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2021.03.07

あえて“日本最後の秘境”小笠原でワーケーション、をオススメする理由とは?

品川ナンバーのクルマが走るれっきとした“東京都”でありながら、都心から行くのに片道24時間もかかる小笠原諸島。“日本最後の秘境”といわれるその島には、アフターコロナのワークスタイルのヒントがありました。

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文・写真/江藤詩文 取材協力/小笠原村観光局

リモートワークにも慣れ、働く場所にとらわれなくなったいま。アフターコロナを見据えて、地方に移住したり、多拠点生活を始める人も現れています。とはいえ、いきなり移住には踏み切れない。実際はそんな人たちが大半でしょうか。

そんななか注目されているスタイルがワーケーション。最近は半分仕事、半分バケーションという新しい旅のスタイルを、楽しんでいる方も多いようです。非日常的な空間への移動は、それだけで気分がリフレッシュするもの。「ワーケーション」ですから、ビーチフロントでリゾート気分を味わえればそれでよいのですが、もう一歩進んで新しいライフスタイルを見つけたい。そんな人におすすめの旅先が小笠原諸島です。
▲ 50m以上の透明度を誇る小笠原の青い海。
小笠原諸島が位置するのは、都心から南下することおよそ1000km 。一般人が暮らしているのは父島と母島のふたつで、父島が小笠原の玄関口です。飛行機は飛んでおらず、定期アクセスは小笠原海運が運航する定期船「おがさわら丸」のみ。所要時間は片道24時間。父島と母島の間は、伊豆諸島開発の「ははじま丸」が片道2時間で運航しています。つまり父島へは24時間、母島へは26時間以上かかるというわけです。

一般に、離島というと過疎化・高齢化が進んでいるイメージかもしれません。ましてや片道24時間以上かけて、何もない島へただのんびりしに行くのもな。そう思われるかもしれませんが、実は小笠原はちょっと違います。
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ただの秘境ではない小笠原。アクティブに活動する人々も

歴史的にアメリカ文化の影響を受け(※)、東京でありながら海外のテイストを味わえるうえ、外部からの若い移住者も多い小笠原。世界自然遺産に登録されていることから、自然を守りながらサステナブルなコミュニティを立ち上げたり、スモールビジネスを起業するなど、アクティブに活動している人も多いのです。
※小笠原は1945年から1968年までアメリカ軍によって管理されていました。
例えば、小笠原のお洒落ピープルの溜まり場になっているカフェ「曼荼羅COFFEE」。無人島で外来生物グリーンアノール(トカゲの一種)から小笠原の固有種を保護するなど、サステナブルな活動で出会ったという父島ネイティブの萩原みづきさんと夫の卓さんが営むカフェです。名物は卓さんが丁寧に焙煎したコーヒーとみづきさんが焼くヴィーガンタルト。まだ都心(小笠原では内地と呼びます)でもそれほど数多くはないヴィーガンスウィーツを、みづきさんは独学で学び、いまでは内地からのお取り寄せにも対応。通販のスモールビジネスを展開しています。
一度は生産が途絶えてしまった小笠原のコーヒー栽培に取り組み、サステナブルな小笠原産コーヒーを栽培から加工、焙煎、抽出、提供まで手掛けているのは「USK Coffee」オーナーの宮川雄介さん。彼のコーヒー豆、その名も「ボニンアイランドコーヒー」は評価が高く、新宿伊勢丹などでも扱われています(出荷状況による)。

また、宮川さんは小笠原カルチャーの発信者でもあり、彼が月に1度主催するファーマーズマーケットには、小笠原の農作物の生産者のほか、ヨーロッパ仕込みのハードパン(元・内地のロブションのパン職人が焼き上げます)、ガラス作家やクラフト作家のアートなども集まります。
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▲ ホームメイドの焼き菓子とコーヒーでリラックス。奥はフリーペーパー「ORB」。
小笠原ベースのメディアもおもしろい。小笠原のフリーペーパー「ORB(オーブ)」は、ありがちな店情報や割引クーポンがついたものではなく、エッジの効いた切り口で小笠原発のカルチャーを取り上げたカルチャーマガジン。発行・編集人のルディ・スフォルツァさん(イタリア人とのハーフ)は、国際的な視点から小笠原の日常を読み解き、世界に向けて英語と日本語でその文化や歴史を発信しています。
小笠原産の特産物の生産も始まっています。そもそも新しいモノ、見知らぬモノを拒むことなく受け入れ、イノベーティブな挑戦をするのは、独自のミックスカルチャーを生み出してきた小笠原の人たちの気質とか。

小笠原でマンゴーの栽培にも初めて成功した「挑戦する農家」こと折田一夫さんは、無謀といわれた難題にたったひとりで挑み、10年以上かけて母島で初のカカオの栽培に成功しました。その東京産カカオを100%使ってつくる「東京カカオ」は、ビーントゥーバーならぬ「ツリートゥーバー」チョコレートとして、いまや世界から注目されています。
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朝日と共に目覚め、夜は静寂と暗闇の中でぐっすりと眠る

いわば彼らは、コロナ禍のずっと前から僻地で起業したリモートワークの達人たち。場所に縛られずに働くとはどういうことか。それを体現しているモデルケースにたくさん出会えるのです。これは何とも刺激的な体験ではないでしょうか。

