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2019.07.12

いま、フェラーリが乗り越えるべき「2つのハードル」とは?

年々厳しくなるクルマの安全・環境・騒音基準のなか、特殊なスーパーカーを公道走行可能にするハードルはどんどんと高まっている。その対応策としても、フェラーリをはじめ、多くのスーパーカーメーカーにとって、電動化は避けて通れない課題だ。

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文/越湖 信一(PRコンサルタント、EKKO PROJECT代表)

記事提供/東洋経済ONLINE
フェラーリが発表したプラグインハイブリッドモデル「SF90」(写真:フェラーリ)
スーパーカーのマーケットは現在、大きな変革期にあるようだ。
スーパーカーの雄である、フェラーリはSF90ストラダーレというプラグインハイブリッドモデルを先だって発表した。基本レイアウトは従来からのV型8気筒エンジンをミッドマウントしたものであるが、そこに3基のモーターを付け加えている。

フロント2基とエンジンと合体したリアに一基のモーターが設けられ、この基本レイアウトをもった新プラットフォームが、今後、フェラーリの各モデルにおいて共有されていくようだ。エンジンを使わないEVモードで走ることのできる距離は25kmと限られており、フロントの2モーターのみが稼働するから、いわば前輪駆動のFFカーのようなフェラーリとなる。
フェラーリによれば、このハイブリッドシステムは、さらなるハイパフォーマンスの実現のためであって、環境問題への対応ではないという。
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ネーミングに込めた思い

フェラーリブランドのDNAはレースにある。このSF90ストラダーレは今シーズンにフェラーリが走らせるF1マシンSF90のストラダーレ(=ロードカー)という位置づけである。
SF90ストラダーレのパワートレーン(写真:フェラーリ)
また、フェラーリ社の創始者であるエンツォ・フェラーリが“スクーデリア・フェラーリ”を創立した90周年を祝うという意図から“90”とネーミングされている。つまり、モータースポーツと深いつながりを持ったモデルであり、かつ長いヒストリーをもった老舗ブランドであるというフェラーリをアピールするネーミングであるのだ。
ジュネーブモーターショーの様子(筆者撮影)
実は近年、国際モーターショーの中でもドメスティックな自動車メーカーを持たないスイスで開催されるジュネーブモーターショーが存在感を増している。理由の1つはワンオフカーなど趣味性の高いブランドのアピールに特化していることだ。
聞いたことのないような新興メーカーが小さいスタンドを設け、そこで数億円のプライスタグをつけるプロトタイプを発表したりする。富裕カーマニアは何か新しいものがないかジュネーブを訪れるし、そこに新しいプロジェクトを抱えた起業家も集まる。メジャー、マイナーを問わずスーパーカーの発表場所としてジュネーブの存在感が高まっているのだ。
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EVスーパーカーが次々登場

そんなジュネーブショーでも目立った動きが見られた。フェラーリなどのスタイリング開発を長年行ってきたイタリアのカロッツェリア、ピニンファリーナは新たに、アウトモビリ・ピニンファリーナと称す自動車メーカーの設立を発表した。
EVスーパーカーの「ピニンファリーナ・バッティスタ」(写真:アウトモビリ・ピニンファリーナ)
そこで明らかにされたモデルは、ピニンファリーナの創始者の名前をモデル名に起用したピニンファリーナ・バッティスタというEVスーパーカーだった。1900ps、最高速度400km/hオーバーのモンスターモデルだ。

スウェーデンのスーパーカーメーカー、ケーニグセグもレゲーラという1500psを超えるプラグインハイブリッドモデルを出展し、クロアチアのリマックもC_Twoの量産EVプロトタイプを公開した。実は前述の2モデルに関してEV関連の技術供与を行っているのがこのリマック社でもある。

さらに、年内にデリバリーが予定されているポルシェ初のEVモデル、タイカンがすでに2万のオーダーを集めているという発表が、このジュネーブショーでなされたが、このポルシェもリマックへの資本参加を行っている。異端の新興EVスーパーカーと目されていたリマックが一気に存在感を高めた。このスーパーカーの祭典たるジュネーブショーにおいても電動化が急速に進んでいるのだ。

フェラーリをはじめ、多くのスーパーカーメーカーにとって、一般の自動車メーカー同様に電動化は避けて通れなくなっている現状があるのは確かだ。小規模なスーパーカーメーカーにとっても安全基準、環境への対応が年々厳しくなり、もはや少量生産ということによる環境基準などへの恩恵もなくなりつつあるのだ。その対応のために、さまざまなデバイスが付加され、クルマは大きく重くなる。そのために高出力のエンジンやモーターなど複雑なシステムを採用することになる。

現在、ヨーロッパで生産するモデルに対応が求められているユーロ6d-TEMPというCO2排出量などの規制はさらに厳しくなり、2020年にユーロ6dが適用される。その測定条件も実際の走行に対応したステージ2RDEが適用されるという。

特殊なスーパーカーを公道走行可能にするハードルはどんどんと高まっている。いっそのこと、サーキットで楽しむ専用車としてしまえばいいのかもしれないが、そのマーケットはたいへん小さい。各スーパーカーメーカーはこの厳しい規制に対応するために、自社で技術開発を行うか、技術を持ったサプライヤーと提携しなければならない状況にある。
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騒音規制の強化

