2022.03.12
『罪と罰』など名著を読みやすくするコツは、ネット検索!?
ドストエフスキーの『罪と罰』など、名著と呼ばれる本を読むのに苦労した覚えはないだろうか。だが今の時代、ネット検索で概要を知ったり、解説本や映画版&漫画版を探したりすることで、圧倒的に読みやすくなるのだ!
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文/佐々木俊尚(ジャーナリスト)
「ノマドワーキング」「キュレーション」などの言葉を広めたことでも知られ、2006年には国内の著名なブロガーを選出する「アルファブロガー・アワード」も受賞している。
その佐々木氏が、この度、『現代病「集中できない」を知力に変える 読む力 最新スキル大全』を上梓した。
「ネット記事」「SNS」「書籍」などから、「読むべき」記事をいかに収集し、情報を整理し、発信していくか、自身が日々実践している「新しい時代の読み方」の全ノウハウを初めて公開した1冊で、発売たちまち大増刷するなど話題を呼んでいる。
佐々木氏が、「『名著、難しい本』をぐいぐい読みこなす簡単5秘訣」について解説する。

じつは「いまこそ読むべき本」かもしれない!?
とはいえ、その本が「あなたの人生に不要な本である」と言い切れるということではない。
わたしは『罪と罰』を10代のころにはじめて読んだが、やたらと長いうえにロシア文学特有の人名の複雑さなどもあり、読むのにひどく難渋したことしか覚えていない。
それから長い年月が経った2008年、光文社古典新訳文庫から新しい翻訳が出た。訳したのはロシア文学者としてドストエフスキーの研究で名高い亀山郁夫さんである。『罪と罰』全3巻をいっきに読み終えたあと、「こんな傑作だったとは!」と、いまごろになって天に向かって吠えた。
文体や用語づかいで相性が悪くても、じつはその本が持っている世界観は素晴らしく、「いまこそ読むべきである」という本も存在する。そういう本を、相性やスキル不足のために手放してしまうのもちょっともったいない。
ここでは、「名著・難解な本」を読む5つのコツについて紹介したい。
まずおすすめは、「読みはじめる前にグーグルで情報を検索し『概要』を押さえること」である。
「なぜこの小説を書いたのか」背景事情を学ぶ
ウィキペディアにはドストエフスキーも『罪と罰』もどちらの項目も掲載されている。まずウィキペディアの『罪と罰』の項目を読み、ドストエフスキーが「なぜこの小説を書いたのか」という背景事情を学ぶ。
『罪と罰』は、貧しい大学生ラスコーリニコフが、金貸しで強欲なおばあさんを殺害するが、一緒に強欲とは関係のない彼女の妹まで殺害してしまい、苦悩する。その後登場する、自己犠牲的な娼婦ソーニャの生き方に心打たれて、最後は自首してシベリアの監獄へと送られるという物語だが、ウィキペディアには、この本のコンセプトが短く書かれている。
「惨憺(さんたん)たる生活を送る娼婦ソーニャの、家族のために尽くす徹底された自己犠牲の生き方に心をうたれ、最後には自首する。人間回復への強烈な願望を訴えたヒューマニズムが描かれた小説である」という背景知識が、グーグル検索したり、ウィキペディアを読んだりすることでわかるのだ。
まずは、本を読み始める前に、こういう背景知識をインプットする。
【2】 アマゾンなどの「商品ページのレビュー」を読む
書籍の場合には、アマゾンの商品ページに掲載されているカスタマーレビューも参考になる。ウィキペディアの中には、項目によっては専門の研究者が執筆しているのか、なかなか難解なものもある。だから、アマゾンレビューを見ておくのはおすすめである。
たしかにレビューの中には、「荒らし」や「ステマ」もあるので注意が必要である。著者をただ、けなしたい人が「荒らし」目的でレビューを書いていたり、お金をもらってヨイショのレビューを書いていたりする「ステマ」もある。
よって、アマゾンのレビューを読むときは、「トップレビュー」と表示されているものがいい。「ベスト50レビュアー」「ベスト100レビュアー」と表示される優れたレビュアーのレビューを読むのもいい。
また、本を購入せず読みもしないで「荒らし」のレビューを書く人を避けるため、レビューに 「Amazonで購入」と表示されているかどうかも見たほうがいいだろう。
3つめは、「平易な『入門書』や『解説本』を探して読む」ことである。
「名著への入り口」として読みこなせるものがいい
アマゾンで検索してみると、いろいろな「入門書」が見つかる。本の説明や読者レビューを見ながら、なるべくわかりやすく書かれていそうなものを探してみよう。