そんな小笠原の人たちのライフスタイルは、内地とは大きく違います。島暮らしは天候に左右されやすいこともあり、スケジュールを詰め込まず、約束はゆるめ。多くの人が仲間たちといくつかの事業を立ち上げたり、副業を持ったりしながら、朝や夕方には海辺を散歩したり、サーフィンを楽しんだり、自然と共生しています。
島に到着した当初、効率ばかりを重視して1日にアポをいくつも詰め込み、常に時間を気にして、ものごとが予定通りに進まないとイライラしてばかりいた筆者は、島の人たちに何度「流れに身を任せれば、最終的にはすべてうまくいく」と諭されたことか。朝日と共に目覚め、夜は静寂と暗闇の中でぐっすりと眠る。リモートワーク時代の働き方を、改めて考えさせられました。小笠原は遠くてなかなか足が向かないけれど、一度行くとハマってリピーターになる人が多いそうで、今ではそれもわかる気がしています。
そして小笠原暮らしで、新しいワークスタイルと共にもうひとつ得たものは、ひさしぶりにリスクにビクビクせず、のびのびと暮らす日々でした。筆者の滞在時、父島の感染者はゼロ、母島はそもそも累計感染者がゼロ。
小笠原も東京都のルールが適用され、とりわけ観光客が出入りする飲食店やショップでは、感染対策が万全に取られています。とはいえ、そもそも小笠原には、密になるほど人がいることがほとんどない。

そんなわけで筆者も、周囲に誰もいない森の中やビーチでは、マスクを外して深呼吸(小笠原でも原則はマスク着用)。この「自然の中で、見渡す限り誰もいない環境」が小笠原ならすぐ手に入るのです。こんなにリラックスできるのは、都内では小笠原だけかもしれません。
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宿はWi-Fi完備で仕事環境も万全

そんな小笠原諸島への旅の始まりは、「おがさわら丸」の船旅から。「おがさわら丸」が出航するのは、港区海岸の竹芝ふ頭。2021年2月現在の運航スケジュールでは、父島に3夜停泊するので、旅行にかかる日数は最短で5泊6日(うち船内2泊・これを「一航海」と呼ぶ)になります。新しいワークスタイルを体感するのに、島内3泊ではやや物足りない気もするので、この際、仮想移住を体験するつもりで「二航海(12泊13日または11泊12日)での旅はいかがでしょうか。
▲ 小笠原への唯一のアクセス「おがさわら丸」
出発前には、PCR検査の受検が強く推奨されています(小笠原諸島の医療は非常に脆弱なので絶対に受けていただくようお願いします!)。郵送で届いたキットで採取した検体を、出発前々日の午後または前日の午前に竹芝ふ頭へ持参するか郵送で返送します。
「おがさわら丸」の客室は、「2等和室」から「特等」まで6カテゴリありますが、おすすめは「特等」または「特一等」。上位カテゴリの「特等」と「特一等」には、バスタブつきのプライベートなユニットバスがついています。冷蔵庫もあるので、お気に入りのフードやドリンクを持ち込んで、24時間の船旅を楽しみましょう。「特等」と「特一等」のゲストは、ビールとおつまみのセットやお弁当を運んでくれるケータリングサービスも利用できます。
▲ 父島と母島を結ぶのは伊豆諸島開発の「ははじま丸」。2時間ほどで母島へ
ワーケーションの基地となる宿泊施設は、父島にも母島にも、残念ながら外資系5ツ星リゾートといったラグジュアリーなホテルなどはないため、こじんまりとした居心地のよいホテルや民宿、エコリゾートになります。筆者が利用した宿泊施設はどこもWi-Fi完備で、筆者は父島でZOOM会議やオンラインインタビューをしましたが、まったく問題ありませんでした。
母島には、公共交通期間がありません。その代わり、宿泊には送迎サービスが含まれているので、立地を気にせずに宿を選べます。父島は、利便性を重視するなら「おがさわら丸」が入港する二見港の近くにある中心街の宿。より静けさを求めるなら、離れたエリアの宿という選択肢があります。飲食店などは送迎サービスがあるところもありますし、慣れれば村営バスも楽しいもの。レンタカーもあるので、長期ステイならクルマを借り、いくつかの宿を泊まり歩くのもおすすめです。
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アフターコロナのワークスタイルに大きなヒントに

そして最後まで飽きさせないのが小笠原。帰路にもまだ名物があります。「おがさわら丸」の出港に合わせて伴走する「見送り船」から、島の人々が「いってらっしゃ~い」と口々に叫びつつ海へダイブするフェアウェルセレモニーは、若者からシニアまでデッキで号泣する人も続出する感動的なシーンですのでお見逃しなく。

小笠原を訪れること、それは都会とはまったく違う自然や人とのつながりの中に飛び込んで、それまでの仕事生活を一度リセットしてみる経験かと。そこで過ごす時間には、きっと、多くの発見があり、アフターコロナのワークスタイルにも大きなヒントを与えてくれるのではないでしょうか。あなたの仕事&生活観を変えるかもしれない小笠原でのワ―ケーション、この時期だからこそ一度検討してみてはいかがでしょう。

小笠原村観光局

●江藤詩文(えとう・しふみ)

世界を旅するライター。ガストロノミーツーリズムをテーマに、世界各地を取材して各種メディアで執筆。著名なシェフをはじめ、各国でのインタビュー多数。訪れた国は60カ国以上。著書に電子書籍「ほろ酔い鉄子の世界鉄道~乗っ旅、食べ旅~」(小学館)シリーズ3巻。Instagram(@travel_foodie_tokyo)でも旅情報を発信中。

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