2020.04.26

【vol.05】禅体験

心とカラダを整える、「禅」の魅力とは?

いい大人になってお付き合いの幅も広がると、意外と和の素養が試される機会が多くなるものです。モテる男には和のたしなみも大切だと、最近ひしひし感じることが多いという小誌・石井編集長(46歳)が、最高峰の和文化体験を提供する「和塾」田中康嗣代表のもと、モテる旦那を目指す連載です。

CREDIT :

写真/トヨダリョウ 文/井上真規子 取材協力/瑞泉山 祥雲寺

※取材・撮影は緊急事態宣言前に行っています
第5回目となる今回は、禅寺での1日修行体験を通じて、日本人の精神の根源とも言える“禅の心”を学びに行きます。導いてくださるのは、広尾「祥雲寺」の岩崎宗瑞住職。祥雲寺は、1629年に開山された臨済宗の由緒あるお寺で、岩崎住職は日頃から坐禅会などで多くの方に禅の心を伝えています。知っているようで、実は知らない“禅の心”を伝授いただきましょう!

修行僧さながらの修行体験で、禅の心に触れる

広尾商店街の奥にある祥雲寺の山門前に到着したふたり……。

石井「広尾にお寺があることは知っていましたが、入るのは初めてです」

田中「とっても由緒あるお寺です。境内は6000坪あるみたい」

石井「それは、すごい……! 楽しみです」
田中「お邪魔しま〜す」

お寺の人「ようこそいらっしゃいました。今、住職が参りますのでそれまで作務衣(さむえ)に着替えておいていただけますか?」
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田中「お〜、いいじゃないの。石井さん似合ってるよ」

石井「作務衣って存在は知っていたけど、着るのは初めて。なんか着替えただけで、気分が引き締まってきますね」

そこに岩崎住職、登場。

田中「岩崎住職、ご無沙汰しています。今日は、いつも忙しく、煩悩にまみれているLEON編集長の石井さんに禅の心を伝授してください!」
石井「はっ!よろしく願いします!」

住職「石井編集長、よろしくお願いします。作務衣がお似合いですね」

石井「ありがとうございます! 作務衣って、作業着みたいなものなのですか?」

住職「禅宗の僧侶は普段、法衣という着物を着ていますが、掃除やお勤めなどの作務を行うときは簡易的で動きやすい作務衣を着ます。今日は坐禅だけでなく、僧侶が行う掃除なども体験していただいて、雑念も一緒に取り払ってもらおうと思っています。まずは、境内の掃き掃除などいかがですか?」
石井「日々の穢れを落とせるなら……。是非、やらせて頂きます!」

田中「石井さん、いい心がけ!」

石井「掃き方など、決まりみたいなものはありますか? 例えば、無心で手を動かすとか」

住職「よく坐禅でも無心になる、と言ったりしますが、人間が完全に無心になるのは無理なのです。脳は絶えず何か考え事をしてしまうものですから。大切なのは、できるだけ集中して行うこと。庭が清められていくのと同時に、心も綺麗になっていく気がしてきますよ。雑草を抜くと同時に、自分の欲や煩悩も摘まれていくイメージをすると、わかりやすいでしょう」
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石井「心理士が行う箱庭療法に似ていますね。実際に、目の前のものを使って結果を出すことで、心も治療していくという」

住職「そうですね。とは言っても、人間の心には絶えず余計なものが入ってくるので、放っておけばまた欲がどんどん生まれてきます。春になったら雑草がまた生えてくるのと同じ。それが人間というものです。だからこそ、毎日修行を行うことで自分の心も清めていくことができるのです」

石井「本当、煩悩はなかなかなくなりません(笑)」
住職「ただ、煩悩を否定する必要もありません。欲が生まれることは、進歩にも繋がります。雑草が生えない庭もつまらないでしょう。苔があって手入れが行き届いている庭が美しいですよね」

石井「煩悩にも意味はあると」

住職「禅の心は、掃除などの作務や坐禅、そして日常生活すべてに通じています。一つのことに集中して取り組むこと、それ自体が禅の修行なのです」

田中「救われる気がするでしょ」

石井「ビジネスマンで特にエグゼクティブの人とか日々考えることも多いし、心の整理にとても良さそう。それに普段は怒られることもないから、こうして住職の話を聞くだけで、気分や発想の転換になると思いますね」

【ポイント】

■掃除など作務を行うことで、頭や心の整理ができる
■掃除を集中して行うことで煩悩が摘み取られた感覚になり、心も清められる
■煩悩は常に生まれるもの。だから日々清めることが大切

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いよいよ、坐禅へ!

