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2018.05.15

76世代は見た! ストリートからITの街に変貌した渋谷の「今」

1990年代、ストリートファッションやクラブイベント、ポップ音楽など、若者の流行発信地だった渋谷。しかし、いつしか街はIT企業が集積する「オフィス複合エリア」に。IT起業ブームを牽引した「76世代」から見る、そんな渋谷の昔と今とは?

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文/平井 敦貴

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IT業界を牽引する「76世代」とは?

「mixi」、「はてな」、「2ちゃんねる」に「GREE」。30~40代のネットユーザーであれば誰もが一度はそのサービスを利用したことがあると思います。実は、これらのサービスには一つの共通点があるのをご存知でしょうか?

それは、創業者や開設者が「76(ナナロク)世代」と呼ばれる1976年前後の生まれであること。IT業界では、1975~1978年生まれの世代に起業家や優秀なエンジニアが多く登場したため、この世代を総称して「76世代」と呼んいるのです。ちなみに、そんな「76世代」の代表的な人物としては以下の方々が挙げられます。

笠原健治さん(ミクシィ会長、1975年生まれ)
近藤淳也さん(はてな創業者、1975年生まれ)
津田全泰さん(フォートラベル創業者、1976年生まれ)
西村博之さん(2ちゃんねる開設者、1976年生まれ)
山岸広太郎さん(グリー共同創業者、1976年生まれ)
田中良和さん(グリー代表、1977年生まれ)
猪子寿之さん(チームラボ代表、1977年生まれ)
家入一真さん(paperboy&co.創業者、1978年生まれ)

などなど。現在も第一線で活躍している方ばかりですね。ちなみにですが、ホリエモンこと堀江貴文さんは1972年生まれ、サイバーエージェント社長の藤田晋さんは1973年生まれなので、「76世代」というくくりではなく、そのちょっと上の世代になります。

ここでは、そんな「76世代」のIT業界人に話を伺い、「IT」と「渋谷」の関係を紐解いていきたいと思います。

ティーンからサラリーマン、今は外国人の街?

「この20年で渋谷もすっかり変わったと思います。かつては若者の街でしたが、そこからOLやサラリーマンの街に移り変わって。でも今じゃ外国人の観光客ばかりですよね」

そう語るのは大学卒業以来、渋谷の有名IT企業で働いてきた「れみ」さん(1977年生まれ)。「76世代」のネット広告マンです。そんな新卒から40歳になるまでの20年弱を渋谷で過ごしたれみさんに、街の変化を聞いてみました。

「時代の節目で言えば、渋谷は2000年頃に最初の転機が訪れたと思います。それまではギャルやイベサーの学生などが闊歩する若者の街だったのが、サイバーエージェントが入居する渋谷マークシティ(2000年竣工)や、GMOなどが入居するセルリアンタワー(2001年竣工)が出来て、この頃から本格的なITビジネス街としての側面を持ち始めたと思います」(れみ)

1990年代後半、渋谷はベンチャーブームに乗り「渋い:Bitter」と「谷:Valley」をかけて「ビットバレー」と呼ばれていました。もちろんこれはアメリカの「シリコンバレー」になぞらえたものでしたが、そのビットバレー構想のもと、2000年前後にこぞってIT企業が渋谷にオフィスを構え始めたのです。

のちに渋谷から転出してしまいますが、グーグル(2001~2010年、セルリアンタワー入居)やアマゾン(2000~2012年、渋谷クロスタワー入居)も、日本法人の拠点を当初は渋谷に置いていました。
サイバーエージェントなどが入居する渋谷マークシティ。一時はmixiなども入居していた。
サイバーエージェントなどが入居する渋谷マークシティ。一時はmixiなども入居していた。
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渋谷に集まったのではなく、渋谷しかなかった

しかし、なぜ渋谷にはそんなにも多くのIT企業が集まったのでしょうか。素朴な疑問をぶつけてみると、れみさんから意外な答えが返ってきました。

「立地の良さに加え、若くて勢いのある人材がIT業界には多く、自由な風土の渋谷の街に合っていた……というのはもちろんあると思います。でもこれは個人的な見解ですが、渋谷しかオフィスが借りられなかった、もしくは渋谷だからオフィスが借りやすかった、というのも理由としてあるんじゃないかと思います。1990年代後半のIT業界は、経営者も若かったし怪しげな会社が少なくありませんでした。ネット広告で言えばアダルト系だったりグレーゾーンの金融商品だったりですね。表向きには出さなかったにせよ、そういったものを扱う企業を受け入れてくれるのは、歓楽街の渋谷ならではだったと考えられます」(れみ)

確かに、怪しげな企業が丸の内や虎ノ門に密集するとは考えにくく、またその賃料やオフィス面積においても、渋谷はITベンチャーなどのスモールオフィス需要に合致していたのかも知れません。

