2017.01.12

今、スポーツカーが売れる理由

"発売前から予約だけで完売"、"納車1年以上待ち"etc……。日本も含めた世界中で、ことスーパーカーに関しては景気のいい話ばかり耳にする。誰もが子供の頃から憧れてきたクルマの魅力をいま一度、考えてみたい――。

Super Sports Car01Mercedes AMG GT [メルセデスAMG GT]

Super Sports Car01Mercedes AMG GT メルセデスAMG GT
「扱いやすさ」優先のフロント・エンジンを採用
F1で大旋風を巻き起こしているメルセデスAMG。スーパースポーツカー市場には限界域のコントロール性を優先してフロント・エンジン・レイアウトを採用。優雅なロングノーズ・デザインに。340psのGTと375psのGT Sという2モデル構成。どちらも7速ATのV8 4.0ℓ直噴ターボエンジン。1650万円(税込)~/メルセデス・ベンツ(メルセデス・コール)

スポーツカーはクルマというより、もはや嗜好品

2000万円、3000万円もするスポーツカーが売れに売れている。例えばフェラーリが2015年に全世界で7664台(対前年比+6%)を販売して創業以来の新記録を打ち立てたほか、ポルシェも前年を19%も上回る22万5000台以上を売り上げ、5年連続で新記録を更新。

ランボルギーニのグローバルな販売台数は3245台ながら、これも同社にとっては史上最高記録だったうえ、伸び率は対前年比で28%と驚異的な数値を示した。

売れているのはスポーツカー専業メーカーばかりとは限らない。ハイパフォーマンスカーを新たに「アウディ・スポーツ」ブランドでプロモーションすることになったアウディは、R8とRSモデルの合計で17万台以上を販売。対前年比で+13%と、こちらも大躍進を遂げている。

では、なぜスポーツカーが世界中で飛ぶように売れているのだろうか?急激な経済成長を続ける新興国でスポーツカーのセールスが続伸しているという事実がそのベースにあるにせよ、ヨーロッパ、北米、日本などの「スポーツカー先進国」でもスポーツカー・ビジネスは成長を続けている。

その理由は簡単には説明できないものの「クルマを所有する目的の変容」が根底にあるような気がしてならない。

Super Sports Car02Audi R8 V10 Plus 610 PS [アウディ R8 V10]

Super Sports Car02Audi R8 V10 Plus 610 PS [アウディ R8 V10]
GT3マシンと同じスーパースポーツカー
スーパーGTで活躍するGT3マシンのR8 LMSと同じ組織が開発した2代目R8。街を流す時は先代同様の洗練されたフィーリングながらワインディングでは荒々しい一面を見せる。R8 V10は540ps、R8 V10 plusは610psを発揮。カーボンを多用した軽量ボディに最新の4WDを備える。2906万円(税込)~/アウディ(アウディ コミュニケーション センター)
いま、東京で暮らすうえで自動車が絶対に必要かと問われれば、その答えは間違いなく“NO”だろう。単に移動の手段と考えれば、自分でクルマを所有するよりもタクシーや地下鉄のほうがはるかにラクで便利で経済的だ。

それでも私たちがクルマにこだわるのは、車中で過ごす時間がほかの交通手段では味わえない特別なものだからではないか。つまり、クルマはもはや単なる実用的な道具ではなく、腕時計やファッションと並ぶ嗜好品に近づいているとの見方も成り立つのである。

仮にクルマが嗜好品だとすれば、趣味性の高いもの、オーナーの個性が強く表現されるものがより好まれるのは当然のことだろう。この点、実用性よりも走りのパフォーマンスやテイストに軸足を置いたスポーツカーが注目を集めるのも、ごく自然な成り行きといえるかもしれない。

では、そんな視点から改めて最新のスポーツカーを見つめ直すと、どのブランドも非常に個性の強いラインナップを取り揃えていることに気づく。基本レイアウト、駆動方式、エンジンなどに各ブランドが独自性を凝らし、ボディ構造やそこで使われている素材もさまざま。それは、まさに百花繚乱と表現するのがふさわしいほどだ。

