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2023.01.14

中尾明慶「人生、ときに逃げたっていい。一度立ち止まって、ゆっくりして、また歩き出せばいい」

異才・三浦大輔監督の舞台『そして僕は途方に暮れる』が監督自身の手で映画化されました。舞台に次いで映画にも出演した中尾明慶さんに、過酷だったという撮影のエピソードとともに、これまでの俳優人生で「逃げたかった」ことについて伺いました。

CREDIT :

文/鳥海美奈子 写真/内田裕介(Ucci) スタイリング/清水勇一 ヘアメイク/加藤由紀 編集/森本 泉(LEON.JP)

中尾明慶 LEON.JP
俳優として作品のスパイスとなるような演技で替えがたい存在感を示す一方、近年はマニアックな趣味や息子さんとの日常などを公開するYouTuberとしても人気の中尾明慶さん。この度、2018年に出演した話題の舞台『そして僕は途方に暮れる』が作・演出家・三浦大輔、自らの手で映画化され、中尾さんも舞台と同じ配役で出演を果たしました。

フリーターの菅原裕一(藤ヶ谷太輔)はほんの些細なことから、恋人や親友、家族などあらゆる人間関係を断ち切っていきます── 。逃げ続けた先で彼を待ち受けるものとは? そんな逃避劇で主人公の親友・伸二役で出演した中尾さんに、作品の見どころや自らの俳優人生で「逃げたかった」ことについて話を伺いました。

舞台の時は千秋楽までダメ出しが続いて、まさに1000本ノックという感じ

── 2018年に上演され、絶賛を浴びた三浦大輔さん作・演出の舞台の映画化です。当時の舞台の思い出を聞かせてください。

中尾 三浦さんはその時、舞台らしくないこと、なるべく新しいことをやりたいと仰っていたんです。だから表現もできるだけ抑えて、セリフも日常会話のような感じで声を張り上げずにやりました。すべてが新しい挑戦だったから、すごく刺激的でしたね。ただ稽古が終わって本番が始まってからも、千秋楽までずっと誰かしら、何かしらダメ出しを食らっていて、まさに1000本ノックという感じでした(笑)。

── 三浦さんは“人間のリアル”に深く切りこむ厳しい演出で知られますが、その洗礼を受けたわけですね。

中尾 「次は三浦さんと舞台やるんだ」と言ったら、いろんな役者さんからも「えっ。大変だよ、マジで」と言われて、実際にお会いするまではもう心臓バクバクでした。ただ、僕が知りあった頃の三浦さんは少し役者に優しい“バージョン2”になっていたんです(笑)。「俳優さんを信用してみようと最近、思えるようになった」と仰っていて。三浦さんの15年ほど前の作品『愛の渦』は、舞台も映画も有名ですが、当時の役者さんたちはものすごく大変だったと聞きますからね。
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中尾明慶 LEON.JP
── 改めて、映画化という作業はいかがでしたか。

中尾 舞台は出てしまえば役者のものというところがありますが、映画は何度でもテイクできますよね。演技だけでなく、アングルひとつ、雪景色ひとつ、三浦さんの中では自分にしかわからないニュアンスや感性、納得の仕方というのがあって。我々はもうそれを信じてやっていくという感じでした。バージョン2になった三浦さんではありましたが、OKが出た時に、あんなに安心する組ってないですよ(笑)。

── やはり大変な撮影だったと(笑)。

中尾 撮影というよりは、ほぼ稽古でした。でも、その作業がめちゃくちゃ楽しいんですよね。普通はある程度の経験を重ねると、自分でできることが増えてきて、その範囲内で演技をやってしまう。でも、三浦さんとの仕事はそうではない部分があるから面白い。最も信頼している監督のひとりといえます。

── 主演の藤ヶ谷さんも、かなり追い込まれた感じが映像からも伝わってきました。

中尾 撮影に行くたびにヤツれていくので、大丈夫かなぁと(笑)。「中目黒で雨の中、自転車をこいで、何回も転んだ」と言っていましたが、もう「がんばってください」としか答えられませんでした(笑)。自分だったら、そのまま自転車で逃走してしまうかも、と。でも藤ヶ谷くんはそこでも一切の弱音を吐かずに真摯に向きあっていたので、心の底から感心しました。

