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2025.09.23

台湾出身の名女優グイ・ルンメイさんは、あまりにも美しく気品に溢れていた!

今回のゲストは台湾出身の名女優、グイ・ルンメイさんです。真利子哲也監督の映画『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』で、西島秀俊さんと夫婦役で初共演を果たしたルンメイさんの知られざる素顔に迫りました。

CREDIT :

インタビュー/樋口毅宏 構成/井上真規子 写真/トヨダリョウ スタイリング/Fang Chi Lun、 Quenti Lu ヘア/Nelson Kuo メイク/YAO CHUNMEI 編集/森本 泉(Web LEON)

Dear Stranger/ディア・ストレンジャー グイ・ルンメイ 樋口毅宏 WebLEON
『さらば雑司が谷』『タモリ論』などの著書で知られる作家の樋口毅宏さんが、時代の先端を走る女神たちの魅力に迫る連載対談企画「樋口毅宏の手玉にとられたい!」。

今回のゲストは台湾出身の女優で、中国や香港の映画にも多数出演しているグイ・ルンメイさん。現在公開中の真利子哲也監督によるヒューマンサスペンス映画『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』で、西島秀俊さんと夫婦役で初共演を果たし、台湾、日本の両国で話題を集めています。

これまでにも日本の作品や監督からたくさん影響を受けてきたというルンメイさん。役者としてのあり方や今作への想い、人生観まで、幅広く語っていただきました。
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「こんなに素晴らしい女優さんだったとは」(樋口)

樋口毅宏さん(以下、樋口)  実は、今日はお詫びから始めたいぐらいなんです……!  僕は映画マニアを自称しているのに、ルンメイさんの映画を観たのは今作『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』が初めてだったんです。

もちろん高名は存じ上げていましたが、僕は長く韓国の映画雑誌を作っていた時期があり、アジア映画は韓国ばかり観ていました。でも今作を拝見して、こんなに素晴らしい俳優さんだったのかと驚き、ぜひお会いしたいと思い、今日に至りました。

グイ・ルンメイさん(以下、ルンメイ) そうなんですね。ありがとうございます。

樋口 そのあとに急いで、ルンメイさんの代表作である『薄氷の殺人』(2014年の中国映画)や『鵞鳥湖の夜』(2019年公開の中国・フランス合作映画)を観て、もうぶっ飛んでしまいました。遅れてきた、グイ・ルンメイブーム真っ盛りです‼

ルンメイ オオ〜(笑)。それは光栄です。
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樋口 今作は、ニューヨークで暮らす夫婦が、息子の誘拐事件をきっかけに、隠していたお互いの本音や秘密と向き合わざるを得なくなっていく……というストーリー。全編ニューヨークロケ、9割が英語でのセリフということで驚きました。ルンメイさん自身は同じ女性として、今作で描かれる夫婦の関係をどのように思われましたか?

ルンメイ 夫婦関係は、非常に複雑で難しいものだと思います。私は結婚していませんが、出演した作品には夫婦関係を探求する映画が多くありました。まったくの他人が歩み寄って一緒に家庭を作るという中で、家庭を大事にするということは、つまり自分自身をどんどん弱めていくということになってしまいますよね。

樋口 すごくわかります。

ルンメイ 今作でも、母国語が違う2人が相互理解を深めるために英語を共通言語にしてコミュニケーションをとるわけですが、どうしても分かり合えない部分が出てくる。そうすると、相手の心の中に本当に入り込むことができるのか? という疑問が浮かびます。

樋口 そうですね。
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ルンメイ こうしたコミュニケーションの問題によって、様々な隔たり、問題が生じてきます。しかも夫の賢治(西島秀俊)は、過去に束縛されながら今に向かって一生懸命頑張っている男性である一方、私が演じるジェーンは目の前のことをすごく大切にして、どうやって問題を解決して未来に向かって生きていくか? と考えている女性であり、2人の生き方は方向性もまったく違うわけです。そういうことで夫婦関係はますます大変になるんだろうと思います。

樋口 今の言葉を聞いて、古い日本映画にあった「男は自分の女の過去が気になり、女は自分の男の未来が気になる」という格言を思い出しました。

ルンメイ それは面白い言葉ですね。本当にそうかもしれません。

樋口 それから私は、今作を拝見して色々な映画を連想しました。ライアン・ゴズリングとミシェル・ウィリアムズの『ブルーバレンタイン』(2010年)やシャーロット・ランプリングの『まぼろし』(2001年)、イングマール・ベルイマンの『ある結婚の風景』(1974年)、あとスタンリー・キューブリックの『アイズ ワイド シャット』(1999年)など。自分も結婚して子供がいるんですが、今作を見ながら夫婦って地獄巡りだな〜と思いました。

ルンメイ  アハハ(笑)。
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「日本映画からたくさん学んで演技にも色々な影響を受けている」(ルンメイ)

樋口 今作はどのように出演のオファーがきたのか、また、なぜ出演をお決めになったのか教えてください。

ルンメイ 脚本を受け取って読んで、まず思ったのが非常に気品溢れる作品だなということでした。つまり監督が探求しようとしているテーマ「人間と人間の関係」や「バベルの塔」、「象徴的な人形劇」などの色々なことに興味を感じ、とても惹きつけられてぜひ出てみたいと思いました。監督とは遠距離におりましたので、最初はオンラインで脚本について色々な議論をしました。

樋口 なるほど〜。真利子監督はルンメイさんのどの作品を見て、今作のオファーを決めたのでしょう。聞いていますか?

