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2021.09.04

センスの塊! 役者・古田新太がダサいと思うのは?

舞台、映画、テレビ、ラジオなど、出演するすべてのシーンで鮮烈な個性と存在感を放つ古田新太さん。7年ぶりの主演映画となった『空白』(9月23日公開予定)で、“観る者の心臓をあわだてる悪夢のような父”を演じた古田さんに、役者として、父親としての思いを伺いました。

CREDIT :

文/木村千鶴 写真/椙本裕子 スタイリスト/渡邉圭祐 ヘアメイク/田中菜月

ある時は女装家の高校教師、ある時はアル中のホームレス、そして芸能事務所のやり手社長、と何を演じても“ならでは”の強烈なリアリティを感じさせる名バイプレーヤーの古田新太さん。その古田さんが7年ぶりに主演を務めた映画『空白』(9月23日公開予定)では、“観る者の心臓をあわだてる悪夢のような父”を演じています。舞台、映画、テレビ、ラジオなど、出演するすべてのシーンで鮮烈な個性と存在感を放つ古田さんですが、そのエネルギーはどこからくるのでしょうか。役者として、父親としての思いを伺いました。
古田新太
━━ 7年ぶりの映画主演、おめでとうございます。『空白』、とても面白かったです。

古田 ありがとうございます(ニコニコの笑顔)。

━━ 今回は不慮の事故で中学生のひとり娘を失った父親が、死の原因となったスーパーの店長(松坂桃李)を追い詰めていくというお話です。宣伝コピーだけを見ると“偏屈で横暴なモンスター”といったイメージでしたが、物語が進むにつれて、それだけではないいろんな面が描かれていきます。役づくりについては、かなり監督と話し合われたんでしょうか。

古田 これが全然ないんですよ。吉田監督からも何にも言われてないし、オイラも「こうしてみようと思うんですよね」とかの会話もなく。で、クランクインの時に「オイラで大丈夫ですかね?」って言ったら、すっごく軽いノリで「大丈夫だと思いますよ! 古田さん、クランクインです~」って言われて始まっちゃって(笑)」

━━ 打ち合わせもないまま、いきなり始まるんですか!?

古田 はい(笑)。でも、監督が良ければ、それでいいのかなと。映画は監督のものなんですよ。だから俳優は、その場その場で言われたことを全力でやるってだけでいい。そもそも台本があるわけだから“この人は多分こういうつもりでいるんだろうな”って想像はしますよ。それで監督に言われたことに対して、全力で思ったことを表現するけど、自分から「こんな表現がしたいです」とかは、まず言わないです。

━━ でも、自分の中で解釈をして、それをどう出すかは、ご自身の中での闘いですよね。

古田 だけど、それも“こんな表現をしよう”じゃなくて、この役の人は、こういうことを思っているんだろうな、ってくらいでないと。だってお芝居しているように見えたら逆に恥ずかしいじゃないですか。
古田新太
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━━ なるほど。でも古田さんを観客として見る時、私たちはその演技にすごくリアリティを感じます。役そのものに見える。どんなプロセスを経て役に至ってるのかなと。

古田 何もしない(笑)。当然この役はどういう気持ちで喋っているのかくらいは想像しますけど、なんにもしない方が面白いなって思ってます。だってゲイであったり、女装家であったりとか、そういう役が来ますけど、そんなもんテメエの中には微塵もないですからね(笑)。だったら、そんな風な人に見えればいいなって思ってセリフを喋るだけ。この役はこういうヤツだからなんて相手のことを考えずに自分だけ掘り下げたつもりになっているのは、ダサい感じがする。

━━ おぉ。では、役になり切るとかじゃないんですね。

古田 よく、「前の役がまだ抜けてないんです」とか言う人いるじゃないですか。じゃあ多重人格者の役が来たらどうするんだよって(笑)。これは舞台あるあるなんですけど、一幕はムカデで二幕はウシ、みたいなことって本当にあるんです。ムカデが抜けないって大変なことです!

