
奥渋谷の老舗バー「bar bossa」のマスターにして作家の林 伸次さんによる最新刊『おじさんになっても』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、作者自らも50代の半ばを超え、おじさんとしてどう歳を重ねればいいのかを模索したエッセイです。
本人は意外に気づかない“嫌われるおじさん”のNG行動を優しく紐解きつつ、年齢を重ねたからこそできる新しい居場所づくりや大人としての振る舞いを提案する、いわば「人生後半の処方箋」となる一冊です。
今回は新刊の発売にちなんでWebLEON連載「林 伸次のLove la Bossaー大人のリアルな恋愛ー」の担当ライター木村と初代担当編集のMが「おじさんのアップデイト」をテーマに話を伺いました。
自分もおじさんなので、普段おじさんのことをポジティブに考えてこなかった
ライター木村(以下、木村) 林さん、新刊の『おじさんになっても』、とても反響を呼びそうなタイトルと内容です。この本を出版することになったきっかけから伺ってもいいですか。
林 伸次さん(以下、林) 出版元になっているディスカヴァー・トゥエンティワンのオーナーさんがLEONの記事を読んで、「この人におじさんについて書いてもらったら?」って言ってくださったそうで。お店の常連だった編集者さんが声をかけてくださったのが始まりでした。
木村 それはなんと! ありがたいお話です。でも構想から出版までにかなりの時間がかかりましたよね。
林 初めは「こんなおじさんはダメだよ」というダメ出しばかり書いていたんです。でも先方から「もっとおじさんが前向きに頑張れるような話を」と言われまして、う〜ん、おじさんのいいところか〜と……(笑)。
編集M(以下、M) 僕もおじさんなので言いますが、正直なところおじさんのいいところ探しは難しいですね(笑)。
林 あれこれ悩んでいる時に、phaさんが『パーティが終わって、中年が始まる』(幻冬舎)という本を出版されて、すごく話題になっていたんです。

M 40代中盤のおじさんになった著者が中年クライシスに陥った自身の衰退と喪失の悩みを語るエッセイ本ですね。
林 そう、中年クライシス(ミッドライフクライシス)です。そこでこの本も中年になってやる気がなくなったり悩んだりする人に向けた、前向きの処方箋にしようと方針が決まりました。
木村 注意喚起ばかりでは救いがないですもんね。具体的に「自分の場を持ちましょう」という提案が入ったのも実用的でいいなと思いました。
林 古民家を改装してAirbnbにしたり、ライブハウスを始めたり、そういう具体例を取材して組み直しました。逆に「おじさんになってからの恋愛」「女性の浮気」みたいな話は今の空気感に合わないのでごっそり消しました。
M 今はそういう話を大っぴらに書きづらい時代ですからね……って連載では書いていただいていますが(笑)。で、前向きな話を書いてみてどうでした?
林 正直に言うと、自分もおじさんで、普段おじさんのことをポジティブに考えてこなかったので、なかなか難しかったというか(笑)。
木村 でも今は自覚もないうちに世間から除け者になっているおじさんも多いですからね。愛のあるアドバイスは必要かもしれません。
今どきの若者は「髭、アウト」。我々もツルツルにすべきか
林 確かに「じゃあどうしたらいいんだよ」って思ってる人は多いはずです。若い頃の成功体験のまま「俺はこのままでいいんだ」と思っていると、外から見たら“イタい人”になっていることも。知らぬ間に梯子を外されているのに、自分を変える方法を知らないおじさんは多いです。
木村 聞かれてもいないのに飲み屋で自分語りするおじさんは多いですからね(笑)。
林 本の中にも書いたんですが「あれ俺がやったんだよ」とか「昔こんなのあったけど知らないでしょ?」みたいなのは、若い人たちにはどうでもいいことで(笑)。
M それをおじさんは滔々と語ってしまいがち(笑)。

