2023.06.03
堀江貴文「凡人こそ、節操なくいろんなことに手を出しまくるべき」
多くの人は「営業」や「経理」、「自動車業界」や「IT業界」といった1つの領域でキャリアを積みがちだが、その道で第一人者になれる保証なんてない。「経理を熟知した営業マン」とか「自動車業界を知り尽くしたエンジニア」というふうにスキルや知識のかけ算をしたほうが、自分の信用資産を高めることができる!
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文/堀江貴文(実業家)
そんな堀江氏が旧来の価値観から新しい条件に変わったと主張する「信用」をメインテーマにした初の著書『信用2.0』から一部を抜粋・再構成して紹介します。
堀江貴文という人間は何者?と言われるが……

「あっちこっちに節操なく手を出して、胡散臭い」
ぼくはよくそんなふうに言われることがある。
無理もないことかもしれない。パッと思いつくだけでも、ぼくはかなりいろいろなことに手を出しているからだ。
・ 宇宙ロケット開発 ─ インターステラテクノロジズ(IST)
・ YouTube配信 ─ ホリエモンチャンネル
・ サロン運営 ─ HIU(堀江貴文イノベーション大学)
・ 飲食プロデュース・出資 ─ TERIYAKI/WAGYUMAFIA/小麦の奴隷
・ トークアプリ開発 ─ 755
・ 通信制高校主宰 ─ ゼロ高等学院
・ ミュージカル主演 ─ クリスマスキャロル
これでもほんの一例である。ほかにも、ここには書き切れないほどたくさんのことにぼくは首を突っ込んでいる。
堀江貴文という人間は何者なのか。定義するのは難しい。もはや何が本業なのかはぼくにもよくわからなくなっている。
世の中には「何か1つのことに集中し、それを極めた人ほど信用できる」と考える人がたくさんいるようだ。
逆に、たくさんのことに広く浅く関わり、あちこちに手を出している人間は、ちょっと低く見られるような風潮がある。そういう人は信用に値しないというわけだ。
でも、その考え方は危険だと思う。思わぬチャンスが訪れたときに、また、面白いと感じるような未知の領域に出合ったときに、「それは自分の本業ではないから」とか「私の専門分野ではないので」などと言ってスルーすることを繰り返していれば、その人の信用資産は枯れ果てていくからだ。
「専門性を極めた信用できる人」と「専門バカ」は違う
その結果として生まれるのは「専門性を極めた信用できる人」ではない。
むしろ、たいていの人は「信用するに値しない専門バカ」に成り下がる。
ぼくは自分が好きなこと、ちょっとでも面白いと思ったことには、かたっぱしから手を出していくようにしている。
ながらく興味を持っていることもあるが、ずっと同じことにしがみつくことはしない。興味の赴くままに、後先考えることなく首を突っ込む。これがぼくのマインドセットだ。
そもそも、「その道一本」で大成できる人なんて限られている。
たとえば「会計の世界で第一人者になろう」と思ったら、10人に1人や100人に1人なんてレベルではなく、1万人に1人くらいにならないと話にならない。そこまで極めて初めて「その道の第一人者」として信用されるようになる。こんな人はごくひと握りの数だ。
1つのことに集中したからといって、そこで第一人者になれる保証なんてどこにもない。それなのに、だれもが1つの分野でコツコツと努力をして、信用を蓄えていこうとする。
このような「たし算」的な積み上げは、よっぽど自分の才能を確信しているのでもないかぎり、なかなか実を結ばない。
たとえば、日本には膨大な野球人口があるが、プロ野球の選手になって一軍で活躍したり、メジャーリーグに行けたりするのは、ごくごく一部の人だけだ。
もともととんでもない才能を持っている人たちが「ものすごい努力=たし算」をすることによって、考えられないようなレベルに到達しているのがプロの世界だ。
凡人が「努力」だけによって、彼らと同じだけのパフォーマンスを上げようとするのは、どだい無茶な話である。
では、そんな「選ばれし人」以外の人が、自分の価値を高めるには、どうすればいいのだろうか?
答えは1つしかない。「かけ算」である。
「かけ算」という武器
多くのビジネスパーソンは「営業」とか「経理」、あるいは「自動車業界」とか「IT業界」といった1つの専門分野、1つの領域に留まったままキャリアを歩もうとしがちだ。
しかし、これでは自分と同等のスキル・知識を持った人は、山ほど存在することになる。あなたの信用資産は高まるどころか、大勢のなかに埋もれていく一方だ。
もし、ここで「かけ合わせ」ができれば、どうだろうか?
たとえば、「経理のことを熟知した営業マン」とか「自動車業界を知り尽くしたエンジニア」という具合にスキルや知識のかけ算をした瞬間、自分と同じような属性を持った人の数を大幅に減らすことができる。
このロジックを見事に磨き上げたのが、教育改革実践家・藤原和博さんが語る「100万人に1人の存在になる方法」である。
藤原さんによれば、だれでもある分野に1万時間をかければ「100人に1人」の人材にはなれるという。
ある1つのことに毎日6時間ほど打ち込み、そのまま5年間が経過すれば、その人はその限られた分野における「トップ1%人材」にはなれるというのである。こうして、世の中には「100人に1人の営業マン」「100人に1人のドライバー」がたくさん生まれている。
しかし、彼らのバリューが注目されることはない。
なぜなら、その人の周りで働いている人たちも「100人に1人の営業マン」「100人に1人のドライバー」だからである。
そのなかで、さらにトップ1%を目指そうとすれば、相当の才能と努力が必要になる。ここでひたすら「たし算」の道を進もうとするのは、はっきり言って「悪手」である。
藤原さんがそこで勧めているのが、それとは別の2つの分野でも「100人の1人の人材」になるということだ。つまり、合計3分野での専門性を身につけるわけである。
これを実践すれば、「分野Aで100人に1人」×「分野Bで100人に1人」×「分野Cで100人に1人」というかけ算によって、だれでも「100万人に1人の人材」になることができる。
これはまさしく「オンリーワン」の人材だと言っていいだろう。
凡人には凡人の戦い方で
しかし、現代において影響力を持っているのは、藤原さんが言うように、複数の分野で「そこそこのレベル」の専門性を身につけ、それをかけ算することによって価値を生み出している人である。
逆に、そうしたかけ算の発想を持てない人は、積み上げた努力のわりに、なかなか人々の信用を集められずに苦しんでいるのである。
もちろん、かけ算の「項」は3つ以上であってもいい。
ぼくのように、かけ合わせる分野をどんどん増やしたっていいのだ。
もしあなたが「自分にはかけがえのない特別な才能がある」と確信しているのなら、そのまま努力をすればいい。
しかし、もしそうでないのだとすれば、「凡人こそコツコツ努力」という俗説にダマされてはいけない。むしろ、凡人こそ、節操なくいろんなことに手を出しまくるべきなのだ。
そうやって「かけ算」を繰り返していくことだけが、ぼくたちが天才に太刀打ちできる唯一の手段なのだから。
専門性は1つでなくていい。節操なくいろんな分野に手を出そう。