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2021.07.29

■松井玲奈(役者・小説家)前編

松井玲奈「人のグロテスクな部分が好きなんです」

挑戦し続ける「カッコいい大人」たちをクローズアップする今回の特集。アイドルを卒業して役者として着実にステップを登りつつあるなか、一昨年には小説家としてデビューして話題となった松井玲奈さんに話を伺いました。

CREDIT :

文/相川由美 写真/岸本咲子 スタイリスト/佐藤英恵(DRAGON FRUIT) ヘアメイク/白石久美子

「挑戦し続ける大人はカッコいい」をテーマに、果敢にチャレンジを続ける方々にお話を伺っている今回の特集。松井玲奈さんの登場です。

2008年に芸能界デビューし、2015年、24歳の時に7年にわたるアイドル活動を終了、その後は役者として数々のドラマや映画、舞台でも活躍。さらに2019年にはデビュー短編小説集『カモフラージュ』が、あまりの完成度の高さと面白さで話題となり、その多才ぶりに世間が驚きました。

今年の1月には2冊目の小説『累々』も発売され、こちらもミステリー仕立ての見事な構成と、人の心の深層をあぶりだす繊細な描写で高い評価を得ています。30歳にしてすでに確固たるキャリアを積み上げつつ、一方で次々と新しい道に挑戦し、鮮やかに結果を出し続けるそのエネルギーはどこから生まれるのか? 松井玲奈さんの向上心と情熱の裏側に迫ってみました。
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勧められるまで、小説を書きたいとは、まったく思っていなかった

──新作小説『累々』を読ませていただいて、あまりの緻密な心理描写と独特の視点に驚かされました。松井さんにとって「書くこと」は、子どものころから慣れ親しんできたことなのですか?

松井 ありがとうございます。書くこと自体は、とりわけ好きだったわけではなくて、日記も続かないタイプだったんです(笑)。ただ、小学生の時に書いた作文を担任の先生にほめてもらったり、ちょっとした賞をもらった経験があって。その時はまだ、自分が文章を書くのが好きか嫌いかはわからなかったけれど、「向いてるのかな」というのは思っていました。

── では本はよく読んでいたのですか?

松井 どちらかというと、「書くよりも読む方が好きだな」という感覚で、特によく読んでいたのは、子ども向けに書かれた動物のノンフィクションやファンタジー小説。『ハリーポッター』や『ダレン・シャン』のシリーズも大好きでした。

本が好きになったのは、実家の本棚に本がいっぱいある環境だったのが一番大きくて。しかも、両親が共働きで忙しくて夜遅くまで帰ってこなかったので、暇なんですよね(笑)。兄はゲームをしていて、私もたまにゲームをするけど、ひとりで本を読んでいる時間が多かったんです。
── 小説を書くことを、最初、マネージャーさんから勧められたそうですが、それまで書きたいという意欲はあったんですか?

松井 まったくなかったです(笑)。ゼロに近いぐらいなかったですね。何かを作ることは大変だなと思っていて。自分はお芝居で、脚本家さんに書いていただいたものをどう表現するかを仕事にしていくと思っていたので、自分がそのもとになる部分を作るというのは想像もしていなかったです。

ただ、マネージャーさんに「やってみないか」と言っていただいて、やらないと言うのは簡単だけど、「やる」って挑戦してみると、それが自分に合うか合わないかがわかるし。あとは、ひとつの経験として、作る側の気持ちも理解できたらいいな、ということを書いていくうちに思うようになりました。

── 最初はどのような形で発表したのですか?