木村 林さんご自身はどんなおじさんであろうと意識していますか。
林 僕はとにかく清潔感というか、服装もそうですが、こぎれいなものを身に付けるとか、加齢臭、口臭、体臭とかも、できることはすごく頑張って気をつけようとしています。
木村 清潔感は本当に大事ですが、「すごく頑張って」気をつけているんですね。
M それって息が詰まったりしません? 私の周りではあれこれ気にしすぎた挙句疲れてしまったのか「もういい! 俺はもう老害になる!」とか言ってる人もいますが(笑)。
林 僕は変えた方がいいと思えばやっています。ただその変化が突然に感じて戸惑う気持ちもわかります。例えば今の20代男性って、髭を生やす人がほとんどいないらしいです。髭、アウトなんです。それどころか、全身脱毛までする人も増えていて、要するに体毛がアウトなんですね。
M 僕らはともに髭づらですが(笑)、我々もツルツルにすべきなんですかね?
木村 いやいや(笑)。でも私は仕事上、20代〜30代女性と話をする機会が多いですが「男性がツルツルだとプレッシャーを感じる」という女性もいて賛否両論ですよ。
林 すぐ若者にならえということではなく、ただ変化を知っておくのは大事かなと。変化ってグラデーションなんですよね。せ~ので始まったりしない。大昔は人前での排泄も鼻くそをほじるのも恥ずかしいことではなかったそうです。口臭も、リステリンを作った会社がリステリンを売るための宣伝に「口臭」という言葉を使ったために「恥ずかしいもの」となったという説もあります。恥の文化は商業と結びついている面もありますよね。
M 脱毛も、美容外科の戦略に踊らされている部分はあるでしょうね。
林 そうした極端なこともあったにせよ、例えば若い女性に「どこに住んでいるの」と悪気なく個人情報を聞いたり、「女の子とワインは若い方がいいよね!」とセクハラ混じりの冗談を言ったりするのは明らかに今の時代からズレているわけです。

木村 住んでいる場所をきかれるのは怖いという話はよく聞きますね。ストーカーされるんじゃないのと。
M そんなつもりは毛頭ないんだけど(笑)、年上のおじさんの言葉には圧があるんでしょうね。人前で怒ったり怒鳴ったりと、感情を露わにする上司ってどこの会社にもいました。今、それはパワハラと言われるし、そんな空気ではなくなってきていますが。
林 そうですね。こういうお店をやっていても、僕が年下だとわかると敬語からタメ口になったり、突然「上から」の態度になる人はいますが、おじさんでも偉い人ほど腰が低くて丁寧というのはあります。
おじさんのタメ口を不快に感じる理由とは
木村 タメ口NGの話はSNSでもよく話題になることですよね。
林 実はおじさんって、この人ならタメ口でいいやって上下関係を見極めたうえで上から目線でタメ口をきくんですね。それに若い人も気づいているから不快に感じるんです。
木村 でも敬語って、女性の方がすぐ崩しませんか。仲良くなるために砕けた物言いをするほうのタメ口なんですが。男性でも、上から目線の話し方と、親しみを込めた話し方と2種類ないですか?
林 確かに小料理屋のおかみさんに「これおいしいわよ、お兄さん!」なんて言われるのはうれしいです。だけど、おじさんはいるだけで“怖い”と思われているんです。その意味では誰にでも敬語で話している方が安全ではあるのかなと。
M 本の中で、バーのカウンターに座っている若い女性にとって「隣の席のおじさんは恋愛対象ではありません」と断言されているのも、やはりおじさんは勘違いしやすいということですかね?

林 よほどのイケメンや有名人だったりすれば別ですが、普通、10歳も15歳も上のおじさんは恋愛対象じゃないのが当たり前です。「男」とは思われていないという認識はもっているべきかと。
M 妄想の世界で生きてるおじさんが多いんですかね。現実を直視せよと(笑)。
木村 若い女性に奢りたがる男性もいますけど、奢られたって好きにはなりません(笑)。
林 むしろ、奢られることで上下関係が付くのを嫌う女性も多いです。皆さん、自分のお金で飲めるから来ているので。あなたにおごられる筋合いはないと思うんです。
M そんななかでも、嫌われない、おじさんというのはどんなおじさんなんでしょう?
林 まずは自分が恋愛対象にはなっていないと自覚したうえで(笑)、丁寧な言葉づかいで、自分語りをしない人。そういうスマートさや謙虚さが一番安全であり、結局はモテるんだと思います。
木村 その場合の「モテ」は老若男女関係なく、何なら猫にもモテると、そういう話ですよね?
林 そうですね。でも、その人といると楽しいと思ってもらえたら、それで十分じゃないですか?(笑)
木村 結局、イライラせず、ソフトで中性的な方が求められているんでしょうね。その方がスマートで、モテるんだと思います。
林 奢りたいんだったら、会社の飲み会などで、上司である自分は顔だけ出してサッとお会計を済ませて帰る。そういうスマートな奢り方なら歓迎されますけどね。

