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2015.09.24

クルマオヤジは美人に目がなくて

王侯貴族の別荘地として古くから知られる北イタリア・コモ湖の周辺で、毎年、初夏になると珠玉のクラシック・カーが

集うコンクールが開催される。

「コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ」の名のとおり、自慢の一台を磨き上げて紳士淑女が集まり、

人もクルマもともにエレガンスを競い合う……。

まさに究極の美人が揃う年に一度の品評会

感嘆。いや、驚嘆というべきだろうか。と、いくら悩んだところで、この場で感じた素晴らしさは言葉では表現できない、と悟った。湖のほとりの美しいヴィラの中庭に厳選されたクラシックカーが並ぶ。ミラノの郊外にある世界有数の避暑地であるコモ湖のほとりで開催されるクラシック・カーの祭典、「コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ」では、そんな息を呑むような光景が繰り広げられていた。和製英語なのは承知だが、TPO(=Time, Place, Occasion)がすべて揃っている。時は5月下旬、夏の訪れを前にヨーロッパが華やぐ季節である。舞台も、古代ローマの時代から避暑地として知られる北イタリアの湖水地帯と奮っている。16〜19世紀にはヨーロッパ中の貴族がこぞって美しい別荘を建てたことで知られるコモ湖の周辺だ。

そして、もっとも大切なのが特別な行事を意味する“Occasion”だ。「絶好の機会」「行事」といった意味もある。実際、オーナーにとっては、この日のために磨き上げたクラシックカーを、自動車業界を牛耳っている御大に評価してもらう絶好の機会なのだ……。

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コンクールを終えて、正装でのディナータイム。スポンサーである「トロフェオBMWグループ」を受賞した32年型アルファロメオを中心に最高評価のコーパドーロを受賞したフェラーリ166MMなどが並ぶ。

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中世の貴族の別荘を改築したホテル、ヴィラ・デステ。夜には美しくライトアップされて、コモ湖の水面に映える。磨きあげた1台で乗りつけるのにふさわしい場所だ。

やっぱりクルマは見た目の美しさに心奪われる……

限られた者だけが集う古式ゆかしい催し物

この時期のヨーロッパでは、クルマ好きにとって垂涎の催しが数多く開かれている。その中からあえてヴィラ・デステで開催されるコンクールを特筆する理由は、“自動車のエレガンスを競う”という行為そのものの優美さにある。ほぼ時と場所を同じくして開催される「ミッレ・ミリア」が貴重なクラシック・カーを本気で走らせてタイムを競う“武闘派”のイベントなのに対し、こちらは世界中のコレクターや博物館がこの日を目指して磨きぬいた自動車の美を競うコンクールである。この世界もオタクといえばオタクかもしれない。けれど油臭さは一切なく、それどころかパートナーの女性たちは、自慢の愛車との相性を考えてドレスを選んでいるそう。つまり、クルマもファッションの一部、という華やかな世界がそこには広がっているのだ。

いったい誰が何のために、これほど大層な催しをしているか? 始まりは1929年まで遡り、ミラノ周辺の富裕層が美しいパートナーと連れ立って、この日のために特別に別注をかけたクルマを互いに吟味すべく集まった。その歴史に倣って、現代のヴィラ・デステでは、男性は涼やかな風合いのジャケットに夏らしい色合いのパンツを、女性はガーデンパーティーにぴったりの華やかなドレスをそれぞれ纏って、シャンパンを片手に自動車のエレガンスを吟味する。まさにクルマ趣味を極めた人にふさわしいソーシャライツの場としての美学そのものだ。

これほど厳選されたエントラントだけに、ただ美しいだけではなく、来歴といって、このクルマはどんな出自のクルマなのか、歴代のオーナーはどんな人だったのか、いかにオリジナルに忠実に保たれているか、などなど、言わばクルマの血統書までも吟味される。つまり、オシャレの仕方がひとつに決まっているわけではないように、クラシックカーの楽しみ方もスタイルがある。美しさを愛でるもよし、オーナーに来歴を問うもよし、ご婦人とクラシックカーの共演をシャンパン片手に眺めるもよし、である。午後になると、美しいクラシックカーの一群が静々と走りながら審査員席の前までパレードする。もちろん、ただ美しいだけでは高い評価は得られない。往時の美しさを保って動態保存されているうえに、玉砂利の上を走る音の優美さすらもが審査の対象になるとまでいわれる。

審査員は、ルノーでチーフデザイナーとして辣腕を振るったパトリック・ルケモン氏、ポルシェのチーフデザイナーとしてボクスターやカイエンを生み出したハーム・ラガーイ氏、ロールスロイス復活の礎となるファンタムのデザインを生み出したイアン・キャメロン氏と自動車デザインのプロ中のプロに加えて、マセラティの危機を救って戦後の黄金期に導いたアドルフォ・オルシ氏の孫であるアドルフォ・オルシ・ジュニア氏と、そうそうたるメンバーが連なる。

