2025.08.31
第33回
今さら聞けない「スポーツウォッチ」の定義とは? ダイバーズやクロノグラフも
その名の通り、アクティブなシーンにも対応するタフさを備えた「スポーツウォッチ」。活動的な大人の心強い相棒ですが、その定義や選びの目線はご存知ですか?
BY :
- 文/渋谷ヤスヒト
知っているようで知らない「スポーツウォッチ」の定義とは?

そして、このツールウォッチを継承・発展させて、厳しい環境(とくにスポーツシーン)で安心して付けられ、また、その際に必要な機能を搭載した腕時計を「スポーツウォッチ」と呼んでいます。
過酷な環境に耐えうるスポーツウォッチの性能
▲ 飛行機の操縦中の着用を目的として開発された、世界初の男性用腕時計「サントス」。そのDNAは「サントス デュモン ウォッチ」に受け継がれています。「サントス デュモン ウォッチ」(XL)手巻き、SSケース(46.6✕33.9mm)、アリゲーターストラップ。109万5600円/カルティエ(カルティエ カスタマー サービスセンター) © Cartier
▲ 風防を守る反転式ケースをもつ腕時計として生まれた「レベルソ」。こちらも現在ではドレスウォッチとして知られています。「レベルソ・トリビュート スモールセコンド」手巻き、18KPGケース(45.6x27.4mm)、カーサ・ファリアーノ製ストラップが2本付属。367万4000円/ジャガー・ルクルト
▲ 飛行機の操縦中の着用を目的として開発された、世界初の男性用腕時計「サントス」。そのDNAは「サントス デュモン ウォッチ」に受け継がれています。「サントス デュモン ウォッチ」(XL)手巻き、SSケース(46.6✕33.9mm)、アリゲーターストラップ。109万5600円/カルティエ(カルティエ カスタマー サービスセンター) © Cartier
▲ 風防を守る反転式ケースをもつ腕時計として生まれた「レベルソ」。こちらも現在ではドレスウォッチとして知られています。「レベルソ・トリビュート スモールセコンド」手巻き、18KPGケース(45.6x27.4mm)、カーサ・ファリアーノ製ストラップが2本付属。367万4000円/ジャガー・ルクルト
ただ、現在ではどちらも、「ドレスウォッチ」として位置づけられているのは興味深いことです。それだけ現代のスポーツウォッチが、当時とは別の意味での進化を遂げたことの証でもあるでしょう。
ところで、スポーツウォッチと普通の腕時計との一番の違いは何でしょうか。それは、過酷な環境に対応できる性能です。具体的には以下の4点が挙げられます。
(1)強い加速度(G)や衝撃が加わっても問題なく動作を続ける耐震衝撃性
(2)水しぶきがかかったり水中に落としたりしても、時計内部に水が侵入して壊れる心配のない防水性
(3)スポーツ中などでも、情報がひと目で読み取れる優れた視認性
(4)過酷な環境で長く使い続けても壊れない耐久性
スポーツウォッチが衝撃を逃す仕組み
そして、腕時計を構成する部品の中でいちばんデリケートで壊れやすいのがムーブメントです。昔の機械式ムーブメントには、実は耐衝撃性はほとんどありませんでした。そのため、落下などの衝撃が加わると、ムーブメントの心臓部である「脱進調速機」の中で、1秒間当たり4回も往復回転運動をしている「テンプ」の軸が折れてしまう、天真折れという致命的な故障が起きていました。
そこで、天真折れを防ぐために考案されたのが「インカブロック」や「キフ」に代表される耐震衝撃装置です。これはてんぷの軸の上下にある軸受のルビーをバネで浮かせることで、強い衝撃が加わっても、このバネが衝撃を逃がしてくれるという仕組みです。
ただ、ゴルフのクラブを振る時のように、一瞬でも強烈な遠心力が時計に加わる場合は、この耐震衝撃装置は吸収しきれません。そのため、ゴルフ用ウォッチでは、ムーブメント全体をショックアブソーバの役割をするゴムなどで囲むような、専用の耐衝撃装置が必要になります。
また、外装に軽くて強靭な素材を使うことも、耐衝撃性を確保するには欠かせないことのひとつです。軽いと何かにぶつかったときの衝撃も少なくなるからです。
そのため最近では、スポーツウォッチにとって定番のステンレススチール(SS)の代わりに、軽いチタンやファインセラミック、強化プラスチック、カーボンファイバー系の樹脂をケースに採用するモデルも増えています。
密閉性を高めて、スポーツ中や悪天候時の水に対応

腕時計の防水性能は、ケースの素材や加工技術、防水パッキンなどの進化で1980年代以降、さらに進化しました。今ではスポーツウォッチの防水性は100m防水以上が普通です。防水性能を高めるために、多くの時計では、防水面で一番の弱点となるリュウズに「ネジ込み式リュウズ」(ロッククラウンとも言う)を採用するようになりました。
ただ、こうした構造上の工夫だけでは、完全な防水性は実現できません。防水性の確保にはどうしても、合成ゴムやシリコンゴムなど、経年劣化が避けられない「防水パッキン」が必要になります。そのため、購入当初と同じ防水性をずっと確保するためには、定期的なオーバーホールと消耗部品である防水パッキンの交換が必要です。
暗くても時間がよくわかる視認性と、ぶつけてしまっても心強いタフさ

ケースやブレスレットに関しては、例えば、切削工具にも使われるタングステンカーバイドやファインセラミックを採用するなど、ステンレスにはない特性を持つ素材などを使う場合もあります。
近年では、表面処理技術を活用して、ステンレスやチタンなどの表面にDLC(ダイヤモンドライクカーボン)などの特殊なコーティングを施して耐久性を高めた時計も増えています。ストラップの素材に関しては、強化ナイロンやカーボンファイバーで強化したラバーなどが一般的になってきました。
さらに、文字盤を覆う風防ガラスは、硬度が低く傷が付きやすいミネラルガラスやアクリル樹脂(プレキシガラス)に代わって、表面に特殊な硬化処理をして傷が付きにくく割れにくい強化ガラス、さらにダイヤモンドに次ぐ硬さ(モース硬度9)を誇るサファイアクリスタル(人工的に作られたサファイアの単結晶)が一般的になっています。
「クロノグラフ」や「ダイバーズウォッチ」も

ただ、こうした高機能なスポーツウォッチは今、より多機能でこうしたデータの処理や記録がスマートフォンのアプリとの連携でできるスマートウォッチに取って代わられつつあります。
いま、スポーツウォッチを付ける理由は、単なるスポーツシーンでの道具・計器としてだけではないでしょう。スポーティかつアクティブな雰囲気を楽しむファッションアイテム、そして、その人のライフスタイルを彩り、センスと個性を表現するアクセサリーでもあります。
スポーツウォッチは道具としてだけではなく、今後も技術革新とデザインの進化により、新たな可能性を切り開いていくでしょう。
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タグ・ホイヤー 03-5635-7054