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2017.06.29

牡丹は三河、菊は信州。じつは地域ごとに名物花火がありました

一見どこにいっても同じように見える花火ですが、じつは地域によって微妙に違うって知ってました? それには花火の歴史がじつはふか〜く関係していたり、自治体の条例が関係していたり。つまり、これを知っておくと「お、さすが信州、菊がみごとだね〜」なんてさらりといえたり、「牡丹を見に愛知いこうか?」な〜んてお誘いができたりと、アクティブなオトコとしては、じつに押さえておきたい情報だったりするんです。

CREDIT :

監修・写真/冴木 一馬(ハナビスト) 取材・文/岩佐 史絵

地域ごとに得意な花火があるって知ってました?

火薬が日本に入ってきたその時代、ときは戦国時代の真っただ中。その用途は当然武器に使われるもので、火薬とは武士文化でのみ利用されるものでした。

戦国時代が終わりのどかな江戸時代、花火が奨励されるようになりますが、火薬の扱いは徳川の親藩や雄藩にしか許されなかったために花火は特定の地域にしか根づかなかったそう。

そこでは地域性を反映した花火が発展し、現代においてもここで観るならこの花火!という得意な花火が残っているのです。
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「牡丹」の本場といえば三河なのです

さて、そんな日本の花火。発祥は三河(現在の愛知県)とされていますが、これは徳川の煙硝方(鉄砲隊)が、故郷に帰って見様見真似で花火を作ったのだそう。

これが国産花火の始まりですが、三河は日本の花火を代表する「牡丹」の本場。花火づくりの“第一人者”ゆえ、もっともシンプルな「牡丹」が誕生したのも三河と考えられます。

三河が「牡丹」の元祖であるならば、三河の「牡丹」がもっとも美しいのは当然といえば当然、ですよね。
割物花火の代表選手、最もシンプルな「牡丹」はそのシンプルさゆえに、昇って行くところから開き方、展開の仕方まで、じっくり細部にわたり楽しむのが通なのです。
割物花火の代表選手、最もシンプルな「牡丹」はそのシンプルさゆえに、昇って行くところから開き方、展開の仕方まで、じっくり細部にわたり楽しむのが通なのです。
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「菊」の進化を見るなら信州へ

まず三河で「牡丹」が完成したのならば、そのすぐ近くの信州でも花火師同士の交流により花火研究が進んだと考えてもいいでしょう。

信州で発展したのは「菊」。何重にもなった菊のバリエーションがいろいろ見られることが特徴で、地元の花火大会でも「菊」の技術を駆使した「早打ち」や「追い打ち」といった、「菊」の特性を活かした演出が多く見られます。
「昇曲付八重芯変化菊(のぼりきょくつき やえしん へんかぎく)」長野市の「紅屋青木煙火店」社長、青木昭夫氏の手掛ける「菊花型花火」は日本随一といわれています。さすが長野、なのです。
「昇曲付八重芯変化菊(のぼりきょくつき やえしん へんかぎく)」長野市の「紅屋青木煙火店」社長、青木昭夫氏の手掛ける「菊花型花火」は日本随一といわれています。さすが長野、なのです。
ただ真円を描くことすら難しかった花火。現代でこそ芯が入り幾重にもわたって展開するものがありますが、単色の「菊」はそのシンプルさゆえに日本らしいわびさびを感じることができます。
ただ真円を描くことすら難しかった花火。現代でこそ芯が入り幾重にもわたって展開するものがありますが、単色の「菊」はそのシンプルさゆえに日本らしいわびさびを感じることができます。
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いまや幻になった常陸の「吊り物」

かつて常陸といえば「吊り物」が有名でした。空中に打ち上がった花火がぽっかり二つに割れ、中からパラシュートなどが飛び出してきて落下するといったもので、まるでおもちゃのオマケのように中に入っていたものを子どもたちが拾い集めたりしていました。

ただ、火薬をぶら下げて空中を浮遊するため現在は自治体によって禁止されており、常陸の「吊り物」はなかなか見られない幻の花火になってしまいました。
展開後にさらに小さな花火が飛び出して、空中を浮遊する「吊り物」。常陸では見られなくなってしまったが、熱海などではまだ見られるそう。
展開後にさらに小さな花火が飛び出して、空中を浮遊する「吊り物」。常陸では見られなくなってしまったが、熱海などではまだ見られるそう。
吊り物の雄、小泉清吉氏による「昇曲付松島の夜景(のぼりきょくつき まつしまのやけい)」。大小の花火のコンビネーション、尾を引きながら浮遊する様子が独特でおもしろい。
吊り物の雄、小泉清吉氏による「昇曲付松島の夜景(のぼりきょくつき まつしまのやけい)」。大小の花火のコンビネーション、尾を引きながら浮遊する様子が独特でおもしろい。
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華やかに花が咲き乱れる上越の「千輪」