彼らを総立ちにさせたのが、古式ゆかしいイタリアン・ロッソの1932年型アルファロメオ8C2300だ。名コーチワークであるザガートの手になるボディは、いかにも当時のスーパーカー!といった雰囲気。アルファロメオのドライバーとして、F1での勝利に導いたニノ・ファリーナが最初のオーナーと、来歴も完璧だ。

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■左:Porsche 911 Carrera RS[ポルシェ 911 カレラ RS]

シャンパンのポメリーがスポンサーし、もっともアイコン的なモデルに与えられる賞を受けた1973年型ポルシェ911カレラRS。最近値上がりが特に激しくて、10年で約10倍に評価が上がったとか。

■右:Maserati Zagato Mostro[マセラティ ザガート モストロ]

コンセプトカーやプロトタイプの新型の美を競うコンセプトカー&プロトタイプ・クラスも設けられている。マセラティの100周年を記念して、ザガートとのコラボで生み出した「モストロ(怪物)」である。

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■左:Lamborghini Miura SV[ランボルギーニ ミウラSV]

こちらもミニカーを持っていた!という人が続出しそうなモデル、ランボルギーニ・ミウラ SV。鬼才ベルトーネの手になるボディワークはいま見ても斬新。12気筒をドライバーの背後に搭載する独特なデザイン。

■右:Dino 206S[ディーノ 206S]

ミニカーで持っていた!という人も多いに違いないが、名車330 P3の縮小版との誉れも高いディーノ 206S。軽量化されたボディに、レーシング・フェラーリの血脈を受け継ぐ2リッターエンジンを搭載する。

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Ferrari 166MM[フェラーリ 166MM]

イタリア語で「金の杯」の意味をもつコーパドーロを受賞したフェラーリ 166MM。初代オーナーは故ジャンニ・アニエッリ氏。フィアットを束ねた元名誉会長だっただけに、来歴もお見事。

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■左:Fiat 8V Vignale[フィアット 8V ヴィニャーレ]

ヴィニャーレ製の美しいコーチワークだが、ボンネットの上のパワーバルジが目を引く。フィアットがレースでの優勝を目指して開発したV8エンジンを積むため、このようなスタイリングになった。

■右:Aston Martin DB5[アストンマーティン DB5]

映画『007』でジェームズ・ボンドが駆った名車、アストンマーティンDB5で、旧車ファンの人気も高い。つい最近、オークションハウスのイベントで2億5000万円を超える価格で落札されたものと同型。

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そこには優雅なひと時が流れてゆく……

クルマは文化である同時に所有者が着飾る道具でもある

庶民の目には、金持ちの道楽であり、いかにエレガントに資産を浪費するかを競っているようにも映る。実際、自動車文化に限らず、カルチャーとは浪費を礎に育ち、庶民もその楽しみを享受できる。事実として、ヨーロッパでは「ノブレス・オブリージュ」なる言葉があり、財産や社会的地位を持つ者には果たすべき義務や責任があるとされる。クラスのあるヨーロッパでは、富裕層がお金を使うことは、社会を循環させるための責任であり、義務なのだ。施しや寄付だけではなく、浪費もまた持てるものの義務なのだ。

このヴィラ・デステでのコンクールにしても、戦前まではクルマが限られた人のための乗り物だったからこそ、生まれたといえる。当時は、ほとんどの自動車メーカーがエンジンとシャシーといった骨格のみを製造しており、ボディとなる架装は、従来は馬車のキャリッジを造っていたコーチビルダーにまかせるのが常だった。当時のアッパークラスに属する女性が競うように一流メゾンにドレスをオーダーしていたのと同じく、男性にとっては凝った架装をコーチビルダーに別注するのがアッパークラスのたしなみであり、すべきことだったのだ。

自動車文化が育たないと言われて久しい日本だけに、コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステに見習うことは多い。クルマ好きが集まるといっても、オフ会やミーティングのようなものばかりで、自慢の一台に徹底的にメインテナンスを施し、目の肥えた者が集まり評価しあうのとはほど遠い。もちろん、主役はクルマだけではなく、オーナーにとっても美しいパートナーをともなってブラックタイで装うソーシャライツの場でもある。そんな自動車文化の、いい意味での温床が日本でも生まれることを祈りたい。

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■左:高級腕時計ブランドのA.ランゲ&ゾーネはヴィラ・デステに協賛しており、ヴィラ・デステのロビーには今年発表された新作を含めて時計が並んだ。

■右:メイン・スポンサーを務めるBMWグループの名を冠し、目利き審査員によって選ばれる「ベスト・オブ・ザ・ショー」を受賞したアルファロメオ 8C 2300。アルファロメオの名機として知られており、188台しか造られなかったレーシングカー。モンツァやルマンといった名レースで勝利を手中に収めた。今のオーナーは30年以上も所有しているそう。

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新しいコンセプトカーやプロトタイプの美を競う部門もある。BMWがスポンサーであるため、出展はしていないが、同社が誇る70年代のレースで活躍した名車である「CSL 3.0」からインスパイアされたという「3.0CSLオマージュ」を披露した。

写真/BMWジャパン 文/川端由美

2015年8月号より抜粋



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