2017.08.25
「テスラ・モデルXはまだ見ぬ未来じゃない、今ある現実だよ」桐島ローランド
ファルコンウィングが印象的なテスラ初のSUV、モデルXに、カメラマン&フォトグラメトリースタジオ経営者の桐島ローランドさんが試乗。航続距離500km以上とスーパースポーツ顔負けの加速力を誇る“未来の”マシンに何を見るか。
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写真/金田 亮 取材・文/編集部
一方、30代であのパリ・ダカールにプライベートで参戦するなど大のモーターフリークとしても知られる桐島さんは、急速に進化し続けるクルマの未来をどう見ているのか。自身もずっと乗りたかったという、テスラのモデルXに試乗してもらいました。
「一番乗りたかったクルマ。これからのクルマの可能性を見たい」


今回の試乗企画を伝えると、桐島さんからは開口一番に快諾の返答が。
モデルXはテスラの公式サイトを見てもわかるとおり、テスラ初のフルタイムAWD、航続距離565kmを実現したSUV。しかも0−100km/hに3.1秒(P100D)で到達する加速性能に加え、大人7人がゆったりと乗れる居住性能を備えるという、EVならではの利点を最大限生かした点でも興味深いモデルです。
「せっかくなら高速道路を走って、山中湖にある僕のスタジオまで行き、そこでドローンでも飛ばしますか」
撮影には夏休み中の息子の龍士くんも同行。11歳の男の子にとって、テスラはさてどう映るのだろうか。まずは特徴的なファルコンウィングでお出迎えすると…
「うわっ、格好いい…、これさ、映画で見たことあるよ、未来のクルマでしょ」
「違うよ、龍士。今だよ、今。お前が免許を取る頃にはこんなことは当たり前になってるんだよ」

「航続距離が500kmあれば、チャージの不安からは完全に解放されたようなもの」
「ちょっと車格が大きいかな。でも、はじめて乗ってもシートポジションとかアクセルとモーターのレスポンスに違和感はないですね、乗りやすい!」
桐島さんの提案もあって目的地は御殿場インターチェンジまでの東名高速道路経由の山中湖畔のスタジオ。距離は片道およそ120km。航続距離500km以上を誇るモデルXとしては無充電で往復できる距離ですが、同行する編集部としてもまだまだEVのチャージは不慣れゆえ、「止まったらどうしよう」という不安がないわけでもなく。
「大丈夫、大丈夫(笑)。じつはつい最近までBMWのi3に乗っていて。その前は三菱のi-MiEVにも乗ったことがあるから、チャージポイントはちゃんと頭の中に入ってます(笑)。数年前ならともかく、500kmの航続距離があって、高速道路のパーキングエリアにもどんどんチャージャーが設置されているからなにも気にしなくていいですよ」
確かにここ数年のバッテリー技術の進化は凄まじい。つい先日(2017.8初旬)もテスラから現行のモデルSがテスラ・オーナーズクラブ・イタリアの実証結果として、一回の充電で1,078kmの走行に成功したと発表したばかり。同社を率いるイーロン・マスク氏本人が2年前に予言した「10年以内に航続距離800kmを超えるEVが登場する」ことが早々にも実現してしまったことになる。

「これからのクルマの主人公はモーターとセンサーになっていくんでしょうね」
「これはいい!確かに運転支援の考え方と自動運転の考え方の違いがわかりますね。設定もすごく簡単で、感覚的なのもいい」
東名高速へと向かう首都高速は、お盆の最終週ということもあってひどい交通量。しばらくするとすっかり渋滞状態に。それでも桐島さんは機を得たり、とばかりに運転支援システムについてあれこれ観察しているようで。
「前車との距離の保ち方が自分が操作している感覚に近いですね。現実の交通の流れに合っていると思う。そもそも車間をあまりに広くとる設定だと、日本の場合はすぐに割り込まれちゃうでしょ。で、前にクルマがいると自分のクルマはまた、そのクルマと車間距離をとろうとして動けない。で、一生動けなくなるんじゃないの!って(笑)。かつての前車追従のシステムって、そういうことがあったんですよ、本当に(笑)。あと、停止から加速までの追従が、さすがモーター駆動だけあってリニア。前車の動きにとてもスムーズに対応しますね」
さらにもう一点、桐島さんが気になっていたポイントが。
「いま、合流ポイントだけど、これが気になってたんです。真横からスッと斜め前方に出てきたクルマにどう対処するのか」
左後方から加速してきた合流車両を左斜め前方に捉えると、モデルXは減速してジェントルに道を譲る。
「こうして乗ってみると、クルマを構成する主人公がモーターとセンサーの時代になったんだなあって思いますね。モーターのコントロールでドアの開閉からハンドルまで操作しちゃうし、それをセンサーが制御するわけじゃないですか。逆にモーターのコントロールシステムとセンサーのないクルマが“クラシックカー”という定義に近い将来なるかもしれない」


