2025.05.09

1泊でも人生観が変わる!? 深イイ尾道への旅

瀬戸内海に面した港町、広島県尾道への1泊2日の旅。多くの若い移住者たちが暮らすことで、旅行者にとっても心地よい時間が流れる町でした。

BY :

文・編集/秋山 都(編集者・ライター)
CREDIT :

撮影/吉澤健太

旅行者も移住者も心地よく過ごせる町、尾道

「今度、尾道に行くんだ」と話したら、「へぇ、『転校生』なつかしいよね」と返してくる人はだいたい45アッパーの中年世代。映画監督の大林宣彦氏が手がけた映画『転校生』(1982)、『時をかける少女』(1983)、『さびしんぼう』(1985)は自身の出身地である尾道を舞台とし、“尾道三部作”と称されたヒット作品です。尾道水道と呼ばれる瀬戸内海に面した小さ港町は、海から急に切り立つ山へ向かう傾斜地に家々が立ち、坂が多いのが特徴。制服のスカートの裾を跳ね上げるようにして坂を上っていく原田知世、かわいかったなあ……とつい郷愁に浸りたくなるのが、多くの人にとっての尾道のイメージかと。
瀬戸内海の彼方から日が昇る尾道の朝。手前が尾道水道。
▲ 瀬戸内海の彼方から日が昇る尾道の朝。手前が尾道水道。
PAGE 2
ところが、今回出かけた尾道は、ひと味もふた味も違いました。もちろん大林監督の切り取った美しい尾道も健在です。対岸の向島(むかいしま)へ渡船が行き交う尾道水道や、家々の間を縫うように山へ向かう坂道……私たちの思い描く尾道もそのままにありましたが、その町に暮らす人々は若い移住者も多く、みな穏やかで、楽しそう。古い町並みと、新しい感性が同じところにあり、ともにリスペクトしている様子が、旅行者にとっても心地よく感じられました。

「尾道倶楽部」

というわけで、今回は尾道のなかでも古い町並みと新しい感性が共存しているスポットを中心にご紹介したいと思います。まずは今年3月に開業したばかりのホテル「尾道倶楽部」へ。こちらは尾道のランドマークである千光寺山の中腹に位置し、60年余り地元で親しまれてきた旅館「千光寺山荘」をリニューアルしたお宿。尾道水道と対岸の向島を見晴らす絶好のロケーションが楽しめます。
PAGE 3
建物の躯体はそのままに、館内はスタイリッシュに、かつ快適にリノベーションされています。超ラグジュアリーというわけではありませんが、過不足のない居心地の良さに、プロデュースとリブランディングを手掛けたのは小山薫堂さん率いるオレンジ・アンド・パートナーズだと聞き、納得。全24室のゲストルームは大人カップル、こども連れのファミリー、またサイクリスト用などバリエーションに富んでいるので、いろんなオケージョンに対応してくれるでしょう。
PAGE 4
もしここにステイしていなくても、ぜひ訪れていただきたいのが、ルーフトップにあるバー。尾道水道から向島、そしてはるか四国を見渡す眺望はまさに絶景。新しい尾道のシンボルになるでしょう。
尾道倶楽部

尾道倶楽部

住所/広島県尾道市西土堂町15-20
予約・問い合わせ/0848-29-9206(7:00~23:30)
アクセス/尾道駅、新尾道駅からクルマで約10分
https://onomichi-club.jp/

「ONOMICHI DENIM SHOP」

尾道の街道沿いにあるお店はどれも間口は狭いけれど、奥に長いのが特徴のよう。配管がむき出しになったインダストリアルなテイストにふと入ってみたデニムショップは、世界的に知られているあのONOMICHI DENIMのショップでした。
PAGE 5
ここで販売されているのは、日本有数のデニム産地である備後(広島県福山市)産のデニム。新品を尾道で働く人たちが1年間ワークパンツとして履き、唯一無二のヴィンテージデニムに仕上げるという画期的なプロジェクトです。タグには価格とともに、漁師や大工、住職、保育士など“育てた人”の職業とサイズが記されていますが、そのどれにも加工では作り出せない色落ちやシワなどの個性が宿され、表情豊か。2013年にスタートしたこのプロジェクトには、いままでのべ約900人の尾道の人々が参加しています。彼らのそれぞれの日々が刻まれたユーズドデニムにはこの店頭でしか出会えません。

