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2017.08.29

完全な自動運転車が実用化される日は、いつやって来るのか?

現在、各メーカーが実装している運転支援システムは、どんなレベルに到達しているのか。完全な自動運転車の実現にむけ、クリアしなければならない課題とはなんなのか。モータージャーナリスト、渡辺敏史氏が、自動運転車実現までの道のりをひも解く。

CREDIT :

文/渡辺 敏史

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国際自動車技術会(SAE)が自動運転について定めるレベル1からレベル5の5段階(標準のクルマを0として、6段階評価という見方もある)のうち、世界で初めてレベル3技術を搭載した新型アウディA8

レベル3は完全自動運転のゲートウェイ

現在、自動車を取り巻く技術的なキーワードの中で「電動化」と並んで目立っているのが「自動運転」だ。たとえば「コネクティビティ」などと言われるよりも、多くのユーザーにとっては価値が直感的に計れることがその話題をさらに盛り上げることになるのだろう。
 
内輪話で恐縮だが、田舎の片隅で呆れるほどのんびりと余生をおくっている自分の父ですら、どこで知恵をつけたのか、「自動運転のクルマが出るなら買ってもいいけどな」と上から目線で張り切っている。免許の返納を機に自らの意思で移動できる権利の有り難さを身をもって感じているのだろうか。あるいは玄関を出れば酒でも呑みながら好きなところに連れてってもらえる、そんなお座敷列車みたいな話がいま目の前まで来ていると考えていても不思議ではない。まぁ自動運転にまつわる世の期待の少なからずは、こういう不埒な思惑が現実になるのではということだろう。
 
自動運転のシステム段階については様々な法的見解が2つに集約されつつあるというのが実情だ。アメリカや日本が批准するジュネーブ条約と欧州系で批准されているウィーン条約、いずれも円滑な道路交通を司る国際的なルールと捉えればいいが、自動運転に関しては共に5段階のレベルを設定しており、その真ん中にあたるレベル3から上のレベルが、周囲の交通環境を車両の側が監視することを認めた自動運転領域となる。国際的な自動車技術会であるSAEの見解もこれに準拠しており、ある意味レベル3は完全自動運転のゲートウェイと同義とされつつあるわけだ。
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ちなみに現在、多くのクルマに搭載されるようになった自動運転的な技術、たとえば車線からのはみ出しを抑止するレーンキープ系デバイスや、前走車との車間を保持しながら速度の加減速を行うアダプティブクルーズコントロール系デバイス、前方構造物や歩行者との相対速度を図りながら衝突を防ぐ被害低減ブレーキ系デバイスなどは、すべてレベル2より下位の技術にあたる。言い換えれば法的解釈において、自動運転のオペレーションの責任が車両側にあると定めた国は1つもなく、レベル3以上の車両を市販することは法的に規制されているのが現状だった。
 
が、昨年条項を修正し発効したウィーン条約では、いかなる時もドライバーの意思による操作や機能停止が絶対的に優先されるオーバーライドを前提に、レベル3技術の市販が認められることになった。これを受けて批准各国は道路交通法の改正を検討しているが、いち早くそれを決議したのが自動車大国のドイツである。
 
去る7月に発表されたアウディの新型A8は、世界で初めて市販されるレベル3技術搭載の自動運転車とアナウンスされ、それは大々的に報道された。が、現状はドイツの法改正を受けての、ドイツ国内のみでのレベル3相当であり、他の国の法規はそこに対応できていないため現状ではレベル2扱いとなる。
 
これについてアウディの側は各国の法規対応は時間の問題としているが、世界初を大々的に謳うにはやや拙速な印象は否めない。言い換えればアウディが、そしてドイツがそこまでして世界初を獲りにくるほど、自動運転領域の技術開発は過熱化しているということでもある。
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自動運転レベル2の技術である「アイサイトツーリングアシスト」を搭載したレヴォーグ

レベル3において、最も高い障壁は責任の所在とドライバーの倫理観

新しいA8のレベル3相当とは果たしてクルマの側がどういうことをやってくれるのか。中央分離帯のある高速道路上に限っての時速60km/h以下、つまりドイツ的解釈での渋滞速度域における停止までの速度管理と再発進、車線維持および変更となる。つまりアクセル、ブレーキ、ステアリングを人的操作を介することなく車両の側が担い、ドイツの法解釈によればドライバーはいわゆる手放し的な運転が可能。それが困難になった場合はアラートを断続的に発し、それでもドライバーの介入意思が認められない場合は緊急的に停止するというものだ。
 
これをみて、クルマ好きの方なら、ん? と思うかもしれない。発進時からの車間や速度管理、ウインカー連動による車線変更といった技術はすでにいくつかのクルマに実装されている。つまりファンクショナルな面での革新性は見当たらない。
 
