2024.10.27
磯村勇斗×黒木 華の共通点「友達の輪は広げない。人類皆友達ではありません!」
戯作者・滝沢馬琴の生涯と代表作「南総里見八犬伝」のストーリーが虚・実入り混じって展開される話題の映画『八犬伝』(全国劇場にて上映中)で共演した磯村勇斗さんと黒木 華さん。初共演で夫婦役を演じた二人の共通点とは?
- CREDIT :
文/浜野雪江 写真/内田裕介 スタイリング/笠井時夢(磯村)、Yuriko E(黒木) ヘアメイク/佐藤友勝(磯村)、下永田亮樹(黒木) 編集/森本 泉(Web LEON)
馬琴はどうしようもなくアーティストなんだろうと思います
磯村勇斗さん(以下、磯村) 僕は黒木さんがデビューされた時から、ずっと映画やドラマを含め、黒木さんのお芝居を拝見していたので、今回ご一緒できるのをとても楽しみにしていました。僕の中で黒木さんはもう、ホントにすごい方。現場でご迷惑をおかけしないように、芝居を頑張ろう!と思っていました。
黒木 華さん(以下、黒木) (笑)。私も、磯村さんが出てらっしゃる映画やドラマをいろいろ拝見していました。ヤンキーっぽい役から、ちょっと小悪魔的な同性愛者の青年役まで、本当にさまざまな役をなさっていて、引き出しの多い方だなと思っていたので撮影が楽しみでしたね。
磯村 僕が演じた宗伯は、尊敬する父・馬琴の願いを受けて、医者を目指しながら父の執筆を手伝います。
お路さんとは、芝居の中でもそれほど会話が多い役同士ではなかったのですが、病弱な自分をどんな時も優しく包み込んでくれている妻がいる、という心強さを常に感じていたし、それが宗伯の支えにもなっていました。
黒木 ならばよかったです。お路は多くを語らずとも、すごく熱のある人。滝沢の家に入った以上、例えつらいことがあっても、自分も耐え忍ぼうという覚悟はあったのかもしれません。宗伯さんや馬琴さんをはじめ、皆さんを見つめる役割が多かったので、撮影中は皆さんの芝居をとにかくずっと見ていました。
磯村 宗伯としては、子供の頃から父と母の関係性を見てきて、本当に両極端な両親のもとに生まれてきたんだなというのは常に感じていました。宗伯は父の一番の理解者で、どちらかというと父の側についているので、父に向ける母の暴言があまりに酷い時には、母に怒りをぶつける場面もありましたし。
けれども、表向きは一方が文句を言い続けるいびつな関係であっても、夫婦として長く続いてきたということは、やはり二人の間にはちゃんと愛があっただろうし、その温かさを僕は現場でお二人を見ていて感じました。
磯村 んふふ(笑)。
黒木 旦那さんは旦那さんで、ちょっと頑固な部分も見えますし。それは、尊敬するお父さんを見て育ってきたからというだけでなく、ご両親の気質をそれぞれ引き継いでいる部分もあると思うんです。
それに、私は馬琴とお百のあの関係はすごくいいなと思います。関係性が出来上がっているからこそ、お百も文句を言いながらも家庭を支えているし、きっと馬琴もその思いに気づいている。けれども、たぶん馬琴はどうしようもなくアーティストなんだろうなと思います。
そんな馬琴を、愚痴を言いつつも支えるお百のいじらしさを、私はお路として見ていてすごく可愛いなと感じました。とても愛情のある家族だと思います。
磯村 (頷く)。
磯村 僕はそれほど友達の輪を広げるタイプではなくて、例えば現場で共演した俳優さんとも、自分とフィーリングが合ってぐっとハマったら、とことん長く仲良くしていく感じです。なので、浅く広くというよりは“深く狭く”という人間関係の作り方をしてきている気がしますね。
もちろん同じ俳優同士であれば、仕事面での刺激ももらいますし、たまにご飯に行って、相談ごとや、お互い不安に思うことなども話して、アドバイスをし合うこともあります。
例えば10年程会えていない学生時代の友達にも、 (地元の)大阪に帰る時に連絡したりしなかったり。それでも会えば「元気?」みたいないつもの関係に戻れます。どっちの友達も大切ですね。
