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2025.05.09

【第22回】

日本の「おもてなし」がイタリア人には居心地が良くない理由とは?

イタリア生まれのフード&ライフスタイルライター、マッシさん。世界が急速に繋がって、広い視野が求められるこの時代に、日本人とはちょっと違う視点で日本と世界の食に関する文化や習慣、メニューなどについて考える連載です。

CREDIT :

文・写真/スガイ マッシミリアーノ 編集/森本 泉(Web LEON)

イタリアン人と日本人では「おもてなし」の感覚が違う

「サイゼリヤの完全攻略マニュアル」(note)でおなじみのイタリア人ライター、マッシさんが、今回はイタリア人と日本人の「おもてなし」の違いについてお話しします。
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イタリア人の特徴として最も知られている部分は、「陽気さ」だと思う。知らない人同士でもすぐ会話になったり、時には口論になったりすることは、前の記事でも書いたよね。実は、イタリア人の特徴はまさかの「おもてなし」にも表れていることを知っていた? しかも、日本のおもてなしとはちょっと違うかも! 今回は、「イタリア人のおもてなしは、(日本の)おもてなしではない」ということについて書いてみた。意外と知られていない現実が初公開になるかもよ?
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▲ 来客が来てもシンプルで楽しめる食事。
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家をきれいにするのはお洒落を楽しむための習慣

さて、突然だけど、イタリア人の家はいつもピカピカで、床で食事できるほど綺麗だ。なぜかというと、一般的な家には物が多く、定期的に掃除をしないとお洒落さが落ちるという考え方だから。日本ではあまりない感覚かもしれないけど、イタリアでは「家の掃除もお洒落のうち」だ。洋服やスタイルなどの外見だけではなく、家の状態にも自分自身の美しさが宿っている。つまり、家をきれいにすることは、自分自身を大切にすることに繋がっているんだ。だから、部屋の掃除も身だしなみと同じくらい、お洒落を楽しむための習慣だってこと。

さらに、来客が多いことも家のピカピカ具合と関係している。イタリアでは、家はパーティー好きが集まる社交場のようなもの。ゲストは自分の家のように自由に過ごすから、いつ誰が来てもいいように、普段から部屋を美しく整えておくのが当たり前。この時に来客はワインなどの飲み物とお菓子を持って行くのが一般的な習慣だ。いただいたものをすぐ開けたり食べたりするから、一番綺麗な空間で楽しめるように準備している。
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▲ 特別な料理ではなく、一般的な料理を優先する。

特別な準備をしないのが「おもてなし」

「おもてなし」って聞くと、なんだかかしこまって、失礼のないように先回りしていろいろ準備しなきゃ! ってイメージがあるよね。来客に不自由させたくなくて、あれもこれもって用意しちゃう気持ちになりやすい日本。特に家に誰かが来る時は、掃除から食事の準備まで、やることが盛りだくさんあるし、完全に仕事のような感覚になることもあるよね。

でもイタリア人の友達との交流は、日常生活の流れでいつものように暮らすスタイルだ。日常生活との違いは、料理の量と食べる場所くらい。人数が多い場合は台所で食べるのではなく、リビングで広いテーブルを準備する。一時帰国の時も何回も友達が実家に来て食事をしたり、僕が友達の家に行ったりしているうちに改めて気が付いたのは「特別な準備」をしないこと。日本では準備をすることがおもてなしだと思われがちだけど、僕たちにとって大事なポイントは、来客を特別な存在として扱うのではなく、自分たちのライフスタイルの中に迎え入れて楽しむことなんだ。
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▲ イタリア人に欠かせないエスプレッソ。

最初から「仲間だよ」という気持ちを全開にする

飾らない日常こそ最高の「おもてなし」。それはエスプレッソにもいえる。午前中か午後に来客があったら必ずエスプレッソを作って出すよ。相手に断られたとしても絶対に作ってテーブルに置く。これもおもてなしではなく、自分のライフスタイルのようにその習慣を変えないからこそだ。いつものようにエスプレッソを飲むことで、自分のライフスタイルに来客を一体化させられるのだ。

日本のように、来客に合わせて何かを出さないといけないのではなく、イタリアでは「自分の人生へようこそ」のようなメッセージになる気がする。イタリア人として、日本の一般家庭でのおもてなしを見ると、すごく「お客さまのため」と感じる。似たような行動はイタリアにないかも?
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▲ パスティッチーニというイタリアの伝徳的な小さいなお菓子。
日本では友達の家で食事すること自体、あまりしないよね。もちろん絶対にしないことはないけど、日本で友達と会うといえば外食やカフェなどに行くことが多い。

イタリアでよくあるのは、「友達と会う=自分か相手の家でお喋りする」だ。突然友達の家でご飯を食べることになっても、冷蔵庫にあるものを使ってサッと得意料理を作ることもあれば、何もない時はみんなで買い物に行って、ワイワイお喋りしながら料理することもある。本当に自由な生き方だと感じる。

ピエモンテ出身の僕は、州外から友達が来た時は地元の自慢の料理を優先して作るよ。日本みたいに「お客さま」として気を遣うというより、最初から「仲間だよ」という気持ちを全開にする。来客も家族の一員になるから、自分の空間を邪魔される感覚はまったくない。だから、僕が家に招かれた時も一度も居心地が悪かったことがないし、「自分の家にいるようにしてね」と言われることがほとんどなんだ。
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▲ 普通の家庭の食事を楽しんでもらうのが一番。

相手との距離と本心が伝わらないのは不安

逆に言うと、日本のおもてなしはイタリア人には合わないかもしれない。なぜかというと、相手との距離と本心が伝わらないから「無理矢理にやってるのではないか?」と思われるかもしれないから。やっぱり特別なことをせずに「仲間」として受け入れると、自分らしさをありのまま出せる。

一時帰国の時に複数の友達の家を回ったら、毎回飲み物からおやつ、食事まで準備してくれていた。断ろうとすると「冷たいよ!」「仲間じゃないの⁉」と思わせてしまう。面白いのは、すでにお腹いっぱいでもう何も入らないと言っても、相手がポテチやおつまみなどを出したら、知らないうちにお喋りしながら食べちゃうことなんだよ。

読者のみなさん、この記事を読んでくれているだけで、もうマッシと最高な仲間になっているよ。もし、すでにイタリア流おもてなしをして気を遣わずにありのまま生きている方がいれば、前世はイタリア人だったかもよ?
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● マッシ  

本名はスガイ マッシミリアーノ。1983年、イタリア・ピエモンテ州生まれ。トリノ大学院文学部日本語学科を卒業し2007年から日本在住。日伊通訳者の経験を経てからフードとライフスタイルライターとして活動。書籍『イタリア人マッシがぶっとんだ、日本の神グルメ』(KADOKAWA)の他 、ヤマザキマリ著『貧乏ピッツァ』の書評など、雑誌の執筆・連載も多数。 日伊文化の違いの面白さ、日本食の魅力、食の美味しいアレンジなどをイタリア人の目線で執筆中。ロングセラー「サイゼリヤの完全攻略マニュアル」(note)は145万PV達成。
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