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2017.07.11

1000万円オーバーは当たり前! “超”高級時計の驚くべき世界

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文/川上康介(ジャーナリスト)

100万円の時計は、もはや高級時計とは呼べない

機械式時計の世界に価格破壊が起きている。安くなっているわけではない。まったく逆の現象が起きているのだ。数年前まで100万円超えが高級時計、“超”高級時計といえば、1000万円を超えるモデルというのが一般的だったように思う。

有名ブランドで、ケースの素材は18Kかプラチナ。超複雑系といわれる「トゥールビヨン」や「パーペチュアルカレンダー」、「ミニッツリピーター」などの機能を複数搭載するか、ダイヤモンドなどの宝石をびっしり埋め込むか。それでも1000万円というラインを超える時計には、なかなかお目にかかれなかった。
 
だが、この数年で時計業界は、加速度的に超高級路線へと舵をきった。もはや1000万円オーバーは当たり前。100万円の腕時計は、もはや高級ともいえないレベルだ。

各ブランドから2000万円、5000万円、1億円といった“超”高級モデルが続々登場し、市場をにぎわしている。銀座の時計店のケースにも、数え切れないほどの0が並んだ時計が数多く飾られている。
 
この現象は、世界的に進んでいる経済の二極化と無関係ではないだろう。時計ブランドとして考えれば、30万円の時計を100本売るよりも、3000万円の時計を1本売ったほうがはるかに利益率は高い。3000万円の時計を買う客がいるのであれば、そちらに力を入れていくのは必然といえるかもしれない。
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ヴァシュロン・コンスタンタン「トラディショナル・キャリバー2755」(時価 8142万5000円[7月1日付け参考価格])

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1755年に創業、世界三大時計ブランドのひとつに数えられるヴァシュロン・コンスタンタンの超高額モデル。プラチナ製、直径44mmのケースのなかに、トゥールビヨン、ミニッツリピーター、パーペチュアルカレンダーという複雑機構の最高峰を3つ搭載。老舗ならではの上品さを感じさせる。(ヴァシュロン・コンスタンタン)

ブルガリ「オクト フィニッシモ トゥールビヨン スケルトン」(1434万円 予価)

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ムーブメントのすべてを明らかにするスケルトンは、ブランドとしての自信のあらわれと言っていいだろう。253のパーツで組み立てられた世界最薄のトゥールビヨンは、どこか近未来的な雰囲気をたたえ、ブルガリらしいダンディな雰囲気に仕上がっている。(ブルガリ ジャパン)
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平均単価1600万円の超高級時計ブランド

ところで最近、私は山手線で吊革を掴んでいる手に2千万円ほどの腕時計を見て、かなり驚いた。着けている人はごく普通のビジネスマンといった風情で、決して数千万円の時計を買う人には見えない。彼は何者なのか? 思わず尾行したくなったほどだ。
 
彼が着けていた時計は、リシャール・ミルだった。実は、時計の“超”高級化現象は、この「リシャール・ミル」から始まったと言っても過言ではない。

100年以上の歴史を持つ老舗ブランドが幅を利かせている時計業界において、2001年にデビューしたリシャール・ミルは、生まれたての新興ブランドと言っていいだろう。だが、そのブランドがいま、時計業界を席巻している。
 
このリシャール・ミル、デビュー当時は、時計店が「売れるわけがない」と扱いを断るようなブランドだった。なにしろチタンやカーボンのケースにラバーストラップ、機能は時間を計るだけの“3針時計”で数百万円。

クロノグラフやトゥールビヨンなどのモデルは、軽く1000万円を超えた。簡単にいえば、見た目が地味で値段が高い。しかも無名ブランドとくれば、売れないと考えるのが当たり前といえるだろう。
 
だがいまや、その人気は凄まじい。発売されるモデルの多くは数十本単位しか作られないため、人気モデルは、世界中のファンの争奪戦のような状態になっている。

たとえば今年発表されたモデルでも、8900万円の「RM 27-03 トゥールビヨン ラファエル・ナダル」や1億1270万円の「RM 50-03 ウルトラライト トゥールビヨン スプリットセコンド クロノグラフ マクラーレンF1」の日本割り当て分は、発売前に予約完売している。

現在、リシャール・ミルで購入できる男性用腕時計の最低価格は、970万円(ちなみに税抜き!)。日本で売れたモデルの平均単価は1600万円程度というから驚くほかない。それでもこの数年、常に在庫僅少。その人気はまだまだ衰えるどころか、上昇中といっていいだろう。
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リシャール・ミル「RM 27-03 トゥールビヨン ラファエル・ナダル」(8900万円 予価)

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圧倒的な強さで全仏オープンV10を達成したラファエル・ナダルの手首に着けられていたのがこの時計だ。繊細なトゥールビヨンの機構を搭載しながら、10000Gの衝撃にも耐えうる革新的な超軽量モデル。(リシャールミルジャパン)

リシャール・ミル「RM 50-03 ウルトラライト トゥールビヨン スプリットセコンド クロノグラフ マクラーレンF1」(1億1270万円 予価)

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最新の素材や技術を用いるリシャール・ミルは、「時計のF1」と呼ばれている。そのリシャール・ミルがマクラーレンとコラボレーションして誕生したのがこのモデル。ストラップを含めてもわずか40gという世界一軽量の機械式クロノグラフ。(リシャールミル)
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なぜリシャール・ミルは売れるのか?

