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2018.09.22

【新車】ジープラングラーはどう進化したのか? 詳細リポート

その昔4駆といえばジープだった。王道にして最強のクロスカントリー4WD車、ジープラングラーがフルモデルチェンジした。その詳細をジープの70年の歴史を振り返りつつ検証する。

CREDIT :

文/塩見 智

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細部をモダンにリファインしながらもイメージは王道のままに

第2次世界大戦中に開発された、初代ジープ

第2次世界大戦中の1940年、米陸軍は新たな軽量偵察車を調達するにあたり、国内の自動車メーカー135社に対し下記の条件を課して開発を呼びかけた。

車両総重量 590kg未満
積載量272kg
ボディ形状:角形
可倒式ウィンドシールド
ホイールベース1900mm未満
高さ910mm未満
4~80km/hの間を滑らかに走行できるエンジン
4輪駆動(2速トランスファーケース使用)
バケットシート3座
ブラックアウト&ドライビングライト

135社に呼びかけたにもかかわらず、応じたのは、ウィリス・オーバーランドとアメリカン・バンタムのたった2社だった。条件があまりに厳しかったからだ。特に諸々の条件を満たしたうえで「車両総重量 590kg未満」を実現するのはほとんど“無理ゲー”だったようだ。2社が試作した車両はいずれも重量が上限を超えていた。陸軍は新たに大手のフォードを加え、3社にあらためて試作を求め、今度は各社に1500台生産するよう呼びかけた。最終的に陸軍が採用したのはウイリスの車両だった。
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伝統のリジットアクセルとコイルスプリングは新型でも踏襲。上下の可動領域は非常に高い。
見事に制式採用を獲得したウイリスの車両はMA(モデルA)、MBと進化。フォードもこれをライセンス生産し、2社によって大量生産された車両は各地の戦地で使われ、連合軍の勝利に貢献した。これが広く世に知られるジープの成り立ちだ。

戦後、ジープは民生用に改良され、さらに大量生産された。同時期に登場した世界各国の四輪駆動車は皆ジープの影響を受けた設計やデザインといっても過言ではない。あるいはジープをそのままライセンス生産するメーカーも各国にあった。日本では三菱自動車が三菱ジープとしてライセンス生産した。後に同社を代表するSUVとなるパジェロの前身である。1987年のモデルチェンジで車名がジープ・ラングラーとなったのは、ジープ・ブランドが複数の車種をラインアップするようになったからだ。
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ネバダ州境のシエラネバダ山脈を超える峠道、ルビコントレイルで国際試乗会が開かれた。

試乗会の場所は、世界のオフローダが聖地と呼ぶルビコントレイル

以来ジープは70年にわたって多くのフォロワーを生みながら本格的なオフローダーとして存在感を示し続けてきた。ジープ・ブランドの商標権はその後、さまざまなメーカーを渡り歩き、現在ではFCAがもつ。そしてラングラーはこのほど約10年ぶりにフルモデルチェンジした。8月、アメリカ合衆国のカリフォルニア、ネバダ州境のシエラネバダ山脈を超える峠道、ルビコントレイルで国際試乗会が開かれた。

新型ラングラーの実力をお伝えする前に、というかお伝えするためにルビコントレイルについて説明しておかねばならない。19世紀半ば、カリフォルニアのサクラメント近郊で金が採れるとの噂が全米中に広がった。一攫千金を狙う者たちが全米中から同地を目指した。いわゆるゴールドラッシュだ。1949年にその数がピークに達したことから、彼らは「49ers(フォーティーナイナーズ)」と呼ばれた。彼らがカリフォルニアを目指す際、また故郷に帰る際に通ったのがルビコントレイルなのだ。
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悪路をコンボイで進む様は圧巻だ
トレイルというだけあって、そこは整備された道ではない。大小の岩が無数に転がる路面のほかに、巨大な花崗岩の一部が地面に露出して路面となっている部分もある。そして急な上り坂、下り坂が繰り返される。22マイルの全区間のうち、一見しておよそクルマで走破できるとは思えない区間が12マイルも続く。驚くべきことに、当時はここを馬車で行き来したという。馬が重い金を載せた荷車を引いてこの険しい区間を本当に行き来できたのだろうか。追い剥ぎも出ただろうし、命がけの旅だったのではないか。

道路網が発達した現代では、ルビコントレイルを通らずとも東西を行き来するルートはいくらでもある。しかしルビコントレイルが廃れることはなかった。世界中のオフロード走行愛好者が聖地と崇め、走りにくるルートとなったのだ。加えてFCAがラングラーをはじめジープ各モデルの悪路走破性を確かめる開発拠点として用いるようになった。彼らがしばしばここを試乗会の舞台として使うのは、開発のために散々走り込んだ場所で、自信があるからだ。ジャーマンスポーツブランドがニュルブルクリンクで試乗会を開くようなものだろうか。
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舗装路の走行性能も大幅にアップグレードしている

新型は2種のボディに2エンジン。日本にこの秋導入されるモデルは?

