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2021.07.24

あなたは「タイム・プア」? 「タイム・リッチ」?

経営者や社長さんの生活には、毎日夜遅くまで仕事をして週末も忙しく働くパターンと、週末は家族と食事をするなど人生を謳歌するパターンの2通りがあるとか。さて、どちらが幸せそうに見えるでしょうか?

CREDIT :

文/樺沢紫苑(精神科医、作家)

記事提供/東洋経済ONLINE
ハーバード・ビジネススクールのアシスタントプロフェッサーにして、心理学者のアシュリー・ウィランズが書いた『TIME SMART(タイム・スマート)』。効率性一辺倒ではない、異色の時間術の本だ。「お金より時間が大事」「生産性向上はタイム・リッチ(時間的に裕福な状態)から」「まず、健康で幸福な生活を送る、その後、生産性・創造性が上がる」と説く。もちろん、心理学者だから、科学的な調査、統計データでその主張を裏付ける。

『学びを結果に変えるアウトプット大全』『精神科医が教えるストレスフリー超大全』などベストセラーをもち、日本一情報を発信する精神科医、樺沢紫苑氏はどう読んだのか。
写真提供/shutterstock

高収入でも幸せそうでない人たち

世の中でいちばん大切なもの、それは時間です。お金や健康や、つながり、愛、承認など、ほかにもいろいろ大切なものはありますが、やはり大切なのは時間だと思います。時間があれば、働いてお金を稼ぐこともできるし、彼/彼女とデートをしてもっと仲良くなることもできる。ジョギングをして、健康を手に入れることもできる。つまり、時間はあらゆるものに置き換えることが可能なのです。

私が『TIME SMART』を読んでまず共感したのは、この「時間の大切さ」について語られていること。今年『精神科医が見つけた3つの幸福』(飛鳥新社)という本を出版したのですが、そこでも時間の大切さについて書いています。とても考え方が近いな、と思いました。

「時間は大切」というと当たり前のように聞こえるかもしれませんが、実はその本当の意味に気がついていない人がとても多い。

私の周りの経営者や社長さんなどを見ていると、その生活ははっきりと2通りに分かれています。1つめのパターンは、毎日、夜遅くまで仕事をし、週末も忙しく働くパターン。もう1つは、週末は家族と食事をするなど、余裕をもって人生を謳歌するパターンです。週末まで働いている人たちは、もちろん成功して、何千万円も年収があって、Facebookでは忙しさを誇るような投稿をして、自分では満足しているのかもしれません。でも、どうしても幸せそうには見えないんです。

『TIME SMART』では、そういう時間に余裕がない人を「タイム・プア」、余裕がある人を「タイム・リッチ」と呼んでいます。こうやって、時間に余裕があるかどうか、自分のための時間があるかどうかを概念としてはっきり示すと、非常にわかりやすくなると思います。

いまの学生さんには、「毎日、楽しいことがない」と、ツイッターでつぶやいている人が大勢います。でも、学生さんは、お金はなかったとしても時間はある。その時間を幸せに変えていくことはいくらでもできるはずです。たとえば、1000円で食べられるおいしいランチの店を探してみてもいい。あるいは、本を読むなどして、いくらでも自分で勉強できる。

『TIME SMART』は、タイム・プア、タイム・リッチという概念を使うことで、時間があるということは実は幸せであり、時間がないということは不幸せなんですよ、ということをわかりやすく言っています。
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緩急をつけることが大事

では、仮に時間に余裕ができたとして、少しでも自分の時間が持てたとして、さあ何をするか。

この本で提案されていることの1つは、「何もしない」ということです。これはとてもよいと思います。人はなかなか「何もしない」ということができず、何かしていないと落ち着かない。『TIME SMART』では、「手持ち無沙汰の嫌悪」という言葉が使われています。

多くの人は、何もしないで過ごしていると、すごく損をしたような、マイナスの気分になってしまいます。いつも、せき立てられた感じになっている。しかし、働くときは一生懸命働き、休むときは休むと、緩急をつけることがとても重要です。しっかり休まないと、神経がすり減って体も疲れ、メンタルの病気や体の病気の原因にもなってきます。

現代の人たちは、みんな基本的に疲れています。脳が疲れている人も多い。脳疲労の人がいちばんやるべきことは、お風呂に入ったりして、ぼーっとすること。何もしない。あるいは、子どもと遊んだり、奥さんや旦那さんとおしゃべりをしたりして、コミュニケーションをとる。仕事中の休憩なら、同僚と雑談をする。本当にくだらない話とか、笑い話とか、そういう仕事とまったく関係ない話のほうが気分転換効果が高いという研究結果も出ています。

反対に、やってはいけないのが、スマホを見たり、インターネットを見たりすること。スマホは絶対にダメです。脳は情報処理をしていますが、その8割くらいが視覚情報の処理に費やされていると言われています。だから、目を使うと脳が疲れます。反対に、目をつぶると脳が休まります。

だから、みなさんが休憩時間のときにすべきことは「目を使わない」ことです。本来であれば、休憩すれば回復して、集中力が高い状態から仕事を再開できるはずです。しかし、スマホを見ていたら、むしろさらに疲れてしまいます。

この本では、インターネットやスマホは、本当は生産性の向上に役立つツールなのに、むしろ生産性を下げているという指摘がされています。

私の著書『精神科医が見つけた3つの幸福』の中で指摘していますが、「スマホは見るだけでドーパミンが出ます。1日100回見れば、100回ドーパミンを出すこともできますが、すぐ『慣れの効果』で最初ほどの『喜び』『楽しさ』は得られなくなる」ということも、併せて考えてください。

