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2021.09.14

和歌山の一軒家農家レストランが世界を虜にする理由とは?

世界の美食のトレンドが、気候風土に密着したローカルガストロノミーや、身体と心にすんなり馴染むコンフォートフードへと向かういま。時代に先駆けてSDGsを実践しながら、夢のように美しい料理で人々を魅了するファインダイニング「villa aida(ヴィラ アイーダ)」をご存知でしょうか? 実はこの店、東京から遠く離れた和歌山県にあるのです。

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文・写真/江藤詩文

▲ ヴィラ アイーダの厨房にて。オーナーシェフ・小林寛司さん。
和歌山県岩出市。そう言われてぱっと場所がわかる人、どれくらいいるでしょうか。こう言ってはなんですが、なんの観光名所もなく、アクセスも便利とは言いがたい地方都市。国道からちょっと入った、田畑の間に住宅がまばらに点在するありふれた田舎の風景にこつ然と姿を現すのが、ヨーロッパの一軒家レストランを思わせる「villa aida(ヴィラ アイーダ)」です。こちらの料理の素晴らしさについてはこれまでもLEON.JPで取り上げてきましたが(こちら)、今回は改めて店をお訪ねしました。

オーナーシェフの小林寛司さんと、妻でサービスを担当する有巳(ゆみ)さんが夫婦で営むヴィラ アイーダは、レストランを取り囲む畑で野菜やハーブを育てながら、1日1テーブルのゲストをもてなす、日本における「Farm to Table」の先駆け的存在。その日の畑の様子を見ながら、ゲストの到着時間に合わせて摘み取った野菜やハーブを使い、一期一会の料理を提供しています。

そんなわけでヴィラ アイーダに決まったメニューはなく、サーブされる料理はほぼ日替わり。現在は、ざっくりと料理9皿とデザート3皿の計12皿くらいがスタンダードです。
ヨーロッパの邸宅風に、たっぷりとスペースをとったウェイティングスペース、リビング、ダイニング、ガーデンがあり、これらがすべてその日のゲストのために貸し切りになる贅沢さ。リビングや、季節によっては緑あふれるガーデンでアペリティフを楽しんでから、ゆるゆると食卓につく優雅な時間と空間の使い方もヨーロッパっぽい。
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料理は、農家レストランらしく野菜やハーブが主役ながら、けっしてストイックではなく、和歌山のものを中心とした肉や魚介のうま味が、野菜の持ち味を引き立てて軽やかに調和しています。「手づかみで食べちゃって」と出された、とろんと甘やかな干し芋と、ジュースがほとばしるりんごをくるんだキャベツや、薄くスライスしたアオリイカのねっとりとした舌触りと、フェンネルのシャクっとした歯ざわりのコントラストが楽しいひと皿など、ここでしか味わえない唯一無二の料理が続きます。
なかでも印象に残るものといえば、「サラダ」とぽんっと置かれた、持ち重りのするボウルに入ったひと皿でしょう。レタスやからしな、エンダイブ(チコリ)といった、さまざまな香りのあるグリーンが盛り合わせられています。