広島県尾道市久保1-2−23

PAGE 6

「尾道造酢」

尾道には多くの老舗がありますが、なかでも歴史があるのがコチラ。なんといっても創業が天正10年(1582)という、本能寺の変が起こった時代に遡るんですから。当時、朝鮮半島から来て大阪・堺で酢の職人をしていた工人を招いたことに端を発している「尾道造酢」。尾道は当時から酢の産地として有名で、北前船で北海道まで酢を運んでいたのだとか。瀬戸内の温暖な気候と良質な水、そして先人たちの知恵と技が活かされた昔ながらの酢づくりがいまも続けられています。
特筆すべきは、蔵で400年も生き続けている酢酸菌。「尾道造酢」では、空気に触れている面で活発になるという酢酸菌を独自のトイ型の容器に流すことで活発にし、まろやかな酢をつくっているのだそうです。かつては船で東へ、北へと運んでいたであろう酢を私も1本購入。新幹線で持ち帰ることにしました。

尾道造酢

広島県尾道市久保1-5−2

PAGE 7

「古本屋 弐拾dB」

旅先で個性的な書店に出会えることを楽しみにしていますが、尾道行きが決まって、まず“行きたいリスト”に入れた場所が「古本屋 弐拾dB(ニジュウデシベル)」。平日は23時から深夜3時(土日は11時~19時)営業という、ユニークな古本屋です。
店主の藤井基二さんは福山市出身で京都の大学を卒業後、尾道へ。「家賃が安かったから」という理由で戦後すぐに建てられた泌尿器科の医院を借り、23才で古本屋を開業しました。受付を帳場に、診療スペースに本を陳列している空間はなんとも居心地がよくてつい長居してしまいそう。本のラインナップも稀覯本から美術、哲学、文芸、コミックからちょいエロやグロまでバランスよくて魅力的でした。家のそばにこんな古本屋があったらよいのにな。

古本屋 弐拾dB

広島県尾道市久保2-3−3

PAGE 8

尾道の愉快な人々

今回の尾道への旅は1泊2日でしたが、たくさんの人との出会いがありました。そのほとんどが他府県からの移住者でしたが、しっかり自分の生きる道筋を作っていながらも、肩の力が抜けていて、すてきな人たちばかり。尾道の温暖な気候と、人々の穏やかな気質がそうさせるのでしょうか。つい前のめりになりがちな東京での生活を省みるきっかけともなりました。
秋山 都(編集者・ライター)
東京生まれ。 富裕層向けライフスタイル誌「セブンシーズ」、「Harper’s BAZAAR日本版」、「東京カレンダー」誌で編集長を歴任。 アマゾン・ジャパンでファッション・エディトリアル・ディレクターを務めたのちに独立。「WebLEON」では食いしん坊担当として、食・酒・旅など人生の快楽的側面を追求しております。好物はハイボールとタルタルステーキ。趣味はハシゴ酒。

「どこかへ旅したい!」ならコチラもいかが。

PAGE 9

登録無料! 買えるLEONの最新ニュースとイベント情報がメールで届く! 公式メルマガ

登録無料! 買えるLEONの最新ニュースとイベント情報がメールで届く! 公式メルマガ

この記事が気に入ったら「いいね!」しよう

Web LEONの最新ニュースをお届けします。

SPECIAL

    おすすめの記事

      SERIES:連載

      READ MORE

      買えるLEON

        1泊でも人生観が変わる!? 深イイ尾道への旅 | 旅行 | LEON レオン オフィシャルWebサイト