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2022.10.02

BMW Z8はスティーブ・ジョブズも愛したエロティックなスポーツカーだった

1999年に発表され2003年で生産終了。BMW Z8は短命ながら記憶に残る美しいスポーツカーだった。当時、LAのフリーウェイでZ8に試乗した筆者は、その官能的なデザインを目にして1955年生まれの「BMW 507」を思い出したという。

CREDIT :

文/岡崎宏司(自動車ジャーナリスト) イラスト/溝呂木 陽

岡崎宏司の「クルマ備忘録」連載 第194回

もう一度甦ってほしいBMW Z8

最近、ちょっと古い雑誌を見ていたら「Z8」の記事が載っていた。Z8とは「BMW Z8」のこと。懐かしくて一気に読んでしまった。

僕が初めてZ8のステアリングを握ったのは、大好きなLA。すごくハッピーで、ワクワク、ドキドキだったことを思い出した。

なので、当時の資料やメモを探したら出てきたので、振り返ることにした。

BMW Z8は、5ℓV8を積んだスポーツカー。1999年に発表され2003年で生産終了。生産台数は5703 台とされる。

短命だったものの、BMWらしい中身を、実力を持ったスポーツカーだった。

日本での新車価格は1660万円だったが、販売終了後、しばらくしてからジワジワ人気は上がり始めた。今では3000万円前後で取引されているようだ。

5年ほど前、アップルの創業者、スティーブ・ジョブズのZ8がニューヨークでのオークションに出品された。

たしか、30数万ドルほどで落札されたと記憶しているが、クルマ好きの間ではけっこう話題になった。スティーブ ジョブズの感性と美意識に選ばれたという事実は、Z8にとって誇らしいものだろう。
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Z8のルーツを辿ると、1955年生まれの「BMW 507」に行き着く。日産の「初代シルビア」をデザインしたアルブレヒト ゲルツの作品だ。

BMW 507も初代シルビアも、ダイナミックで、美しく、かつエレガントでもあった。

507の生産台数は252台に過ぎない。商業的には失敗作だった。だが、BMWがプレミアムブランドとして成長してゆく過程で、重要な役割を果たしたことは多くが認めるだろう。

僕は、そんな507のステアリングを握り、アウトバーンを全開で走るという「夢のような体験」をしている。1985年頃だったと思う。

それも「BMWミュージアム」のガレージから引き出された、まさに貴重な1台のステアリングを任されたのだ。当然のことながら、あらゆる点でコンディションは最高だった。

ミュージアムのメカニックが助手席に同乗したが、彼曰く、「自由に、好きなように、アクセルを踏んでいただきなさい、、と伝えられています」とのこと。

僕はその伝言を有難く受け入れ、アウトバーンを全開で走った。スピードメーターの針が200km/hを超えたことを覚えている。

55年生まれの507で追い越しレーンを走り、最新(85年頃)のメルセデスやBMWの高性能モデルと並走し、追い越しもした。

オープンで走ったので、コクピットに巻き込む風はかなりすごかったはず。高速域でのスタビリティも十分ではなかったはず。だが、ネガティブなことはまるで覚えていない。

「ミュージアムから引き出した507でアウトバーンを自由に走る!」、、という夢物語に浸りきり、ただただハッピーなだけだったということだろう。
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そんな経緯もあってか、Z8を初めて見た時、僕はすぐ507を思い出した。そしてイメージを重ねていた。Z8のプロポーションは明らかにクラシックなものであり、507を思い出させるものだった。

そのことをBWWに問うと、「デザインモチーフは507」であることを明快に、というか、誇らしげに認めた。

Z8には507ほどのエレガントさはない。その代わり、ダイナミックであり、エロティックともいえる雰囲気 / 佇まいを持つ。端正かつ抑制の効いたセダンやクーペのイメージとはかなり違う。

すでに触れたように、初めてZ8に乗ったのはLA。明るくて、おおらかで、カラフル、そして豊か、、そんな背景にZ8はよく馴染んだ。

巨大なアメリカ車の中に混じっても埋もれない存在感を示し、とても官能的にも見えた。

好き嫌いは分かれるかもしれないが、、クラシックとモダンが溶け合ったインテリアは個性的だ。

ソフトトップはもちろん電動式。幌を上げた時の居住性と耐候性は万全。ただし、オープンにした時の、コクピットへの風の巻き込みはかなりのもの。髪の乱れを嫌がるようなガールフレンドを誘った時は、トップを閉めるしかない。