ここで3つの疑問が持ち上がる。1つめは、「なぜリシャール・ミルの時計はそれほどまでに高額なのか?」。2つめは、「そんな高額な時計がなぜ人気なのか?」。そして3つめは、「誰がそんな高額の時計を買っているのか?」。簡単にひとつずつ解説しよう。
 
まず「なぜリシャール・ミルの時計はそれほどまでに高額なのか?」という疑問。リシャール・ミルのモデルの多くは、金やプラチナなどを使用していない。

だが、実はそれ以上に高価な素材を採用している。F1、航空業界、さらには軍事業界など、最先端の分野でしか使われないような素材やそれらをベースにした独自開発の素材を用いることで、軽量かつ頑丈で正確に時を刻む機械式時計を作り上げているのだ。
 
そのこだわりはネジ1本にまで及ぶ。リシャール・ミルでは、1モデルに使われるネジのために最新の工業機器を導入することもあるという。量産するならともかく、数十本しか作られない時計のために数億円の最新機器を導入するため、ネジ1本が100万円などということも起きてしまうのだ。
 
こういったこだわりが、2つめの疑問の回答になるだろう。無名ブランドだったリシャール・ミルに目をつけ、その人気を引っ張ってきたのは、これまで数多くの高級時計を使ってきた“目の肥えた”時計愛好家だった。

彼らは、キラキラ光るダイヤモンドよりもミクロ単位まで精巧に作られた歯車やネジのほうが高価だということを知っている。金やプラチナを使うよりも、つけていることを忘れるくらい軽い素材を使うほうが高価だということを知っている。

「これみよがし」ではなく、「自分だけがわかる価値」を提案したことも成功の理由だろう。
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あなたのまわりにもビリオネアがいるかも!?

問題は、3つめの疑問「誰がそんな高額の時計を買っているのか?」。リシャール・ミルの人気上昇にともなって、メディアに登場する芸能人、有名人が手首につけているのを見かけるようになった。だが、本当のコレクターと呼べるような人は、目立つような場所にはいない。
 
私は昨年「どんな人がリシャール・ミルを買っているのか?」という興味から、そのオーナーたちを取材し、『僕たちは、なぜ腕時計に数千万円を注ぎ込むのか?』(幻冬舎)という本を執筆した。ここに登場するのは、リシャール・ミルを複数持つコレクターと呼べる人たちだ。なかには、毎月1本ペースでリシャール・ミルの時計を買っているというとてつもないオーナーもいた。
 
年齢は20歳代から60歳代まで。8名の内訳は、会社経営者6名、医師1名、会社員1名。経営者6名のうち、誰もが「ああ、あの企業か」と思うのは、2名だけ。他は、一般的にはほとんど知られていない会社ばかりだった。地方都市のごくふつうの一軒家のリビングに無造作に2〜3本が置かれていたこともあった。
 
「田舎で高級外車に乗っていると、近所でなにかと噂になるんです。しかし時計ならその心配はない。ましてやリシャール・ミルのような地味な時計なら、まさか数千万円するとは誰も思わない。自己満足の世界ですが、それがいいんです」
 
そんな話をしてくれるオーナーもいた。その取材を通して、日本には「誰も知らないビリオネア」がたくさん存在することを知った。
 
リシャール・ミルの新作発表会などのイベントに出かけても「それらしい」人には、あまり出会えない。ほとんどがデニムパンツにTシャツやボタンダウンシャツを着て、何気ないジャケットを羽織っているような“普通”の人たちだ。でも注意してみると、その手首に1億円オーバーのリシャール・ミルを着けていたりする。思いがけないところに、とんでもない人たちがいるものなのだ。
 
スマートウォッチひとつあれば、電話もメールチェックも地図検索も心拍数計測もできる時代だ。そんななかリシャール・ミルは、電池を使わずゼンマイと歯車で正確に時を刻む伝統的な機械式時計を、大量生産の工業製品ではなく、少量だがこだわりを詰め込んだ“芸術品”として扱う新しいマーケットを作り出した。
 
そして、この新しいマーケットに向けて、各ブランドが技術の粋を詰め込んだ超高級時計を続々発表しているのは、喜ばしい傾向だ。

ピカソの絵画やモーツァルトの音楽のような機械式時計。たとえ買うことができなくても、その世界に触れるだけでワクワクとした気持ちになれるはずだ。

●川上康介(ジャーナリスト)

1971年生まれ。早稲田大学卒業後、文藝春秋に入社。『週刊文春』『Title』などの編集部に所属。その後、『GQJAPAN』ディレクターを経て、2006年、フリーランスのライター、ジャーナリストとして独立。著書に『五感で学べ』『プロフェッショナル・コンセプター』など。
■お問い合わせ
ヴァシュロン・コンスタンタン 0120-63-1755
ブルガリ ジャパン  03-6362-0100
リシャールミルジャパン 03-5807-8162

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