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2025.06.11

【試乗リポート】“R”の意味はレーシングではない⁉ 「VWゴルフR」が最強の理由とは?

ゴルフのフラッグシップモデルである新型「ゴルフR」に試乗した。あらためて“R”モデルとはどんなクルマなのか、スポーツモデルの“GTI”とはどう違うのかを検証してみた。

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文/藤野太一(自動車ジャーナリスト)
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写真/フォルクスワーゲン ジャパン

VWゴルフRはスポーツモデルのGTIとどう違うのか?

フォルクスワーゲン VWゴルフR
5月中旬、フォルクスワーゲンジャパンは、ゴルフのフラッグシップモデルである新型「ゴルフR」とそのワゴン版である「ゴルフR ヴァリアント」の走行性能を存分に体験できるイベント「Thrilling R(スリリングR)」を開催した。あらためて“R”モデルとはどんなクルマなのか、スポーツモデルの“GTI”とはどう違うのかを検証してみた。
メルセデスのAMG、BMWのM、アウディのRSのように、各社にはプレミアムスポーツブランドが存在する。こうしたブランド戦略はなにもドイツ御三家の専売特許というわけではない。

フォルクスワーゲン(以下VW)には、1976年の初代ゴルフにはじまりいまに受け継がれている“GTI”というブランドがある。見た目には普通なハッチバックのゴルフを、外観はほぼノーマルのまま中身をスポーツカーのように仕立てたGTIはいまや世界的な人気モデルとなっており、ひとまわり小さなポロにも設定されている。

そしてより速く、よりエクスクルーシブなモデルへのニーズは、大きなラグジュアリィセグメントのクルマだけでなく、ゴルフのようなCセグメントのスタンダードなモデルにも広がってきた。
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ドイツ御三家と同様レーシングをルーツとするブランド「R」

▲ VWゴルフのフラッグシップモデル「ゴルフR」。この新型で6代目となる。エクステリアでは、新デザインのバンパーやLEDヘッドライト、リアコンビネーションランプを採用。グリル中央にあるVWのエンブレムはベースモデルと同様に白く浮かびあがるように光る。
2001年、VWは初のRモデル「ニュービートル RSi」を発売する。Rの由来は「Racing」であり、当時のビートルをベースに高出力な3.2リッターV6エンジンを搭載し、駆動方式は4MOTIONと呼ばれる4WDを採用。世界限定250台という希少性もあり大きな話題となった。

そして翌年には、第4世代のゴルフをベースにしたRモデルとなる「R32」を発売する。基本構造は先のニュービートル RSi譲りのもので、2WDのGTIに対して、R32はリアサスをマルチリンク式に変更し4WDシステムを採用。3.2ℓV6エンジンを搭載する。
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第4世代のゴルフに設定された初のRモデル「R32」。3ドアで6MTのモデルは中古車でも人気。
▲ 第4世代のゴルフに設定された初のRモデル「R32」。3ドアで6MTのモデルは中古車でも人気。
以降、ゴルフには世代ごとにGTIよりもハイパワーなエンジンと4WDシステムを組み合わせたRモデルが設定されてきた。今回試乗した新型は、最新の8.5世代ゴルフをベースとした6世代目のゴルフRとなる。
ハッチバックの新型ゴルフR(写真右)とワゴンボディのゴルフRヴァリアント(左)。パワートレインはともに、進化を続けている2ℓ4気筒ターボ「EA888」エンジンで、最高出力は先代比+13PSの333PS、最大トルクは420Nmを発揮する。トランスミッションは7速DSGだ。
▲ ハッチバックの新型ゴルフR(写真右)とワゴンボディのゴルフRヴァリアント(左)。パワートレインはともに、進化を続けている2ℓ4気筒ターボ「EA888」エンジンで、最高出力は先代比+13PSの333PS、最大トルクは420Nmを発揮する。トランスミッションは7速DSGだ。
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いまRモデルの世界販売は右肩上がりで増え続けているという。そしてVWはRモデルのさらなるブランド認知向上のため世界中で体験イベントを開催しており、これもその一環として行われたものだ。ドイツ本国から開発担当ドライバー、フォルクスワーゲンRブランドアンバサダーのベニー・ロイヒター氏、フォルクスワーゲンRテクニカルデベロップメント エンジニアのヨーナス・ティーレバイン氏、フォルクスワーゲンRセールスマーケティング責任者のペドロ・マルティネス・ディアス氏の3名が来日していた。
▲ このイベントのために来日していたゴルフRの開発ドライバーのベニー・ロイヒター氏(写真左)と開発エンジニアのヨーナス・ティーレバイン氏(写真右)。
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開発思想はドライバーに寄り添う“リニアリティ”

