2017.06.23
大きなカセットプレーヤーで聴くマイケル・ジャクソンが、想像以上にぐっときます
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文・写真/大石智子

お気に入りの曲を生テープに録音して、通勤通学の時にウォークマンで聴いていた。
そんな思い出をもつ人にとって、カセットテープ専門店は“昭和に戻る”というイメージがあるでしょう。しかし、中目黒に一昨年オープンした「waltz」は、懐かしさを売るお店ではありません。そこで手に入るのは、今だからこそのカセットテープの“初体験”なのでした。

店内に入り目に飛び込んでくるのは、ズラリと並ぶカセットテープ&プレーヤーの数々、そして、レコードや雑誌のバックナンバー。胸熱になるまではほんの数秒。でも、みなさまが若いころ目にしていたカセットテープは、自分の手作りによるものだったはず。色文字を使ったり、アルバムのロゴを真似した手書きラベルは、当時の自分の趣味そのものでした。それに代わって「waltz」に揃うのは、すでに作品として完成されたカセットです。
「昭和の時代のカセットカルチャーと、いまの時代のカセットカルチャーは全然違います。昔は生テープにラジオや借りてきたCDを録音するという録音カルチャーで、今はミュージックカルチャー。最初から作品として録音されているカセットテープを聴くということですね」
そう話す店主の角田太郎さんは現在47歳で、ご自身も学生時代は手作りカセットをひたすら作っていたそう。いまは世界中から集めたカセットを販売し、お客は10代から70代、海外からの旅人や有名アーティストも含め、さまざまな人がカセットを求めに訪れるとのことです。


「店で取り扱ってほしい」と海外から送られてくるアーティストの新譜もあれば、ビートルズ、ザ・ビーチ・ボーイズ、ソニック・ユースetc.各年代ごとの誰もが知っているスターの曲も揃い、映画の名作のサントラまでラインナップ。ある意味、相手の年齢も趣味も問わずに楽しめるデートスポットでもあります。
どの音楽もデジタル化され不可視になったいま、ほんの小さな長方形に表された音楽を眺めるのも新鮮。店主の角田さんが「カセットテープを違う価値観に昇華させたかった」と話すとおり、リサイクルショップや古本屋にあるようなワゴンに入っているのではなく、棚(アンティークも含む)に丁寧に並べられた様は、見ているだけで心がほぐれるもの。合わせてミュージアムにいるような刺激もあり、あっという間に時間が経つので、余裕がある日に行くのがおすすめです。

カセットテープを眺め、視聴をしたりすると、かなりの確率でカセットを買いたくなります。そこにあるのは、今はどこかにいってしまった手作りテープと同じ曲の原型だったり、CDやテレビでしか聴いたことのない曲のカセット版ですから、すべての音が初体験。とはいえ、そもそも買ったカセットを聴くプレーヤーを持っていないのでは?


自然な流れで、カセットプレーヤーも欲しくなってしまいますよ! いまカセットプレーヤーを買える場所って非常に少ないですし、何より「Waltz」に並ぶそれらがメカニカルでしびれる。1970年代後半から1980年代に製造された商品で、その時代だからいいのだとか。
「90年代に入るとCDラジカセになり、形がころんとしてあまり格好よくないですね。デザインを定規ではなくグラフィックで作ると、曲線的なものが多くなるんでしょう。クルマと似ていますね」(角田さん)

上の写真のカセットプレーヤーは5万6800円。こんなプレーヤーを部屋に置き、例えばマイケル・ジャクソンを聴きながらお酒を飲む。耳に入るのは、CDともiTunesとも違うカセットならではのアナログ音。心にじんわり染みるものがあり、ただぼんやりと身をまかせられます。
「成功の証というか、大人の嗜みですね」(角田さん)
確かに、昔の自分に「がんばれよ」と見せてやりたいくらいの時間になるでしょう。

ちなみにレジ横には録音できる生テープも販売。また手作りテープ、作っちゃいます!?

■waltz
■waltz
住所/東京都目黒区中目黒4-15-5
営業時間/13:00〜20:00
定休日/月曜
お問い合わせ/☎03-5734-1017
※記事内の情報は2017年の公開時のものです。