すとちょっと照れ臭くて、笑いながらお土産話になる。
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▲ 文化の違いは現地で学ぶことで、人生において貴重な経験になる。

パンを捨てる時は敬意のしるしにキスをして

ちなみに、おばあちゃんから学んだパンの習慣はもう一つあるよ。昔のイタリアでは、古くなったパンを捨てる時に、パンへの感謝と敬意のしるしとして最後に一度キスをするべきとされていたんだ。少なくとも、昔はそれが当たり前だった。そして、縁起を担ぐ人々にとっては、その反対、キスをせずにパンを捨ててしまうことは、悪いことを招く不吉な行いだと信じられていたんだよ。

また、僕がイタリアにしかないルールと思っていた「3秒ルール」は、日本にもあって驚いた。床に落とした食べ物でも、3秒以内に拾えば、まだきれいで食べても安全であるという俗説だ。
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▲ ワインもすごい種類が揃っている。しかも安い!
最後に食から離れてファッションの習慣もひと言いわせてください。イタリアでのディナー、せっかくならお洒落も楽しみたいよね。イタリアの人々は、食事の前に一度家に帰って着替えるほど、その場の雰囲気に合わせた装いを大切にする文化がある。日本ではあまり考えられないだろうけど、家に帰って着替える前にシャワーを浴びることが一般的なんだ。ファッションのことを考える一歩前にその日の疲れなどを流さないと、気が済まないの。

食卓に関わっている習慣などはまだまだたくさんあるけど、少しだけでも知るとイタリアへの興味がますます深くなるだけではなく、日本との意外な共通点も発見できる。もしイタリア現地で食事する機会があれば、この記事を思い出してくれればイタリア人に変身できるかもよ? 知らないうちに、ナンパにまでできちゃう?
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● マッシ  

本名はスガイ マッシミリアーノ。1983年、イタリア・ピエモンテ州生まれ。トリノ大学院文学部日本語学科を卒業し2007年から日本在住。日伊通訳者の経験を経てからフードとライフスタイルライターとして活動。書籍『イタリア人マッシがぶっとんだ、日本の神グルメ』(KADOKAWA)の他 、ヤマザキマリ著『貧乏ピッツァ』の書評など、雑誌の執筆・連載も多数。 日伊文化の違いの面白さ、日本食の魅力、食の美味しいアレンジなどをイタリア人の目線で執筆中。ロングセラー「サイゼリヤの完全攻略マニュアル」(note)は145万PV達成。
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