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2025.06.13

【第24回】

これは石か武器か⁉ 恐れから感激に至る「鰹節」の魅力とは?

イタリア生まれのフード&ライフスタイルライター、マッシさん。世界が急速に繋がって、広い視野が求められるこの時代に、日本人とはちょっと違う視点で日本と世界の食に関する文化や習慣、メニューなどについて考える連載です。

CREDIT :

文・写真/スガイ マッシミリアーノ 編集/森本 泉(Web LEON)

外国人にとってはアンビリバボーで怖い⁉ 鰹節の存在感

「サイゼリヤの完全攻略マニュアル」(note)でおなじみのイタリア人ライター、マッシさんが、今回は外国人にとって不思議な存在でしかない「鰹節」の魅力についてお話しします。
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日本料理と長く付き合ってきて、奥深い健康食と発酵文化などのありがたさも知っているはずの僕は、ある日、まるで魔法のような食材に出会った。それは魚のはずなのに、木のような、武器のような形に見える。一見すると「本当に食材か?」と疑わしい。どう考えても食べるのが無理で使い道も絶対ないと思いきや、そこからなんと削る作業が始まるのよ。

読者のみなさんもおそらく子どもの時からよく食べているはずの「鰹節」は、外国人にとって不思議な存在でしかない中で、ちょっと恐怖の部分もある。改めて鰹節について深く考えてみない?
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▲ 武器のようにも見える鰹節。

毎回見るたびに「うわ!」と口から出る鰹節

イタリアの魚調理はカルパッチョ、フリット(揚げ)、煮込みがほとんどで、これ以上あるかどうかすぐに答えられない。海のないピエモンテ出身の僕は鰹節との出会いで目が覚めた。カツオのたたきやカツオの刺身を初めて食べた時に涙が出るほど旨味があって、そのシンプルさに感動した反面、鰹節を見れば見るほど「うわー!」と口から勝手に出るのよ。もう慣れていると思いきや、毎回「うわ!」が出てくるのよ。

まず鰹節ってカビを取ってから刻むという発想が面白いよね? 実はイタリアにも似たような食べ物があるんだけど、イタリア好きな人はもしかしたら既に気がついているかも。イタリアのカビといえば、「チーズ」だ。ゴルゴンゾーラチーズはそのまま食べるし、他のチーズも熟成させる時にカビが重要な主人公になる。魚とチーズのカビはイタリアと日本の共通点ということなんだね。世界中に似たような熟成や発酵などの文化があるから驚きはないでしょうと思いきや、鰹節だけは多くの外国人にとって考えられない食材になる。

一番驚いている理由は、おそらく多くの日本人も知らないと思うけど、カツオから鰹節への変化の過程だ。カツオの重量は加工段階で大きく減少していく。具体的に言うと、原魚を100とした場合、鰹荒節では22まで、さらに加工を進めた本枯鰹節では15まで目減りするらしい。外国人の僕はこの説明を受けた時に、加工中にカツオがどこへ飛ぶんだろうと深く考えてしまった。
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▲ 山盛りでひらひらと舞う鰹節。

「これは本当に魚なのか?」「どうやって食べるんだ?」

日本人にとっては当たり前だろうだけど、外国人の目線になると鰹節は「アンビリバボーワールド」だよ。驚く理由ナンバーワンは「世界一硬い食品」と言われること。初めて本枯れ節を見た外国人は、その石のような見た目と触り心地に驚きを隠せない。「これは本当に魚なのか?」「どうやって食べるんだ?」と疑問に思う人がほとんどだ。

そして、もう一つの理由は「まるで削り節が踊っている!」という感動。日本人にとっては見慣れているけど、お好み焼きやたこ焼きの上に鰹節を乗せると、熱気でひらひらと揺れる「踊る鰹節」に、「生きてるみたい!」「魔法だ!」と多くの外国人が目を丸くする。この鰹節の姿は、日本の食文化のユニークさを伝える上で十分過ぎるほどのインパクトなんだ。

さらに、ヨーロッパの食文化にはあまりない「うま味」にも驚きがある。鰹節から生まれる出汁の奥深い味わいは、初めて体験する外国人にとって衝撃的だ。特に、ラーメンや味噌汁、煮物などの「出汁」の存在を知ると、「これまでの料理は何だったんだ!」と感動する人も少なくない。

外国人から聞いた面白いエピソードもたくさんある。ある外国人観光客がスーパーで鰹節の削り節を見て、「これは猫のご飯か?」と尋ねてきたという話。薄く削られた形が、海外のペットフードに似ていたため、勘違いしてしまったようだ。
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▲ 目の前で鰹節を削ってくれる専門店。

鰹節以上の素晴らしい健康食品はない

鰹節と長く付き合っている僕だけど、鰹節の話になる時にイタリア人であることを忘れることがある。ここからちょっとだけ真面目な話をするね。良い鰹節を見分けるのは難しくてどうすればいいのか、実はいくつかのポイントがあるよ。

きめ細かな茶褐色のカビが薄く均一に生えて、皮のしわがちりめんのように細かいものを選ぶのがおすすめだ。そして、よく乾燥していて叩くと「カンカン」と澄んだ高い音が響いて、持った時にずっしりと重みを感じるものは良品だよ。知っていた? 見た目では、表面がふっくらと丸みがあって、身割れや虫食いがなく、姿形がきれいなものも良い鰹節の目印だ。これさえ覚えれば、鰹節のアモーレがますます膨らむよ。

そして日本人が気づかないうちに、日本の鰹節文化は着実に世界へと広がりを見せているようだ! 金沢市内の鰹節専門店へ食べに行ってふと思ったのは、目の前で削ってくれる実演の印象が強くて、視覚と味覚の両方で楽しめるなんてさすが日本の食材だということ。日本人にとって人生に欠かせない大切な食材になっているのも納得できる。僕も鰹節の定食を食べに行った時にニョロニョロと見たり味わったり心から楽しんでいて、レストランというより遊園地のような気分になった。
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▲ 鰹節定食。
世界一硬い食品は刻んでそのまま食べてもいいし、最高の出汁まで作れる。これ以上の素晴らしい健康食品はないと言っても過言ではないのよ。最も感動的なのはイタリア料理に活かしても違和感がなくて多くの料理に合うこと。例えば、トマトの酸味と鰹節のうま味はきっと絶妙に調和する。ミートソースやアラビアータに少し加えるだけで、コクが増し後味が柔らかくなる。仕上げに削りたての鰹節を乗せると、香りも楽しめる。これは文句が多いイタリア人も絶対喜ぶだろう。ピッツァのトッピングやサラダ、リゾットにも最高のマリアージュになる。

当たり前の毎日は角度を少し変えるだけでこんなに新発見があるって、人生はアモーレだらけだよね? 読者の皆さんも今後、鰹節と付き合う機会があれば、ゲームの主人公のように食事の冒険をしてみない? 新たなワクワク感がきっと現れるはずだ。
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● マッシ  

本名はスガイ マッシミリアーノ。1983年、イタリア・ピエモンテ州生まれ。トリノ大学院文学部日本語学科を卒業し2007年から日本在住。日伊通訳者の経験を経てからフードとライフスタイルライターとして活動。書籍『イタリア人マッシがぶっとんだ、日本の神グルメ』(KADOKAWA)の他 、ヤマザキマリ著『貧乏ピッツァ』の書評など、雑誌の執筆・連載も多数。 日伊文化の違いの面白さ、日本食の魅力、食の美味しいアレンジなどをイタリア人の目線で執筆中。ロングセラー「サイゼリヤの完全攻略マニュアル」(note)は145万PV達成。
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