2021.09.04

2023年にネット広告の精度が「ガタ落ち」する!?

ネット閲覧中に、訳もわからず「クッキーに同意」した人は多いはず。そんなクッキーの第三者提供を、Googleが2023年に廃止すると発表。それによって訪れる、今や総広告費約6.2兆円の約4割を占めるネット広告の新時代とは?

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文/広瀬安彦(野村総合研究所 データサイエンスラボ 上級研究員)

記事提供/東洋経済ONLINE
「閲覧を続ける場合、Cookie(クッキー)の使用に同意したものと致します」——。

インターネットでサイトを見ている時、このような文言が表示されたことがある人は多いのではないだろうか。そして訳もわからず「同意した」ことになっている人も少なくないだろう。

クッキーとは、スマートフォンやパソコンでインターネットを閲覧するためのSafariやChromeといったブラウザに「自動的に埋め込まれる」情報であり、ウェブサイトで検索・閲覧・購買といった行動が「知らないうちに」個人(ブラウザのID)と紐付けられ、「勝手に」広告関連業者の間で流通しているものだ。

たとえば、クッキーを使えば、「通販サイトでYシャツを買い物カゴに入れた30歳代の男性」といった、具体的な人物と行動履歴を追跡したデータを広告主は入手できる。
写真提供/shutterstock

「クッキー=個人情報」で規制強化へ

しかし、欧州や米国の一部ではクッキーを個人情報だと断定し、第三者への提供を禁止した法律が施行されている。そしてクッキーを規制する動きは、全世界に波及しようとしている。

実際、Googleは2023年にクッキー(cookie)の第三者提供を廃止すると発表した。

このことにより、個人を「ほぼ特定」して出せていた、いわゆる「ターゲティング広告」が事実上不可能になる。つまり、消費者の個人情報は守られるようになるが、企業は「簡便かつ安価に」得られていたマーケティング情報が得られなくなる。そのため、「クッキーレス時代」を意識したマーケティングへの大転換を迫られている。

2019年、日本のインターネット広告費は、長年首位だったテレビ広告費を初めて超えた。それどころか、2020年には総広告費約6.2兆円の約4割(36.2%)を占め、マスメディア4媒体(テレビ、ラジオ、新聞、雑誌)の合計(36.6%)に並んだ(電通「2020年 日本の広告費」より)。

インターネット広告は、ユーザの性別や年齢といった属性や、インターネット上で検索・閲覧した履歴などの情報もとに、ターゲットを絞って広告を表示することができる。

そして広告の先にある商品購入や会員登録ページなどに誘引できた時のみにしか費用が発生しないことや、予算に応じて広告の出し先や量を細かく選択できることなどが、広告主である企業からここまで重用されるようになった理由だ。
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クッキーは業者間で流通

サイトで自動的に吸い上げられたクッキーは、ネット広告やマーケティング業者の間で流通される。これは「サードパーティークッキー」と呼ばれる。一度インターネットで閲覧した商品が、別のサイトに移動しても「追いかけるように」表示されるのは、このためだ。

個人情報の取り扱いに厳しい欧州は、サードパーティークッキーの勝手な流通は、個人情報の不正な第三者提供にあたると断じて「EU一般データ保護規則(GDPR:General Data Protection Regulation)」を定めた。

GDPRでは、クッキーなどの仮名化された情報であっても、個人情報であることに変わりがないとしていて、利活用したいのであれば、「ユーザから能動的な同意を取ることが必要」と明言している。

今後は、冒頭のような「サイトを閲覧し続けることで取得されたクッキーが第三者に提供されることを了承したことになる」という「よくある」やり方は違法になる。

米国のカリフォルニア州でも、CCPA(California Consumer Privacy Act)というGDPRと類似した法律がすでに施行されており、米国全体で適用される連邦法にその内容が組み込まれる可能性が高い。