もう1つのスーパーカーに対する逆風は騒音規制の強化だ。フェラーリが存在感を持ちうるのも、あのF1を彷彿するかのような甲高いエキゾーストノートであることは否定できない。オーナーによる違法な改造は論外として、サウンドはスーパーカーの魅力を醸し出す重要なポイントなのだ。

日本の自動車メーカーは、伝統的に“エキゾーストノートを創る”というDNAを持ちえておらず、かつてはひたすら音量レベルを小さくするというところに重点がおかれているだけであった。それを打破したのはレクサスLFAくらいであろうか。

一方、ヨーロッパでは、その音に対するチューニングにひたすらこだわった。フェラーリならフェラーリらしい音、マセラティならマセラティらしい音と……。開発部門にはエグゾーストノートに関するエキスパートが存在し、少なからぬコストをその開発にかけていた。

しかし、国連自動車基準調和世界フォーラムにおいて規定される自動車の走行音に対する規制が、このところ一段と強化されている。現在はフェーズ1の規制値がヨーロッパに導入され、日本における認証もそれに基づいているが、2020年にはさらに厳しいフェーズ2が導入される予定だ。

現状のフェーズ1でも、それはかなり厳しいもので、エグゾーストノートとタイヤから発生する路面との摩擦音の総和は、いわゆるスーパーカーにおいては規定値ギリギリのものがほとんどと言ってよい。で、あるから音量の大きいタイプへの改造などはもってのほかだ。

筆者もそのガソリンエンジンを持つ自動車が醸し出すサウンドの魅力を愛でる1人であるが、音に関する感じ方は十人十色であることも十分理解している。音の大きさではなく、その質でエグゾーストノートを楽しむよう心がけなくてはならない。

要は、その次なるフェーズ2が導入されたとすると純粋なガソリンエンジン自動車がそれをクリアするのはたいへん難しいと言われているのだ。であるから、スーパーカーの迫力あるサウンドを楽しむことはかなり難しくなると言わざるをえない。この規制により、スーパーカーの持つ重要な魅力を失ってしまうことは明らかだ。
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パフォーマンスの追求としての電動化

スーパーカーに対する逆風の中、ブランドDNAを維持するためのストーリーにもこだわらなくてはいけないところが難しい。純粋なスポーツカーというDNAをアピールしたい彼らにとって、環境のために妥協してさまざまなデバイスを採用するというのは、口にできない。決してプラスにはならないのだ。だから“電動化はあくまでパフォーマンスの追求”とやせ我慢しなければならない難しさがある。

これら、電動化というスーパーカーのトレンドに対して、実はもう1つのトレンドがある。それは徹底した軽量化の追求だ。軽量化はもちろんスポーツカーにおいて重要な要素であり、どのメーカーもそれを目指していたが、それを最新のテクノロジーで究極まで追求する。
自社製造モデルの「ダラーラストラダーレ」(筆者撮影)
フォーミュラeやインディカー・レースなどへの独占的シャーシ提供を行い、現在のレース業界になくてはならない存在であるダラーラ社がそのトレンドへと名乗りを上げたのは2017年のことであった。その創始者であるジャンパオロ・ダラーラはランボルギーニ・ミウラという自動車史に残る名車を開発した人物でもある。

「理想のロードカーを作りたいという私が長年持っていた夢を実現したクルマが完成しました。ライトウエイト、そして強力なダウンフォースを持つマシンで、さらに最高の安全性も確保されています」(ダラーラ)
ダラーラ社の創業者であるジャンパオロ・ダラーラ氏(筆者撮影)
ダラーラが披露してくれたのはダラーラストラダーレという自社製造モデルであった。そのモデルにはドアすらなく、低いボディをかつてのレースマシンのようにボディをまたぎ乗り降りするというこだわりが垣間見える。

取り外し式のウィンドウスクリーンは世界で初めて公的に認証を受けた樹脂製であり、ボディ・シャーシは最新の複合素材を多用した自社製の超軽量タイプ。数々の軽量化のこだわりの結果、車重はなんと855kg(乾燥重量)だという。多くのモデルが1500Kg程度はある現在のスーパーカーの中で、驚異的な軽さだ。

「軽量化によってすべての問題が解決し、ほかのクルマでは味わうことのできないスポーティな走行を楽しむことができます」とダラーラは語る。
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日常でも楽しめるスーパーカー

マクラーレンF1というこれまた伝説的な3シーター(中央がドライバーで横に計3席が並ぶ)モデルの設計エンジニアであるゴードン・マーレーも先日、新型スーパーカー”T.50“プロジェクトを発表した。

こちらもマクラーレンF1同様の横3列レイアウトを採用し、980kgという軽量化を達成。空力を追求し、強力なダウンフォースを生み出し最高の動力性能を発揮するという。この両モデルにおける開発コンセプトには大きな類似点がある。

つまり、ハイパワーを競い、環境基準に合致すべく大形化していくスーパーカーに未来はあるのか、という現在のトレンドに対するアンチテーゼだ。超高速域だけでなく、日常の運転の中でも”ファントゥードライブ”を楽しむことができるのがこれからのスーパーカーである、というのが、ダラーラやマーレーの考え方だ。

環境や安全への配慮がさらに強く求められる時代の流れの中で、スーパーカーも、変わって行かねばならないであろう。未来に向けてスーパーカーの存在意義を持ち続けることができるのか。まさに今、正念場におかれている。
当記事は「東洋経済ONLINE」の提供記事です

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