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2025.09.28

今はなき名車「4代目ユーノス コスモ」の流麗な姿と滑らかな加速、静粛性にどれだけ胸躍らされたか

マツダの今はなきユーノスブランドから生まれた「4代目ユーノス コスモ」。その流麗なクーペボディは海外からも多くの賛辞を得ました。さらにロータリーエンジンの加速と静粛性。筆者も強く心を掴まれたひとりでしたが、唯一の受け入れがたい欠点がありました……。

BY :

文/岡崎宏司(自動車ジャーナリスト)
CREDIT :

イラスト/溝呂木 陽

岡崎宏司の「クルマ備忘録」連載 第267回

「4代目ユーノス コスモの美しくエレガントな姿」は、今も鮮烈に記憶に焼き付いている

イラスト 溝呂木 陽 4代目ユーノス コスモ
日本がバブル一色に染まっていた1990年、「4代目ユーノス コスモ 」は誕生した。

美しく華やかなエクステリアとインテリア、そして、3ローターのロータリエンジンが紡ぎ出す、抜きん出た走りや静粛性は、多くの人たちに溜め息をつかせた。

スリーサイズは4815×1795×1305mm。ロングノーズ&ショートデッキのラグジュアリーなクーペスタイルは、多くのクルマ好きを惹きつけた。

僕もその一人だが、「ほんとうに美しいと思ったし、スタイリッシュだと思った」。35年の時を経た今でも、あの時の気持ちは変わっていない。
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ロータリーエンジンでしか実現できなかっただろう低いノーズをコアにした流麗なクーペボディは、静的にも動的にも美しかったし、ラグジュアリーな薫りに包まれていた。

海外市場でのデザイン評価も非常に高く、日本車としては「別格扱い」されたほどの強烈なインパクトを与えた。

海外試乗会などでも、各国から集まったジャーナリストやメーカーのデザイン関係者などから、多くの賛辞の言葉を聞いた。

インテリアもまた「ラグジュアリー カー」と呼ぶにふさわしいデザインであり、仕上がりだった。

マツダの他モデルとの供用部分など、気になるところもあった。だが、全体にみれば、その個性と流麗さには胸を踊らされたものだ。

上質なイタリア製の本革シートや、フランス製のウッドパネルを惜しみなく使った辺りにもため息が出た。
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前席と後席を一体化したデザインのキャビンは、非常に個性的だったし、贅沢なサロンのイメージを思い起こさせる後席には、特に目を心を奪われた。

後席が快適だったかどうかは覚えていない。だが、僕は見た目の魅力に惹かれ、それだけで「優」をつけてしまった。

ユーノス コスモには、2種のロータリーエンジンが積まれた。

上級モデルは、654cc×3ローターの20B型で、280ps/6500rpmを引き出し、普及モデルは、654cc×2ローターの13B型で、230ps/6500rpmを引き出した。

どちらにも、シーケンシャル ツインターボが組み込まれ、トランスミッションは共に4速ATが組み込まれた。駆動方式はFRのみだ。

ここでは3ローターの20B型に的を絞るが、ロータリーならではの滑らかな回転感は、「まるで電気モーターのようだ!」と思ったものだ。
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加えて、速い。なかでも中速回転域から高速回転域の、極上の滑らかさを伴った強力な加速には、否応なく惹きつけられた。

しかし、、下手なスポーツカーなど足元にも及ばないような加速性能をもちながらも、、僕は、それを周囲にひけらかすような走りはしなかった。したくなかった。

エレガントな姿に、、静かで上質な鼓動感に相応しい走りで、流れに乗ってゆったり走った。そんな走りが、精神的にも一番心地よく、ユーノス コスモに相応しい走りだと僕には思えたからだ。

速度リミッターが180km/hで作動したので、そこまでの速度しか経験していない。だが、リミッターを外せば、裕に220~230km/h 辺りにまでは達していただろう。

できればアウトバーンを走ってみたかったが願いは叶わなかった。最高速度の180km/hが、テストコースでの体験だけで終わってしまったのは残念だった。
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同じ180km/hでも、公道とテストコースでは受ける感覚は大きく異なる。なので、公道での180km/h、できればリミッターを外した最高速度の体験をもしてみたかったものだ。

とはいえ、180km/hでの安定性は信頼できたし、日本のハイウェイを走った経験をベースにする限り、高速クルージングでの安心感に静粛性をも加えての快適性は高かった。

ただし、最上級グレードのタイプEは、乗り心地も「ラグジュアリーカーに相応わしいソフトな感触」を重視した設定で、その分、ワインディングロードなどでの身のこなしには、少し切れ味に欠けるところがあった。

脚をタイトめに設定。身のこなしをスポーティにしたタイプSもあった。だが、「ユーノス コスモのラグジュアリーさ」に強い魅力を抱いていた僕は、タイプEのソフトな感触 / 乗り味と充実した装備の方に惹かれた。

