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2026.10.08

人気はちみつ美容ブランド「HACCI」の後継者は“デラックスなドラ息子”にして“らしからぬ養蜂家”⁉

人気はちみつ美容ブランド「HACCI」の2代目にして、養蜂家のDD水谷さんは、一見“らしからぬ”いでたちながらマジメで何事も突き詰める性格。破天荒な家庭で育ったDD=デラックスなドラ息子が目指すはちみつ美容の行く末とは?

CREDIT :

文/牛丸由紀子 写真/内田裕介 編集/森本 泉(Web LEON)

DD水谷 HACCI 養蜂家 ミツバチの楽園 水谷養蜂園 LEON

青く染めた髪に指にはネイル、カラフルなプリントのシャツを身に纏った今どきの若者の代表的な風貌のDD水谷さん。プロフィールを知らなければ、彼の仕事は芸術家? あるいはファッション関係? と思う人も多いはず。そんな彼が全力で取り組んでいる仕事、それがミツバチを飼育する養蜂です。


1912年創業の老舗養蜂園をルーツに、母が立ち上げたはちみつを使用したコスメブランド「HACCI」の後継者の肩書を持ちながら、伊勢にある養蜂園「ミツバチの楽園」で、日々高品質なはちみつを造り出しています。


海外でアートを学んでいた彼がなぜ養蜂家になったのか、そして彼が一から作り上げた養蜂園「ミツバチの楽園」にかける思いを聞きました。

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海外で初めて気づかされた、自らのルーツ

── 最初に、DD水谷さんのお名前について教えてください。お母さまも「DD!」と呼んでいらっしゃいましたが、この名前は子どもの時からの愛称なのでしょうか?


DD水谷さん(以下、DD) DD とは“デラックスドラ息子”という意味です(笑)。母のお腹の中にいる時から呼ばれていたそうなので、まわりから本名で呼ばれたことは一度もないんです。親もまわりも、きっとドラ息子になるに違いないと確信していたんだと思います。母によれば、ただのドラ息子じゃなくて、デラックス規模なドラ息子になってくれるようにという意味だそうです(笑)。


── なるほど「ただのドラ息子では終わるな!」という意味だったのですね(笑)。お生まれは日本ですが、幼少期にご家族で海外に移住し、ずっと海外で生活されていたとか。


DD 神戸生まれなのですが、母が六甲山を見て育てるよりも、グランドキャニオンを見て育てたい、子どもたちをのびのびと育てたいと、僕が2歳ぐらいの時に家族でアメリカに移住しました。なので高校はアメリカ、その後大学はフランスに行き、イギリスでもアートの勉強をしました。

DD水谷 HACCI 養蜂家 ミツバチの楽園 水谷養蜂園 LEO
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── そんなバックグラウンドから、なぜ養蜂家の道へ進んだのでしょう? そのきっかけを教えてください。


DD ヨーロッパで学生だった頃、まわりの友人はさまざまな人種や国籍の方ばかりだったんですが、話をしているとみんな自分のルーツを良く知っていたんです。それこそ顔面全部タトゥーで全身ピアスの子ですら、家族の話になれば「うちは代々農家で、○○を作っているんだ」と話し、誇りに思っている。ところが自分はと言えば「ハチミツを作っている」程度の話しかできない。彼らから「それならビーキーピング(養蜂)もやっているよね。すごいじゃない!」なんて言われて、やっとそうだなと(笑)。改めて自分のルーツをよくわかってないことに気づかされたんです。


だから最初は自分のルーツというか、家族がどんなことを成し遂げてきたのかということを知ろうというところから始まりました。でも知れば知るほど、100年以上続く家業の歴史や養蜂に対する思いや価値観、さらに日本でのバリューなど、色々なことが見えてきました。自分としては家業を継いだというつもりはないんですが、こう見えて根がまじめなので(笑) 結局、過去から紡いできた重みを真剣に捉え始めて、養蜂の道を選んだという感じです。

── 家業は代々養蜂園を経営されていて、お母様も専業主婦からはちみつを使った独創的な化粧品を開発し、HACCIという人気ブランドの経営者として成功されています。そんな中で子供の頃から養蜂や蜂蜜に関して英才教育を受けてきたのでしょうか?