ルンメイ これは人づてに聞いたのですが、最初に私のデビュー作『藍色夏恋』(2002年)、それから先ほどおっしゃった『薄氷の殺人』、『鵞鳥湖の夜』といった作品を観て興味をもったそうです。それで今作は台詞が全編英語でしたので、私の英語力を知るためにオンラインの会議を開いて私の英語を聞き、これなら大丈夫だろうと思ったということのようです。
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樋口 そうだったんですね! それにしても、ルンメイさんは本当にいい作品に恵まれてこられたと思います。特に『薄氷の殺人』でルンメイさんが演じたファム・ファタール、運命の女というか、人生を狂わせる女は素晴らしかったです。この映画は一連の北野武監督作品の影響下で語る人もいるかもしれませんが、武さんは女性を取り扱うのが苦手ですからね。その点『薄氷の殺人』は、本当にルンメイさんのために生まれたような映画だと思います。

ルンメイ ありがとうございます。

樋口 今作で賢治役を演じた西島秀俊さんとは初共演ですが、西島さんのことはご存知でしたか。

ルンメイ 一緒に仕事するのは初めてですけれども、西島さんの出演した『ドライブ・マイ・カー』(2021年)をはじめ、色々な作品を観て共演したいなと思っていました。こんな早くに、夢が実現したのは本当にうれしかったですね。
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樋口 『ドライブ・マイ・カー』以外にも、日本映画で好きな作品があったら教えてください。

ルンメイ たくさんあります。最近は河村元気監督が撮った映画を見ました。あとは女性監督の早川千絵監督の作品ですとか、直近では是枝(裕和)監督の映画も見ました。

樋口 すごい! 最先端を追ってらっしゃいますね。

ルンメイ 日本にはマエストロ級の映画監督がたくさんいて、これについては皆さんが詳しいと思いますのでいちいち申しませんが、私は日本映画からたくさん学んで演技にも色々な影響を受けていると思います。

樋口  そうだったんですね! これまでの日本映画は、女性を痛い目にあわせることで男の観客を満足させようという作品が歴史的に多かったんですが、『ディア・ストレンジャー』はそういう意味でも等身大の今の女性を描いた素晴らしい映画だと思います。本当に色々考えさせられました。

ルンメイ 確かにそうかもしれませんね。
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「どの役も結局、自分自身からスタートしている」(ルンメイ)

樋口 ルンメイさんは『ドラゴンゲート 空飛ぶ剣と幻の秘宝』(2011年)のようなビッグバジェットの映画から、『言えない秘密』(2007年)のようなとてもミニマムな映画まで出演されていますね。作品を選ぶ基準はどういうところにあるんでしょう?

ルンメイ そうですね、私はある意味でわがままな女優なのかもしれません。というのは、人間は歳を取っていくうちに、人生の様々な段階で色々な価値観をもちます。特に人生、あるいは命に対する考え方はどんどん変わっていきますよね。

私は仕事のオファーをいただいた時に、その時の自分が作品と同じ考え方をしていると思ったら受けるんです。また時にはこの監督と仕事してみたい、この作品に出てみたい、という気持ちで受けることもあります。とにかく物語の内容を大事にしています。

樋口 それは、すごく素敵なお考えだと思います。それにしても『ドラゴンゲート 空飛ぶ剣と幻の秘宝』の女ボスの役と、『言えない秘密』の可愛らしい、恥ずかしがり屋の主人公がどうしても同じ人に見えなかったです。

ルンメイ そうですか(笑)。ありがとうございます。
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樋口 ちなみに、今まで演じてきた役の中で一番自分に近いと思った役はどれでしょう?

ルンメイ 私の場合、どの役も結局、自分自身からスタートしていて、そこから展開していくので、どれがというのはないと思っています。ただ役によって展開の幅やレベルが違うという、それだけの話です。よく冗談で、「引退する時は今まで私が演じたすべての役柄の集大成になっているだろう」と周りの人に言うんですけれども(笑)。

樋口 そういうことなんですね。私は10年以上前に台湾を1人旅した時に、台湾のホウ・シャオシェン監督の『非情城市』(1989年)に出てきた場所を聖地巡礼したことがあるんですが、ルンメイさんは日本で行きたい映画の撮影場所などはありますか?