━━ ワハハハ

古田 『空白』でもそうですけど、オイラは当然漁師でもないし、離婚もしていないし、娘も死んでない。どんな役作りするのって、全部頭の中で想像するしかないわけです。よくこんな質問されるんですね、モデルにされた方はいますかって。いないですよ、そんな人、周りに(笑)。
古田新太
━━ 確かにそんな状況の人はなかなかいませんね。

古田 でも、そう見えたらいいなって思っていて、そのジャッジメントを監督に委ねるというか。「そんな感じに見えてました?」「ああ、OKですよ」「あ~よかったセーフセーフ」って(笑)。
━━ その距離感こそが、どんな役柄でも自然に演じ分けできる秘密なのでしょうか。

古田 役者さんってだいたいカラーが決まっていて、同じような役が来ることも多いんです。でも幸いなことに、オイラはプロデューサーさんなりキャスティングの人たちなりに、いろんな役を振ってもらえている。“あ、ちゃんとホームレスに見えてるんだな”とか、“警察署長に見えてるんだな”と。だったらこれでいいやって。なるべく何もしない、自分から何も足さないんです。

━━ 余分なものを足さない、と。

古田 というのが、早く帰れるコツかな!

━━ ワハハハ! 人生論に聞こえていたんですが、早く帰るコツでしたか。

古田 そうです。オイラたちはOKのために生きてるから!

━━ OKを貰えた瞬間が、最高の喜びだったりするんですね。

古田 はい。でも、昔はそれがわからなかった。映画のお仕事がよくわからなかったんです。誰が喜んでるのかわからないから。でも途中からね、“あ、違うんだ、カメラさんが笑って、音声さんが笑って、監督に大きな声でOKって出してもらうためにやってるんだ”という風に考え方を変えたら、前向きになれた。
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(c)2021『空白』制作委員会
━━ あ~、なるほど。舞台や映画、ドラマと表現も演じる環境も全然違うけれど、スタッフに喜んでもらうという点では皆一緒……。

古田 そう。仕事によって全然違うから。舞台は1カ月~2カ月稽古して、ある程度答えが出た状態で本番を迎えて、そして目の前にお客さんがいるから、そこで答え合わせができるわけです。だけど映画は違う。これ(『空白』)だって1年半くらい前に撮影が終わってるから、記憶も定かじゃないし(笑)。でも出来上がったのを見て面白いと思ってもらえたら、映画屋としては勝ち。先週撮ったものが大急ぎで編集されて、今週オンエアして、視聴率が良ければ、テレビでは勝ちなんだ、と。面白い、面白くない、楽しい、楽しくないのやり方が全然違う。それがわかってからは待てるようになりました。

━━ 映画の場合は公開されるまで答え合わせができないんですね。

古田 はい。喜ばれているのかどうかがわからないから。自分が出ている映画は滅多に観ないんですけど、でも行ってお客さんが笑ってたら、よしって思えます。『空白』も試写は観に行ったんですよ、お客さんになったつもりで。

━━ どうでした?

古田 吉田監督には素直に感想を言いました。「かわいそうな人しか出てこないんですね。あんなに現場は楽しかったのに」って(笑)。
古田新太
━━ 物語の内容からすると、もっとこう、湿度の高い空気なのかと思いましたが、実は明るい現場だったと! しかし、この映画の登場人物は、みんな何か間違っているというか、視野が狭いというか、そういうところがありましたね。