Rモデルとは、どんな思想でつくられたモデルなのかという問いに、アクセル操作に対する反応も、サスペンションの動きも、ドライバーが予測しやすい“リニア”なものという答えだった。ちなみにリニアとは、リニアリティの略で数学の世界では直線性という意味をもつ。

クルマの世界では、どれだけアクセルを踏めばどれくらい加速するか、どれくらいステアリングをきればどのように曲がるのかという人間の感性に基づくもので、実際には数学的なリニアとはまったく異なるもの。人間の入力操作に対して自然に、素直に反応するという意味合いで開発者たちはよくこの言葉を使っている。そしてRモデルとは決してスポーツ性能に特化したものではなく、市街地も高速道路もそしてサーキットまですべてをこなす3in1なモデルだと話していた。
試乗は千葉県木更津市にあるクローズドなドライビングコース「ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京」にて行われた。まずはハッチバックのゴルフRで全長約2.1kmのハンドリングトラック(周回路)を走行する。ここはドイツのニュルブルクリンクを模したコーナーや起伏のあるチャレンジングなコースであり、前半にはS字コーナーが連続する区間がある。
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ニュルブルクリンクの名物のひとつカルーセルを模したコーナー。大きなバンクのイン側がコンクリート舗装になっている。
▲ ニュルブルクリンクの名物のひとつカルーセルを模したコーナー。大きなバンクのイン側がコンクリート舗装になっている。
速く走るためにはアウトインアウトのライン取りがセオリーだが、ゴルフRのハイライトのひとつである“R-Performanceトルクベクタリング”の効果を体感するためにあえてコースの真ん中を走ってみる。速度がのるにつれ、そのラインをキープするのが難しくなるはずが、ほとんどロールすることなく抜群の安定感をもってコーナーをクリアしていく。
この“R-Performanceトルクベクタリング”とは、前後アクスルに50%ずつトルクを配分。そしてリアアクスルでは左右それぞれに湿式多板クラッチを配して、最大0−100%の割合まで自在にトルク配分をコントロールし、コーナリング時には外輪により多くのトルクをかけることで旋回性を高めるというもの。