入門書は「名著への入り口」としてさっと読みこなせるものがいいので、「キンドル版」に絞って検索するのもいい。名著に悩んでいるときに、電子書籍ならすぐに手にとれるからだ。
『罪と罰』についてアマゾンで検索してみると、いろいろな入門書が見つかるが、同じくドストエフスキーの研究者として知られ、『罪と罰』の翻訳も手がけているロシア文学者・江川卓さんの『謎とき「罪と罰」』(新潮選書)という本があった。
この本には、ドストエフスキーが作品の中にしかけたさまざまなジョークや語呂合わせなどが紹介されていて面白い。こうやって「入門書」を購入することで、知識を深めることができる。
【4】 NHKの『100分de名著』シリーズがあればおすすめ
「入門書」の中でも、NHKのテレビ番組『100分de名著』はとびきりの良シリーズだ。
テレビ番組だが「NHKオンデマンド」でも配信されているほか、書籍にもなっている。書籍版はわりに薄くてコンパクトで、とてもとっつきやすい。分厚い名著を前に「こんな厚い本を読むのか……」とひるんだ人も気軽に手にとれるだろう。
名著に挑むときには、最初に『100分de名著』で取り上げられているかどうかをチェックし、取り上げられていれば、それをチェックするのがベストな方法だ。
『罪と罰』も取り上げられていて、解説しているのは翻訳者の亀山郁夫さんだ。また、テレビ番組ではタレントの伊集院光さんが出演していて、伊集院さんのコメントや感想が面白いうえに大変鋭く、頭に入ってきやすい。
書籍版でも放送版でも、好みに応じて利用するのがいいだろう。
最後は「その本の『漫画版』や『映画版』を探してみる」ことである。
【5】 「漫画版」や「映画版」を探す
誰もが知っているような名著だと、「漫画版」が出ていたり、「映画化」されていたりすることもある。
漫画好きな人なら漫画のほうが、ストーリーがすっと頭に入ってきやすい。登場人物が見分けやすくキャラクターが立っているので、頭を整理しやすいというメリットがある。
『罪と罰』も何度となく映画化されているが、わたしのおすすめは「漫画版」だ。
こちらもいくつか出ているが、最初に読むといいのは、岩下博美さんの『罪と罰(まんが学術文庫)』(講談社)だ。原作に忠実な内容で、しかも1冊で完結しているので手軽に『罪と罰』の世界を理解することができる。
また、落合尚之さんの『罪と罰 A Falsified Romance』(双葉社)は、ドストエフスキーの原作を下敷きに、舞台を現代の日本にしている。ストーリーは原作からかなり改変されているが、ドストエフスキーの哲学を新しいかたちで見事に描いていて、大変な傑作である。
岩下博美さんの漫画とあわせて読むと、理解がさらに深まってぐいっと「ドストエフスキーの世界観」に近づいた感覚が実感できるだろう。
名著ほど「外堀情報」が大量に存在する
その本の全体像を理解できるだけでなく、その本が持っている「現代的な意味」や「歴史の中における立ち位置」など、さまざまな背景知識を得ることができるのだ。こうした「外堀情報」は、名著であればあるほど大量に存在するので、活用しやすい。
わたしたちの大事な目標は、「難解な本」を素材にして「世界を学ぶこと」である。「偉大な文豪の視点」をわがものにすることで、文豪が世界をどう認識していたのかを学ぶことができる。それによってわたしたちは、世界のアウトラインを「文豪の世界観」を通して見ることができるというわけだ。
みなさんも「名著、難解な本を読む力」を身につけることで、「文豪の世界観」を体得し、ぜひ自分の「知肉」に変えていってほしい。
『現代病「集中できない」を知力に変える 読む力 最新スキル大全』
2011年の東日本大震災と2020年からの新型コロナウイルス・パンデミックで、「新聞やテレビだけ見ていれば大丈夫」というような古いメディアへの信頼度は、さらに消し飛んだ。
インターネットには「良質な情報」がたくさんあるが、同時に陰謀論や怒りや誹謗中傷 などの「おかしな情報」も大量にある。 そこからどうやって「良質な情報」だけを集めるのか。
たんに「良質な情報」を集めるだけでなく、それをきちんと読み解き、それによってこの「世界」への理解を深め、世界を曇りのない目で見つめる力を、どう養っていけばいいか。 いまこそ「読む力」が決定的に重要な時代になっているといえる。
読むことで「知識」や「視点」を身につけ、最終的にはそれらを自分の「知肉」にして いかなければならない。 本書が、その一助になれば幸いである。
佐々木俊尚(著) 東洋経済新報社 1760円(税込)
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