2017.07.16
オーデマ ピゲの音色が最上級であるワケは!?【後半】
- CREDIT :
写真/斎藤暁経 文/篠田哲生(時計ジャーナリスト)
今回は“スーパーソヌリ”の実力を、グローバルブランド アンバサダーを務めるクローディオ・カヴァリエールと機構を担当したオーデマ ピゲ・ルノー エ パピのジュリオ・パピに語っていただこう。
※前回の「オーデマ ピゲの音色が最上級であるワケは!?【前半】」を見逃した方はコチラから。
脳で感じる美しい音を目指した
「“スーパーソヌリ”の機構の仕組みや機構は、通常のミニッツリピーター機構とほとんど変わっていないので、製造自体のノウハウはあります。しかし音を追求することは難しい。それは耳という器官がとても繊細で優秀だからです。人間はリズムや音のちょっとしたズレも、きちんと聞き分けることができますし、耳では感知できない音さえも、脳の方で補完してしまう為、心地よい音色に調律するのがとても難しいのです」
とパピ氏。
しかも実用性を高めるために20m防水も兼ね備えることを目標とした。通常のミニッツリピーター機構は、時計内部から外へと音を出すために、非防水であることが多い。しかしオーデマ ピゲの場合は、防水性をもたせつつ、美しい音色を奏でたいと考えた。その二律背反する個性を実現させるのが、とても困難だったのだ。
軸となったのは音色の解析
「夢の実現のために、2006年からローザンヌ工科大学と共同研究を開始しました。過去のオーデマ ピゲのミニッツリピーターから音量と音色の指針となるピースを定め、それをデジタル解析して理想の音を特定し、さらには楽器製造エンジニアの協力を仰ぎ、理想的な音色を奏でるための構造を探したのです」
その結果導き出されたのが、ゴングを音響板に取り付けるという構造だった。ムーブメント上のハンマーがゴンクを打つと、その振動が音響板に伝わり、音が広がるのだ。
「アコースティックギターと同じ構造です。ゴングがギターの弦で、音響板がギターのボディとなり、美しい音色が大きく響くのです。コンセプトモデルの音響板の素材は、教会の鐘にも使われるブロンズでしたが、酸化しやすく防水パッキンに悪影響を与えかねないので、チタンと銅の合金へと変更しています。
さらに雑音が出ないように、ガバナーの形状も変更しました。しかし時計に使用している素材は、いわゆる“特殊素材”ではありませんし、機構自体はあくまでも古典的。そのため十数年後に修理不能になるということもありません」
価値を永続させるのも、オーデマ ピゲにとっては大切なことなのだ。その姿勢は、音色を決める最終工程にも現れる。
永続できる技術を作る
特に若手の時計師の場合は、テレビゲームやヘッドフォンの影響もあって、音の感じ方に差があるからです。そこでローザンヌ工科大学に、音を分析するソフトの製作を依頼しました。
このソフトを使えば、ゴングのどこを調整すれば理想的な音色になるかがわかり、理想の音質に近づけることができます。ただし最終チェックは、絶対音感をもった時計師が行います。どれだけデジタル技術が進化しても、“心地よさ”を聞き分けるのは、人間の耳じゃないと無理なのです」
伝統的な技術をベースに、革命的なケース構造とデジタルを融合させることで到達した“スーパーソヌリ”は、豊かで美しい音色で、周囲の人まで楽しませる“楽器”となった。これこそがミニッツリピーターの現代的価値なのだろう。
「ジュール オーデマ・ミニッツリピーター・スーパーソヌリ」
オーデマ ピゲ ジャパン 03-6830-0000
● 篠田哲生
1975年千葉県出身。講談社「ホット ドッグ・プレス」を経て独立。専門誌やビジネス誌、ファッション誌など、40を超える雑誌やWEBで時計記事を担当。時計学校を修了した実践派である。