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2021.10.26

三上大進「7本の指が私に教えてくれたこと」

コロナ禍によって人と人とのリアルな繋がりが大きく毀損され、コミュニケーションは大きな危機を迎えています。でも、こんな時だからこそ、我々オトナはいい笑顔を忘れてはならない。そんな思いを込めて皆で笑顔について考える特集。今回は東京2020パラリンピックでレポーターを務めた三上大進さんの登場です。

CREDIT :

文/秋山 都 写真/吉澤健太

▲ 東京2020パラリンピックでNHKのレポーターを務めた三上大進さん。
2020東京パラリンピックの中継を見ていて、レポーターのなかに気になる人を見つけた。サラサラのヘアに透き通るような美肌。そして、ちょっと、いや、かなりフェミニンな弾丸トーク。ときおり見せる笑顔がかわいい。丁寧に取材したのであろう選手ひとりひとりのエピソードを紹介するくだりでは、競技への深い理解ものぞかせて、元パラアスリートなのかな? と思った。

イヤだなと思ったのは、彼が障がい者なのか、見極めようとする自分がいたこと。身体のどこかにハンディキャップがあることを知ったからといって、彼の評価が変わるわけではないはずなのに。彼に障がいがあるのか、ないのか——そんなことと関係なく、私の眼は彼に惹きつけられていたのに。
▲ NHKのレポーターとして出演後、三上さんに届いたたくさんのファンレター。
彼を何度かテレビ画面で見つめ、そのうちに私は彼の左手が右手より短いことを、そしてその指が人より少ないことを知った。そして彼のTwitterプロフィールが「彼氏が欲しいギャル見習いのオカマ/セーラームーンになるのが将来の夢」であることも。なんなんだ、この人。要素が多すぎて混乱したけど、とにかく会ってみたい。パラリンピックも終わった現在、NHKでの任期をまっとうした三上大進さんに会うことができた。

正直、彼のインタビューをうまくまとめられる自信がない。というのは、話を聞いた私にとくに大きなハンディキャップがなく、またLGBTの当事者でもないからだ。彼のことを真に理解しているとは言えないだろう。でも、彼の言葉と笑顔に、きっと励まされる人がいるはずだ。そう信じて、彼の言葉を綴ってみたい。
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「左手の指はいつか生えてくると思っていました」

「私が人と違うと気づいたのは幼稚園のころ。でもいつかみんなと同じになる、指もきっと生えてくると思っていました。いま思えば、そのころから、ほかの人との違いについて考えることの多いこどもだったかもしれません。

セーラームーンになりたいと思ったはそのころから。なんでって? 彼女は愛の戦士だから(笑)。あと、セーラームーンはムーンスティックっていうのを持っているんですけど、その先端に三日月がついていて。そのカタチが私の左手に似ていたんです。自分を重ねていたのかしら」
「同じころから、"男子"とカテゴリー分けされるのが苦手でした。でも、みんなと違いすぎてしまうのが怖くて。当時は『おかま』って呼ばれるのもイヤだったし、小学生のころは隠していました。親に対しても、私の左手のことで心配をかけているのに、これ以上負担をかけたくないという気持ちもあったしね。

(左手のせいで)できないこともありました。そんな自分がすごく嫌でした。たとえば体育の授業で、なわとびをうまく持てずに大苦戦。でもできないって言いたくなくて(笑)。すると先生がリストバンドとマジックテープで補助器具を作ってくれたんです。ひとりでは難しいことでも、誰かと一緒なら可能になると気づけたのは、自分に障がいがあったからかもしれません。いまもね、ネックレスが着けられないの。でも、その代わりに大ぶりなリングでおしゃれを楽しんでいます」
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「私に残されているものを最大限に美しく活用したい」

「大学時代に、フィンランドへ留学していました。フィンランドって寒いでしょう。最初は長袖を着ているから、誰も私の左手に気づかない。そのうち、夏が来て、半袖になっても、誰も私の左手を気にしないんです。人は誰しも違っていて当たり前。違っているからといって、その違いによって評価が下がらないということがとても心地よかった。