「クルマに注意された!(笑)。なんか、ちょっと相棒っぽくないですか」
「クルマを運転するのは本当に楽しい。最近手に入れたクルマなんてマニュアルトランスミッションのエアコンなしですから(笑)。あらためて運転する楽しさを味わいたいなあと思って買ったんですけど、とはいえそんなクルマで、この渋滞に突っ込みたくはないですよ。絶対ヤダ。結局、クルマのストレスの大半は渋滞ですよ。前方から目を離さず、アクセルとブレーキを交互に操作し続けなきゃいけないことこそが苦痛ですから。だからそれをクルマがフォローしてくれるだけで本当に楽。実際、こうしてリラックスして喋ったり、音楽を聴いたりできるのも、クルマが補助してくれているからだし」
ようやく渋滞も抜けようとする頃にちょっとしたハプニングが。先ほどまで渋滞をサポートしてくれていたレーンアシスト機能(テスラではオートステアリング機能)が解除されたまま戻らない。さらに進化したテスラのオートパーロットは時速150kmまで対応していて、そのあたりも体感してもらおうと思ったのに。
「実は警告を無視してずっと手を離していたら、再設定できなくなっちゃった(笑)。なんか、クルマに怒られているみたいで面白いね。真面目に運転しなさい!みたいな」
(※オートパイロットの設定はハンドルから一定時間手を離していると警告のうえ、解除され、再度完全停止し、再始動しないと再設定できません)
御殿場インターを降りて10数分で、桐島さんのスタジオ兼別荘(趣味部屋)に。ここで何枚かの写真を撮影させていただくと「ドローンを飛ばしに行きましょう」というお誘い。実は道中、車内で息子の龍士くんはずっと眠っていて、到着してからも若干夢うつつ。
「彼らが成人したときにクルマはもちろん社会のインフラがどうなっているのかはますます読みにくくなってきたと思う。写真だって同じで、ドローンが登場したことで、いままで絶対に撮れなかったアングルや、莫大な費用がかかった絵が簡単に撮れるようになりましたからね」


「でも課題がないわけじゃない。どこまで社会と法整備ができるか」
「ねえねえ、龍士、テスラ、気に入った?」
「うん、格好いいと思うよ!」
「じゃあさ、ママをふたりで説得しようぜ」
「いいけどさ、ぶつけるよ、ママ、きっと」
「だよな〜、それだよな〜」
確かに桐島さんの言うように、革新的な技術の登場はその周辺を巻き込んで、あらゆる想定外を引き起こす。例えばカメラマンという職業。瞬間を切り取るのは職業画家の時代があった。カメラが登場すると、かつての職業画家の役割はカメラマンが負うことになった。デジタルカメラの登場によってその表現はさらに広がり、スマートフォンの普及はカメラマンという職業そのもののあり方を変えようとしています。
「こういうクルマの登場を、すでに既存メーカーは捨て置けなくなってきていると思います。そのためには当然、技術開発が必要になるわけですが、例えばヨーロッパでは国家と電池メーカー、クルマメーカーが三位一体になって新しい技術はもちろん、法の整備、つまりはルール作りまで始めていますよね。デジタル技術先進国のアメリカはテスラのような前衛的企業への活動の自由度を大きくしてやることで、次世代への移行を謀っています。新しい時代のイニシアティブを獲得しようと躍起になっているんです。では日本はどうか、というと、技術の革新と法の整備がどうしても噛み合っていない気がしますね。そんなことを実感させられたいい機会でした」


お楽しみください。
● 桐島ローランド
フォトグラファー / Avatta代表取締役社長。17歳でカメラアシスタントを経験し、ニューヨーク大学芸術学部・写真科に留学。『VANITY FAIR』のインターンシップを経て、卒業後はロケーション・コーディネーターに。1993年に帰国し、写真家としてのキャリアがスタート。当時、日本では珍しいデジタルでの制作をおこなう。その後、数々の雑誌やブランド広告等で活躍するも、2014年、日本初のフォトグラメタリー専用スタジオ『Avatta』を立ち上げ、現在に至る。