虚と実がシンクロしていくその描き方が面白かった
磯村 僕は作品としての小説をちゃんと読んできたわけではないのですが、確か中学の歴史の教科書にも出てきたし、なんとなくの大枠は知っていました。まさにファンタジー小説の先駆けでもあり、非常に男の子が好きな内容だなと思って見ていましたね。
黒木 私は確か小学生の頃に、課題図書か何かで学校にあった本で読んだ気がします。物語を読むのは当時から好きで、磯村さんもおっしゃったように「八犬伝」はその先駆け。
しかも、八犬士が集まり悪を倒すというストレートにカッコいいお話だったので、ワクワクしながら読んだと思うし、だからこそこうして、200年近く経った今でも映画になるようなお話なのだと思います。
黒木 撮影は別々に撮っていて、我々のほうは割と地味な空気感の中で進みましたが、「虚」のパートの撮影現場を少し見に行かせていただいたら、こちらとはまったくトーンが違っていて。さらにVFXが駆使された初号試写を見た時には、「こんなことになってたの!?」という驚きがありました。
磯村 僕も「虚」の部分に関しては台本上の文字でしか知らなかったので、実際に映像を見て、「こんなに派手に出来上がってたんだ!」とびっくりしましたし、虚と実がシンクロしていくその描き方もやはり面白かったです。
磯村 「虚」のファンタジーの部分だけでなく、「実」が混じって物語をけん引するところは、今回の映画の本当に新しいところなので、僕は宗伯として、実の世界で生きてきた証やそのリアリティをいかにしっかり残すかを強く意識しながら、現場では、父である役所さんの背中や空気感を見て過ごしていました。
磯村 いやもう、すっごく緊張しました。特に父の馬琴は役柄的にも宗伯にとって怖い存在ですし、さらに馬琴の眉毛がとても凛々しくて、より役所さんがものすごい迫力に見えたんです(笑)。
内野さんとは、違う作品でもご一緒していますけれど、(ともに同性愛者を演じた時とは)まったく違う北斎としての佇まいでしたので、あのすごい先輩お二人に囲まれて若造を演じるのは非常に緊張しましたし、刺激がありました。
でも、お二人はとても気さくで、時代劇の所作を教えてくださるなど温かく迎え入れてくださって、本当に贅沢な時間を過ごすことができました。
日常生活の中で、どこか役に引っ張られている時もある
黒木 まずは旦那さん(宗伯)の気持ちを引き継ぐという思いがあったと思います。そしてお路自身も密かに「八犬伝」を読む中で、この物語に込められた“正義は勝つ”という希望は人々にとって必要だという気持ちがとても大きかったと思うんです。もちろん、自分も続きを読みたいとも思っただろうし。
さらに、家族の一員として馬琴さんの思いを一番近くで見てきて、自分ができることを何かやらなければならないと感じ、それがやがてお路の使命にもなったと思うんです。だからあそこまで食らいついて、馬琴さんが途中、何度も諦めようとされた時も、なんとか書き上げてもらおうと努めることができたのだと思います。
黒木 う~ん……役に影響されるということが私にはあまりなくて。多少、影響されていることもあるのかもしれないですけど、自分の中ではあまり感じたことはないです。常に冷静な部分が保たれているのは、割とフラットにいるように心がけているからかもしれないです。
演じることについても、私は自分で役を作っていくより、現場で皆さんとお芝居を合わせてその場で生まれるものや、監督が求めるものを受けて、やり取りの中で出来上がっていくほうが好きなんですね。自分でかっちり作っていかないぶん、役と自分を行ったり来たりという感覚もあまりない気がします。
ただ、重たい役をやっているからといって、私生活まで暗く落ち込んでしまうと、思うように撮影ができなくなってきますので。何か準備をしたとしても、撮影では全部捨てて、僕も現場で生まれるものを大切にするようにしています。
黒木 磯村さんは切り替えるタイプ?