でも日本へ帰ってきたら、やはりその違いを突き付けられることが多い。心ない言葉を投げつけられたり、水をかけられたり。フィンランドでは浮かびもしなかった『障がい』という言葉を、いやでも意識させられてしまう、それが日本なんです。悲しいけれど」
▲ 三上さんのお気に入り美容アイテム。スキンケア歴は長く、中学生のころから「肌水」を持って登校していた。
「私は自分で選んで指7本に生まれてきたわけではないでしょう。それなら、今持っているものを精一杯大切にしようとハマったのが美容です。中学からスキンケアには時間をかけていたし、大学3年のころには美容業界に入るんだと心に決めていました。

新卒で入社したのは『日本ロレアル』。スキンケアの製品マーケティングを担当していました。そこから『ロクシタン』へ。マーケターって花形と言われるけど。本当に泥くさい仕事で。バリキャリだったの、私(笑)
▲ NHKへ入局するため、ロクシタンを退社。同僚たちが贈ってくれたギフトには「彼氏ができるといいね」とある。
「パラリンピックには、外国人選手の言語サポートがしたくて、軽いお手伝いのつもりだったんです。でもレポーターとして採用されて。同僚たちからは『辞めないで』と引き留められたんですが、当時の上司が『2020というプロダクトは一生に一度しかない。マーケターならチャレンジすべきだ」と言ってくれて。思い切ってNHKへ飛び込みました。

私、最初は『障がい者リポーター』っていう肩書だったんです。ちょっと……でしょう? 自分の存在が健常者と障がい者の区別を強調している気がしてすごく嫌で。変えて欲しいと頼み込んだことで、『パラリンピック放送リポーター』と改められました。自分では『プリティレポーター』と呼んでいたんですけれど(笑)。

NHKは巨大な組織ですから、まだ保守的なところが残っています。たとえば、私が着任した日、洋服をしまうロッカーが『男性用』と『女性用』に分かれていました。じゃあ私、どこにコートをかければいいの? って。誰でも使えるスペースを作ればいいんじゃないですか? と提案して、翌日には改善されていました。そういうところはすごいですね、NHK(笑)」
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「障がいは乗り超えるものではなく、向き合うもの」

「NHKには3年7か月在籍していました。パラリンピックの取材を通して本当に学ぶことの多い、貴重な日々でした。よく、パラアスリートを評して『障がいを乗り越えて~』などと言われることが多いんですが、私に言わせれば、障がいは乗り越えるものではなく、向き合うもの。彼らはみな、自分の身体と向き合って、その機能や強みを最大限に磨き、競技に臨んでいます。その闘志こそが美しい。パラスポーツの魅力だと感じました」
「そもそも、障がいって何だと思いますか? たとえば車いすの人が階段を登れないなら、車いすの人が障がいなのではなく、その階段が障がいなんです。つまり、障がいとは、本人が作るものではなくて、環境や社会が生み出してしまうもの。私も、あなたも、誰かの障がいになっているかも。だから、誰かの『できない』を否定しないで、『できる』ことを互いに探していければいいんじゃないかなって思うの」

「いつも振り返って考えてみることを大切にしています」

「最近はLGBTQという言葉も広く知られていますよね。でも、それが単なるホットなトレンドワードになってしまっているんじゃないかな、と危惧しています。ダイバーシティや、ソーシャル・インクルージョン……そんな言葉を本当に理解できているのかな? と。そんな時、昨日の私はどうだった? といつも過去を振り返って考えてみるんです。

すると、たとえば20年前はそんな言葉もまだ存在していなかった。でも、ずっと昔からマイノリティの人たちは存在していたんです。となると、現在の私達は意識していないことを、10年後の私達は課題としているかもしれない。つまり、今も未来への過渡期に過ぎないということ。昨日知らなかったっことを、今日気づいたように、今もまだ私たちが気づけていなことがたくさんあるんじゃないでしょうか」
▲ 皮膚科医監修のもと、三上さんが自らプロデュースしたスキンケアブランド「dr365」は11月12日発売予定。
「先日31歳になりました。振り返ってみれば、私の20代は『パーフェクトでありたい』というプレッシャーのもとでがむしゃらに頑張ってきた日々であったように思います。30代は完璧にできない自分も好きになり、もっと笑顔でいたいと思います。え、31歳の目標? そうね、パラリンピックも終わったし、今後は恋のレポートがしたいです。終わりなき旅かしら(笑)」

三上大進(Daishin MIKAMI)

1990年東京生まれ。
立教大学卒業後、「日本ロレアル」「ロクシタン」勤務を経て、2018年NHKのレポーターに就任。
インスタグラムdaaai_chan
Twitter@daishin_mikami

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