2025.05.23
【第23回】
日本の「定食」にイタリア人がぞっこんな理由とは?
イタリア生まれのフード&ライフスタイルライター、マッシさん。世界が急速に繋がって、広い視野が求められるこの時代に、日本人とはちょっと違う視点で日本と世界の食に関する文化や習慣、メニューなどについて考える連載です。
- CREDIT :
文・写真/スガイ マッシミリアーノ 編集/森本 泉(Web LEON)
日本の定食は全体で一個の芸術品だ


見た目は控えめでも、ものすごく計算されている
ひとつのトレーにすべての食事が載っている、なんてことはまず想像できないのがイタリア人。でも日本人にとっては、ご飯・味噌汁・主菜(魚や肉)・副菜(野菜や漬物など)を基本とした、一汁三菜のスタイルは当たり前だ。一見シンプルだけど、食材や栄養、食感、色味が丁寧に整っている。定食は食器から食材、組み合わせまでのすべてが、全体で一個の芸術品なのだ。
一方、イタリアの食事は基本的に「アンティパスト」「プリモ(パスタやリゾット)」「セコンド(肉や魚)」「ドルチェ」の流れだけど、全体の栄養バランスを意識することは少ないと言ってもおかしくない。

定食は「うま味」を中心にした味付けが主流
これはオリーブオイルやバジル、ニンニクで素材を引き立てるイタリア料理の考え方と通じるものがあるよね? 特に、魚介類や野菜を使った定食は、リグーリア州やシチリア州の伝統料理と近い感覚があって、「なんだか懐かしいなぁ」と感じるイタリア人も多い。発酵食品の深い味わいは、パルミジャーノ・レッジャーノやプロシュートを愛食しているイタリア人の味覚にぴったりフィットする。

日本の定食は「静けさの料理」。まるでモダンアートだ
さらに、食事の取り方にも違いがあるんだ。白ご飯は血糖値が上がりやすいと思われがちだけど、日本の定食ではおかずと一緒にゆっくり食べることが多くて、血糖値の急上昇を防ぐ。一方で、イタリア料理はパンやパスタだけを単体で食べるスタイルだから、血糖値の変動が激しくなりやすい。
日本の「控えめさ」こそが、イタリア人にとって新鮮な魅力なんだよ! イタリア料理は出されたら深く見ずにすぐ食べ始めることが多いけど、日本の定食になるとイタリアではあまりしない行動が始まる。それが写真を撮ること。そして、それぞれの料理とお皿、食材の盛り付けなど、まずは目から楽しめる。

日本の定食に恋に落ちたら幸せになるよ
自分たちの美意識と味覚を大切にしているイタリア人に、「日本の定食に恋に落ちたら幸せになるよ」と大声で言いたい。ファッションと同じように、食も「自己表現」のひとつだ。この静かな美しさとバランスに、今こそイタリア人は耳を傾けるべきだ。そしてイタリア料理好きな日本人も、定食の魅力を忘れるなかれ!

● マッシ
本名はスガイ マッシミリアーノ。1983年、イタリア・ピエモンテ州生まれ。トリノ大学院文学部日本語学科を卒業し2007年から日本在住。日伊通訳者の経験を経てからフードとライフスタイルライターとして活動。書籍『イタリア人マッシがぶっとんだ、日本の神グルメ』(KADOKAWA)の他 、ヤマザキマリ著『貧乏ピッツァ』の書評など、雑誌の執筆・連載も多数。 日伊文化の違いの面白さ、日本食の魅力、食の美味しいアレンジなどをイタリア人の目線で執筆中。ロングセラー「サイゼリヤの完全攻略マニュアル」(note)は145万PV達成。
公式X