松井 何か文芸誌に出してみようとか、どこか大きいところで発表しようということではなくて、私のファンクラブの会員の方々だけが読む会報誌の中で、「短いものを書いてみない?」と言われたんです。「だったらファンの方々との関係性で安心して出せるな」と思ったので、そこに関してはハードルは高くはなく、まずやってみようという感じでしたね。

その時は、すごく短い不思議な話を書いたので、ファンの方々がどう受け取ったのか、それがよかったのかもわからなかったんです。でも、マネージャーさんがその小説と、それまでに書いていた書評やエッセイなどを持っていろんな出版社の方に話をして、具体的になっていったようで。改めて「小説を書いてみないか」って言われた時には、すでにいろんな人たちが動いている状態でした(笑)。

── 外堀を埋められた?(笑)

松井 でも、その、まわりの人が「書けると思う」って言ってくれたのが、小学生の時に担任の先生から「松井さんは書くことが向いてるね。上手だね」って言われたことに近いような。「私ってもしかしたら、これが得意なのかもしれない」っていう気づきを教えてもらった感じかな、と思っています。
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最終的なゴールは決めず、わりと行き当たりばったりで書いてます

── 実際に小説を書く時は、最初に全体の構成を考えて書き始めるんですか? 書くことにチャレンジした松井さんが、どのような過程を経て物語を完成させていくのか興味があります。

松井 わりと最初に、「こんなものが書きたいです」っていう漠然としたものを編集さんたちに話して、「おもしろいか、おもしろくないか」というふるいにかかって、OKが出たものをまずは自分で最後まで書いてみる。で、それを編集さんたちに提出して、意見を聞いて手直しして、多い時は6回、7回とか出してブラッシュアップして、やっと1コ完成するっていう感じですね。

書く時はあまり構成しないで、わりと思いつきが多いと思います。「こういうお話で」って書き始めて、できあがって編集さんたちに見せたら、「言ってたのと違いますね」って言われることがあったり(笑)。

最終的なゴールは決めてないんです。ただ、休憩地点というか、中間地点みたいな場所をいくつも置いて、1コ目にたどりついたら、じゃあ、次のポイントはどこなのかを考えて走りだして、というのを繰り返していくと、「あ、ここがゴールなのかもしれないな」というのがだんだん全体像で見えてくることが多いです。でも、50mぐらい先に点を打ったはずなのに、点を見失っちゃって、そこにたどりつくまでにすごく時間がかかったりとか、いろんなパターンがあります。わりと行きあたりばったりで書いてます(笑)。
── 最終的にできあがったものが、自分の想像していたものとぜんぜん違うものになったりすることもありますか?

松井 それも多いですね(笑)。あと、実はそんなに「伝えたいこと」だけを考えながら書いているわけではなくて。「こういう物語を書きたい」「こういうシチュエーションが書きたい」「こういうセリフが出てくるように書きたい」というイメージをまとめて書いている気がします。

それで完成したものに対して取材を受けたり、感想をいただいたりした時に、「松井さんはこういうことが書きたいんですね」って言われて初めて自分でわかったりすることも多いんです。たぶんそれって、まだまだ自分が未熟だからだなと思っていて。本来は、「何が書きたいか」をちゃんと理解して書いていったほうがいいとは思うので、そこが今後、書き続けていく上で自分の課題のひとつだな、と思っていたりします。
── しかし、村上春樹さんなど多くの作家が、書きながらストーリーがどう変わっていくか自分でもわからないと発言していますし、その未知数の想像力は、松井さんの作家としての能力のように思えます。

松井 そう言ってもらえると助かる部分はあるんですけど(笑)。私は実生活でも、まず近くに目標を決めて、「ここまで走る」というのを決めておかないとダメなんです。すごく遠くに目標を設定してしまうと、疲れたり、諦めてしまうことが多いんです。だから、細かく細かく進んでいくことが私らしさのひとつかな、とも思います。

ただ、お芝居のお仕事を始めてからは、その目標を立てること自体が難しく思えてきて。人によって評価がまったく違うので、例えば、Aさんは私の出ていた作品をすごくおもしろかったと言ってくれても、Bさんはあんなひどい作品は見たことがないと言ったりする(笑)。そうなるともう何を信じていいかわからなくなるんです。

結局、毎回毎回の中で、自分がまず納得できるパフォーマンスができること、その基本的な準備をしっかりすること。その小さい積み重ねで前に進んでいくしかないのかなと。あとは、普段の生活の中でアンテナを張るようにしていて、いろんなことを吸収することのほうが大事なのかな、というふうに今は感じています。
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まわりから見られるイメージと自分のズレを客観視して表現したい

── 価値を判断するのは自分であり、そのために感性を磨いていくという感じでしょうか。

松井 でも、それを判断するのは自分じゃない気が……。まわりから求めていただかないとお仕事は続いていかないので、やっぱりまわりの方に必要だと思ってもらえるように。そのために自分を作っていくということなのかな、と思います。

── これまで『カモフラージュ』『累々』と作品を発表して、結果的に自分が書きたいものは少し見えてきましたか?

