2017.01.12
今、スポーツカーが売れる理由
"発売前から予約だけで完売"、"納車1年以上待ち"etc……。日本も含めた世界中で、ことスーパーカーに関しては景気のいい話ばかり耳にする。誰もが子供の頃から憧れてきたクルマの魅力をいま一度、考えてみたい――。
Super Sports Car01Mercedes AMG GT [メルセデスAMG GT]
スポーツカーはクルマというより、もはや嗜好品
ランボルギーニのグローバルな販売台数は3245台ながら、これも同社にとっては史上最高記録だったうえ、伸び率は対前年比で28%と驚異的な数値を示した。
売れているのはスポーツカー専業メーカーばかりとは限らない。ハイパフォーマンスカーを新たに「アウディ・スポーツ」ブランドでプロモーションすることになったアウディは、R8とRSモデルの合計で17万台以上を販売。対前年比で+13%と、こちらも大躍進を遂げている。
では、なぜスポーツカーが世界中で飛ぶように売れているのだろうか?急激な経済成長を続ける新興国でスポーツカーのセールスが続伸しているという事実がそのベースにあるにせよ、ヨーロッパ、北米、日本などの「スポーツカー先進国」でもスポーツカー・ビジネスは成長を続けている。
その理由は簡単には説明できないものの「クルマを所有する目的の変容」が根底にあるような気がしてならない。
Super Sports Car02Audi R8 V10 Plus 610 PS [アウディ R8 V10]
それでも私たちがクルマにこだわるのは、車中で過ごす時間がほかの交通手段では味わえない特別なものだからではないか。つまり、クルマはもはや単なる実用的な道具ではなく、腕時計やファッションと並ぶ嗜好品に近づいているとの見方も成り立つのである。
仮にクルマが嗜好品だとすれば、趣味性の高いもの、オーナーの個性が強く表現されるものがより好まれるのは当然のことだろう。この点、実用性よりも走りのパフォーマンスやテイストに軸足を置いたスポーツカーが注目を集めるのも、ごく自然な成り行きといえるかもしれない。
では、そんな視点から改めて最新のスポーツカーを見つめ直すと、どのブランドも非常に個性の強いラインナップを取り揃えていることに気づく。基本レイアウト、駆動方式、エンジンなどに各ブランドが独自性を凝らし、ボディ構造やそこで使われている素材もさまざま。それは、まさに百花繚乱と表現するのがふさわしいほどだ。
そうした個性を視覚面から訴えているのがスタイリングである。一般的にいってスポーツカーはサイズに対する制約がゆるいうえに居住空間を大きくとる必要性が薄いため、デザインに費やすことのできるスペースが多く残されている。
このスペースを、各ブランドのデザイナーは個性を描き出すキャンバスとして存分に活用し「フェラーリだ!」「ポルシェに違いない!」「まさしくランボルギーニ‼」と遠くからでも直ちに認識できる造形を作り上げている。これぞスポーツカーの特権、とでもいうべきポイントである。
Super Sports Car03Lamborghini Huracán [ランボルギーニ ウラカン]
スーパースポーツカーが乗用車感覚で乗れる!
それも「カタログチューン」が横行した1970年代までとは異なり、掛け値なしに実現できるパフォーマンス。おまけに、そうした圧倒的な性能をいつでも引き出せる信頼性を備えている。
かつてのように「手元にあることよりも修理工場に入っている時間のほうが長い」なんて理不尽なことは滅多に起こらなくなっているのだ。
Super Sports Car04ASton Martin DB11[アストンマーティン DB11]
したがって重いクラッチを踏む必要もなければ、微妙なクラッチワークも不要。たとえAT限定免許しかなくても簡単に運転できてしまうのである。それだけならまだしも、コンピューターの力でスピンを防ぐスタビリティ・コントロールがいまやすべてのスーパースポーツカーに装備されているので、ワインディングロードで攻めても実に安心。
これとは別に、サスペンションやステアリングの設定に工夫を凝らすことで、クルマがいまどのくらいコーナリング限界に近づいているかをドライバーに知らせる技術も進化していて、ひと昔前のようにキケンな匂いが漂うスーパースポーツカーはいまや絶滅危惧種といっても過言ではない。
Super Sports Car05Ferrari 488 GTB[フェラーリ 488 GTB]
Super Sports Car06Porsche 911 Turbo S [ポルシェ 911 ターボ S]
もうひとつ、スーパースポーツカー・ブームを生み出す要因のひとつに、ハイパフォーマンスカーの未来に対するある種の危機意識の作用も考えられる。地球温暖化対策、石油資源の枯渇など、自動車を取り巻く環境は厳しさを増すばかり。
そんななか、実用性に比してファミリーカーの何倍もCO2をまき散らすスーパースポーツカーが今後も長く生き延びられる保証はない。「だったらいまのうちに楽しんでおこう!」そんな享楽主義的な発想でスポーツカーに手を出す者が絶対にいないとは言いきれないだろう。
Super Sports Car07Mclaret 570GT [マクラーレン 570GT]
スーパースポーツも自動運転できるように?
しかも、高度な通信機能を駆使してスピードを厳しく監視されるようになれば、自由気ままに走る楽しみも失われかねない。たとえそれが目前に迫った危機でないにしても、スポーツカーファンの心の奥底にそんな焦燥感が芽生えていたとしても不思議ではないだろう。
いずれにせよ、かつては憧れでしかなかったブランドの最新モデルが望めばすぐ手に入るのも事実。スポーツカーを買うなら……“いま”なのだ!
Super Sports Car08BMW M4 GTS [ビー・エム・ダブリュー M4 GTS]
※2017年1月号掲載企画抜粋