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2025.09.14

【第84回】 この夏の「ハイブリッド」ラーメン

この夏、出会った“心が弾む”ハイブリッドなラーメン4選

日本初の料理評論家、山本益博さんはいま、ラーメンが「美味しい革命」の渦中にあると言います。長らくB級グルメとして愛されてきたラーメンは、ミシュランも認める一流の料理へと変貌を遂げつつあります。新時代に向けて群雄割拠する街のラーメン店を巨匠自らが実食リポートする連載です。

BY :

文/山本益博
CREDIT :

写真/山本益博 編集/森本 泉(Web LEON)

日本初の料理評論家、山本益博さんが、B級グルメから一流の料理へと変貌を遂げつつある街のラーメンに注目し、自ら実食リポートする連載です。

自由な発想でアイデア満載な「ハイブリッド」ラーメンが面白い

この何十年、コロナの時期を外して、毎年ヨーロッパへ出かけ、レストラン巡りを繰り返している。ヨーロッパといっても、目指すは、フランス、イタリア、スペイン、イギリス、ベルギー、デンマークが多く、料理人たちが競って個性的な新しい料理を生み出している。
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共通点はまず盛り付けが美しいこと、斬新であったり、シンプルに徹していたり、どれも食欲を掻き立ててくれる。さらに、これが大事な点なのだが、クラシックな料理をベースに、思考を柔軟にして、アイデア満載の皿を生み出す。言ってみれば、ハイブリッド感覚の料理。

そうした料理との出会いに心が弾むのだ。
例えば、最近で言えば、パリの1つ星「アストランス」の前菜で登場した「コシヒカリのビスクごはん」。炊飯器で炊いたごはんに香り高く軽妙なビスクスープがかけまわしてある。ヨーロッパの人が「美味しい!」と声を挙げるが、米が常食の日本人にはたまらない。これが、かつて3つ星だったパリの名店で出てくるのだ。
パリ「アストランス」の「コシヒカリのビスクごはん」
▲ パリ「アストランス」の「コシヒカリのビスクごはん」。
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同じくパリの「アルページュ」。この「ミシュラン」3つ星の店の昼のみのメニューに野菜定食がある。自家農園の野菜に、オーナーシェフ、アラン・パッサールの自由な、それでいて極めてクリエイティヴな発想による野菜料理が次から次へと出てくる。どの皿も光りに満ち溢れていて、食べてしまうのが惜しいほど絵画的で、しかも、創意工夫に富んでいる。主菜のタルタルなど、赤身肉をヴェトラヴ(ビーツ)に替え、言ってみれば、「お見立て」料理!
こんな自由な発想、日本でいえば、ラーメンの世界でこそ可能なはずである。この夏、出会った「ハイブリッド」なラーメンをご紹介する。
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【01】「豚一頭清湯麺」の「リーゼントのもりそば」

まずは、千駄ヶ谷「豚一頭清湯麺」リーゼントのもりそば。「ロックンビリ―S1」の嶋崎順一さんが、9月、関西から新横浜「ラーメン博物館」へ舞い戻るのをきっかけに、この夏、「豚一頭清湯麺」の店を借りて、ラーメンをつくっていた。私には実験的にユニークなラーメンをいくつか作ってくださった。その中のひとつが「もりそば」だった。
千駄ヶ谷「豚一頭清湯麺」リーゼントのもりそば。
▲ 千駄ヶ谷「豚一頭清湯麺」リーゼントのもりそば。
今まで店で使っていた通常の食材で、もりそばを表現した。まずは、「麺前」に昆布水が出て、「もりそば」を待つ。そば猪口には鶏と水の出汁に醤油ダレを加えた「麺つゆ」、それにやや堅めの麺を、もりの器に盛り付けてある。薬味はわさびではなく、溶き辛子が良いとのこと。日本一辛い浅草「並木藪」を凌ぐような辛めのつゆだが、香り高く、堅めに締めた細麺を手繰ると、通常のそば屋の「もりそば」ではなく、ラーメン屋の冷やし中華でもない、独特の味わいの世界が口の中に現れた。ハイブリッドラーメンの傑作と呼んでよい。
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【02】「三つ由」の「ピザそば」