「それともう一つ。若いIT起業家たちは同業の『仲間』を誘って事業を始めることが多く、そういった学生感覚的な『仲間』を集める場所として、渋谷のカジュアルさは適していたのだと思います」(れみ)
2000年、新興企業向けの市場としてスタートした東証マザーズには、多くのIT企業が上場を果たしていく。
2000年、新興企業向けの市場としてスタートした東証マザーズには、多くのIT企業が上場を果たしていく。

ITバブルで上場企業が続々

そんな中、インターネットの普及やブロードバンドの発達によって、IT企業は飛躍的に業績を伸ばし、多くの企業が株式を上場していきます。ここでは、かつて堀江貴文社長の元、ライブドアで働いていたこともあるという「76世代」の「けん」さん(1975年生まれ)に話を聞いてみました。けんさんはWebプログラマーで、ライブドア事件の後、現在は渋谷のITコンサル業に転じています。

「1999年から2000年にかけては、いわゆるITバブルと呼ばれる時期で、多くの企業がその波に乗って上場を果たしました。ライブドアもサイバーエージェントも楽天も2000年にそれぞれ上場しています。ですが、多くの企業が急に拡大したものだから、創業時のベンチャー気質がなかなか抜けない。規模は大きくなっているのに気質がそのままだから、コンプライアンスの意識も未成熟のままでした。それに加え、人の出入りも激しかったため、中途採用で来た人が『マイ・ルール』で仕事をすることも極めて多かったのです。良くも悪くもIT業界にはそんな『ユルさ』があったのですが、その『ユルさ』が一掃されるきっかけが2006年に起きました。いわゆる『ライブドア事件』です」(けん)
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ライブドア事件の教訓

ライブドア事件についてはみなさんもご承知かもしれません。2004年9月期年度の決算報告に虚偽の内容を掲載したとして、ライブドアとライブドアマーケティングの2社、および役員等7名に証券取引法等違反の容疑がかけられた事件です。

2006年1月16日に六本木ヒルズ内のオフィスや堀江貴文さんの自宅に家宅捜索が入ると、その模様は連日のニュースとして報道されました。
旧ライブドアなどが入居していた六本木ヒルズ。現在はアップルやグリー、メルカリなどがオフィスを構える。
旧ライブドアなどが入居していた六本木ヒルズ。現在はアップルやグリー、メルカリなどがオフィスを構える。
けんさんはこう分析します。

「これは個人的な推測も入りますが、ライブドア事件当時、渋谷のIT企業はどこも背筋が凍りついたと思います。なぜならライブドアだけでなく、どの企業も業績を伸ばすことに精一杯で、コンプライアンスや企業の体裁を整えることは二の次に考えていたフシがあるからです。特に社長をはじめ社員やスタッフはまだ若く、20代から30代前半ばかりだったから、上場企業のルールやしきたりなんてわからない人がほとんどだったと思います。当然、経理上に無理な数字が出てきたりもしたでしょうし、度重なるM&Aによって会計も複雑化していたでしょうから、シミひとつないきれいな決算書じゃなかったことは想像に難くありません」(けん)

2006年4月、ライブドアは最終的に上場廃止にまで追われ、堀江さんには実刑判決が下りました。

「これを機に、上場していたIT企業はコンプライアンスの意識が変わったように思います。例えば、サイバーエージェントが2006年に制定し、全社員に通達したミッションステートメントにはこんな文言が記されています。

『法令順守を徹底したモラルの高い会社に。ライブドア事件を忘れるな。』

この後、ステートメントの改定が数回行われますが『ライブドア事件を忘れるな。』は、2018年の今もなお掲げられています。2000年前後に勃興した渋谷のIT企業は、このライブドア事件を経て、ようやく『まっとうな会社』になり始めたのです」(けん)

コンプライアンスが街を変えた

ライブドア事件以降、IT企業のコンプライアンス意識は高まったといいます。それでは実際に働く人たちはどのように変わっていったのでしょうか。人事手腕を買われ、渋谷の大手ネット代理店に中途入社した「76世代」の「まき」さん(1978年生まれ)に尋ねました。

「コンプライアンスの向上や、企業価値の上昇によって渋谷のIT企業には新卒採用でも優秀な人材が集まるようになりました。『リア充』とか『キラキラ女子』と呼ばれるようなイケてる学生が入社して来たのです。時代で言うと、2000年代後半のことですね。それと同時に、インターネットはモバイルでの接続が急激に増え始めます。iPhoneが日本で発売されたのが2008年で、その直後からIT業界では『モバイルシフト』という動きが加速していきます。具体的に言うと、これまでPCを中心としていたビジネスモデルがスマホに変わり、アプリ開発者やソシャゲ開発者の需要がドッと高まりました」(まき)

