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2021.07.27

ムッシュかまやつ “どうにかなるさ”の美学/挑戦し続けた男たちの伝説【02】

その名が今も語り継がれているのは、きらびやかな活躍の裏側に、挑戦を続けるたゆまざる信念があったから。芸能界に伝説を遺した偉人の生き様を振り返ることで、希代のチャレンジスピリットが見えてきます。

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文/山下英介 イラスト/Isaku Goto

早朝からシャンパン3杯!

2013年、とある日の朝7時、筆者はとても緊張していた。なぜなら、今日はムッシュかまやつことかまやつひろしに、ファッション哲学を語ってもらう取材日である。言わずと知れた伝説級のミュージシャンにして、1950年代にデビューしたザ・芸能界の生き字引。だいたいこれくらいの大物になると、真っ黒いワンボックスカーからスーツ姿のいかついマネージャーさんと一緒に降りてきて、撮影中もお付きのスタイリストやヘアメイクさんが周囲をガッチリとガード。雑談なんてとてもできないオーラを漂わせていることが多いのだ。「朝早いし、機嫌悪かったらどうしよう……?」

しかし、筆者の心配は杞憂に終わった。愛車の真っ赤なアバルト695を、撮影場所であるオー バカナル紀尾井町店の前に乗りつけた彼は、私たちのイメージそのまんまの“ムッシュスタイル”で入店。すぐさまギャルソンにシャンパンを注文して、3杯立て続けに飲み干すと、「二日酔いの日は飲まないと目が覚めねえ」と言い放った……! もちろん取り出したタバコはゴロワーズ。そういえば「カラダにいいことは大嫌い」とも言っていたな。シビれるぜ、ムッシュ! 

その時のファッションを具体的に説明すると、彼のイニシャルでもある「H」マークの入ったエルメスのニット帽に、ダブルブレストのスーツ、タートルネックニット、「ザ・スパイダース」時代から何足も購入しているというジェイエムウエストンのサイドゴアブーツを、すべてブラックで統一。そこに「ザ・ローリングストーンズ」のバッジや真っ赤なソックスで差し色を効かせ、さらに1959年に購入したというエルメスのシルバーブレスレット『シェーヌ・ダンクル』でキメるという、最高に粋なものだった。
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「ムッシュさん」と呼ばせない男

すっかりムッシュのファンになってしまった筆者は、それからも何度か取材をさせていただいたが、いつだって彼はスタイリストやヘアメイクをつけることもなく、いつもの普段着で現場に現れ、そして帰っていった。ある時はルイ・ヴィトンのトランクに古着のツナギやロックTシャツを合わせた、大人のストリートスタイル。またある時は代表作『ゴロワーズを吸ったことがあるかい』に登場しそうな“よれよれのレインコート”に、ドクターマーチンの8ホールブーツを合わせた、ロンドンのパンクキッズのようなスタイル。とても70代とは思えないムッシュの自由奔放な着こなしには、心底憧れた。

でも何よりも素敵だったのは、まわりにいる人たちとの関係性だ。オー バカナルの若いスタッフも、マネージャーさんも、行きつけのレストランの常連さんも、彼を知る人はみんな「ムッシュ」と気軽に呼び捨てにして、大御所扱いなんてしない。そしてムッシュも、そんな砕けた雰囲気を心から楽しんでいた。そう、ムッシュは芸能人やスターとしてではなく、ひとりのミュージシャン、そしてひとりの男として軽やかに生きていたのだ。

変節なんて恐れるな!

この“軽さ”とは、彼の人生を語る上での、ひとつのキーワードとも言える。日系二世のジャズミュージシャン、ティーブ釜萢(かまやつ)の息子として1939年に生まれ、子供時代からジャズトランペットに親しんでいたかまやつひろしだが、高校時代にカントリー&ウエスタンが流行るとすぐにギターをはじめ、ロカビリーミュージシャンとしてデビューする。

しかし1960年代当時に遊び場としていた六本木の空気が、彼の感性を大きく揺さぶる。飯倉片町のイタリアンレストラン「キャンティ」に集う最先端の遊び人たちの影響で、すっかりヨーロッパかぶれに。そして1963年にGS(グループ・サウンズ)バンド「ザ・スパイダース」に加入すると、ビートルズ、ローリング・ストーンズ、キンクスといったUKロックのテイストをいち早く取り入れることによって、一躍日本を代表する人気バンドになったのだ。ちなみに彼が「ムッシュ」と呼ばれだしたのはこの頃。フランス好きだった彼の口癖がもとになっているという。

しかしジョン・レノンがオノ・ヨーコと出会い、ジミ・ヘンドリックスや「ザ・ドアーズ」が作る新しいロックが主流になりつつあった1960年代後半、GSサウンドは次第に時代遅れになっていき、「ザ・スパイダース」も1970年に解散する。フロントマンの堺正章と井上順はTVで活躍するエンタテイナーに、そしてドラマーの田邊昭知は芸能プロダクションを設立するなど、それぞれの道へと進んでいった。そんななかでムッシュの選んだ道は、周囲を驚かせた。