DD そういったものはまったくなかったです。養蜂は子供の頃に祖父母の家に遊びに行った時に、家の裏にあった巣箱を見せてもらうぐらいの関わり方でした。僕も学生時代はファッションデザインから最終的にはクリエイティブディレクションを勉強していましたし、一時期はタトゥーアーティストになりたいと思ったことも。

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初代が1912年に立ち上げた水谷養蜂園自体は、伯父が受け継いでいますが、母からは養蜂家になれと言われたことは一度もないんです。まさかこの子が養蜂をやるなんてと思っていたと思います(笑)。


だから、母にも「養蜂家になりたい」と宣言したわけではなく、何も告げずに勝手に長野にいる養蜂の師匠に弟子入りしたんです。でも僕が養蜂の勉強をしていると知った時には、感動していましたね。先祖の策略だったのかも、みたいなことを言っていました(笑)。

ミツバチはまるで娘? 自然と対峙する養蜂の魅力

── 最近は都会のビルの屋上に巣箱を置くなど、少し身近にはなったかもしれませんが、まだまだ養蜂についてはあまり知られていないのではないかと思います。実際に養蜂の世界に飛び込んで、養蜂のおもしろさ、あるいは苦労することなど気づいたことを教えてください。

DD 当たり前なのですが、生き物なので、常に同じ作業は一切ありません。自然相手ですからマニュアルがあるわけでもないし、毎年状況も変わります。集まるハチの数がある年増えたと思えば、別の年には減ってしまうことも。天候や農薬の影響だったり、問題もひとつではなく、さまざまな理由が複合的になって自然の現象として現れてくるんです。


そういった問題を、毎回ひとつひとつクリアしていく。だから毎年同じようなことをしているように見えて、実は毎年全然違うのは養蜂のおもしろさだと感じています。

裏返せばすごく大変でもありますが、それだけ自分の蜂にすごい愛着が湧くんです。ハチは、牛や豚、鶏と同様、家畜業なんです。でも個体はわずか数センチ。とても強いと思う反面、とても弱い生き物なので全力で守っていくというマインドになっています。


実はミツバチって9割がメスなんです。だから僕は“彼女たち”と呼んでいるんですが、もう娘みたいな感覚です(笑)。台風が来るとか聞くと、もう心配で心配で。「本社の仕事はリモートでするから、ハチの箱を移動してきていいですか?」みたいな感じで、すぐ彼女たちのもとにかけつけています。

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── やっぱり生き物だからこそ、彼女たちへの愛情がより深くなるんですね。


DD そうなんです。ミツバチの寿命は基本的に1カ月ぐらいと、すごく短いんです。そんな短い人生の中で、僕たちにハチミツを届けてくれる。生と死を頻繁に見る機会があるから、やっぱり意識的にも違うのかなと思います。


寿命が短いだけではなく、夏場の気温の高さなどさまざまな要因で死んでしまうことも多い。だから天敵であるスズメバチがいれば、もう刺し違えてでも守ろうという気持ちになります。今はとにかくミツバチファースト、人間よりもミツバチが好きなタイプです(笑)。

砂利だらけの土地を、ミツバチのための楽園に

── そんなミツバチのために作られたのが、1000坪もの広大な土地に広がるHACCIの養蜂園「HACCI BEE FARM」その名も「ミツバチの楽園」です。これまでHACCIのハチミツは水谷養蜂園のものを使っていたわけですが、今回初めてHACCI独自の養蜂園を作るというのはDDさんの発想だったのでしょうか?


DD もともと社長には、いつかHACCIの養蜂園を作りたいという構想はあったそうです。でも理想の土地を探すのにも時間がかかり、さらに独自の養蜂園となると養蜂家が必要になってくる。社長自身「水谷の人間に任せたいけど……」と思っていたところ、ちょうど僕が養蜂を始めたというタイミングでした。


場所探しにも時間が必要でした。そもそもミツバチが巣をつくるのは、大気や水質などの環境指数が高い場所。そういう場所を探す中で出会ったのが、伊勢にある“神宮神田”の隣の土地でした。


“神宮神田”は伊勢神宮に奉納するための奉納米を作っているので、空気も水もきれいで農薬も使っていない。人通りも車通りも少ないので騒音もまったくなく、ハチには最高の環境だったんです。

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▲ HACCIの養蜂園「HACCI BEE FARM」は通称「ミツバチの楽園」。

そんな環境の面から選んだ場所だのですが、不思議なことにその土地の地主さんに水谷と名乗ったところ「そういえば昔、水谷という人たちがここで養蜂をやっていた」と言われたんです。確かに、以前曽祖父たちは花咲く季節にあわせて各地で転地養蜂をしていたのですが、どうやらこの土地にも来ていて、養蜂が終わると採れたハチミツを地主さんに置いて帰っていたらしいんです。これを聞いて、この場所を選んだのはもはや運命だったんだなと不思議な縁を感じました。

── Instagramなどでも養蜂の様子をあげてらっしゃいますが、緑が多く本当に楽園のような風景が広がっていますね。ここはもとから森のような場所だったのでしょうか?


