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2020.05.22

知名度ゼロからの市場開拓には挑戦が必要だ

オペル、14年ぶりの日本再参入に勝算はあるか

ドイツの自動車メーカーとしてメルセデス・ベンツに次ぐ古参でありながら日本での知名度が低いオペル。日本市場撤退からなんと14年の時を経て2021年より再参入するとの報が流れた。果たして勝算はあるのか?

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文/御堀直嗣(モータージャーナリスト)

記事提供/東洋経済ONLINE
2021年より販売されるオペル車のひとつ「コルサ」(写真:オペル)
今年2月、ドイツの「オペル」が2021年から日本市場に再参入するとの報に触れ、寝耳に水というか青天の霹靂というか、突然のことで驚くとともに「今さらなぜ」との思いが頭をよぎった。2006年に日本市場から撤退してから14年の歳月が経ち、輸入車の枠組みからすっかりその名が消えていたからである。
オペルはドイツの自動車メーカーで、1899年に誕生した。それまではミシンや自転車を製造していたメーカーであった。自動車メーカーとしては1999年に100周年を迎え、ドイツではメルセデス・ベンツに次ぐ古参である。

ちなみに、アウディの創始者であるアウグスト・ホルヒが、自らのガソリンエンジン自動車を作ったのも1899年であった。BMWの創業は1916年だ。フォルクスワーゲンが自動車メーカーとして動き出したのは1937年だが、実質的には戦後「タイプ1(通称ビートル)」が発売されてからのことになる。

身近な価格と確かな品質がオペルの本質

歴史ある自動車メーカーでありながら、オペルの国内での知名度は低い。メルセデス・ベンツは「ベンツ」として広く名が知られ、BMWは「ビーエム」と呼ばれ、フォルクスワーゲンは最初の「ビートル」の愛称で人々の間に広く行き渡った。しかし、オペルと聞いて外観を思い出す人はいつの時代も少ない。

一方、欧州でオペルは、フォルクスワーゲンやフォードと並んで大衆的で質実剛健なクルマを作るメーカーとして知られている。また英国では、ヴォクスホール(Vauxhall)の名で売られ、浸透した。
ドクトル・ヴァーゲンと呼ばれた「4/8 hp」(写真:オペル)
オペルは、1909年のドクトル・ヴァーゲン(英語でいえばドクター・カー)で早くも廉価な小型車を作るメーカーとして名をあげた。医者が往診に出かけるときに乗るクルマとして最適との評価を得て、そう呼ばれたのである。

また、1911年には大きな工場火災を起こしたが、それを糧として消防車を作り、毎分2000リットルの水を供給する高圧ポンプを搭載して、高い評判を得た。クルマの持つ機動性と実利を身近な価格と確かな品質で提供することが、創業の初期からオペルの特徴となっていった。

背景にあるのは、アダム・オペルという創業者と、その事業を受け継いだ5人兄弟による経営の理念である。
カール・ベンツが世界で最初のガソリンエンジン自動車を発明した1886年以降、20世紀初頭まで、自動車の製造は手作りが中心で、富裕層のための高価な乗り物でしかなかった。しかし、オペルはあえてフランスからシャシーを購入し、それに自社の車体を載せることでより安価な自動車を製造し、事業として成功させる道を選んだのである。その象徴が、ドクトル・ヴァーゲンだ。

自動車製造を事業化する考え方は、アメリカのヘンリー・フォードの発想に通じる。フォードも自動車を庶民の乗り物とするため、流れ作業による大量生産方式を創案し、フォード「T型」で実現した。

オペルの5人兄弟の次男と4男はともに渡米経験があり、アメリカでのさまざまな事業化の動きを直接目にしてきた可能性がある。やがてオペルは、1929年にアメリカの自動車メーカー、ゼネラル・モーターズ(GM)の100%子会社となる道を選び、2017年にフランスのPSA(プジョーシトロエン)傘下となるまで、GMの欧州事業をヴォクスホールと共に支えてきた。
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ヤナセの取り扱いにより「アストラ」がヒット

オペルの特徴は、ドイツ車らしく質実剛健で高い走行性能や品質を備えながら、常に消費者に身近な価格帯の商品に徹することであった。

しかし、1980年代の日本進出時には、メルセデス・ベンツやBMWと競い合うような上級車種として戦略が練られた結果、ドイツ本社の考えと日本市場での戦略に乖離が生じ、成功しなかった。ほぼ同じ価格帯であるなら、オペルよりメルセデス・ベンツを選ぶのが消費者心理だろう。
「アストラ」とともに日本でヒットした「ヴィータ」(写真:オペル)
そうした中で、オペルが日本国内で唯一成功したのは、ヤナセがフォルクスワーゲンの輸入・販売権を失い、翌1993年からオペルを主力小型車として量販したときだった。ことにフォルクスワーゲン「ゴルフ」と競合する「アストラ」が街に増えた。

アストラは、それ以前からゴルフと遜色ない商品力を持つ車種であった。ただ、知名度と販売網が不足して、日本では売れていなかったのである。

ヤナセは、輸入車販売の老舗としてキャデラックをはじめとしたGMグループのクルマの販売も永年手掛けていた。そんな背景もあり、ヤナセがオペルの販売をはじめると、アストラを中心に販売台数を伸ばしたのである。