葉もののサラダといったら、普通キリッと冷えていて、シャキシャキとみずみずしい食感を楽しむものですよね。ところが口に運ぶと、まだ生育途中のグリーンはふわふわと柔らかく、それが人肌くらいの心地よい温度に温められているのです。ふんわりした葉もの類に、シルキーなとろみを加えるのはわかめ。さらにスパイスを加えた溶かしバターのドレッシングはエスプーマ状。
もう、このテクスチャーのグラデーションに脳が混乱してバグりそう。ある料理人の説によると、人が料理を味わう際には、単に舌が五味を感じるだけではなく、唇や歯ぐきなど、口の中すべてを使うとか。口の中は、身体のどこよりも触覚が敏感とも言われています。その感覚すべてを使って味わう、どこまでも優しく夢々しいこの一品は、もはやサラダという概念ではない。なんて色っぽいんだろう。
▲ 季節を慈しみ、土地を味わうメニューは「和歌山風味」と名付けられています。
予約時に希望すれば、食事の前後どちらかで、畑にも案内してもらえます。旅先などで使ってみたい野菜を発見すると、種や苗を取り寄せて栽培に挑戦しているとか。「年間で何種類ほどの野菜を育てているのですか」と伺ってみると、小林さんはこう答えました。「たとえばコリアンダーは、根っこ、種、葉、茎、花と全部味わいが違って、使う季節も異なるから、僕はそれぞれのパーツをひとつずつの食材として料理しているんだけど、どうやって数えようか」。
小林さんは、出演したTV番組の影響もあって「野菜の魔術師」というキャッチフレーズがつくこともありますが、野菜に魔術をかけるというより、むしろ言葉をもたない野菜の声を聞き、それを料理人や食べ手にさまざまな表現を通じて伝える「野菜の通訳者」という感じ。料理人や食べ手(消費者)と農家さん(生産者)をハイブリッドに繋ぐ稀有な存在です。
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▲ 小林寛司さんとマダムの有巳さん。
「和歌山からガストロノミーを世界に発信する」という明確なビジョンをもち、地元の生産者とも連携するなど、現在は「レストランのオーナーシェフ」という枠を超えて活動を広げている小林さん。

例えば、産地を訪れる料理人に同行して、どうすればその野菜の持ち味を最大限に引き出せるのか、どんな食材と相性がよく、どうやってファインダイニングの料理に昇華していくか、これまでの経験で蓄積した料理人ならではの知識を、惜しげもなくシェアしたり。生産量が少なくて流通に乗らない原種のフルーツを守り育てる生産者をサポートしたり。和歌山の特産品である「紀州備長炭」を、昔ながらの製造方法で焼き上げる炭焼き人の活動を料理人仲間に紹介したり。
日本を代表するシェフたちが、忙しいスケジュールを縫って日帰りまでして和歌山を訪れたり、日本最高峰の食材の生産者たちが情報を交換しに来たり。「ヴィラ アイーダ」が、この立地にも関わらず食の世界のプロたちの社交場のようになっている背景には、そんな小林さんの活動と人柄があります。
▲ 食後のくつろいだひと時、ゲストの団らんに小林さんも加わることも。
とまあ、こんなに素敵な料理人を、いつまでも世界がほっぽっておくはずもないわけで。2019年、世界の野菜料理がおいしいレストランを表彰する「Top 100 Best Vegetables Restaurants 2019」でアジア最高位の17位に入賞したのを皮切りに、辻静雄食文化賞の専門技術者賞を受賞、2020年には「情熱大陸」(MBS)に出演、2021年には「アジアのベストレストラン50」で64位、若き才能を発掘するコンペティション「RED U-35」にエントリーした「若手料理人506人がロールモデルとして憧れる人物」で2位にランクイン。さらに、和歌山を代表するクリエイターとしてApple社のCMにも出演するなど、何かと辛いニュースも多かった飲食業界に光をもたらす、まばゆい躍進を続けています。
いまは「IWADE(岩出)って東北?」(それは岩手かも……)とか「本にない!」(一般的な観光ガイドに岩出市は載ってないと思う……)とか言っている世界のフーディーズが、岩出市にどんどんやってくる日は、きっともうすぐです。

そうなる前に、国内旅行が自由にできるようになったら、次の旅先の候補にしてはいかがでしょうか。美食家のみなさんにとって、記憶に刻まれる1日になること請け合いです。

■ villa aida(ヴィラ アイーダ)

住所/和歌山県岩出市川尻71-5
HP/http://villa-aida.jp

● 江藤詩文(えとう・しふみ)

世界を旅するフードライター。ガストロノミーツーリズムをテーマに、世界各地を取材して各種メディアで執筆。著名なシェフをはじめ、各国でのインタビュー多数。訪れた国は60カ国以上。著書に電子書籍「ほろ酔い鉄子の世界鉄道~乗っ旅、食べ旅~」(小学館)シリーズ3巻。Instagram(@travel_foodie_tokyo)でもおいしいモノ情報を発信中。

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