── 藤ヶ谷さんとは絡みの芝居も結構ありましたが。

中尾 演技という意味では、藤ヶ谷くんはこちらのリアクションひとつひとつをきちんと受け止めてくれる感覚があるんです。だから僕も自然体で、安心して演技させてもらえました。なんか呼吸が合うんですよね。
── 前田敦子さんも、舞台と同じ役で出演されていますね。

中尾 僕はそれほど同じシーンはなかったんですが、素敵でしたよね。決して和気あいあいという現場ではないけれど、それぞれがきちんと仕事をしてひとつの作品をつくりあげたから、強い絆や結束力が生まれたように思います。
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中尾明慶 LEON.JP

逃げることは、人生をより良くするためのひとつの選択

── 今回の作品は主人公が世の中との接点をすべて断ち切って「逃げる」ということがテーマになっています。10代前半から芸能界で仕事をされてきた中尾さんですが、「逃げたい」と思った経験はありますか。

中尾 17~18歳くらいの時に逃げたいというか、本気で芸能界を辞めたいと思ったことがありました。周囲の友人は遊んだりバイトをしたりと、高校生ならではの青春を謳歌していた。でも自分は高校にも行かず、ずっと大人たちに囲まれて、それこそ毎日いっぱいダメ出しされて。現場に行きたくない、辞めたいと思ったこともあって、親にも相談しました。

── それでも続けられたのは、なぜですか。

中尾 その頃、たまたまある作品で堤真一さんとご一緒したんです。そうしたら、「お前、あのシーンよかったよ」とすごく褒めてくださって。それまでは怒られてばかりだったから、大先輩にそんなふうに言ってもらえて、もう少し頑張ってみようかなと素直に思うことができた。そこからは迷いなく、ここまでやって来られた感じです。その後、友人たちが社会に出て壁にぶつかったりした時は、逆に自分はある程度の社会経験もあったので、話を聞いてあげることができました。
── 継続するために必要なことはなんだったのでしょうか。

中尾 僕たちの仕事って、ひとつの作品が終われば、ひと区切りつきますよね。自分がどれだけあがこうと、苦しもうと、いつか終わると思えるから、逆にその一瞬一瞬にベストを尽くしてやるしかない、というところがある。そうやって、大変でも続けてこられた部分はあると思います。でも例えばサラリーマンで、その会社にいると苦しいとかしんどいと感じるのだとすれば、僕は逃げてもいいと思うんです。事実、自分は人から相談された時に「その会社辞めたほうがいい」と言ったことがありますし。
── 長い人生、ときには逃げてもいい、と。

中尾 全然、いいと思いますよ。自分で解決できない会社の組織や人間関係で苦しみ続けるなんて意味ないし、せっかくの自分の人生が、つまらないものになってしまいますよね。それはただ逃げるというより、人生をより良くするための選択なんじゃないでしょうか。一度立ち止まって、ゆっくりして、また歩き出せばいい。

僕には息子がいますが、子供に対しても、同じように考えています。まだ幼いから、今は「やめたい」と言われると「じゃあ、ここまでやってみて、ダメだったらやめよう」と言ってますけれど、自分で選択できるようになったら本人の意思に任せます。大人か子供かなんて、関係ない。自分の人生だから、自分で決めればといいというのが僕の考えですね。
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── この映画のラストで、ショックな出来事があった主人公が、あえて「面白くなってきたぜ」と自分を奮い立たせるようなセリフがあります。中尾さんの中にも、そんなふうに逆境を楽しむ気持ちはありますか。

中尾 よくピンチはチャンスといいますよね。でも、どうなのかな……、ピンチはピンチですよね(笑)。本人はピンチだけど、もうひとりの自分が「面白くなってきた」と言えるのは、どこかで自分自身を客観視できていないと無理なことだと思います。

だけど、スリルがあるから生きてる実感が湧くところもあるかもしれない。例えば三浦さんの舞台の話をいただいた時も、数々の伝説を耳にして超恐かったけれど、出演すると決めた。あえて茨の道のほうに進んでいくというのもひとつの選択だし、そのほうが面白いというのもありますよね。
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できるだけ自然体でカッコつけない、普通のおじさんになりたい

