2019.03.24
【プロが教える】“損をしない”高級時計の選び方・買い方
時計選びは本当に難しい。毎年、新作が発表されるし、過去の名作へと目を向ければそれこそ無尽蔵。しかもけして安い買い物ではないし、リセールバリューの高い、有名モデルを選ぶのも本末転倒。そんな悩みにプロが自身の体験とともに損をしない高級時計の選び方と買い方をお伝えします!
考えてみれば、時計選びは恋愛と同じです。意中の相手といかに出会い、見極め、どう成就し、さらには別れ際も美しくありたい。お金持ちならば金に糸目をつけず、気ままな恋愛を楽しむこともできるでしょうが、やはりそこは純粋な愛を貫きたいもの。そこで恋愛に重ね合わせ、時計選びの基本を考えてみたいと思います。
もちろん“損をしない”といっても、時計も恋愛も損得勘定でできるものではありません。ただ愛情を持って長く付き合い、周囲からも一目置かれ、一心同体のような存在になれば得したといえるでしょう。時計上手は恋愛上手。ただし、どんなに理想の時計を手に入れたとしても、お目当ての女性と付き合えるわけではありませんので、どうぞ悪しからず。
まずは一目惚れ〜感じる“何か”があるか
ところが2003年に日本に紹介されてからも、こんなにクセがあってしかも値段もケタ外れとくれば、時計通といわれる人ほど手を出さない。結局、購入した2009年でも認知度はまだ低かったのですが、むしろそれも気に入った点です。知らない人から見ればまるで新橋の地下で売ってそうなのに数百万円か!っと。
いわば周囲の反対を押し切ってのゴールインでしたが、現在のブランドの躍進ぶりはご存知の通り。ちなみに「RM-005」の買い取り価格は販売価格とさほど変わらず。これも一目惚れの成せるワザなのです。
リシャール・ミル「RM005」
食わず嫌いをなくすこと〜意外な稀少性をチェック
僕にとってのメガネっ娘はA.ランゲ&ゾーネでした。それまで素晴らしいブランドとは認めていましたが、どうにもドイツの生真面目さや堅苦しさが性に合わない。ところがそんな僕が宗旨替えしたのも、ある時計店オーナーのひと言でした。
「ランゲはガシ使いがカッコいい!」。
それにふさわしいのが「ランゲ1ルミナス」でした。これはダブルサークルのサブダイヤルに、針と一部インデックスに夜光塗料を施し、ストラップも白ステッチ入りというミリタリーテイスト。
当時ブランドのトップは「スポーツモデルは作らない」と豪語していましたから、継子扱いだったのでしょう。1994年に発表されるも短命に終わりました。そんなレア度もちょっと誇らしい。食わず嫌いは時計も恋も御法度です。
A.ランゲ&ゾーネ「ランゲ1 ルミナス」
不一致は別れの元〜サイズは合っているか
たとえ見た目がカッコ良くても、腕に載せてみると違和感を覚えることはざらにあります。安定感がなかったり、重かったり。つけ始めはよくても終日つけているとストレスに感じ、次第に手が遠のいてしまいます。まさに「今日は疲れているんだよ〜」の気分。
時計ではロイヤルオークがまさにそんな状態でした。稀少なジャンボをショップでキープしてもらい、試してみたのですが、これがガバガバ。泣く泣く断念し、代わって手に入れたのが36㎜径でした。
ユニセックスモデルでしたが、ラグの張り出しもピタリとフィットしますし、ムーブメントもジャガー・ルクルト謹製。控えめな印象は生来のラグジュアリーにもふさわしく、小振り時計のトレンドにも合います。それほどサイズは大切ということです。
オーデマピゲ 「ロイヤルオーク」
深い理解が必要です〜情報収集も念入りに
機械式時計には長い歴史があり、その連綿とした系譜にあることを理解しているかどうかで時計も違ったものに見えてくるし、本来の価値や稀少性も判断できる。だからこそ技術の基本やモデルの遍歴を知る必要もあるのです。
たとえばクルマを買う時なんてあれこれ念入りに調べますよね。むしろその時間が楽しいかったりもして。今年はカルティエのタンクが誕生100周年の節目の年。そこからあれこれサントスの歴史を調べた挙げ句、「タンク サントレ」のヴィンテージモデルを手に入れました。
サントレは後の「タンク アメリカン」の前身であり、2004年にいまはなきCPCP(コレクション・プリヴェ・カルティエ・パリ)ラインから復刻もされました。ご存知の通りタンクは誕生から現在に至るまで数多くの派生モデルがあり、資料を紐解くのも楽しい。知れば知るほど好きになり、愛着が増すのは時計も恋愛も変わりません。
カルティエ「タンク サントレ」
デートに勝るものなし〜実物を見て、着けてみる
またフェイクニュースではありませんが、ネットの情報は時には信憑性に欠くことも。そこでぜひ時計専門店に足を運ぶことをお薦めします。実物を見て試着できますし、店内には姿見のミラーも用意されているので、その時計をつけた全身のバランスも確認できます。
そして何といっても重要なのがショップスタッフの意見。それは商品知識だけでなく、リアルなウォッチトレンドや多くの客を見てきた専門家の冷静なアドバイスを受けることができます。時計専門店というと敷居が高いように思えますが、女性スタッフも多く、優しく迎えてくれます。くれぐれも時計ではなく、そちらが目的にならぬように。
● 柴田 充 / ライター
1962年東京都生まれ。腕時計、ファッション、クルマなどに精通し、男性ファッション誌などで活躍。バーゼルワールド取材歴は15年ほど。時計コレクションは充実するものの、増える本数には頭を抱える。