二杯目は、松戸馬橋「三つ由」の「ピザそば」。「三つ由」の主人三浦さんは、かつて大井町の「ajito ism」で生み出した「ピザそば」で大評判を取った。故あって、5年前に松戸馬橋に移転、「三つ由」を開いた。新しい店では、通常「ピザそば」は作っていないのだが、この店に麺を卸している「開化楼」の不死鳥カラスさんを通してお願いし、「ピザそば」を作っていただいた。
ラーメン LEON 山本益博 ラーメン革命! WebLEON 松戸馬橋「三つ由」の「ピザそば」
▲ 松戸馬橋「三つ由」の「ピザそば」。
ひと言でいえば、ピッツァに使う食材、トマト、サラミ、パプリカ、アンチョビ、チーズなどをラーメンの麺に添えた和えそばと言えばよろしいか。実は和えそばで、食べ手を感心させるものは少ないが、このひと皿は、良く混ぜ込んでいただくと、口の中でピッツァの味が立ち昇ってくる。その味は、ピッツァの代表「マルゲリータ」ではなく、「ミックスピザ」である。なんと、ラーメンは「自由」な世界なんだろうと説得されるこれまた傑作である。
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【03】「らーめんそばーじゅ」の「冷やし中華・塩」

三杯目は、池袋「らーめんそばーじゅ」の冷やし中華・塩。こちらは、町中華の「冷やし中華」を、素材レベルで分解し、再構築したひと皿。
ラーメン LEON 山本益博 ラーメン革命! WebLEON 池袋「らーめんそばーじゅ」の冷やし中華・塩
▲ 池袋「らーめんそばーじゅ」の冷やし中華・塩。
「冷やし中華」の具であるハム、卵、トマト、胡瓜などをフランス料理の発想と思考で素材を置き換えてある。トマト、生ハム、パセリ、ズッキーニ、茄子、ピーマンなどが、麺と一緒に踊っている。添えられた卵を使ったオランデーズソースのヴァリエーション、バジルベースにマスタード、香辛料をあしらったピューレ。皿に盛られた余白が美しく映える、脇には、塩ダレと昆布出汁をベースにかぼす、レモン、ワインヴィネガーまで入ったスープ。かつてフランス料理を作ってきた堀越シェフならではの、パスタ感覚の「冷やし中華」の傑作!
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【04】「支那そばや」の「桃の冷やしらぁ麵」

最後は、戸塚「支那そばや」の桃の冷やしらぁ麵。なんとも表現しがたい、酸味が特徴のスープ、それにツルツルと滑ってゆく中細麺。それをサークル(円型)にまとめて巻いてある。その形状から、かつてジョエル・ロブションがセップ(茸)を使いサークルに型抜きした美しいスパゲッティを思い出した。それに、アクセントとして大葉の繊切りと黒胡椒が3粒。大葉ばかりでなく、実は、桃にはミントがとても合う。

来年、このミントかバジリコを繊切りにしたものを添えた一杯を味わってみたいものだ。創作者の佐野史華さんへ、そんな感想をお伝えした。このラーメンには海老が添えてあるが、帆立も桃と相性がいい。
ラーメン LEON 山本益博 ラーメン革命! WebLEON 戸塚「支那そばや」の桃の冷やしらぁ麵
▲ 戸塚「支那そばや」の桃の冷やしらぁ麵。
50年ほど前になるが、東京のフランス料理店で「桃のスープ」を食事のスターターでいただき驚いた。また、30年ほど前には、スペインのバルセロナで前菜に「メロンのガスパチョ」をいただき、それを絶賛したら、デザートでふたたび「メロンの辛くないガスパチョ」をサービスしてくれた。2品とも料理と果物の垣根が取り払われた絶品だった。
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● 山本益博(やまもと・ますひろ)

1948年、東京都生まれ。1972年早稲田大学卒業。卒論として書いた「桂文楽の世界」が『さよなら名人芸 桂文楽の世界』として出版され、評論家としての仕事をスタート。1982年『東京・味のグランプリ200』を出版し、以降、日本で初めての「料理評論家」として精力的に活動。著書に『グルマン』『山本益博のダイブル 東京横浜&近郊96-2001』『至福のすし 「すきやばし次郎」の職人芸術』『エル・ブリ 想像もつかない味』他多数。料理人とのコラボによるイヴェントも数多く企画。レストランの催事、食品の商品開発の仕事にも携わる。2001年には、フランス政府より、農事功労勲章(メリット・アグリコル)シュヴァリエを受勲。2014年には、農事功労章オフィシエを受勲。
HP/山本益博 料理評論家 Masuhiro Yamamoto Food Critique

山本益博 YouTube  MASUHIROのうまいのなんの!

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日本初の料理評論家、山本益博さんが、美味しいものを食べるより、ものを美味しく食べたい! をテーマに、「食べる名人」を目指します。どうぞご覧ください!
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