そうした個性を視覚面から訴えているのがスタイリングである。一般的にいってスポーツカーはサイズに対する制約がゆるいうえに居住空間を大きくとる必要性が薄いため、デザインに費やすことのできるスペースが多く残されている。

このスペースを、各ブランドのデザイナーは個性を描き出すキャンバスとして存分に活用し「フェラーリだ!」「ポルシェに違いない!」「まさしくランボルギーニ‼」と遠くからでも直ちに認識できる造形を作り上げている。これぞスポーツカーの特権、とでもいうべきポイントである。
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Super Sports Car03Lamborghini Huracán [ランボルギーニ ウラカン]

Super Sports Car03Lamborghini Huracán ランボルギーニ ウラカン
カウンタックを彷彿させるデザインに釘付け
たとえバッジが付いてなくとも、ひと目でランボルギーニとわかるスタイリングはさすが。しかも信頼性や各部のクオリティは
飛躍的に向上。快適性も良好で「毎日乗れる猛牛」に仕上がっている。ドライブトレインは自然吸気V10 5.2ℓと4WDの組み合わせが基本。ボディはクーペとスパイダーがありクーペのみ後輪駆動モデルになる。2971万2960円(税込)~/ランボルギーニ(ランボルギーニ お客様センター)

スーパースポーツカーが乗用車感覚で乗れる!

もうひとつ、現在のスポーツカー人気を支える要因はテクノロジーの進歩にある。いまやスーパースポーツカーは500psが当たり前で、600psや700psを標榜するモデルも珍しくない。最高速度は当然のように300㎞/hを超え、320㎞/hから3‌30㎞/hあたりがひとつの目安になっている。

それも「カタログチューン」が横行した1970年代までとは異なり、掛け値なしに実現できるパフォーマンス。おまけに、そうした圧倒的な性能をいつでも引き出せる信頼性を備えている。

かつてのように「手元にあることよりも修理工場に入っている時間のほうが長い」なんて理不尽なことは滅多に起こらなくなっているのだ。

Super Sports Car04ASton Martin DB11[アストンマーティン DB11]

Super Sports Car04ASton Martin DB11 アストンマーティン DB11
すべてが進化した新世代"ボンドカー"
アストンマーティンの主力モデル“DB”がエンジンとボディを一新して“DB11”に生まれ変わった。ボディ剛性の向上により快適性とハンドリングが大幅に改善。エッジが効いたデザインも魅力的だ。新設計のV12 5.2ℓツインターボ・エンジンは608psを発生。0-100㎞/h加速は3.9秒でこなし、最高速度は322㎞/hをマークする。2380万円(税込)/アストンマーティン(アストンマーティン・ジャパン)
しかも、特別なテクニックをもたないドライバーでも乗用車感覚でスーパースポーツカーを扱えるようになったのも最新テクノロジーのおかげ。例えばギアボックスは、デュアルクラッチ式トランスミッション(DCT)と呼ばれるATがいまやお約束。

したがって重いクラッチを踏む必要もなければ、微妙なクラッチワークも不要。たとえAT限定免許しかなくても簡単に運転できてしまうのである。それだけならまだしも、コンピューターの力でスピンを防ぐスタビリティ・コントロールがいまやすべてのスーパースポーツカーに装備されているので、ワインディングロードで攻めても実に安心。

これとは別に、サスペンションやステアリングの設定に工夫を凝らすことで、クルマがいまどのくらいコーナリング限界に近づいているかをドライバーに知らせる技術も進化していて、ひと昔前のようにキケンな匂いが漂うスーパースポーツカーはいまや絶滅危惧種といっても過言ではない。

Super Sports Car05Ferrari 488 GTB[フェラーリ 488 GTB]