ルンメイ 私が若かった頃に見た岩井俊二監督の作品、中国語のタイトルは『青春電幻物話』ですね、この作品で主役の2人が大草原でイヤホンを聞くシーンがあって。その時はすごく心が痛かったんです。で、その大草原がどこにあるのかわからないんですが、今思い出して行ってみたいなと思いました。多分、北海道なんじゃないかと思います。

樋口 なるほど。それは『リリイ・シュシュのすべて』ではないでしょうか。草原ではなく麦畑。北海道ではなく栃木県のようですが、ぜひ行っていただきたいです! 今日は、これからお帰りになられるそうですね。この先、ぜひ日本の作品に出ていただいて、日本のいろんなところを見てほしいです。今日はお話しできて楽しかったです。ありがとうございました。

ルンメイ また日本に来る機会を楽しみにしています。こちらこそありがとうございました。
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【対談を終えて】

お読みいただいた通りです。日頃エラソーに映画について語っているくせに、『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』が僕にとってルンメイさんの初映画でした。

「これまで私の主演作を観たことがない⁉」

などと怒られることを覚悟しましたが、ルンメイさんは神妙な顔で頷き、極東の島国に住むおっさんを許してくださいました。ありがとうございます。

もうひとつ、反省していることがあります。

せっかく台湾の超美女スーパースターにお会いしているのです。本国台湾でも訊けないような話をどうして伺わないのか自分!

「ルンメイさんが独身でいるのは、ルンメイさんが結婚すると台湾の独身男性が次々とショック死してしまうからですか?」

とか、台湾メディアさえ訊けないような下世話な話をすればいいじゃないか! ルンメイさんと映画談義に花を咲かせる中途半端な映画オタクの俺はバカ! バカバカバカ‼

差し当たり、しばらくはルンメイさんの作品を手当たり次第見て回ります。権利関係の問題でしょうが、日本では見られる配信が少ないのでDVDレンタルを当たってみます。

マイブーム・イズ・グイ・ルンメイ!
遅ればせながら日本の布教活動に勤しみます。

樋口毅宏
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● グイ・ルンメイ


2002年にイー・ツーイェン監督にスカウトされ台湾・フランス合作映画『藍色夏恋』でデビュー。また『GF*BF』(2012年)にて、中華圏で権威ある映画賞のひとつである金馬奨で最優秀主演女優賞を受賞。その後も主演女優賞に3度ノミネートされている。ベルリン国際映画祭最優秀作品賞を受賞した、ディアオ・イーナン監督の『薄氷の殺人』(2014年)ではそれまでの可憐なイメージを裏切るファム・ファタール役を演じ、新たな一面を見せた。映画出演作にディアオ・イーナン監督の『鵞鳥湖の夜』(2019年)、リュック・ベッソン製作・共同脚本、ルーク・エヴァンス主演の『Weekend in Taipei』(2024年)など。英語、フランス語ともに堪能なことでも知られる。台湾出身の俳優の一人として国際映画界で活躍する。

樋口毅宏(ひぐち・たけひろ)

● 樋口毅宏(ひぐち・たけひろ)

1971年、東京都豊島区雑司が谷生まれ。出版社勤務の後、2009年『さらば雑司ケ谷』で作家デビュー。11年『民宿雪国』で第24回山本周五郎賞候補および第2回山田風太郎賞候補、12年『テロルのすべて』で第14回大藪春彦賞候補に。著書に『日本のセックス』『二十五の瞳』『愛される資格』『東京パパ友ラブストーリー』『大江千里と渡辺美里って結婚するんだとばかり思ってた』など。妻は弁護士でタレントの三輪記子さん。最新刊で初のノンフィクション作品となる『凡夫 寺島和裕。「BUBUKA」を作った男』(清談社)が好評発売中。雑誌『LEON』で連載した小説「クワトロ・フォルマッジ-四人の殺し屋-」も単行本化予定。
X/@byezoushigaya

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『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』

ニューヨークで暮らすとあるアジア人夫婦。ある日、息⼦の誘拐事件をきっかけに夫婦が抱える秘密が浮き彫りとなり、家族は崩壊していく。世界一の大都会の片隅で生きるうえでの、見えない人種の壁、孤独、人と人が分かり合うことの困難さなど、全世界に向けて各々の文化圏の人々に届くテーマを描いた濃密なヒューマンサスペンス映画。撮影は、多国籍のスタッフが集結し、2024年11月~12月末までオールNYロケを敢行。ブルックリンを中心に、チャイナタウンやハーレム等、リアルなNYの日常を映している。主演は、米アカデミー賞で最優秀国際長編映画賞に輝いた『ドライブ・マイ・カー』(2021年)や、A24製作のシリーズ『Sunny』(2024年)など国際的な活躍の場を拡げる俳優・西島秀俊。その妻役には、ベルリン国際映画祭の最優秀作品賞を受賞した『薄氷の殺人』(2014年)や『鵞鳥湖の夜』(2019年)に出演するなど、人気と実力を兼ね備えた、台湾を代表する国民的女優のグイ・ルンメイ。監督は、日本映画界において熱狂的なファンを獲得し、独自の道を行く映画作家・真利子哲也。
公式HP/https://d-stranger.jp/

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