この世界的な規制の動きに素早く反応したのがプラットフォーマー、その中でもサードパーティークッキー関連情報の「大口提供者」であり、Safari、Chromeいうブラウザで世界シェアの約9割を占めるAppleとGoogleだ。AppleはすでにSafariでのサードパーティークッキーによるサポートを2020年3月に廃止しており、Googleも2023年を目処に廃止する予定である。

まさにクッキーレス時代の到来である。

クッキーレスがインターネット広告を出稿する企業にもたらす最大の打撃は「見込み客が見えなくなる」ことである。

広告を出稿する企業の多くはサードパーティークッキーを活用し、インターネット広告事業者などを通じて、インターネット上の行動履歴データを「広告サービスの一環として」得ている。

サードパーティークッキーを使えば、広告を通じてユーザを商品販売サイトなどにどれくらい誘引できたのか、誘引してどれくらいの時間滞在してもらえたのか、その結果どれくらい販売に繋げることができたのか、といった数値が自動的に取れる。だから、どのプロセスに課題があるかも一目瞭然である。

しかし、クッキーでユーザと行動をセットにしてサイトをまたいで追えなくなれば、自社のサイトを訪問しそうなユーザはもちろん、頻繁に訪問しているユーザすら、今までのように簡単に判別できなくなる可能性が高いのだ。

クッキーを代替する技術としては、スマートフォンやパソコンといった機器とブラウザの設定情報などをもとに独自のIDを生成するものなどがあるが、ユーザを特定する精度や活用の利便性において、今のところクッキーには及ばない。

クッキーレス時代のインターネット広告は、テレビや新聞などの「マス広告」と、効果測定の精度がそれほど変わらなくなることを覚悟しなければならない。
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FacebookなどSNSは別格

ただし、実名で多くの会員を持ち、会員が投稿や意思表明した「リッチな」情報をもとに広告を出せるFacebookとLINEなどSNSは別格であり、クッキーレス化から受ける影響を軽微に抑えるであろう。

だからこそ予想されるのは、クッキーレス化で行き場を失った「今まで通りユーザを特定したい」広告主が殺到し、広告枠の高騰することである。

クッキーレス時代にインターネット広告を出したい企業は、「精度の低い広告」か「精度は高いが費用も高い広告」の二者択一を迫られる。

クッキーレス化で「ゲームのルールが変わる」ことをご理解頂けたであろうか。

本格的なクッキーレス時代を迎える前に、インターネット広告を活用する企業が取るべき方策は、サードパーティークッキーを使わない広告手段への早期かつ段階的な移行である。

その手段とは、「コンテキストマッチング」というインターネット広告の技術である。

コンテキストマッチングとは広告の先にあるコンテンツの文脈(コンテキスト)を把握して適合(マッチング)させることを意味する。コンテキストマッチング広告は、広告と広告の掲載先、広告によって誘引するサイトとの相性を分析して、広告主の希望するターゲットにマッチングする手法である。広告および広告が露出するコンテンツ(記事やコラムなど)と、広告によって実際に誘引されたサイトのテキスト情報を分析し、興味・関心でユーザをグループ化する。

たとえば、ダイエットの記事を読んでいる人が、記事で「食事」「糖質制限」といったワードを目にする時に、「オートミール」などの広告を表示させるといった手法だ。

「従来手法」との併用も有効

コンテキストマッチング広告を出しながら、自社商品・サービスのマーケティングやブランディングに必要な情報を独自に把握して、インターネット広告や自社サイトの企画立案に活かせる体制を確立するのも一手だ。

また、従来のアンケート情報など、ユーザから使用許諾を取った社内外のデータと組み合わせて自社で分析することで、インターネット広告や自社サイトの更新などにタイムリーに活用することも必要だろう。

インターネット広告業界の「大激震」から受ける負のインパクトを、最小限に抑える備えを始めるのは、早いに越したことはない。
当記事は「東洋経済ONLINE」の提供記事です
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