住職「こちらが坐禅をして頂く本堂です」

石井「おぉ……、隅々まで掃き清められていますね。空気も澄んでいて、身が引き締まります」
住職「禅寺での修行は、明るいうちは掃除や庭の手入れ、作物づくり、といった作務を行います。そして夕方、暗くなって、やることがなくなったら坐禅をします」

石井「坐禅をしている時、修行僧の頭の中はどうなっているのですか?」

住職「坐禅は本来、師匠から禅問答、考案を与えられるので、それを考えながら坐ります。与えられた問題を頭の中で、繰り返し、繰り返し考えることで、雑念を寄せ付けないようにします。無の境地は無理、と言いましたが、日々坐禅を積み重ねて長く続けるうちに、段々と集中力が高まって、最後は無の境地に行くことができるようにするんです。初めはできなくて当たり前ということです」
田中「確かに、坐っていると今日は何が食べたいとか、色々浮かんでくるんだよね(笑)。考えないというのは、本当に難しい!」

住職「坐禅をするうえで大切なことが3つあります。形を整える、呼吸を整える、心を整える、ということです。姿勢と呼吸を整えれば、自然と心も整ってきます。坐り方は両足を太ももの上に乗せるようにして組んでください」
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石井「うわ、膝が痛くて両方は組めない……」

田中「確かに両方は上がらない。もしできない場合は、片足だけのせるのでも大丈夫ですよね」
石井「こうっすね。これならできる」

住職「左右、両方の足を組むのは、体のバランスが良くなるからなんです。片方でも大丈夫ですよ。背筋は伸ばして、お腹に力を入れてください。手は、卵の形をイメージして輪っかを作ります。親指は触れるか触れないかぐらいにして、尖らせないこと」
田中「確かに姿勢が安定してきました」

住職「あごは少し引いて、一度真正面を見て、そこから目線を1mほど下げます。これは、半眼(はんがん)と言って、もっとも目に負担がかからない状態。眼を細めるのではなく、まっすぐ見て視線を下に落とすと瞼が自然と下がってきます。仏像の目も、よく見ると半眼になっていますよ」
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田中「目は瞑らないように。寝てしまうからね」

住職「禅僧は、1日作務をして働いたあとに坐りますから、自然と眠くなるんです。坐禅は、その眠さとの戦い。そして途中で睡魔がやってくると……」

石井「例のやつですね!」

田中「警策ね。でもこれ、打たれると気持ちいいんだよね」
住職「次に呼吸です。腹式呼吸で大きく吸って、ゆっくりお腹から吐きます。初心者の方は、呼吸の数を数えながら坐るといいと思います。1、2、3、4で大きく吸って、5、6、7、8で吐く。そしてまた1に戻ってゆっくり吸って大きく吐きます。体の中にたくさんの酸素が取り込めるし、脳にも酸素が行き渡りますよ」

田中「でもひとーつ、ふたーつ、と数えるその間にハラヘッタな〜、なんて考えちゃう(笑)」

石井「煩悩だらけっすね(笑)」

【ポイント】

■ 坐禅では、両足を組んで背筋を伸ばし、手を前に置いて坐る
■ 目線はまっすぐ見て視線を下に落とした半眼の状態にする
■ 坐禅中は腹式呼吸で大きく吸って、出来るだけゆっくり息を吐く

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坐禅は得るものではなく、捨て去るもの

住職「じゃ、早速始めてみましょう」

住職と一緒に座禅を始めるふたり。周囲には風が窓ガラスを揺らす音だけが響いています。
パーンパーン! 石井編集長、警策で打たれる。
一同、そのまま坐って、短い時間でしたが座禅体験を終えました。

住職「いかがでしたか?」

石井「難しい……! 動かない、考えない、ってこんなに難しいものなんですね。畳の目でトリップしそうになりましたよ。でも警策、全然痛くなかったです。むしろ気持ちいい!!」

住職「坐禅で長時間坐ると体が凝るので、叩かれるとリフレッシュになるんです。ずっと坐っている方が、かえってしんどいものです。叩かれるとその時は動けますしね」

田中「やっぱり坐るって、なんか気持ちいいね。普段、忙しくしているとこんな時間持てないから、すごくいい時間になりますよ」
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住職「坐禅は得るものではなく、捨て去るものです。例えば、もしコップ一杯に水が溜まっていたら、きれいな水を入れても溢れてしまいますよね。それにずっと置いておいたら、濁って腐ってきます。

沼の水は流れていないから淀むけれど、絶えず流れを止めない川の水はきれいですよね。コップの水を一度捨れば、新しい水が入ってくる。

坐禅は、自分の頭や心にある“水”を一度捨て去る作業です。1日5分、近くの公園でもいいから坐って、溜まった水の半分でも捨て去ることができれば、またきれいな水を入れることができます」
石井「禅寺に来なくても坐禅はできるんですね。僕も今日からやってみようと思います」

田中「この後は、茶礼も体験してもらいましょうか」

【ポイント】

■警策で打たれると、リレフッシュできる
■坐禅は得るものではなく、捨て去るもの

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修行の合間の眠気覚ましに、茶礼で一服

石井「お寺の中にお茶室があるんですね。茶礼とは禅修行の一環ですか?」

住職「修行の合間に行う、儀式のようなものです。坐禅は眠くなるから、合間にお抹茶のカフェインを飲んで頭をスッキリさせるという目的があります」
田中「お茶というのは、初めはお寺で飲まれていたんですよね」

