2025.10.19
杉咲 花が人付き合いで大事に思うこと。「その人のことをわかったつもりになった時が一番危ないのかもしれない」
思慮深く役に向き合い、卓越した表現力で観る者を魅了する杉咲花さん。主演映画『ミーツ・ザ・ワールド』では、死生観について考えさせられたそうです。そんな作品のことから、趣味のドライブや焼き肉屋での好きなメニュー、人生のターニングポイントまでたっぷり伺いました。
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文/飯田帆乃香 写真/北浦敦子 スタイリング/山本マナ ヘアメイク/宮本 愛(yosine.) 編集/鎌倉ひよこ

10月24日公開の『ミーツ・ザ・ワールド』では、新宿・歌舞伎町を舞台に、擬人化焼肉漫画「ミート・イズ・マイン」が大好きな一方、自分のことは好きになれない27歳の由嘉里を演じ、新たな感動を呼んでくれそうです。
役に飲み込まれそうになり、苦しい撮影期間でもありました
杉咲 花さん(以下、杉咲) 3年前にオファーをいただいた時に一番共振したのは、希死念慮を抱えるライ(新宿で働くキャバ嬢の友人)に対して由嘉里が抗おうとする、ふたりの死生観の違いでした。相手にどんな事情があろうとも「生きて欲しい」とまっすぐ言葉を放つ由嘉里。視野が狭いとも言えるかもしれませんが、その力強い意志が、当時の自分にとても響いたのを覚えています。

杉咲 由嘉里がライにメイクしてもらうシーンはとても印象に残っています。ライ役の最終オーディションに私も立ち会わせてもらったのですが、まさにそのシーンを演じる場面があり、その時に初めて琴奈ちゃんと出会ったことが、思い出深いエピソードのひとつです。
── 漠然とした死への願いを抱えるライと接しながら、実際に由嘉里を演じていかがでしたか?
杉咲 撮影中は、ふと“自分だったらこんなふうに言えるのかな”と自問自答するような場面もあったりして。由嘉里のパワーに圧倒されていたのが、いつしか飲み込まれそうになり、撮影期間中は苦しい時間でもありました。
── 一方、歌舞伎町の個性豊かな登場人物たちも由嘉里の人生に変化を与えてくれますが、杉咲さんが好きなキャラクターは?
杉咲 (板垣李光人さん演じる)アサヒですかね。由嘉里に寄り添って肯定してくれる柔軟な考え方や、物事を一緒に楽しんでくれるピュアなところ、絶対に相手の好きなものやリズムを否定しないところが素敵だなと思います。

杉咲 それこそバイアスをかけられやすい場所だと思うんです。歌舞伎町の方には映画館がたくさんあるので、高校生の時はよく通っていたのですが、ゴールデン街のエリアは今回初めてで、少なからず私も、無事に撮影できるのかなと、最初はドキドキしていました。ですが毎日通うなかで、この街とともに生きる方々の人間模様を垣間見たり、ここにいる人の数だけドラマがあることを肌で感じて、気がついたら居心地の良い場所に変わっていきました。
── 道を一本入るだけでガラリと変わる多彩な雰囲気がありますよね。由嘉里にとって未知の世界となった新宿のように、杉咲さんが未知の世界に行くとしたらどこがいいですか?
杉咲 まだ行ったことがない海外を巡りたいです。知らない風景や文化に触れる時間は豊かだなと思うので。私はお花が好きなので、いつかお花がたくさんあるオランダに行ってみたいです。

杉咲 大好きです(笑)。好きな部位……。お肉じゃないのですが、今パッと思い浮かんだのは「長芋焼き」。あるお店のメニューなのですが、それを目当てに行きたくなるくらい絶品なんです。サイドメニューも焼肉の楽しみのひとつですよね。
運転が大好き。いつか四駆を運転するのが夢
杉咲 なにより原作の解像度の素晴らしさによる部分が大きいと思うのですが、個人的にも、現場でBLを推す方にお話を伺う機会をいただいたり、資料やSNSなどでリサーチして、色々と参考にさせてもらいました。
── 現在、杉咲さんは由嘉里と同じ20代後半ですが、30代に向けて理想の生き方はありますか?
杉咲 あんまり自分の理想の生き方を思い描いたことはないんです。自分がやってみたいことはあるのですが、それ以上に、出会えた人たちとどんな景色を見られるか、ということのほうが興味があって。プライベートも仕事も、そういう部分に時間と心も注ぎたいと思っています。

