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2017.06.20

昭和の時代から愛され続ける名旅館でしっぽりお籠りステイを/前編

CREDIT :

文/福田 豊(旅館)

【落合楼村上(伊豆)】【法師温泉 長寿館(みなかみ)】【鶴鳴館 松坂屋本店(箱根)】

都心のラグジュアリーホテルを颯爽と使いこなしつつ、一方で古き良き日本の風情を楽しめる名旅館にも詳しいのが大人のオトコの振り幅というものです。そこで過去に「LEON」本誌で取材したなかから、そんなとっておきの日本旅館を2回に分けてご紹介します。

いずれも長い歴史をもち、昭和の時代を経て今も愛され続ける名旅館。そしてそれぞれに、歴史に裏打ちされた圧倒的なオーラを放つ本当の意味でラグジュアリーを堪能できる旅館です。

前編では都心からのドライブにも程よい3軒をピックアップ。名旅館の情緒を味わいつつ、彼女としっぽり名湯を愉しむ……なんてお籠りステイに是非ご検討いただければ幸いです。
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日本の本物を再確認できる有形文化財「落合楼村上」

伊豆の「落合楼村上」といえば、そうです、井上靖の『しろばんば』で洪作少年が先生を訪ね通った、あの「谷合楼」のこと。創業明治7年という長い歴史をもち、田山花袋や島崎藤村、川端康成、北原白秋などなどといった文人墨客が愛した、きわめつきの名門旅館です。

しかも、この宿には大きなポイントがあるのです。というのは、そんな名門にも紆余曲折はあり、いわゆる「レジャーブーム」の昭和30〜40年代にコンクリート造りの別館を建て増すなどの大拡張を実施、要するに「俗っぽく」なっていた。それを現オーナーの村上ご夫妻が買い取り、かつての姿に修復、15年前に新たに「落合楼村上」とした。

つまり「落合楼村上」とは、古き良き時代の「落合楼」そのものなのです。
ですので、これまた宿で「質の高いもの」といえば、これに勝る者なし。「王道を知る」というのでも最良。それを経験するのは最高に有意義であるはずだ、と、そういう選択であったのです。

昭和にトリップした錯覚を覚えるラウンジでゆっくりするのも一興。
▲ 昭和にトリップした錯覚を覚えるラウンジでゆっくりするのも一興。
さて。ということで訪れた落合楼村上は、はたして、そんな期待を遥かに超えた素晴らしい経験をさせてくれるものでした。なにしろ、宿の各所に国の有形文化財が7か所! もちろん、それ以外も、すべてが明治、大正、昭和初期を偲ばせる純日本風の佇まい。

例えば、廊下や階段、広間、部屋のすべてが良質な木材を使用した優美で落ち着きのある雰囲気。窓や障子には組子があしらわれ優しい木漏れ日が差している。戸外には豊かな緑が実り、苔むした古木が悠久の時の流れを思わせる。

敷地のかたわらにはこの宿の名前の由来にもなった本谷川と猫越川が“落ち合い”流れ、心地よくも豪快な水音を立てている。すなわちここに「いる」ということだけで、古き良き日本の情緒を心ゆくまで愉しめてしまうのですよ。
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広々とした露天風呂に、お肌をしっとりとさせる保湿の湯で彼女も大満足。
▲ 広々とした露天風呂に、お肌をしっとりとさせる保湿の湯で彼女も大満足。
そして、食事がまた素晴らしく美味。豊かな地元の滋味を主とした旬の食材で作られた会席料理で、わけてもジビエが絶品。

そしてそして、当然ですが、温泉も最高。各部屋の風呂の他に、源泉掛け流しの大浴場には洞窟風呂や露天風呂、レトロなモザイクタイルの内湯や半露天風呂、さらには伊豆で一二を争う程の大きさを誇る貸切大露天風呂なんていうのもあり、これはちょっとウフフな感じ。

で、浴衣に着替えて、ふっくらとした布団で就寝。耳を澄ませば、遠くの川の流れの音が心地よく聞こえてくる。ああ、日本人に生まれて良かったなぁ、としみじみ思ってしまうのですよ。

