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2017.06.23

去りゆく昭和ノスタルジーが100%体験できる東京の「すごい旅館」

大人の男なら最新のシティホテルに詳しいのは当然ですが、一方でこんな昭和ロマン溢れる旅館まで押さえておくという振り幅こそが、モテる男には必要なんですね。

CREDIT :

写真/安藤青太 取材・文/小槌裕子

【鳳明館(本郷)】【西郊(荻窪)】【澤の屋(谷中)】

最新ホテルのモダンで洗練された空間はもちろん快適ですが、ここではまったく視点を変えた東京の宿選びをご提案させていただきます。

今回ご紹介するのは、本郷、荻窪、谷中と、今も昭和の風情を残す人気の街で古くから営業を続ける3軒の和風旅館。

いずれも長い歴史を生き抜いて今に至るまで営業を続ける歴史の証人のような旅館です。その佇まいには独特の情緒があり、懐かしくも温かい温もりがそこには残っています。

ナビゲーターは東京に古くから残る個性的な和風旅館を紹介した書籍『東京の、すごい旅館』を手がけた、安藤青太さんです。

「東京にはこういう旅館もあるのだと知ることで、全然違う東京を経験できるのではないかと思います。やってそうで誰もやっていない、新しい東京の楽しみ方を提案できれば」とそのセレクトの趣旨を語ってくれました。

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往年の匠の技が堪能できるロマン溢れる古き良き日本旅館「鳳明館」

まず1軒目は「東京で一番昭和を感じられる旅館」と安藤さんが太鼓判を押す鳳明館。明治38年に建てられ平成12年に登録有形文化財に指定されている本館を筆頭に、昭和25年築の台町別館、同じく昭和30年築の森川別館と3つの棟からなっています。

本館は地下1階・地上2階の木造モルタル建築。もともとは下宿屋だったものを創業者が昭和9年に買い取り、本格的に旅館に転業したのは戦後から。

幾多の災害や社会の変動を乗り越えて、今でも創業当時の姿を残している客舎は、実に堂々たる貫禄を感じさせます。

「地方に行けばあるかもしれないけど、東京のど真ん中でこんな建物がこういう形で残っているのが面白いと思います」(安藤さん)

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銘木を配し、意匠を凝らした客室内は一見の価値アリ。一方で、タイル絵のお風呂は、魚が泳ぐ絵がちょっとキッチュで、ほのぼのとしたノスタルジーを感じさせます。

建築ファンを唸らせる往年の匠の技と、おばあちゃんの家に来たような安らぎの両方を味わえる明治期の建物。こんな宿に泊まれること自体、極めて貴重な体験だと言えるでしょう。

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この宿が時代の波に流されず、あるがままでいられたのも代々受け継がれてきた理念を守ってきたからこそ。

三代目のオーナーによれば「今いるお客さんを大事にするだけ。東京オリンピックに向けてとか、何にも考えていません」とのこと。その変わらぬ姿勢にこそ宿泊者は心の安らぎを感じるのです。

■鳳明館

■鳳明館

住所/東京都文京区本郷5-10-5
URL/www.homeikan.com/
予約・お問い合わせ/☎03-3811-1181

●料金/1万3000円~(1泊2名食事なし、税込) 客室/本館25室、台町別館31室、森川別館33室(すべて和室) 駐車場/なし
*写真はすべて本館。

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昭和初期の最先端アパートが旅館に。いまも昭和を体現する「西郊」

2軒目の「西郊」は昭和5年、荻窪に誕生した当時の最先端のアパートメント「西郊ロッヂング」(西の郊外にある下宿、の意味)からスタート。当時は政治家の書生や学生、軍人などモダンでハイソな人々が多く集まったといいます。

戦前までは日本初の西洋式高級下宿として、戦後は内部を洋から和に改修し、昭和23年に旅館に転業、昭和30年代までは地元に栄えた多くの企業の社交クラブとしても賑わいました。

昭和50年代後半までは学生宿として長期宿泊の受験生を受け入れるなど、時代とともに営業形態は変わりましたが、「西郊」自身はずっと変わらぬ姿のまま。

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「手作りのガラスは波打っていますよ。今ではもう替えが効かないので、『こちらのガラスは現代では再生不可。開閉禁止でお願い申し上げます』の貼り紙がしてありました」と安藤さん。