── 釣りやクルマやバイクなど、多趣味で知られる中尾さんですが、今後やりたいことはありますか。

中尾 釣りもクルマも、とりあえず趣味に関しては全部、極めたいです。今は毎日Amazonでルアーが届くので、それを眺めながらW杯サッカーを観て、またルアーを眺めて、といった感じで日々楽しんでいます。仕事では、最近はYouTubeで企画を考えて、再生回数を狙いに行くということをやっているんです。それも正直、大変な部分もあります。僕がデビューした頃はテレビしか選択肢がなかったけれど、海外の作品とかネット配信とか、今はさまざまなことにみんな挑戦していますよね。それは本当に大きな変化で、周囲に声をかけて、何かものづくりもやってみたいですね。

── 俳優としてはどうでしょうか。

中尾 僕ら役者は、ひとつの映画を作るための費用がどれだけかかって、興行収入がどれくらいになれば利益が出るのか、という数字を知らなすぎる部分があると思うんです。今後はそういうところにもより関わっていきたいな、と考えています。そこを背負うことによって作品への思い入れも変わっていくと思うし、よりいいものがつくれるんじゃないかな、と。撮影が終わって、「じゃあ、これで。お疲れ様でした」だけで終わるのはあまりにクールすぎるな、と最近は考えるようになりました。
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── そう思うようになったきっかけは何ですか。

中尾 年齢的なことが大きいんじゃないでしょうか。大きな意味でのものづくりにもう少し踏み込んでみたいし、それがわかったほうが絶対に面白い気がするんです。正解というのは何かわからないし、迷うことも多いけれど、ひとつの作品に対する熱というのは確実に上がると思います。

── 最後に、中尾さんが考える「カッコいい大人」について教えてください。

中尾 いろいろなカッコよさがあるとは思いますが、僕にとっては頑張ってない、自然体だけれど、やるべきことをやっている人ですね。そうでありながら、なぜか周りに人が集まっている、というのが理想的です。「やってます」というのを前面に押し出すと周囲も気を遣ってしまうし、そうではない感じに憧れます。僕自身も本来、「俺についてこい!」というタイプではないので。将来の夢は、できるだけ自然体でカッコつけない、普通のおじさんになることですね。
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● 中尾明慶(なかお・あきよし)

1988年6月30日生まれ、東京都出身。A型。2001年に「3年B組金八先生」(TBS)に出演し、注目を浴びる。その後、数多くのドラマや映画などで活躍。近年の主な作品にドラマ「監察医 朝顔」・「PICU 小児集中治療室」(フジテレビ)、「六本木クラス」(テレビ朝日)、「闇金ウシジマくん外伝 闇金サイハラさん」(MBS)、「First Love 初恋」・「ぐでたま~母をたずねてどんくらい~」(Netflix)、映画「キャラクター」、「ウェディング・ハイ」、舞台「そして僕は途方に暮れる」などがある。また月~木曜に放送中の「プチブランチ」(TBS)ではMCを務めている。
YouTube公式チャンネル「中尾明慶のきつねさーん」は登録者数66万人を超える。

中尾明慶 LEON.JP そして僕は途方に暮れる

『そして僕は途方に暮れる』

平凡な1人のフリーターが、ほんの些細なことから、あらゆる人間関係を断ち切っていく、人生を賭けた逃避劇。逃げ続けたその先で、彼を待ち受けていたものとは── 。脚本・監督を務めるのは、『愛の渦』『娼年』など、毎回賛否が渦巻く衝撃作を世に送り出し、各界から注目を集め続けている異才・三浦大輔。主人公・菅原裕一を演じるのは、Kis-My-Ft2の藤ヶ谷太輔。他に、前田敦子、中尾明慶、豊川悦司、原田美枝子、香里奈、毎熊克哉、野村周平ら、個性的で魅力溢れるキャスト陣が集結。
2023年1月13日よりTOHOシネマズ日比谷他にて全国ロードショー
HP/『そして僕は途方に暮れる』公式サイト

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