ということで、結論を言うと、落合楼村上は、やはり最高の質を持った日本の宿の王道でした。ですので、ぜひ、ご宿泊を。というか、日本人ならば経験しないとダメでしょう、ここは。

◆ 落合楼村上

住所/静岡県伊豆市湯ヶ島1887-1
HP/www.ochiairo.co.jp
予約・お問い合わせ/☎0558-85-0014

●料金/3万240円〜(1泊2食ひとり、入湯税別途)。名だたる文豪や芸術家、粋人たちが訪れ、数々の物語が生まれている、まさしく名門。約4000坪の敷地に15室という親密さも、古き良き日本の宿の味わいを堪能できる。

※2017年6月現在の情報です。最新の情報は、宿のHPをご覧ください。

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老舗の奥深さが金額以上の価値「法師温泉 長寿館」

群馬県みなかみ町にある「法師温泉 長寿館」。そうです、旅好きや温泉好きには高名な老舗の温泉旅館ですね。長寿館の歴史はとにかく古く、弘法大師が温泉を発見したのが起源とされています。

この「法師之湯」の建物も明治28年の築。本館はさらに下った明治初期の築。新しい別館でも昭和15年の築。そしてそれらは国の登録有形文化財。つまり方々が古の姿のままの、情緒たっぷりの宿なのですね。

しかし古の姿のままの長寿館は、経営方針も古のそのまんまというのでしょうか、そのような貴重な建物の宿であるのに宿泊料金がとてもリーズナブル。そのため家族連れも多数。ですから、お泊まりドライブデートに向いていない、と思うかもしれません。でも、そうじゃないのですね。
四季を通じて涼しく、宿の脇を流れる法師川の水音が耳元に優しく響いてくる。
▲ 四季を通じて涼しく、宿の脇を流れる法師川の水音が耳元に優しく響いてくる。
みなかみ町は東京からほんのひと走りの距離で、しかし国道から細い道を入った山間の敷地は周囲にほかの建物がなく、まるで遠く人里を離れたような静けさ。ワンランク上の部屋は落ち着いた雰囲気で、ふたりでゆったりと寛げる。

夕食も地の食材を中心にした懐石仕立てで、上州赤城牛や榛名豚や風来鳥などは都会ではちょっと味わえない滋味。水も良いのでご飯も美味しく、お酒も美味い。
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建築されてから1世紀以上経つ鹿鳴館様式の浴槽は、貫禄が違う。
▲ 建築されてから1世紀以上経つ鹿鳴館様式の浴槽は、貫禄が違う。
そして、長寿館の最大の魅力は、やはり法師之湯。底から温泉が湧き出てくるのが快く、こういう自然湧き出しの温泉はとても稀少。鹿鳴館風とでもいうべきレトロモダンな和洋折衷の造りで、ゆっくり湯に浸かっていると心から和めます。また混浴のため彼女と一緒に楽しむこともできるのですね。

で、その混浴ということで、取材時に改めて学べたことがあるのですが、1組の若いカップルがいて、その男子が、彼女が出る時に、後ろを向くように、と言ってきた。そうして彼女を守るのが男の役割と思ったのでしょうね。他人もいるのが混浴温泉の当たり前のことですよね。それが嫌なら貸切温泉のある高級宿なりに泊まればいいわけで。

それにもし彼女が注目を集めてしまうなら、それは彼女が魅力的である証左。ならばその美貌を見せつけて羨ましがらせてやればいい。それぐらい堂々とできないのであれば日本の由緒正しい温泉に泊まる資格はない。そういうことを大人になって改めて気付き学ばせてもらえた。またひとつ見る目が培われたのですね。

つまり、そんな長寿館はまさしく日本の温泉の最高の定規になる。モテるオヤジさんは、ぜひ飛び切り美人の彼女と堂々と法師之湯をお楽しみください。それが大人の正しい温泉での所作です。なお、彼女を見せるのはもったいないと思ったら、法師之湯は女性だけの時間もあるし、男女別の温泉もあるので、ご安心を。