社会の真ん中は若い人に譲った方がいい
M この本では最終的に、「自分の場所を持とう」「若い人たちの応援をしよう」という提案に着地しています。ここが一番伝えたいメッセージでもあるのかなと。
林 そうですね。僕はおじさんになって、それなりの地位や権力を持つ立場になったら、次は若くて才能のある人を引っ張り上げるのが仕事だと思っているんです。
そのために社会の真ん中は若い人に譲った方がいい。ずっとど真ん中に陣取って座り続け、周囲を威圧していると、偉くて怖い人になってしまい、最終的には誰も触れられずに孤立してしまうのかなと。
木村 時代や環境の変化に気を配りながら、自分は最前線を退いて新しい場所を持ったほうがいいと。
林 はい、自分が活躍していた頃の楽しかった昔話はほどほどにして、新しいことにも興味持つ。お店を作ってもいいし、民泊を始めてもいい。そうやって自分の新しい場所を作りながら若い人たちとの接点を広げていく。そこでいろんな経験を積んできた大人にしかわからないような世の中の仕組みをかみ砕いて伝えるとか。それはおじさんにしかできないことだし、そういう存在になれたら少なくとも寂しいおじさんにはならないんじゃないかなと思います。
M 耳の痛い話も多かったですが、おじさんとしての未来も少し見えてきた気がします。

『おじさんになっても』
自分は、知らないうちに嫌われるおじさんになっていないだろうか。若い人たちは、おじさんの何を嫌がっているのだろう。これから、どう歳をとっていけばいいのだろう。昔話、タメ口、恋愛、服装、体臭、お酒、若い人との距離感……。おじさんがついやってしまうことについて、ときに容赦なく、ときにやさしく考えていきます。ただし、本書は「おじさんの禁止事項集」ではありません。年齢を重ねたからこそ、伝えられることがある。争いをおさめたり、誰かの背中をそっと押したり、人と人をつないだりできる。会社や肩書きとは別の場所で、もう一度、新しいことを始めることもできる。「こういうおじさんにはなりたくない」と自分に言い聞かせながら、これからの生き方を考える26篇。おじさんも、おじさんの隣で暮らす人も。耳の痛い話に少し苦笑いしながらも、最後にはほんの少し、歳をとるのが楽しみになるエッセイです。
ディスカヴァー・トゥエンティワン刊 1760円(税込)

● 林 伸次(はやし・しんじ)
1969年徳島県生まれ。早稲田大学中退。レコード屋、ブラジル料理屋、バー勤務を経て、1997年渋谷に「bar bossa」をオープン。2001年、ネット上でBOSSA RECORDSを開業。選曲CD、CDライナー執筆等多数。cakesで連載中のエッセイ「ワイングラスのむこう側」が大人気となりバーのマスターと作家の二足のわらじ生活に。作品に小説『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる』(幻冬舎)、『世界はひとりの、一度きりの人生の集まりにすぎない。』(幻冬舎)、『恋愛は時代遅れだというけれど、それでも今日も悩みはつきない』(Pヴァイン)、『30歳になってもお互い独身だったら結婚しようか』(三笠書房)など。最新刊は『おじさんになっても』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。
■ bar bossa(バール ボッサ)
ワインを中心に手料理のおいしいおつまみや季節のチーズなどを取り揃えたバー。 BGMは静かなボサノヴァ。
住所/東京都渋谷区宇田川町 41-23 第2大久保ビル1F
営業時間/月〜土 19:00〜24:00
定休日/日・祝
TEL/03-5458-4185
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