住職「かの有名な栄西禅師が、中国から日本へ戻る時にお寺にお茶の実を持ち帰って、日本に喫茶の習慣が広まったと言われていますね。それから武士、庶民へ広まりました。二日酔いだった鎌倉将軍実朝から加持祈祷を頼まれた栄西が、まずはお茶を飲んでくださいとすすめたら二日酔いが治ったという逸話も伝えられています。お茶だけ一服、二服と数えるのは、薬と同じ扱いだったからです。でははじめに、生菓子をどうぞ」
石井「春を感じますね」

お茶を点てる住職。
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住職「お寺では修行の儀式としてだけでなく、法要の後などに、みんなで一斉にお茶を飲む、和合の茶というのもあります。みんなで飲むことで、心に一つにする目的です。お茶というのは、そういう様々な意味を持っているものなんです。では、お茶です。どうぞ」

田中「お先にいただきます」

【ポイント】

■修行僧は、修行の間の眠気覚ましに、お茶を飲む
■お茶は本来二日酔いにも効く薬であった

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初心者が禅の心を習得しやすい写経にも挑戦!

住職「ではお抹茶で目が覚めたところで、写経もやってみてはいかがでしょう」

石井「お、いいですね!」
田中「この前、習字のお稽古、やったばかりだしね!」

住職「経典は般若心経です」

石井「薄く書かれたお経をなぞっていくんですね。やはり習字も坐禅や掃除と同じで、集中して行うことで、雑念を取り払うという?」
住職「写経というのはもともと、亡くなった人への供養で行われていたもので、修行僧が修行で行うことはありません。ただ、なぞるという行為は集中しやすく、雑念が入りにくいのです。子供が塗り絵を無心で塗るのと同じですね。今の時代に一般の人でも禅の心を知る時にわかりやすいということで、お寺などの体験で行われるようになりました」
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石井「確かに、めちゃくちゃ集中できますね。これ、いいな〜」

住職「綺麗にかけていますね。では最後に、書いてもらった般若心経を本堂で一緒に読経しましょう」
石井「住職、本日は心の整え方やリフレッシュの仕方など色々教えてくださり、ありがとうございました。これからは、合間を見つけて坐るようにして、心を整えたいと思います。坐禅会にも伺いたいですね」

田中「石井さん、ぜひ続けてもらって心を整えてください!」

石井「はい!」
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【編集長イシイのひと言】

煩悩にまみれたこのボクが、人生初の坐禅体験──正直始めは、住職に怒られるのではないかと少し緊張しておりました。けれども、「時に欲は進化を促す」「坐禅は捨て去る行為」という“目ウロコ”な言葉を頂戴し、脳内に稲妻がビカビカッと! 喉が乾いているとお水が美味しいように、日常をポジティブに生きるために、一度自らを空っぽにする。坐禅という行為を(勝手ながら)そう解釈したのですが、さて。あれ以来、一日中10分のひとり坐禅を敢行。こんな時代だからこそ有効な“Do”、ぜひお試しあれ!

【ポイント】

■写経は、集中しやすく、雑念を取り払いやすい
■坐禅会は月1回開催されていて誰でも参加できる
※現在は休止中。今後のスケジュールはお寺にご確認ください。

田中康嗣

「和塾」代表理事。大手広告代理店のコピーライターとして、数々の広告やブランディングに携わった後、和の魅力に目覚め、2004年にNPO法人「和塾」を設立。日本の伝統文化や芸術の発展的継承に寄与する様々な事業を行う。

和塾

豊穣で洗練された日本文化の中から、選りすぐりの最高峰の和文化体験を提供するのが和塾です。人間国宝など最高峰の講師陣を迎えた多様なお稽古を開催、また京都での国宝見学や四国での歌舞伎観劇などの塾生ツアー等、様々な催事を会員限定で実施しています。和塾でのブランド体験は、いかなるジャンルであれ、その位置づけは、常に「正統・本流・本格・本物」であり、そのレベルは、「高級で特別で一流」の存在。常に貴重で他に類のない得難い体験を提供します。

和塾HP
URL/http://www.wajuku.jp/
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和塾が取り組む支援事業はこちら
URL/http://www.wajuku.jp/index.php/archives/11116

瑞泉山 祥雲寺(ずいせんざん しょううんじ)

臨済宗大徳寺派の寺院。山号は瑞泉山。1623年に筑前福岡藩主・黒田忠之が、赤坂溜池の邸内に父の黒田長政を弔うために建立したのが始まり。1631年に現在の広尾に寺地を移転する。幕府との関係も深く、歴代将軍が立ち寄ることも多かった。福岡藩や黒田家に縁のある数々の大名家や武家の墓所となっていることでも知られる。本尊は釈迦牟尼仏。座禅会、茶道教室、論語教室など各種催しも定期的に行っている。
住所/東京都渋谷区広尾 5-1-21
URL/http://shouunji.or.jp

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