ユーノス コスモの上位モデルには、先進的な装備あれこれが組み込まれていた。
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そんな中でも、大きな注目を集め、話題を集めたのは、日本初のGPS式カーナビゲーションを組み込んだCCS(カー コミュニケーション システム)だった。カラーディスプレイも話題になった。

ただし、カーナビの精度、特に初期のものの精度は、残念ながらかなり低かった。僕も何度も使ってみたが、「ナビ任せにする」のはとても無理、、、そんなレベルだった。

一度、箱根で東京の目的地を設定してナビの指示に従って走ったら、目的地とはかなりかけ離れた場所に着いてしまった。

ナビの誘導で着いた場所で、地図を見たり、土地の人に尋ねたりすれば、すぐ目的地に行ける、といった軽いレベルの誤差ではない。ストレートにいえば、「笑ってしまう!」「呆れてしまう!」といったレベルだった。

ナビの誘導の基本はGPSにあるわけだが、ユーノス コスモがデビューした当時は、まだGPSの台数が絶対的に少なかったので、この結果もやむをえない。
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でも、、それでも、、GPS式カーナビゲーションという、新しい未来を背負って立つだろう技術が組み込まれていることは、うれしくもあり、誇らしくもあった。

近い将来には、未知の場所でも、地図と格闘しながら走る、危険を伴った厄介な作業から開放されるだろうことが、徐々にだが、現実に近づいている感覚がもてたからだ。

美しく、エレガントで、パフォーマンスも高いユーノス コスモではあったが、どうにも受け入れ難い弱点がひとつだけあった。

といえば、当時のことを知っている方ならすぐにピンとくるはずだが、燃費の悪さだ。

街乗りで4~5km/ℓ、高速道路で6~7km/ℓといったところが平均的な燃費だったかと記憶しているが、ちょっと頑張って突っ走ると3km/ℓ台も覚悟しなければならない。

僕が個人で所有したクルマで、最悪の燃費だったのは、たしか1989年モデルのデイムラー ダブルシックス(5.3ℓ V12気筒)だった。
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255psで3速ATが組み合わされていたが、燃費は平均して3.5~5km/ℓくらい。燃料タンクは45ℓ×2で90ℓと大きかった。だが、満タンで出発しても、帰路で給油せざるをないことは何回もあった。

それでも、僕はダブルシックスのV12のエレガントな鼓動感に惹きつけられ乗り続けた。

そして、1993年に出た最終モデルを手に入れたのだが、これは多くの点で進化を遂げていて、故障もほとんどしなくなったし、燃費も平均して5km/ℓくらい。条件が良ければ6km/ℓ台にまで引き上げられた。

こうした経験をしていた僕なので、ユーノスコスモの燃費も、完全に否定するまでには至らなかった。

しかし、一般的には、やはりこの燃費の件が 最大の、そして致命的な弱点となった。

ユーノス コスモに憧れ、心惹かれた人は、僕の周りにも少なからずいた。 だが、結局は燃費が受け容れられず、あるいは、燃費の悪評に伴って、手離すときの車両価値の低下を恐れて諦めた人も少なくなかった。
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バブル景気に乗ってスタートしたマツダの拡大路線が、ハブル崩壊とともに崩れ去り、結果、ユーノスブランドも命脈を断たれてしまったのは知っての通りだ。

しかし、、もしも、「コスモ」が生きながらえ、燃費面でもなんらかの進歩進化があったとしたら、、日本車には稀な「エレガンス」に惹かれ、愛情を注ぐ対象として受け入れようとした人は、一定数いたのではないか。僕にはそう思えてならない。

ふと思ったのだが、コスモをEVで再生させるのはどうだろうか。ディテールまでさらにエレガンスを、そして現代化を加味加速したコスモが、EVパワーで、静かに、滑らかに、エレガントに走る。

想像しただけで、なにか、ワクワク、ゾクゾクしてくる。マツダさん、このアイデアはいかがですか、、、。
岡崎宏司(自動車ジャーナリスト)
1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。
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クルマの記憶 La memoria delle Automobili 溝呂木陽水彩展2025

溝呂木陽先生の個展が開催されます

本連載のイラストでお馴染みの溝呂木陽先生の個展が開催。目を閉じた時、浮かんでくる風景、風の記憶 車のある街角、イタリア、フランス、どこかで見た街、クルマの記憶を探り、水彩画にしていきます。新作水彩画/模型/模型雑誌/Tシャツ/おもちゃ/カレンダー/画集販売、オーダー水彩画受付/画集販売など盛りだくさん。ぜひ体験してください。

クルマの記憶
La memoria delle Automobili
溝呂木陽水彩展2025


場所/ペーターズショップアンドギャラリー
住所/東京都渋谷区神宮前2-31-18
会期/2025年10月17日(金)〜22(水)
時間/12時〜19時 会期中無休 入場無料

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