古田 そう、全員が自分のことを正しいと思ってるから。

━━ 監督は、今の時代の閉塞感とか、人々の視野の狭さを描きたかったんでしょうか。

古田 いや、それはプロデューサーかな。こういう話をやりませんかって監督に言って、じゃあキャスティング古田ってことで本書き出しますよ、って流れだと思います。

━━ あ、この物語は当て書きですか。

古田 監督はそう言ってましたよ。でも、オイラにはあんな部分全然ないです。娘とも仲がいいし(笑)。

━━ 今回の映画は「父親と娘の関係」も大きなテーマだと思います。娘が亡くなって初めてその存在の大きさに気づくという痛切なシュチュエーションでもありますが、「父親にとっての娘」という関係がとても丁寧に描かれていて、身につまされます。でも男親って、娘に対して距離がつかみにくいですよね。

古田 そう、普通の父親は娘のことなんか何も知らないですね。オイラも本当になんにも知らないですから。でも仲は悪くないし、一緒に酒も飲んでます。だけど担任の先生の名前なんて知らない。映画のシーンで、娘の盗んだネイルが透明だったってことで充さん(古田さん演じる父親)はショック受けてましたよね。でも。中2の娘の爪に艶があること知ってる父親なんて、気持ち悪いですよ(笑)。そんなの知らないです。
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古田新太
━━ 確かに、娘が大きくなればなるほど、父親はそうなのかもしれません。ところで先ほど役を掘り下げすぎるのは「ダサい」という言葉が出ましたよね。その古田さんの思う「ダサい」の判断基準を教えていただけますか。生きていく上ででも、演技のことでも構いませんので。

古田 人の言うことを聞かないヤツですかね。『空白』にはそんな人ばっかりしか出てこないですけど(笑)。一旦受け取ります、持ち帰りますという態度がない人はダサいかな。一回やってみて、その上で、ちょっとやっぱりこれおかしくないですか、って言うならわかるんだけど、最初から否定で入る人はダサいと思ってます。
━━ なるほど、その気持ちから、古田さんの柔軟で変幻自在なキャラが確立されていったのでしょうね。では最後に、古田さんの思う、映画の見どころを教えてください。

古田 これは皆さんにお伝えしているんですけど、寺島しのぶです。あなたの周りにもこういう人いませんか?  善意の押し売りをする人。

━━ 寺島さんの松坂さんに対する押し売りっぷりは強烈でしたね(笑)。

古田 でしょう? しのぶちゃんのおかげでこの映画が豊かになってますから(笑)。みんなどの役もなんとなく憎めない人ばかりなのに、あの人だけ簡単に憎めますからね。見どころはそこです!

古田新太

古田新太(ふるた・あらた)

1965年12月3日生まれ。兵庫県神戸市出身。大阪芸術大学在学中の1984年から劇団☆新感線に参加。看板役者として活躍するほか劇団公演以外の舞台、映画、ドラマ、バラエティ番組、ラジオなど多彩な分野で活躍し、独自の存在感を放っている。98年に第5回、2013年に第20回読売演劇大賞最優秀賞(男優賞)を受賞。主な作品にドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』『あまちゃん』『俺のスカート、どこ行った?』、映画『ヒノマルソウル』『信長協奏曲』『土竜の唄  香港狂騒曲』他。『空白』は7年ぶりの主演映画となる。

衣装 シャツ 1万4300円/パンクドランカーズ(問鷹の爪 HEAD SHOP 03-3478-4844)、キャップ、Tシャツ、パンツ/スタイリスト私物、雪駄/本人私物

『空白』

『ヒメアノ~ル』の吉田恵輔監督によるオリジナル脚本、古田新太主演、松坂桃李共演で描くヒューマンサスペンス。ある日突然、まだ中学生の少女が死んでしまった。スーパーで万引きしようとしたところを店長に見つかり、追いかけられた末に車に轢かれたというのだ。娘のことなど無関心だった少女の父親は、せめて彼女の無実を証明しようと、店長を激しく追及するうちに、その姿も言動も恐るべきモンスターと化し、関係する人々全員を追い詰めていく……。出演は他に田畑智子、藤原季節、趣里、伊東葵、片岡礼子、寺島しのぶ。9月23日(木・祝)から全国公開。配給/スターサンズ/KADOKAWA

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