磯村 いや、特になくて。衣装を着たりヘアメイクをするうちに、「始まるな」という感じにはなりますけど、自分で何かやるということはないですね。
黒木 たぶんそれも人それぞれで、説明が難しいのですが、確かに衣装さんやメイクさんに外側を作ってもらった時に、仕事スイッチというものがあるのだとしたら、それが入って、役柄の人物にどんどん寄っていきます。
そして撮影が終わって外側を剥いだらもう自分、というのはあるかもしれないですね。あと、終わった後にビールを飲むとか。
黒木 いいですね♪
黒木 華(くろき・はる)
1990年3月14日、大阪府出身。10年にNODA・MAP番外公演「表に出ろいっ!」でデビュー。14年にベルリン国際映画祭にて『小さいおうち』で日本人女優最年少での銀熊賞、『浅田家!』(20)で第44回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を受賞。主な出演作は、『リップヴァンウィンクルの花嫁』(16)、『日々是好日』(18)、『先生、私の隣に座っていただけませんか?』(21)、『せかいのおきく』(23)、『ほつれる』(23)、『キリエのうた』(23)、『ゴールド・ボーイ』(24)、『青春18×2 君へと続く道』(24)など。待機作には主演作『アイミタガイ』がある。
磯村勇斗(いそむら・はやと)
1992年9月11日、静岡県出身。ドラマ「仮面ライダーゴースト」(15・16/EX)で注目を集め、その後、NHK連続テレビ小説「ひよっこ」(17)で一躍脚光を浴びる。22年に『ヤクザと家族 The Family』(22)、『劇場版 きのう何食べた?』(21)で第45回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞し、『月』(23)で第47回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞。主な出演作には、『東京リベンジャーズ』シリーズ(21、23)、『前科者』(22)、『PLAN 75』(22)、『ビリーバーズ』(22)、『最後まで行く』(23)、『波紋』(23)、『渇水』(23)、『正欲』(23)などがある。待機作には主演作『若き見知らぬ者たち』がある。
『八犬伝』
山田風太郎の小説「八犬伝」を、『ピンポン』などの曽利文彦監督が実写映画化。里見家の呪いを解くため運命に引き寄せられた8人の剣士たちが戦いを繰り広げる物語の「虚」の世界と、その作者である江戸時代の戯作者・滝沢馬琴を巡る「実」の世界を交錯させながら描く。
人気作家・滝沢馬琴は、友人の絵師・葛飾北斎に、構想中の物語「八犬伝」を語り始める。8つの珠を持つ八人の剣士が、運命に導かれるように集結し、壮絶な戦いに挑むという壮大にして奇怪な物語に、北斎はたちまち夢中になる。そして、続きが気になり、度々訪れては馬琴の創作の刺激となる下絵を描いた。北斎も魅了した物語は人気を集め、異例の長期連載へと突入していくが、クライマックスに差しかかった時、馬琴は失明してしまう。完成が絶望的な中、義理の娘から「手伝わせてほしい」と申し出を受ける──。
滝沢馬琴を役所広司、葛飾北斎を内野聖陽、八犬士の運命を握る伏姫を土屋太鳳、馬琴の息子・宗伯を磯村勇斗、宗伯の妻・お路を黒木華、馬琴の妻・お百を寺島しのぶが演じる。他に栗山千明、渡邊圭祐、鈴木仁、板垣李光人、水上恒司、河合優実、立川談春らが出演。
全国劇場にて上映中
HP/映画『八犬伝』公式サイト
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