スマホを見ることで、休むこともできない、喜びも楽しさも大して得られない、要は、単に余計忙しくなっているだけで、タイム・プアになってしまう。この点は非常に重要ですね。
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自己洞察をもとに時間の使い方を決める

もう1つ、『TIME SMART』の中で私が好きなところは、「自分の時間と向き合いなさい」と言っていることです。自分の時間と向き合うということは、自分の生き方と向き合うことです。自分が何をしたいか、自分は何者か、どういうビジョンや夢があるのかと向き合うことです。

ビジョンや夢がわかれば、時間を使う優先順位が見えてきます。何が優先で、何が優先じゃないか。たとえば、私は「情報発信によるメンタル疾患の予防」というビジョンを掲げています。だから、そこからあまりに外れるような仕事は受けません。最近も、お金に関する講演の依頼がありましたが、私のビジョンとは関係がなく、気が進まなかったので断りました。ビジョンがわかっていれば、そこに関わっているのかどうかがすぐ判断できるのです。

最近では、こうした「自己洞察」について書かれた本もたくさん出ていますが、『TIME SMART』のいいところは、自己洞察と時間の使い方を結びつけているところです。自分で手を動かして書き込むワークもたくさん載っていて、自分の考えや、自分の時間の使い方などを書き入れて、考えられるようになっています。こういうことを一度でも書いてみるのは、とてもよいことだと思います。

ただ、こうしたワークをやったことがない人、今まで時間の使い方に無関心だった人にとっては、この本のワークは少し難しいかもしれないですね。たとえば、タイム・プア診断シートや、タイム・トラップ(時間の浪費につながる罠のようなもの)自己診断シート。ふだん時間に意識が向いている人はさっと書けるかもしれないですが、そもそも時間やお金の使い方をそれほど真剣に考えたことがない人は、なかなか書けないかもしれない。いい意味で、レベルが高い人向けの本なのでしょうね。ですから、最初うまくいかなかったら、何回かやってみるといいかと思います。

時間の使い方をどう決めるかについては、また別の観点からの提案もあります。それは時間をお金に換算して考える(ある決定をすることで増加した幸せを、収入になぞらえる)というものです。『TIME SMART』では、これを「ハピネス・ドル」という独自の測定基準で表しています。また、時間を獲得するためにお金を投資することも奨励していて、その損得勘定の計算もしています。

こうして時間を数値化することは、わかりやすくていいですね。人間は数値化しないとものごとが見えづらく、漠然としたものは漠然としか理解できないですから。

私も実は似たようなことをしていて、自分の1時間当たりの価値を決め、行動を選択するときにその基準に照らし合わせて考えます。

一般的な例で説明しましょう。会社員の収入は、ボーナスなどすべてを足し合わせて時給換算すると、おおよそ3000円くらいだそうです。そんな平均的な会社員が、たとえば2時間の飲み会に誘われた場合、その時間の価値は6000円です。それに会費が5000円かかるとすると、合計で1万1000円の価値になる。その金額を見て、本当に行きたいのかを考えるのです。そして、この飲み会には1万1000円分の価値は十分にあると思ったら行けばいいし、そうでもないと思ったら断るべきです。
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「本当に必要か」と問う

ビジョンをもとに考えるのも、お金の価値で考えるのも、ともに言えるのは、時間に対して積極的に自分で選択をしていかなければならないということです。

何も考えずにスマホを見ていたり、ゲームをしたりしていていいのか。会社でも、定例になっているからといって、会議や日報の提出をやるべきなのか。なんとなく使ってしまう時間について「その時間は本当に必要か」と、いま一度問いかけることが非常に重要なのです。

そして、たとえわずかな空き時間でも大切に、戦略的に使っていく。この本にも、そのためのツールがいろいろ載っています。たとえば、「『もし時間があったら』リスト」などはとてもいいですね。5分あったらできること、10分、あるいは1時間あったらできることをリストにしています。

たとえ15分でも、積み重なれば大きな違いとなります。運動をするにしろ、読書をするにしろ、3カ月くらいは続けてみてください。やがては、一生を左右するような違いが出てくると思います。
(構成:東方雅美)

『TIME SMART(タイム・スマート)』

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マネー・イズ・タイムだ

ハーバード・ビジネススクールのアシスタントプロフェッサーにして、心理学者のアシュリー・ウィランズが書いた本書は、効率性一辺倒ではない、異色の時間戦略の本だ。

「お金より時間が大事」
「生産性向上はタイム・リッチ(時間的に裕福な状態)から」
「まず、健康で幸福な生活を送る、その後、生産性・創造性が上がる」

と説く。仕事をしていくなかで身につけた、仕事術やTIPSにとどまらず、科学的な調査、統計データからわかった、幸福になるための時間の使い方を解説。

各章末には、実践的なエクササイズ・シート付いている。

アシュリー・ウィランズ (著) 柴田裕之 (翻訳) 東洋経済新報社 1760円
※書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

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樺沢紫苑(著) 飛鳥新社 1650円
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樺沢紫苑(かばさわ しおん)

精神科医、作家。1965年、札幌生まれ。1991年、札幌医科大学医学部卒。2004年からシカゴの イリノイ大学に3年間留学。帰国後、樺沢心理学研究所を設立。SNS、メールマガジン、YouTubeなどで累計60万人以上に、精神医学や心理学、脳科学の知識・情報をわかりやすく伝え、「日本一、情報発信する医師」として活動している。『学びを結果に変える アウトプット大全』(サンクチュアリ出版)、『読んだら忘れない読書術』(サンマーク出版)、『脳のパフォーマンスを最大まで引き出す 神・時間術』(大和書房)など著書多数(写真:樺沢紫苑)

※掲載商品は税込み価格です
当記事は「東洋経済ONLINE」の提供記事です
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