杉咲 そうですね。
杉咲 『市子』という映画です。それまでは、自分が誰よりも演じる役について理解しないといけないと考えていました。『市子』の脚本を読んだ時はとてつもなく心を揺さぶられて、深く共振したはずなのに、いざ現場に立ってみると、役のことがまったくわからなくなる瞬間や、想像からどんどん逸脱して思ってもみなかったところにたどり着く瞬間がありました。
その時に役を「分かる」ということは不可能なのかもしれない、と諦めがついたというか。でも、それは悲しいことではなく、わからないからこそ知ろうとする、想像し続ける、ということなんじゃないかと思っていて。不安定な場所に身を置くことになりますが、その感覚を持つ必要性を感じた作品だったと思います。
それは同時に、私生活の考え方にも影響しました。関わる他者に対して、その人のことをわかったつもりになった時が一番危ないのかもしれない。わからないからこそ、相手を知ろうとする努力ができると思うようになりました。

杉咲 人と一緒にいると元気が出ます。あと、ドライブをしている時も。まだ免許を取って数年なのですが、乗ってみたいクルマがたくさんあるんです。
── 憧れの車種は?
杉咲 四駆です。この間、お仕事でジープに初めて乗らせていただいた時はすっごく楽しかったです! ランドローバーのディフェンダーも憧れます。
── 大きな車体をコントロールする杉咲さんを想像すると、とても魅力的です。好きなドライブコースはありますか?
杉咲 行先を決めず思いのままに走らせて、そこで見つけた細い道に入るのが好きです(笑)。

杉咲 ありがとうございます。安全運転で頑張ります(笑)。
── 最後に、杉咲さんにとってカッコいい大人とは?
杉咲 月並みですが、感謝を伝えられる人です。私の周りにいる素敵な人たちはみんな、ちゃんと感謝を言葉で伝えているので。

●杉咲 花(すぎさき・はな)
1997年10月2日生まれ、東京都出身。2016年、『湯を沸かすほどの熱い愛』で第40回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞・新人俳優賞、第41回報知映画賞助演女優賞、第59回ブルーリボン賞助演女優賞を受賞。その後、2023年公開の主演映画『市子』では第47回日本アカデミー賞優秀主演女優賞、第78回毎日映画コンクール〈俳優部門〉女優主演賞を受賞するなど、深みのある演技に高い評価を受ける。他、主な出演作にNHK連続テレビ小説「おちょやん」、「アンメット ある脳外科医の日記」『52ヘルツのクジラたち』『朽ちないサクラ』『片思い世界』などがある。

『ミーツ・ザ・ワールド』
擬人化焼肉漫画「ミート・イズ・マイン」に全力で愛を注ぎながらも、自分のことは好きになれない27歳の由嘉里(杉咲花)。このまま仕事と趣味だけに生きていくことへの不安と焦りを感じ、婚活を始めるが合コンで惨敗。歌舞伎町で酔いつぶれていたところ、希死念慮を抱える美しいキャバ嬢のライ(南 琴奈)に助けられる。ライに惹かれた由嘉里はそのままルームシェアすることになり、この街での生活がスタートする。既婚者のNo.1ホスト・アサヒ(板垣李光人)、人の死ばかりを題材にする毒舌作家・ユキ(蒼井 優)、街に寄り添うBARのマスター・オシン(渋川清彦)といった歌舞伎町で生きる仲間たちと出会い、安らぎを覚えるが、ライのことを相談すると価値観を押し付けるのはよくないと言われてしまう。それでもライに生きてほしいと願った末に起こした、ある行動の先に待っていた結末とは……。
配給/クロックワークス
公式HP/https://mtwmovie.com/