DD 実は緑がまったくない、砂利だらけの土地だったんです。だからまずは土づくりから始まりました。母の生まれた土地である三重県・松阪の山から10トントラックを120往復ぐらいして、土を全部入れ替えました。


また大切なのが、ミツバチたちが年間を通じて食料不足にならないこと。そのためにさまざまな樹や花を厳選し、120種類以上の樹を植樹しました。ただ、樹も植えて終わりではなく土壌に定着するかを見なくてはなりません。

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▲ 整地前の土づくりの様子。

そして一番重要なのは、ミツバチがこの環境を気に入ってくれるのかどうかです。巣箱、いわゆる人間で言えば自分のマイホームを、いきなり今までと全然違う土地に置かれるようなものですから、やっぱりその土地に合わないこともあるんです。そうするとストレスでどんどん死んでいったり、いなくなってしまう。なので、植物の成長の経過とミツバチと土地との相性をみることに、2~3年費やしました。


巣箱も最初はわずか1箱でしたが、今は8箱に。年によって増減はありますが、1箱にピーク時は約2万~2万5000匹いるので、約20万匹以上がこの楽園で過ごすようになりました。とにかく樹も何もない本当にゼロからの出発だったので、いま改めてよくここまでになったと、自分でも感慨深いです。

── ここではどんなハチミツがとれるのでしょうか?


DD 樹木の種類が120種類以上あるので、百花蜜と言われるいろんな花のブレンドになります。でもおもしろいのが、毎年風味が違うんです。というのも、ミツバチはそれぞれの樹から同じ配分で採ってくるわけではないので、例えばある年は花Aから30%、花Bから30%、花Cから40%、でも次の年になったら花Aから80%、花Bと花Cから10%という感じです。まさに植物とミツバチ次第。花も豊作の時もあれば不作の時もありますし、考え方としてはワインとちょっと似ているかもしれませんね。

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イメージを覆すスタイルに込めた、養蜂家としてのこだわり

── DDさんはロンドンでファッションを学んでいたということもあり、髪の毛からネイル、洋服も常にファッショナブルですよね。養蜂園の仕事もそのスタイルで作業されていて、ある意味養蜂家に見えないところも、DDさんのこだわりなのではないかと思うのですが。


DD 確かに養蜂家の格好というと、長靴にハチ除けの重装備なつなぎを着て、バイオハザードみたいな姿を思い浮かべるかもしれませんね(笑)。よく黒い服を着ちゃいけないといった話も聞きますが、ハチ自体はそこまで気にしていないと思います。それよりもハチが絶対に怒るのは、ファーやフェイクファー。僕がファー襟のジャケットを着ていたら、すごく怒っていました。たぶんこれは、天敵である熊を想起させるのだと思います。


髪の毛の色には意味があって、青くしているのはミツバチに見えやすい色だからなんです。ミツバチは人間と見えている色が違って、紫外線が見える代わりに赤はほとんど見えないんですよ。逆に青や紫は、ミツバチが好んで寄ってくる花の色でもあるんです。だから養蜂園に行くと、よく僕の髪の毛にとまったりしていますね。


手も普通は革の大きな手袋をするんですが、僕は素手で作業しています。刺さないということもありますし、大きなグローブだと不用意にぶつかったり、個体が小さいので間違ってつぶしてしまう可能性もあるからなんです。


髪の毛も素手で作業をするのも、少しでもミツバチとコミュニケーションをとりたいという思いから。もしかしたら、本人たちからすると、余計なおせっかいでうっとうしいかもしれないんですけど(笑)。


これだけ小さな生き物だから、少しでもストレスがかかると、顕著にそれが現象として現れる。だから、世話をする時には声をかけたり、時には音楽をかけてみたりもしています。パンクロックをかけるとザワザワするんですけど、メローなオルタナティブをかけると、みんな普段通り気持ち良く飛んでたりするんですよ。

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── どんなふうに声をかけているのですか?