Super Sports Car05Ferrari 488 GTB フェラーリ 488 GTB
新開発V8ターボが異次元の速さを発揮
ついにダウンサイジング・ターボを採用したフェラーリ。ただし過給機エンジンとしては異例にレスポンスが鋭いほか、美しい“フェラーリ・ミュージック”の再現にも成功。新時代に見事に対応してみせた。V8 3.9ℓツインターボ・エンジンは670psと760Nmという圧倒的な性能を実現。3.0秒の0-100㎞/h加速と330㎞/h以上の最高速度をマークする。3070万円(税込)/フェラーリ(フェラーリ・ジャパン コミュニケーション)
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Super Sports Car06Porsche 911 Turbo S [ポルシェ 911 ターボ S]

Super Sports Car06Porsche 911 Turbo S ポルシェ 911 ターボ S
新境地を切り拓いた元祖"万能スーパーカー"
ただ高性能なだけでなく、傑出した信頼性や快適性も備えた全方位型4WDスーパーカーがさらに進化。またもやパフォーマンスと洗練性に磨きをかけた。圧倒的な安心感はさすがポルシェというしかない。最高出力は580psながら、優れた4WDと高効率設計で0-100㎞/h加速はトップクラスの2.9秒。内外装の質感も文句なしの仕上がり。2599万円(税込)/ポルシェ(ポルシェ カスタマーケアセンター)
人気の背景にはこうしたさまざまな要因が関わっているわけだが、おかげで中古車市場での相場はウナギ登り。なかにはフェラーリの限定モデルのように、手放す時には新車価格より確実に高くなっているなんてケースまで散見されるほどである。

もうひとつ、スーパースポーツカー・ブームを生み出す要因のひとつに、ハイパフォーマンスカーの未来に対するある種の危機意識の作用も考えられる。地球温暖化対策、石油資源の枯渇など、自動車を取り巻く環境は厳しさを増すばかり。

そんななか、実用性に比してファミリーカーの何倍もCO2をまき散らすスーパースポーツカーが今後も長く生き延びられる保証はない。「だったらいまのうちに楽しんでおこう!」そんな享楽主義的な発想でスポーツカーに手を出す者が絶対にいないとは言いきれないだろう。

Super Sports Car07Mclaret 570GT [マクラーレン 570GT]

Super Sports Car07Mclaret 570GT マクラーレン 570GT
マクラーレンが新ジャンルに挑戦
これまでスーパースポーツカー一本槍だったマクラーレンがロングドライブを快適にこなす新ジャンルに挑戦。荷室の拡大はわずかながら快適性は大きく向上。ファストバックのデザインも優雅で魅力的だ。シート後方にラゲッジルームを設けて万能性も追究。570psで最高速度328㎞/hを達成。2752万7000円(税込)/マクラーレン(マクラーレン東京)

スーパースポーツも自動運転できるように?

迫りくる自動運転実用化の波もファンが危惧するところかもしれない。自分たちで運転できなくなれば、スーパースポーツカーもジェットコースターも大して差がなくなる。

しかも、高度な通信機能を駆使してスピードを厳しく監視されるようになれば、自由気ままに走る楽しみも失われかねない。たとえそれが目前に迫った危機でないにしても、スポーツカーファンの心の奥底にそんな焦燥感が芽生えていたとしても不思議ではないだろう。

いずれにせよ、かつては憧れでしかなかったブランドの最新モデルが望めばすぐ手に入るのも事実。スポーツカーを買うなら……“いま”なのだ!

Super Sports Car08BMW M4 GTS [ビー・エム・ダブリュー M4 GTS]

Super Sports Car08BMW M4 GTS ビー・エム・ダブリュー M4 GTS
ニュルブルクリンク7分28秒の"本気"
世界で700台限定生産の特別なM4。ウォーターインジェクションで燃焼室内を冷却し、さらなる高性能を実現したほか、リアウイングなどの空力パーツを装備。驚異の「ニュル7分28秒」を達成した。最高出力は標準モデルを70ps近く上回る500psをマーク。日本では30台限定販売。1972万円(税込)/BMW(BMWカスタマー・インタラクション・センター)
写真/森 浩輔 文/大谷達也
※2017年1月号掲載企画抜粋

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