ひとつの花火をあげるといくつもの小さな花火がさく裂する「千輪」。菊や牡丹の小さなものが大きな玉にたくさん入っているので、作る手間はかなりのもの。

それゆえ、花火師さんたちはまず作りたがりません。そこを雪国の人は根性があるのでしょうか、上越の名物花火といえば「千輪」で、とにかく様々な千輪が作られています。

片貝まつりに行くと、おそらくほかに類を見ない、驚くほどに技巧を凝らした千輪花火が目白押しです。
奉納の意味もある新潟県小千谷市の片貝まつりの定番花火は「千輪」。巨大な尺玉がさく裂すると、さらにそれを彩る千輪が展開。まさに千の菊の花が咲き乱れるよう。
奉納の意味もある新潟県小千谷市の片貝まつりの定番花火は「千輪」。巨大な尺玉がさく裂すると、さらにそれを彩る千輪が展開。まさに千の菊の花が咲き乱れるよう。

花火の「色」の進化も見所のひとつです。

ラストを飾る冠菊のスターマインは、関東では金、関西では銀のものが一般的。だから旅先で初めて違う色の花火を見て驚いた、なんていう人も多いのでは。花火の色は地域性もさることながら、その進化がなかなかおもしろく、これも毎年目が離せない見どころのひとつとなっています。

花火の基本は青・緑・黄・赤の4色。白く見えるのはアルミを燃やした銀、チタンを燃やしたら金色になり、また、基本の4色から赤と青を混ぜて紫に、と一般的には計7色がスタンダードな花火の色。

しかし90年代初頭から新たにパステルカラーの明るい色の花火が誕生し、夜空はさらにカラフルになりました。かつては真っ赤とか真っ青とか、はっきりとした基本色が出るのが理想とされていましたが、江戸時代と違いネオンサインで街が明るくなると花火が目立たなくなり、明るい色が好まれるようになってきたのです。

現在みられるのはレモンイエローやライトブルー、ジューシーなオレンジ色にゴージャスなエメラルドグリーン。

新しいカラーが登場するたび、業界を驚かせています。もちろん、製造方法はトップシークレット。“爆発物”である花火ですから、新しいものを開発するのには大きなリスクが伴います。だから誰もが気軽に作れるものではないのです。

まさに、花火の進化は命がけ。新色も新作も、そんな花火師の挑戦が生み出したものなのです。
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やわらかな黄味が美しい「レモンイエロー」

花火の色は狙って簡単にだせるものではない。ゆえに、その開発過程では想像も付かないような苦労があるそうで、その調合は門外不出。このイエローも滅多に見ることのできない、希少な色なのです。
花火の色は狙って簡単にだせるものではない。ゆえに、その開発過程では想像も付かないような苦労があるそうで、その調合は門外不出。このイエローも滅多に見ることのできない、希少な色なのです。

開発に数年を要したという、繊細なブルー「水色」

1998年に発表され話題になった水色。完成には数年の開発を要したそう。現在では三段階のトーンの異なる水色が存在し、燃焼速度を遅くした、長く垂れ下がるものも開発されています。青と緑を掛け合わせたものですが、簡単に作りだせるわけではないのです。
1998年に発表され話題になった水色。完成には数年の開発を要したそう。現在では三段階のトーンの異なる水色が存在し、燃焼速度を遅くした、長く垂れ下がるものも開発されています。青と緑を掛け合わせたものですが、簡単に作りだせるわけではないのです。
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日本でたった4社しか作れないという、「オレンジ」

2000年に二社の共同開発で誕生したもので「長野えびす講煙火大会」で披露された時は花火通のあいだでも、始めて見る色に驚いたそう。その後、別の一社がトーンの異なるものをさらに開発しました。日本でもこのオレンジを作れるのはたった4社!!
2000年に二社の共同開発で誕生したもので「長野えびす講煙火大会」で披露された時は花火通のあいだでも、始めて見る色に驚いたそう。その後、別の一社がトーンの異なるものをさらに開発しました。日本でもこのオレンジを作れるのはたった4社!!

花火を追って三千里 オトナな花火はこう楽しむ!

花火の色なんて、水色なら白と青、というふうに色のついた火薬を混ぜ合わせればいいんじゃないの? と思いきや、そんな簡単なものではないのです!

材料もさることながら、温度や湿度などさまざまな条件で微妙に色が変わってしまい、一度成功しても二度めは同じ色がでないことも。たとえばオレンジ色の花火を作れる業者は日本でたった4社しかないのだそう。

そう知るとオレンジ色の花火を見るために、その業者さんの担当する花火大会を探してみる、なんてのも、なんだかオツではありませんか。
あの花火を見るためだけにその土地へ。今年の花火は通な大人の鑑賞スタイルで行きましょうか!

● 冴木一馬

写真家。世界を股にかけ花火を撮り続けて30年。撮影だけでなく、花火の歴史や民俗文化をも調査・研究し、花火のことならなんでもござれ、花火師の資格まで有する日本唯一の“ハナビスト”。山形県出身。http://www.saekikazuma.com/

写真集『花火』光村推古書院刊

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A4判 オールカラー96頁
ソフトカバー 本体2400円
ワンシャッター、多重露出をおこなわず、花火本来の姿をとらえることにこだわりぬいたハナビスト冴木一馬による花火写真集。

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