◆ 法師温泉 長寿館

住所/群馬県利根郡みなかみ町永井650
HP/www.hoshi-onsen.com
予約・お問い合わせ/☎0278-66-0005

●料金/1万6200円〜(1泊2食ひとり、入湯税別途)。与謝野晶子が逗留した本館20番は、大人気の部屋のひとつ。湯船の底から湧き出る法師の湯はゆっくりと楽しめる温めの名湯で、「日本秘湯を守る会」の会員でもある。

※2017年6月現在の情報です。最新の情報は、宿のHPをご覧ください。

※この企画は、「落合楼村上」2010年8月号
「法師温泉 長寿館」2013年6月号
「鶴鳴館 松坂屋本店」2009年6月号
の記事を再編集したものです。
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守るべきは湯、時代で進化する「鶴鳴館 松坂屋本店」

スタイリッシュな宿から、海を一望できる宿。あるいは全室離れのお忍び用といった具合に、手練なオジさまゆえ、一口にデートといっても、さまざまな選択肢をお持ちのはず。けれど、純粋に疲れた身体を癒してくれる良質な湯をもった宿というのも本質を知るオヤジの選択肢として時に必要では。

355年前から愛されている老舗温泉宿「鶴鳴館 松坂屋本店」は、寛文2年(1662年)から続く伝統に固執せず、自家源泉から湧き出る温泉をより快適に味わってもらうべく、2008年、大規模な改装に着手。といっても過剰な装飾はせず、純粋に温泉の良さを感じてもらうべく、あくまで控えめにモダナイズ。
居心地の良さとセンスを感じさせる空間で、昭和のロマンを語るのもオツです。
▲ 居心地の良さとセンスを感じさせる空間で、昭和のロマンを語るのもオツです。
暖色のライティングや黒を基調とした柱、2間続きにした広々とした客室など、これ、すなわちオヤジの温泉デートに相応しいラグジュアリーな空間を持ち合わせている宿。特に上下2部屋を組み合わせたメゾネット型の部屋は、居間とベッドルームをセパレートにし、広々とした専用の露店風呂と足湯を完備。

つまり誰にも邪魔をされずに、松坂屋本店の源泉を楽しむことができる、まさにデートに最適な温泉宿なわけです。これも“侘び”精神の表れといえるのでは、と。
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湯量豊富な源泉そのままに、加水、加温、循環など一切しない“源泉主義”を貫いている。
▲ 湯量豊富な源泉そのままに、加水、加温、循環など一切しない“源泉主義”を貫いている。
温泉は箱根でも珍しい、単独の自家源泉から引いた掛け流し。毎分220リットル湧出される湯は、含硫黄-カルシウム・ナトリウム・マグネシウム-硫酸塩・炭酸水素泉で、多くの成分を含有。その肌触りは、きめ細かく柔らかな湯が肌にしっとりとなじんでいき、カラダを芯から温めてくれる。

この高い品質を保つべく、加水や加湿、循環などは一切行わず、蛇口の開閉具合などで温度調整を行うといった細かい気配りで湯の状態をキープ。代々続く湯へのこだわりによって、皇室をはじめとしたさまざまな要人をも虜にしてきたというわけです。

温泉通の間でも高い評価を得ているその実力こそが355年続く老舗ならではの妙といえるのですね。で、そんな松坂屋本店、リニューアルを経て様相はモダンに変わりつつも温泉へのこだわりは355年前と同じ。

つまり温泉とは病を治す治療薬として人々に拝められてきたものだけに、松坂屋本店へ訪れるということ、それは“温泉”というものの本質を知ることにも通じるのではないかと思うわけで。

◆ 鶴鳴館 松坂屋本店

住所/神奈川県足柄下郡箱根町芦之湯57
予約・お問い合わせ/0460-83-6511
HP/http://matsuzakaya1662.jp

●料金/2万円〜(1泊2食ひとり、入湯税別途)。部屋室は22室。うち内風呂付きは8室で露天風呂付きは6室となる。食事処「えん」、bar箱根山、パブリックスペースの「囲炉裏の間」が併設されている。大浴場、貸切風呂もあり。

※2017年6月現在の情報です。最新の情報は、宿のHPをご覧ください。

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