ジープは悪路走破性に優れたモデルに限り「トレイルレーテッド」という認証を与え、その証であるエンブレムを装着するのだが、ここでトラクション能力、渡河性能、機動性、アーティキュレーション<4輪の接地性>、ロードクリアランスの5項目からなる苛酷な性能試験に合格したモデルのみが「トレイルレーテッド」の称号を与えられる。

さて新型ジープ・ラングラーは、現行型同様、2ドアのラングラーと4ドアのラングラーアンリミテッドの2種類がある。それぞれにソフトトップとハードトップが用意される。エンジンは従来の3.6リッターV6はそのままに、新たに2リッター直4ターボが加わった。変速機は6MTと8ATから選べる。そのすべての組み合わせを日本でも選ぶことができればよいのだが、今秋日本にまず導入されるのはアンリミテッドのハードトップに限られる。エンジンは両方から選べ、変速機は8AT。ただしラングラーは長く販売されるモデルで、今後何度も仕様の変更や追加が予想されるので、将来的に2ドアやソフトトップが導入される可能性は十分ある。
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渡河能力も非常に高い
V6だろうと直4だろうと、悪路走破性は抜群だ。前後リジッドアクスルとコイルサスの伝統的な足まわりは、プレミアムSUVを中心に広く採用されている4輪独立懸架とエアサスの組み合わせに比べ古臭いと見る向きもあるかもしれないが、ジープはそれを採用できなくてしないのではない。実際フラッグシップのグランドチェロキーにはそれらを採用している。あえて採用しないのだ。その理由はこのクルマがSUVではなく本格的なオフローダーだからにほかならない。オフローダーは酷使しても故障しにくく、万一(部品を調達しにくいへき地で)故障しても修理しやすいシンプルな構造であるべきだ。もうこのクルマはとっくに軍用車としての任を解かれているのだが、ジープを名乗る以上、そこは譲れない線なのだろう。

実際、試乗したラングラーはあきれるほどタイヤが上下に動き、大きな岩を乗り越えていった。副変速機でローギアを選べば、通常のハイギアの実質的に約4倍のトルクを路面に伝えることができるため、どんな岩場も、歩くよりもゆっくりの速度でじわりじわりと登っていくことができる。下りもしかり。電子制御のヒルディセントコントロールは一応備わっているが、とてつもなくギアが低いから不要。空気圧を低めて接地面積を高めたタイヤは岩をつかむようにとらえる。オンロードでの乗り心地はさほどよいというわけではないが、閉口するほどでもない。クルマの機構や性格を考えれば十分に納得できるレベルだ。
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舗装路の走行性能もアップグレードしている

あえて吊るしの状態で試乗会を開く、その理由とは?

ジープの連中はいつも我々メディアに悪路を試させる前に「試乗車はディーラーで売られるクルマとまったく同じで、買ってそのままこのコースへ持ち込んでも同じことができる」と胸を張る。車高を高くしたり悪路に特化したタイヤを装着したりすれば、4WDならどんなクルマでも悪路に強くなる。だが“吊るし”でこれだけの走破性をもったクルマがあるかどうかを考えてみてほしいと、暗にそう主張しているわけだ。

効率一辺倒の世の中で、空気抵抗の大きな四角四面のデザインを維持し、重量面で不利なラダーフレームシャシー構造を堅持するのは簡単ではなかったはずだ。昨今自動車メーカーは自社製品の平均燃費が一定水準に達していることが求められるため、ラングラーをラインナップするとなると他のクルマで燃費を稼がなくてはならない。しかしそれは言い換えれば他のクルマでカバーすれば皆が望む昔ながらのジープを存在させ続けることができるということだ。FCAは何をどうすればユーザーやファンががっかりせず喜ぶかを理解していた。

● 塩見 智 / 自動車ジャーナリスト

1972年岡山県生まれ。関西学院大学文学部仏文科卒業後、地方紙記者、自動車雑誌編集者を経てフリーランスの自動車ジャーナリストへ。ニューモデルの取材では何よりもまずトランクを開けてキャディバッグが入るかどうかをチェックするほどのゴルフ好き(だがうまくはない)。

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