新型A8の革新性は、それらを稼働する上での各種情報を高演算チップにより総合判定し高度連携させ、かつ操縦系統の多重性を持たせ、レベル3を確実に遂行する上での安全性を最大限に担保し、かつ最終的には即座にドライバーに運転権限を移譲、もしくは車両側の自律的緊急退避といった機能を持たせたことにある。言い換えれば何重ものフェイルセーフ的な境界を引いた上で、高速道路で60km/h内という限られた環境でのハンズフリードライブを担い、その地での法規に基づいて運行責任を負う覚悟を示したというわけだ。
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誤解を恐れずに言えば、ほぼ全ての車両がレベル2の現状においても、ハードの側はすでに限定的なシチュエーションでの自動運転を実現する体制は整っている。たとえばスバルの「アイサイトツーリングアシスト」を搭載したレヴォーグや、メルセデスの「ドライブパイロット」を搭載するEクラスなどは、高速道路においてドライバー側の操作を要する場面はほとんどない。200Rよりも小さな曲率のコーナーが続くなどしなければ、操舵も含めてクルマ任せでどこまでも走っていけそうな錯覚に陥るほどだ。
 
が、それはあくまで例えばの話であって、実際はさまざまな環境変化に対してドライバーが常に構えていなければ事故を防ぐことはできないだろう。万一それを怠ったことで事故が生じれば、その責任は全面的にドライバーが負うことになる。それをアウディA8は限定的な地域と環境ながらも、車両の側が責任を負うこともあるとしたことで、世界初の自動運転車という称号を謳うことになったわけだ。
 
つまりはレベル3において、最も高い障壁となっているのは法的解釈における責任の所在、そして緊急事態には全力で対処する心構えがあるか否かというドライバーの倫理観である。演算チップの処理速度ひとつ変われば技術は確実にアップデートされていくが、こういう人絡みのアナログな課題のほうが、よほど解くことが難しい。これから起こりうる自動運転にまつわる事故的事案の数々を全て明確に判定することは、星の数を数えるような作業になるだろうと個人的には思ったりもする。
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メルセデス・ベンツが2015年に発表した完全自動運転のコンセプトカー「F 015」。自動運転モードでは、前席と後席が向き合うリビングルームのようなインテリアが提案されている

レベル4以上の商品実装はまったく目処が立っていないのが現状

一方で、技術の側がレベル3を簡単に超えて、ここ数年のうちにレベル4や5が実現するかといえば、それも難しい話だろう。SAEの法的解釈においてレベル4は、緊急時運転操作のバックアップも車両の側が行うことを前提としており、レベル5にいたってはドライバー完全不在、ステアリングやブレーキといった操作系を備えずとも運行が完結するレベルの自動運転を指している。
 
高速道路のような周囲の車両の動きがある程度想定できるような環境ならまだしも、路駐に自転車に歩行者にはみ出し看板に…と、路上環境が読めない都市部の交差点などを自動運転で走ろうとするなら、現在のそれとは比較にならない技術レベルが求められる。自動車メーカーやサプライヤーのお偉いさんと話をしても、レベル4以上の商品実装はまったく目処が立たず、その年次を強引に聞き出そうとしても希望的観測として2025〜30年くらいではとの返答程度だ。それが実情である。

日本でいえば買い物困難地域のような場所でインフラを整え他車両を流入制限するなどして環境を限りなく定常化した上で、低速度のコミューターを自動巡回させて住人の利便向上を図る…と、こういうレベル4〜5の導入には可能性もある。こうなると一部の住民にとってクルマとは所有するものではなく利用するものということになるだろう。つまりクルマと人との関係性も変わる、そういう未来を見越して、アメリカの自動車メーカーの中には車両開発・製造よりむしろモビリティサービスの分野を強化しようという動きもある。
 
何にせよ、家の車庫から乗り込めば、あとは寝ていてもお任せで現場まで連れて行ってくれる至れり尽くせりの自動運転という未来はまだまだ遠い向こうの話だ。むしろ今はたらればの未来を案じるよりも、自らの加担でクルマを走らせて目的地へと向かうという経験の豊かさを前向きに味わっていたほうが幸せではないかと思う。

● 渡辺敏史(わたなべ としふみ)

福岡県生まれ。企画室ネコ(現在ネコ・パブリッシング)にて二輪・四輪誌編集部在籍ののちフリーに。専門誌から一般誌、ウェブまで幅広い媒体に寄稿している売れっ子モータージャーナリスト。著書に、かつて「週刊文春」連載した人気コラムまとめた「カーなべ」がある。

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