そこにはどういう戦略があったのか? 2012年からの5年間で、ウブロが変わったこと、そして変わらなかったことを検証しながら、ウブロの現在を見ていこう。
サッカー界への働きかけが、さらなる躍進のきっかきに
しかし良い時計を作るだけでなく、その素晴らしさを明確に伝えなければ意味がない。そこでウブロはマーケティングで、時計業界を圧倒する戦略に出た。彼らが目を付けたのは「サッカー」だった。サッカーは世界的スポーツだが、ファンの多くはかなり若い。しかしウブロの名を心に刻み付けることで将来のファンを育てることを目的としていた。
その戦略は現在も継続しているのだが、注目すべきはその“引き”の強さ。ウブロがサポートしているイタリア・セリエA「ユヴェントス」、ポルトガル・スーペルリーガ「ベンフィカ」、そしてイングランド・プレミアリーグ「チェルシー」の全てがリーグチャンピオンになっているのだ。しかもこれらのチームが参戦する「UEFA チャンピオンズリーグ」も、ウブロが公式計時を担当している。
ウブロ ビッグ・バン ウニコ レトログラード クロノグラフ チャンピオンズリーグ 278万円
ニッチであっても顧客満足度を高めるスポンサー活動は精力的
たとえニッチであろうとも、好奇心旺盛なウブロオーナーの興味が向く先であれば、積極的にスポンサー活動を行う。それがウブロの手法であり、その眼力は少しも劣ってはいない。
あのフェラーリとパートナーシップを実現
ウブロ/テクフレーム フェラーリ トゥールビヨン クロノグラフ カーボン 1449万円
ロゴの入った時計を作るのではなく、哲学でつながり合うのだ。2013年に誕生した「MP-05 ラ・フェラーリ」は、その典型と言えるだろう。名車ラ・フェラーリの名を冠したトゥールビヨンウォッチは、車のエンジン構造をヒントに生まれた。
哲学を知り、メカニズムを学ぶことで生まれた時計には、ビジネスを越えた尊敬の念が籠っている。さらにフェラーリ創業70周年となる2017年には、この節目を祝して初めてフェラーリ デザイン スタジオが時計のデザインを担当。「テクフレーム フェラーリ トゥールビヨン クロノグラフ カーボン」を見れば、ウブロとフェラーリの蜜月関係が分かるだろう。
開発部門へのたゆまぬ投資により、高度な技術力を実現
「5人の子供を持つ母親と同じで、愛情があれば乗り切れるものだよ。愛情や情熱というのは“奇跡の感情”であり、私を疲れさせないんだ」。ジャン-クロード・ビバーの情熱は、この5年間少しも衰えてはいない。ウブロの快進撃が止まらない理由は、ここにあったのだ。
● 篠田哲生 / 時計ジャーナリスト
1975年千葉県出身。講談社「ホット ドッグ・プレス」を経て独立。専門誌やビジネス誌、ファッション誌など、40を超える雑誌やWEBで時計記事を担当。時計学校を修了した実践派である。