現在の製法とは違うため、大変希少なそのガラスを通して見る、歪んだ外の世界にもまた格別の味わいがあります。

ロビーの床は寄木細工で作られた手の込んだもので、部屋の船底天井も当時のこだわりを偲ばせます。ロビーにはマントルピース、蓄音機、果実ジュースの自販機が置かれ、トイレ・風呂はタイル貼り。「このまぜこぜ具合が昭和っぽいんです」と安藤さん。

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今では揃えることが難しい昭和の黒電話やドライヤーなどの備品が、そのまま現役で活躍しています。絵になる“昭和テイスト”が注目されて、テレビの撮影などにも使われているのだとか。

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根強い固定ファンも多く、海外から来日した大学教授が1ヶ月間泊まっていたり、一度宿泊すると気に入って長期で滞在する人もいるそうです。ちなみに、こちら、インターネット予約はしていないので、電話で予約するしかありません。そのひと手間すらちょっと楽しいと思える旅館です。

■旅館 西郊

■旅館 西郊

住所/東京都杉並区荻窪3-38-9
URL/なし
予約・お問い合わせ/☎03-3391-0606

●料金/1万2000円~(1泊2名食事なし、税込) 客室/和室12室、広間(大小2室) 駐車場/あり(1日1600円 要予約)

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「谷中」の存在を世界の旅行者に広めたパイオニア旅館「澤の屋」

さて、最後に、前の2軒と同じ“昭和”でも、ちょっと毛色の異なるこちらの宿をご紹介。神社・仏閣も数多く、活気のある商店街が残る東京の下町・谷中。数年前からは外国人旅行者の姿もよく見かけます。そのブームの礎を築いたのが、ここ「澤の屋」です。

世界的旅行ガイド『ロンリープラネット』に谷中の名前が載るようになったのは、実は1982年にこちらのオーナーがインターネットで外国に向けて発信し始めたのがきっかけ。外国人受け入れ宿の先駆者として、これまで約17万人の旅人を迎え、常時90%の稼動率を誇る、なかなか予約が取れない旅館なのです。

ここで体験する畳やお布団、襖に障子、大きなお風呂……日本人には“普通”の日本的生活様式でも、外国人のお客様には新鮮に映るようで、リピーターがとても多いのだそう。

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「何かがすごく特徴的というわけではないけれど、なんか落ち着く……、僕たち日本人はすごいことを求めすぎな気がして。この普通っぽさが懐かしいなぁ、いいなぁと思うんです」と安藤さん。

日本人が見ると“普通”だけれど、その普通もいいよねと素直に思える旅館なのです。宿周辺には観光客向けではない普通の寿司屋や食堂なども多く、宿を出ても“普通の街”が楽しめます。

旅館のご主人曰く「それが宿の強みです。普通の街で、庶民の日常や文化を観察して、土地の人と触れ合えること。それこそが旅の目玉になりえるのです」

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そして、常時稼動率90%を誇る今も、こちらの宿は経営の拡大路線を取らず、家族経営に徹しています。大手ホテルには出せない“いつ行っても同じ顔が迎えてくれる安心感”が、この旅館の大きな特長なのです。

「ホテルに泊まってチェックイン・アウトするだけというより、もっと他に何かを求めたい人達がこういうところに来るのかなと。人や街とコミュニケーションできるところが新鮮なんだと思います」と安藤さん。

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普通に東京で暮らしていれば誰しも生活は自然とパターン化してくるものです。ときにはそんな自分の日常から一歩踏み出して、東京にいまも残る「昭和」の薫りを味わってみるのも意外に新鮮で刺激的かもしれません。

今度の休日には、こんな旅館のある街を、彼女とブラリと散歩してみませんか。

■旅館 澤の屋

■旅館 澤の屋

住所/台東区谷中2-3-11
URL/www.sawanoya.com/
予約・お問い合わせ/☎03-3822-2251

●料金/1万152円~(1泊2名食事なし、トイレ・風呂無、税サ込) 客室/和室12室(一部トイレ・風呂付き) 駐車場/なし

●安藤青太

書籍制作、カメラマン。“自分の撮りたいテーマを自分で撮りつつ書籍にすることを目論む人間”とは本人の弁。『立ち食いそば図鑑 東京篇』『立ち食いそば図鑑 ディープ東京篇』『DK 男子高校生萌え』などを制作。カメラマンとしてはグラビア系から食べ物系まで何でも撮る。近作は 『相撲部屋の幸せな猫たち 』。

東京の、すごい旅館
発売:(株)アスペクト 1500円+税
著:岩下誠明 杉山茂徳 安藤青太

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