高田渡、小室等、吉田拓郎……なんとGSとはセンスもイデオロギーも正反対であるフォークの世界に、ギターを片手に飛び込んだのだ。片や東京で生まれ、六本木を遊び場にするお坊ちゃん。片や四畳半一間のアパートで安酒をあおる、屈折した地方出身者。まさに水と油ともいえるふたつの集団を行き来してしまうムッシュの軽やかさは、当時は両陣営から非難され、呆れられていたというが、それも詮なきこと。だって六本木野獣会でブイブイ言わせた生粋の都会人であるムッシュが“下駄をならして〜”と歌う『我が良き友よ』なんて、イヤミを通り越してシュールすぎ。まさに『とぼけた顔してバン・バン・バン』な芸当である。ムッシュにゃとってもかなわない!
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B級ミュージシャンでいいじゃないか!

でもムッシュの変節は、決して売れるものに擦り寄ろうという不純な動機からではなく、ただ純粋に新しいこと、面白いことに触れていたいという前向きな情熱から生まれたものだ。その証拠に、フォークシンガーとして“売れそうになった”ムッシュは、すぐにその世界からも逃げ出し、ハワイアンやフュージョン、そしてさらには“マンモスだァー”でお馴染み、『はじめ人間ギャートルズ』の主題歌に至るまで、多彩な音楽に挑戦している。2002年に発表した自伝『ムッシュ!』(日経BP社)によれば、「つねにB級ミュージシャンでいたい」という願望を持ち続けている彼は、「売れそうになると、自然に体が引けてくる」のだという。

かくして「ザ・スパイダース」時代の盟友たちが芸能界の大御所へと登りつめていった1970〜80年代を、石斧ならぬギターをかつぎ、風のように駆け抜けていったムッシュ。興味のあるミュージシャンには自分から会いに行ったし、何かが起きそうな場所にはひとりで出かけていった。1989年には取り壊し中のベルリンの壁に登って、警察の目を盗みながら『バン・バン・バン』を歌ったこともあるらしい。

やがて、そんなムッシュの元には、自分よりもずっと若いミュージシャンが集まってくるようになった。1990年代には、『我が良き友よ』のB面に収録されていた『ゴロワーズを吸ったことがあるかい』がクラブシーンでリバイバルを遂げ、小山田圭吾やカヒミ・カリィといった渋谷系アーティストたちとのコラボレートを次々と実現。2013年には、74歳にしてバンド「LIFE IS GROOVE」を結成。ギタリストの山岸竜之介との歳の差は、なんと60歳だった。『エレクトリックおばあちゃん』ならぬ、『エレクトリックおじいちゃん』、ムッシュ!
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最後まで“Going my way!”

歳を重ねるということは、いろいろな荷物を背負うことだ。知識、技術、センス、地位、そしてお金や財産。それらは男を成熟させ、人生を豊かにしてくれるけれど、ときには重荷になることもある。そして気がつくと、前へと進む足どりは徐々に鈍っていき、現状を維持することが目的化してしまう。ムッシュが最も恐れたのは、そんな自分だったのではないか?

だからムッシュは、余計な荷物を躊躇なく捨て去って、とことん軽やかに走り続けた。貴重なギターをたくさん持っていたのに、その扱いは驚くほどラフで、「チューニングがバッチリ合わないとライブできない、みたいなのはカッコ悪いよね」と断言。気が乗れば無名ミュージシャンのライブにだって、飛び入りで参加した。若手ミュージシャンたちが『ゴロワーズを吸ったことがあるかい』の歌詞を変えてカバーすることを、ことのほか喜んだ。いわゆる高級車よりも、小さくて速いクルマに心を昂らせた。そしてリゾート地になんて目もくれず、“ヤバイ”街の匂いを愛した。ムッシュは78歳で亡くなる直前まで、気の合う仲間たちとグルーヴを奏で続けたのだ。

音楽の教科書に載るようなご立派な名曲も、周囲が羨むような豪邸も残さなかったけれど、“ダークな背広にブーツをはいて”、“いかしたエレキ小脇にかかえ”“思った通りに”“Go!  going my way”し続けたムッシュの人生は、1965年につくった曲『フリフリ』を地でいくもの。ミュージシャン冥利に尽きるってものだ。

もちろんムッシュの生き方は誰にも真似できないけれど、私たちもそろそろ余計な荷物を少しずつでも捨てて、もう一度人生を軽やかに楽しみ直す時が来たのかもしれない。ちょっと不安かもしれないけれど、心配はいらない。だって合言葉は、『どうにかなるさ』。

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