デジタルメーター内に表示されたバーの伸縮によって駆動力配分が可視化されており、4輪へのトルクが常に緻密にコントロールされていることがわかる。ただ不自然な感覚はなく、メーターを見なければ制御されているとは感じない。そういう意味でまさにリニアである。
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GTIは、初代ゴルフの時代、1976年にデビューし、来年で50周年を迎える伝統のスポーツモデル。最新型は265PSを発揮する2ℓ4気筒ターボエンジンを搭載。駆動方式はFF。
▲ GTIは、初代ゴルフの時代、1976年にデビューし、来年で50周年を迎える伝統のスポーツモデル。最新型は265PSを発揮する2ℓ4気筒ターボエンジンを搭載。駆動方式はFF。
同じ走り方をGTIでも試したが、いい意味でぜんぜん違う。車両重量はRが1510kgなのに対してGTIは1430kgということもあり軽い。4WDの駆動方式やトルクベクタリングの恩恵もありスタビリティの高さはもちろんRに軍配があがるが、手の内にある感覚やアジリティ性という意味ではGTIでのドライブも楽しい。
走行モードは「エコ」「コンフォート」「スポーツ」「レース」「カスタム」という5種類が用意されており、出力特性や可変ダンパー、パワーステアリング、そしてエンジン音などが各モードに応じて最適化される。
▲ 走行モードは「エコ」「コンフォート」「スポーツ」「レース」「カスタム」という5種類が用意されており、出力特性や可変ダンパー、パワーステアリング、そしてエンジン音などが各モードに応じて最適化される。
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次のパイロンスラロームコースでは、ハッチバックのゴルフRとゴルフRヴァリアントの比較を行った。全長はハッチバックが4295mmなのに対して4650mmとヴァリアントが355mm長く、ホイールベースは2620mmに対して2670mmと50mm長い、そして車両重量は1510kgに対して1590kgと80kg重くなる。
ゴルフRヴァリアントは、ハッチバックに比べ全長は355mm、ホイールベースは50mm延伸されている。
▲ ゴルフRヴァリアントは、ハッチバックに比べ全長は355mm、ホイールベースは50mm延伸されている。
これほどの差があればまったくの別物ではないかと思いきや、ヴァリアントには長さや重さ、そしてボディ形状による剛性低下といったデメリットをほとんど感じなかった。もちろんアンダーステアでもオーバーステアでもなく、パイロンのあいまをすりぬけることができるハッチバックのオンザレール感覚は、素晴らしいもの。しかし、大きめの荷物を積載し、頻繁に長距離ドライブをするような人であればヴァリアントは大いにありだと思った。
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インテリアでは、中央に大きく回転計を配した専用デザインのデジタルメータークラスターを採用。フラットボトムタイプのステアリングホイールの操作部はタッチ式スイッチとなり、また大型のパドルシフトが備わっている。
▲ インテリアでは、中央に大きく回転計を配した専用デザインのデジタルメータークラスターを採用。フラットボトムタイプのステアリングホイールの操作部はタッチ式スイッチとなり、また大型のパドルシフトが備わっている。
シートはヘッドレスト一体型のスポーティなもので、ベースグレードはブラック/ブルーのR専用デザインのマイクロフリースシート、上級グレードの「R Advance」はシート側面部分にカーボン調エレメントを配したナパレザーシートを標準装備する。
▲ シートはヘッドレスト一体型のスポーティなもので、ベースグレードはブラック/ブルーのR専用デザインのマイクロフリースシート、上級グレードの「R Advance」はシート側面部分にカーボン調エレメントを配したナパレザーシートを標準装備する。

Rとは「Racing」ではなく「Refinement」

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最後は散水されたドリフトサークルで、横滑り防止装置のESCをオフにしてゴルフRで定常円旋回に挑戦する。FFベースの4WDでドリフト状態を維持できるのかと思いきや、デモを披露してくれたインストラクターはものの見事に定常円旋回をきめてみせる。
走行モードを「レース」にして1速ギアでゆっくりとスタートし、ある程度の速度がのったところで強めにアクセルを踏むとそれをきっかけに後輪を振り出すことができる。ここまでは後輪駆動車とかわらない印象。少しスライドさせすぎた際にもアクセルを入れると瞬時に前輪へトラクションが配分されるためスピンモードには至らず、そのままドリフト状態を維持することも可能だった。最新の制御技術の進化に驚く。

そもそもゴルフとは、長年Cセグメントのワールドスタンダードといわれてきたモデルだ。実用性、信頼性、快適性は大前提として備えている。その上に“R”の名を冠して得たものは、本来の由来である「Racing」な性能ではなく、より洗練された「Refinement」であると感じた。ハッチバックが704万9000円〜、ヴァリアントが712万9000円〜といまどき競争力のある価格設定といい、ゴルフRは時代のオールラウンドプレイヤーだ。
フォルクスワーゲン VWゴルフR
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藤野太一(自動車ジャーナリスト)
大学卒業後、自動車情報誌「カーセンサー」、「カーセンサーエッジ」の編集デスクを経てフリーの編集者兼ライターに。最新の電気自動車からクラシックカーまで幅広い解説をはじめ、自動車関連のビジネスマンを取材する機会も多くビジネス誌やライフスタイル誌にも寄稿する。またマーケティングの観点からレース取材なども積極的に行う。JMS(日本モータースポーツ記者会)所属。写真/安井宏充

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