
デザインを見て「こんなのテスタロッサじゃない!」と言われても
スーパーカー世代のオヤジさんにとって、フェラーリのテスタロッサといえば1984年にデビューした“あの”テスタロッサに他ならないはず。ピニンファリーナの筆によるスタイリングはあくまでもエレガントなのに、ボディサイドにはルーバー付きの巨大なエアインテークが設けられていて、これがデザイン上の最大の特徴となっていました。そういえば、デビュー当時はAピラーの高い位置に設けられたドアミラーが運転席だけにしか取り付けられていなかったこともマニアの間では話題になりましたよね。

▲ 「SF90ストラダーレ」の後継となる、プラグインハイブリッドのスーパースポーツ。
ところが、どうしたことでしょう。昨年発表された新しいテスタロッサ、その名も849テスタロッサにはボディサイドの巨大エアインテークもなければ、ドアミラーだってAピラーではなく“フツー”にドアについているじゃありませんか! 「こんなのテスタロッサじゃない!」なんていうオヤジさんの嘆きの声が、どこからか聞こえてきそうです。

▲ 車名849の8はエンジンのシリンダー数、49は各シリンダーの排気量490ccを意味している。
そんな、849テスタロッサのデザインにわだかまりを持っている皆さんに敢えて申し上げると、これは正真正銘のテスタロッサです。なぜかって? それはエンジンのカムカバーが赤く塗装されているからです。
「テスタロッサはイタリア語で『赤い頭』の意味」そんなエピソードをご記憶のオヤジさんならご存知のとおり、テスタロッサの名は頭、つまりエンジンヘッド(正確にはエンジンヘッドを覆うカムカバー)が赤いモデルのことを指しています。

▲ リアのツインウィング形状が特徴的。
その初代は、なんと1956年に誕生した500TR(テスタロッサの頭文字)。この伝統は、1958年デビューの250テスタロッサに受け継がれ、それから四半世紀の時を経て1984年のテスタロッサへとつながっていきます。その位置づけについては「同時代のフェラーリでもっともパワフルなエンジンにテスタロッサの名は与えられる」とも説明されますが、これこそ最新の849テスタロッサに「赤いヘッド」が与えられた最大の理由でもあります。

▲ 830psを発生するV型8気筒4.0ℓツインターボエンジンに合計220psを発生する3モーター式のプラグインハイブリッド・システムが組み合わされる。
その言葉どおり、849テスタロッサに搭載されるV8 4.0ℓツインターボエンジンは最高出力830psを発揮。これは12チリンドリ用V12ユニットと並んで、現行型フェラーのカタログモデルとしてはもっとも優れたスペックです。しかも、849テスタロッサはここに3モーター式のプラグインハイブリッド・システムを組み合わせることにより、システム出力(つまりエンジンとハイブリッド・システムの合計)は1050psという途方もないパワーを発揮します。

▲ 水平基調のダッシュボードと、主要な操作系をドライバーを囲むレイアウトに融合させたデザイン。
これらは、エンジン出力:780psとシステム出力:1000psを誇った先代のSF90ストラダーレを凌ぐだけでなく、SF90ベースでサーキット走行にフォーカスした限定モデルのSF90XXさえ上回るパフォーマンス。ファン垂涎の限定モデルさえ上回る性能をカタログモデルで実現したあたりに、849テスタロッサへの力の入り方が表れているといえるでしょう。
そんな849テスタロッサに、スペイン・セビリア地方の一般道とサーキットで試乗してきたので、その模様をご報告しましょう。
ロングドライブも楽々にしてサーキットの限界走行も恐怖心ナシ

▲ 一般道では、とにかく扱い易く、快適。
先代のSF90ストラダーレは、3モーター方式プラグインハイブリッド・システム(エンジンと直結されて回生や後輪の駆動に用いられるモータとは別に、左右の前輪を各1基のモーターで駆動することでクルマの“曲がり具合”を電子制御するトルクベクタリング機能付き)を搭載する最初のフェラーリだったこともあって、例えばエンジンがオン/オフしたりするたびにちょっとしたショックが伝わってきたりするなど、ワイルドではあるけれど洗練度合いという意味では「もうちょっと頑張ってほしかった!」というモデルでした。

▲ ドライバーの操作に対する反応が極めてスムーズ。
でも、849テスタロッサは違います。発進時の身のこなしは1000psオーバーのスーパースポーツカーであることが信じられないくらいスムーズですし、パワーの沸き上がり方が自然なため加速感は滑らか。しかも乗り心地はスムーズで、普通に走っている限りエンジン音(というよりフェラーリ・ミュージックといったほうがしっくりくるくらいの快音)は低く抑えられているので、ロングドライブも楽々こなせそうなほど快適性は良好です。実際、「このまま1000km走ってこい!」と言われたら、喜んでそのお言葉に甘えちゃいそうになるくらい、疲れ知らずで心地いい乗り味でした。

▲ これならロングドライブも楽々こなせそう。
ところが、サーキットではそれとはまったく別の一面を849テスタロッサは見せつけたのです。
クルマのコントロール性が高くて滑らかに走らせられることに変わりはないのですが、とにかくとんでもなく速くて、ストレートエンドでは簡単に290km/hが出ちゃいました。ただし、そんな速度域でもクルマはしっかりと安定しているうえ、たとえばタイヤのグリップ限界に近づいても、ステアリングからはっきりとそのことが感じられるので、恐怖感はゼロ。

▲ 1050psものパワーがあるにも関わらず、限界的なコーナリングをしても後輪が唐突に流れたりしない

▲ すさまじい速さも経験できた。0→100km/h加速は2.3秒。
正直、試乗会が開かれたモンテブロンコというサーキットをこんなに速いペースで走ったのは初めてですが、それでも、いままでのどんなサーキット試乗よりも落ち着いていられて、心臓の鼓動が極端に速くなることもありませんでした。
つまり、恐ろしく速いのに怖さを感じさせない。それが849テスタロッサの真髄といっていいでしょう。

■ Ferrari 849 Testarossa
全長×全幅×全高/4718×1999×1225mm
ホイールベース/2650mm
車両重量/1570kg
エンジン/V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量/3990cc
エンジン最高出力/830PS/7500rpm
エンジン最大トルク/842Nm(47.4kgm)/6500rpm
システム最高出力/1050PS
トランスミッション/8速DCT
駆動方式/AWD
最高速度/330km/h
0→100km/h加速/2.3秒
乗車定員/2
車両本体価格/6465万円
■ 公式サイト
HP/Ferrari 849 Testarossa - Ferrari.com

● 大谷達也(おおたに・たつや)
電機メーカーの研究所で7年間エンジニアとして勤務した後、1990年、29歳で二玄社CAR GRAPHIC編集部に転職。以来、20年間にわたって同編集部に在籍する。同誌副編集長を務めた後、2010年にフリーランスに転身。現在、活動の中心はハイパフォーマンスカーのインプレッション記事執筆だが、電気系エンジニアとしての経歴を生かし、環境技術やハイパフォーマンスカーなどに用いられる新技術にも通暁している。ただし、技術を専門用語の羅列として説明するのではなく、日常的に用いられる言葉に置き換えてわかりやすく解説するのが得意。英語で海外のエンジニアと直接インタビューできる数少ない日本人評論家のひとり。
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