松井 まだわからないんですね……うん。でも、わからないと言いつつも、いつも書いてることは同じような気もしています。まだそんなに書いてないのですが。

すごく表現が難しいんですけど……。小説の中で人間の裏側というか、表からは見えない部分を書きたいと思うのは、私自身も、まわりから見られるイメージと自分自身というものにズレがあったりするので、その外からはわからない部分を客観視して表現してみたいのかなと。それが、人間のおもしろさでもあるんじゃないかな、と思ったりします。
衣装/トップス2万6400円(ランバン オン ブルー/レリアン)、スカート2万7500円(オットダム/ストックマン)、サンダル1万4850円(ダイアナ/ダイアナ 銀座本店)、ブレスレット1万1000円(ヴァンドーム/ヴァンドームヤマダ)。その他はスタイリスト私物。
── 『累々』は、SFやサスペンス、ミステリーなどあらゆる要素が自然に盛り込まれていて非常にユニークな連作短編集でしたが、そういった「ジャンル」に対してはどんな意識をお持ちですか?

松井 そこもあまり意識して書いてはいなくて。特に『カモフラージュ』の時は、「食をテーマに好きなものを書いていいよ」という感じだったので、本当に手を変え、品を変え、自分が思いつく限りをバーッと書いたものなんです。

なので、これは最初のほうにお話したことに近いんですけど、挑戦して自分を知るという意味で、自分はこういう物語の展開が得意で、こういうのは苦戦しちゃうのか、みたいなものを試しながら自分を理解していく執筆期間だったのかなと思います。

その時に担当の編集の方たちから、「松井さんが書く話は人間のえぐみというか、ちょっと黒い、ドロドロした部分があるのが松井さんらしい」と言っていただいたことがあって。「じゃあ、そういう部分にフィーチャーしたものを次は書いてみよう」と思ったのが『累々』でした。

私自身も、そういう人の内面のグロテスクな部分が好きだったりするので、だからこそより書きやすいというか、楽しんで書けるのかなとは思います。

※後編(7月30日公開予定)に続きます

●松井玲奈(まつい・れな)

1991年7月27日生まれ。愛知県豊橋市出身。2008年、SKEの第一期生オーディションに合格して芸能界入り。ドラマ『海月姫』『まんぷく』『エール』、映画『21世紀の女の子』『今日も嫌がらせ弁当』『ゾッキ』、舞台『新・幕末純情伝』『神の子どもたちはみな踊る after the quake』など多くの作品に出演。現在ドラマ『プロミス・シンデレラ』(TBS)出演中。19年4月に初の小説集『カモフラージュ』(集英社刊)を発売。即重版が決まるなど話題に。21年1月には2冊目の小説『累々』(集英社刊)発売。セフレ、パパ活など現代的な要素を盛り込んだ恋愛小説集として大きな評判となっている。

『プロミス・シンデレラ』

主人公の桂木早梅(二階堂ふみ)は、無職で無一文、宿無しという崖っぷち状態のところを金持ちのイケメン男子高校生・片岡壱成(眞栄田郷敦)に拾われ、彼の家である高級老舗旅館「かたおか」へ。「ただで泊めるかわりにリアル人生ゲームをしよう」と持ち掛けられる。実はその旅館の跡継ぎ・成吾(岩田剛典)は早梅の初恋の人だった。思わぬ再会からの恋の行方が気になるラブコメディ。松井さんは「かたおか」に出入りする人気芸者の菊乃を演じる。「まわりの人たちに“あいつ蛇女みたい”と言われる人なので、湿り気があってまとわりついてくるような女性なんだな、と思って。仕草や目線もどこか粘着質な感じを出して演じてます(笑)」と松井さん。「早梅の恋敵として暗躍していくので見ていただけたらうれしいです」。TBS系・火曜22時~放送。

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