ロールバーに取り付けるネットタイプのウィンドウディフレクターもあるが、あまり効果はない。

僕は風が好き。なので、LAのフリーウェイを走りながら、カントリー路を走りながら、南カリフォルニアの風を大いに楽しんだ。

スリーサイズは4400×1830×1315mm。
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5ℓV8は400hp/500Nm。6速MTとの組み合わせで、250 Km/h(リミッター作動)に達し、0~100km/hを4.7 秒で走り抜ける。23年前には、間違いなく超弩級のスーパースポーツだった。

スペック表を見ていて驚いたのは重量。たったの1585kgでしかない。この軽量さが、Z8の様々なパフォーマンスに少なからぬプラスをもたらしていたのは間違いない。

軽量にするために採用したのはアルミスペースフレーム。その結果、同じ5ℓV8を共用するBMW M5より200kg軽くなっている。

オープンモデルながら、高いボディ剛性が確保できたのも、このアルミスペースフレームあってのことだろう。

Z8はMTしか用意されなかった。だが、たとえ渋滞に出会っても、フレキシブルなV8はドライバーの負担を最小限に抑えてくれる。

例えば3速以下なら、700~800rpmといったアイドリング領域の回転数でスルスル走る。そこから踏み込めば実用的な加速もする。

クラッチも、並の脚力の持ち主なら、渋滞でも耐えられる程度の重さ。しかも、つながりはスムースでありながら、ストロークは短くメリハリもある。

ちょっとラフな鼓動感と低く野太い音は「強さ!」を実感させるし、0~100km/hを4.7秒で駆け抜ける加速は「熱い!」。

LAの街でも、フリーウェイでも、山岳エリアでも、Z8は扱いやすく、楽しく、そして刺激的だった。

タイヤはBSポテンザのランフラット。ランフラットをもっとも早期に装着したクルマだったが、不快なショックや振動は見事に封じ込められていた。これには驚いた。
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ちなみに、僕が2003年に買ったBMW Z4もランフラットを採用していた。だが、Z8とは対照的に「ひどい乗り心地」だった。

ハンドリングも上々。素直でナチュラル。「シャープな身のこなしを意図的に演出する」といったものではなく、あくまでも基本性能を追い求めた結果としてもたらされたものだ。だから、懐が深い。

DSC(ダイナミック スタビリティ コントロール)が装備されていたが、介入ポイントはたっぷり余力を残したところ。

なので、空いた山岳エリアなどではDSCをカットして走ったが、限界領域の挙動はコントロールしやすい。わずかにリアを滑らせながら、ニュートラル感覚で中速コーナーを抜ける、、大いに楽しませてもらった。

ただ、一点だけ気に入らないところがあった。ブレーキだ。日常走行にはむろん支障などない。だが、ホットなスポーツ走行領域に入るといまいち物足りなくなる。

「一流のスポーツカーには一流のブレーキ性能がマスト」、、これは僕の持論であり、譲れない。なので、けっこう残念だった。

Z8は一級の性能を持ちながら、誰もが乗りやすく、日常性も高い。なので、もしATモデルがあったら、人気も、販売台数もグンと上がったのではないか。

もちろん、BMWもそれはわかっていたはず。でもそうしなかったのには、BMWなりのスーパースポーツへの拘りがあったのだろう。

でも、アルピナ版Z8はATが許された。というより、アルピナ版Z8にはATしかなかった。ちょっと不思議な話ではある。

エンジンがいつまで生き続けられるかはわからない。でも、「もしも終わりがあるのなら」、BMWにはお願いしたいことがある。

どこよりも魅力的なエンジンを創り続けてきたBMWには、、その集大成となるような、、後々まで語り継がれるようなエンジンで最後を締めくくってほしい。

そして、そんなエンジンを積むモデルに、僕は「Z8」を指名したい。BMWエンジンの記憶を永遠に遺すという意味で、「Z8 999」といったネーミングもいいかもしれない。

● 岡崎宏司 / 自動車ジャーナリスト

1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。

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開催日/10月21日(金)〜26日(水) 会期中無休 毎日在廊
時間/12:00〜19:00
場所/原宿ペーターズギャラリー
住所/東京都渋谷区神宮前2丁目31-18
TEL/03-3475-4947

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