ヤナセが今日も宣伝で使う「クルマはつくらない。クルマのある人生をつくっている」の言葉にあるように、ヤナセの優良顧客はブランドを買ったのではなく、ヤナセが売るクルマを買っていたのであり、それがゴルフからオペルになろうともヤナセへの信頼は揺るぎなかった。

2000年にヤナセの手を離れ、日本ゼネラルモーターズ(当時)に輸入権が移管するとオペルの売れ行きは再び落ち、2006年に日本市場から撤退。それから14年を経て、いったいオペルはどのように日本市場でクルマを売っていくのだろう。

現在は、フランスのPSA傘下となっており、PSAで販売される各車と部品を共有する。日本導入に際しては、日本で販売されるPSA車と共有部品の多い車種から検討されることになる。

日本市場で狙う消費者は「ファミリーと女性」であると伝えられており、コンパクトカーの「コルサ」、ミニバンの「コンボライフ」、そしてSUVの「グランドランドX」となるようだ。
コンパクトハッチバックの「コルサ」。ピュアEVの展開も予定されている(写真:オペル)
コルサは、プジョー「208」に近いBセグメントのハッチバックである。コンボライフは昨年、日本でも販売が開始されたプジョー「リフター」やシトロエン「ベルランゴ」と基本コンポーネントを共有する。グランドランドXは、プジョー3008やDSクロスバックなどが兄弟車にあたる。

いずれの3車種も、ドイツ国内はもとより世界的な売れ筋といえる品揃えだ。同時に、当然ながら競合車も多い。激しい競争の中で、オペルはどのような販売を仕掛けていくのか。
ここから先は、筆者の仮説である。
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オペルの本質で勝負せよ

すでに輸入車のなかから、オペルという選択肢が失われたなかで、どのようにその存在を知らしめるか。また、かつて他のドイツ車と同様に、上級志向の装備や価格で失敗した経験をどのように生かしていくかも、問われることになる
マルチパーパスワゴンの「コンボライフ」(写真:オペル)
一つのきっかけとなるのは、あえて輸入車との競合を考えるのではなく、日本車と真っ向勝負できる価格で参入することだろう。それは、冒頭で語ったオペルの歴史と、そこで培われた企業理念にも通じる。簡単に言えば、「大衆車としてのドイツ車の価値を訴求すること」だ。

それに際し、当然ながら装備の見直しが必要になるだろう。たとえば、カーナビは日本仕様としてお金をかけず、Apple CarPlayやAndroid Autoの活用に絞り込む。そしてスマートフォンを見やすい位置に取り付けられるダッシュボード形状とするか、スマートフォン接続を前提としたディスプレイを設置し、スマートフォンの置き場所を確保する。

カーナビを高度化すれば数十万円のコストとなるので、それを省く発想だ。スマートフォンなら、地図情報の更新も素早く、お金をかけずにできる。

タイヤも、あえてインチアップした扁平タイヤの装着は見送る。代わりに、車体外装色は魅力的なラインナップを揃える。ことにコンパクトカーのコルサは、たとえばトヨタ「アクア」が導入時に多彩な車体色を揃え、街を華やかにしたようなやり方を真似てもよいだろう。

あわせて、カーシェアリングの選択肢にオペルを積極的に入れる法人営業を行い、オペルの利用体験者を増やしていく。BMWの「MINI」が、早くからカーシェアリングに参入したように、ここでもオペルの体験者を増やしていく戦略だ。その際も、車体色の豊富さは目立たせるうえで重要だろう。
SUVの「グランドランドX」はハイブリッド車も導入されるという(写真:オペル)
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次に、販売自体も従来の「買ってもらう」から「使ってもらう」発想に切り替えてはどうだろう。簡単に言えば、リースの比重を増やすことだ。

たとえば、ボルボ・カー・ジャパンが「スマボ」の名で導入したように、毎月支払う定額料金の中に、車両価格はもちろん、整備費用や保険、内外装が損傷したときの補償までをも料金に含め、クルマを安心して使えるようにすることに徹するのである。

オペルを選べば、手間いらずで余計な出費を心配せずに済む。多少の傷を気にせず、クルマで外出する便利さを楽しんでもらう。そうした安心を提供するブランドとなれば、ブランディングに余計な活動費を計上せずとも、巷の評判がおのずとオペルを選ぶ動機になっていくだろう。

それはまさに近年の若い世代の消費動向とつながり、若い家族にも最適だ。今後10年で市場はその傾向をより強めていくはずである。市場の変化を先取りするかたちで、「オペル方式」としてしまうのだ。

そうした挑戦的思考の販売店に的を絞った募集をしていくことも重要だろう。そのためには、これまでの固定観念から脱却する必要がある。

テスラが成功したように

成功の秘訣は、既存の販売網ではできなかったり転換し切れなかったりした売り方のできる事業主を見つけ、保守管理の仕方も見直しながら取り扱い網を構築し、それに見合った品揃えとする。

電気自動車のテスラが、一つの見本だ。そうした発想を持てるなら、2021年からの再参入を新鮮にはじめることができるに違いない。自動車メーカーとしての歴史は長くても、新しいブランドとして立ちあがる発想である。

従来通り、ブランドをまず浸透させる発想で、輸入車同士での装備や販売価格帯をみながら再参入したのでは、オペルの未来は必ずしも明るくないだろう。
当記事は「東洋経済ONLINE」の提供記事です

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