DD 僕はよく謝っていますね。「すみません」とか「失礼します」とか。巣箱から出す時に、コツンとぶつけたりすることがあるんですが、ミツバチが怒っているのがわかるんです。そうするともう「ごめんなさい、ごめんなさい」って言っています(笑)。


だから彼女たちが僕を見た時に「青く視認できる人が来た、この人なら大丈夫だろう」と思ってもらえればと、このスタイルにしています。


ミツバチは1カ月の命だから、簡単に言えば1年で10世代ぐらい変わり、それが3年、4年となれば何十世代にもなるわけです。こうやって育てていくことでどんどんDNAに情報が蓄積されて、青いものをみたら優しい性格になるのではないかとも考えています。

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歴史とブランド理念を礎に、拓いていく未来とは

── 養蜂の歴史を引き継ぎながらも、過去にとらわれ過ぎず、自分の確固たる考えのもと新たなスタイルで養蜂を続けていく。そのDDさんの考え方は、一番身近な家族でもありビジネスの先輩でもあるお母さまの影響は大きかったでしょうか?


DD 絶対あると思いますね。常に「自分のやりたいことをやれ。そしてやるなら最後までやれ」と言われましたし、これまでも本当に自由にいろいろやらせてもらいましたが、やっぱり「自由と引き換えに責任がある」ということも昔からずっと言われてきたし、自分でも思っていました。


でも僕はけっこうまじめなので(笑)、固い考えを持っちゃうこともあるんです。そうすると母から「ああ、つまんないその考え方。つまらない考えがうつるから近づかないで」と言われてしまうぐらい、母の方が考え方はかなりフレキシブル。そういう人物が近くにいたことは、とても影響があると思います。

── 2022年に「ミツバチの楽園」が本格的な形になり、HACCIもスキンケアからインナーケア、そしてもちろんはちみつにいたるさまざまな商品を手掛けています。これからどのような未来を描いていますか?


DD HACCIの理念は「はちみつを通じて人間をハッピーにしたい」ということ。これまで母が守ってきたその信念は、しっかり引き継いでいきたいと思っています。言語化をするのが難しいんですが、これはHACCIっぽいよね、でもこれはHACCIっぽくないよねという、HACCIのぶれない芯のようなものを守っていきたいですね。


そして今後は、HACCIというブランドをもっと海外に広めたいと考えています。世界で見ても、養蜂園を持っているコスメブランドはほとんどないと思います。ましてやそのブランドのルーツが、100年以上続く老舗の養蜂園でそのアイデンティティが継承されている。それこそがHACCIの強みです。

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このブランドができたのも、ただはちみつが入っているコスメというのではなく、食品としても美容としてもはちみつが持つ可能性に着目したことが始まりでした。そういう歴史的ルーツとアイデンティティの中で新たなものを生み出すという、一貫性を持つコスメブランドは、世界で唯一無二だと思っています。


特に海外では、そのバリューが重要になると確信しているので、今後は世界を視野にさらに広げていきたいと考えています。

── 最後に養蜂家としての思いも聞かせてください。今後のビジョンはありますか?


DD 養蜂の仕事は本当にクラフトマンシップ、職人だと思っています。でも僕自身は技術を磨いていくというよりは、この養蜂の世界をもっと人に伝えていきたいんです。今も大学でも講義させてもらったりしているのですが、やっぱりまだまだミツバチや養蜂のことは知られていない。僕もこんなスタイルでやっていますし、いろんなバックグラウンドを経験した自分だからこそ、どうやったらもっとおもしろく伝えていけるかを考えています。


ただ養蜂家を増やしたいわけではないんです。それよりも、養蜂を通して自然だったりウェルビーイングだったり、さまざまな知識へと広がっていくことが大切だと思っています。例えばはちみつがアスリートに愛用されていることを知って、栄養学に興味を持ってもらってもいい。僕が伝えていくことでさらにさまざまな世界にブーストしていく、はちみつや養蜂がそのきっかけになれば、と思っています。

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● DD水谷(ディーディー・みずたに)

1993年生まれ。大正元年創業の老舗養蜂一家「水谷家」に生まれ、幼少期をアメリカで過ごす。ボストンの高校を卒業後は渡仏し、アートやカルチャー、ファッションへの関心を深める。その後イギリスに渡り、ロンドン芸術大学を卒業、同大学院セントラルセントマーチンを卒業する。卒業後は日本に戻り「HACCI」に入社。語学力や多様な文化に触れてきたバックグラウンド、独自のファッションセンスを活かし、 養蜂を通じて、新しい目線でミツバチの大切さ、はちみつの素晴らしさを発信すべく、SNSやラジオ、雑誌など、さまざまなメディアを通じて活動している。


HACCI/公式HP


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