総務省が発表した資料によると、渋谷区における平成24年度の情報通信業社は、全28,613社のうち2,353社。つまり全体の8.2%がIT事業者となっています。これを事業者人口で割ると約8万人が渋谷で働く計算となります。この間、積極的に新卒採用が進んだため、多くの「キラキラ社会人」が渋谷に溢れることになったのです。

「契機となったのは、GREEによる『釣りスタ』や『ドリランド』などのソーシャルゲームの成功でしょう。DeNAの『モバゲー』プラットフォームとともに破竹の勢いで業績を伸ばし、渋谷界隈にも多くのアプリ開発企業や、アプリ専門の広告会社が生まれました。ちなみに、『渋谷ヒカリエ』にDeNAやLINE(2012年~2017年。のちに新宿に移転)が入居したことも、渋谷のIT業界にとっては大きな意味を持っています」(まき)
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渋谷の新たなランドマークとして2012年に竣工 した「渋谷ヒカリエ」。KDDIやDeNAなどの名だたる企業が入居。
渋谷の新たなランドマークとして2012年に竣工した「渋谷ヒカリエ」。KDDIやDeNAなどの名だたる企業が入居。

渋谷ヒカリエでOLの街に

2012年に竣工した「渋谷ヒカリエ」は、現在に続く渋谷再開発のトップバッターとして誕生。竣工時には名だたる情報・通信企業が入居しました。また、低層部のショッピングゾーンのほか、中層部の劇場など、大人の女性向けの施設が充実しているのも特徴です。

「2000年に竣工したマークシティも似たようなコンセプトで建てられましたが、正直にいえば街の雰囲気を変えるまでには至っていなかったと思います。ですが、渋谷ヒカリエは多くの働く女性を惹きつけることに成功しました。このヒカリエの登場で、渋谷はOLの街として機能し始めたと思います」(まき)

続く2013年には、東京メトロ副都心線と東急東横線・横浜高速鉄道みなとみらい線の相互直通運転が開始。これにより、埼玉から横浜までを一本でつなぐ巨大ターミナルとしての渋谷が一旦の完成を見ます。それに伴い、若者の街だった渋谷は、多くの人が行き交う大人の街へと様変わりをしていきました。

「これは都内の繁華街はどこもそうですが、東京オリンピックが決まって以降は、アクセスの良さもあって外国人観光客の数がめざましく増えていますね。円山町のあたりにはもともとラブホテル街だったこともあってか、海外観光客向けのドミトリーも増えています。今後の渋谷は国際色が強くなって行くことは避けられないことでしょう」(まき)

これからの渋谷は?

これまで見て来た渋谷の変遷20年史ですが、では、「これからの渋谷」はどうなって行くのでしょうか?
ここにあるのは東急グループによるイメージムービーです。この映像を見ると、2017~2027年にかけて渋谷駅周辺にいくつもの商業ビルを建てる計画があるのがわかります。東急グループのWebサイトによれば、現在10以上のプロジェクトが進行しており、渋谷はまた「新たな街」に生まれ変わろうとしているのです。

また、それに伴って多くのIT企業が再び渋谷に拠点を構え直すと言います。
2019年には、六本木ヒルズに拠点を構えるグーグルが、現在建設中の「渋谷ストリーム」のオフィスフロア全て(14~35階)を借り切って移転します。2010年にセルリアンタワーを出てからの9年ぶりの凱旋に、渋谷では歓迎ムードができつつあるそうです。
またサイバーエージェントは、現在10カ所に分散している渋谷のオフィスを2箇所のビルに集約することを発表しています。一つは渋谷区宇田川町に建設中の「Abema Towers(アベマタワーズ)」、もう一つは「渋谷スクランブルスクエア」と呼ばれる渋谷駅の真上に建設中のビルで、いずれも2019年内に入居予定だそうです。さらに現在、渋谷区東に本社を置くmixiも、同じく「渋谷スクランブルスクエア」への移転が発表されています。
もちろん、再開発によって生まれたオフィスビルには、ほかにも様々なIT企業が入居し、新たな化学反応を起こして行くことでしょう。

今や、我々の行動に最も密着しているのはインターネットと言っても過言ではありません。そういう意味では、今後の我々の生活を直接左右するのは、もしかしたらこれら渋谷の企業群なのかも知れません。

新しいビルができ、企業が育ち、そこで働く人々を中心に街が栄える。そのサイクルが猛スピードで加速している渋谷からは今後も目が離せません。10年ひと昔ではなく、1年ひと昔になりつつある渋谷の「今」、最近訪れていない方は、ぜひその目で確かめてみてはいかがでしょうか?

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