2023.05.27
日本のアニメは、世界に通用する「成長産業」だと認識せよ!
アニメ映画『すずめの戸締まり』は、中国で興行収入150億円を突破。『SLAM DUNK』も同国でたちまち同120億円に到達。2010年代の序盤まで1兆3000億円程度で停滞していた日本アニメの市場規模は、2021年には2兆7422億円に! 今の日本には数少ない成長産業なのだった……。
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文・写真/森田宗一郎(東洋経済 記者)
日本アニメは最早「サブカル」ではない

約2カ月にわたり、9カ国・13都市を巡った上映などのワールドツアーも最終盤。平日の昼間にもかかわらずボディーガードが必要なほどの新海監督への出待ちを見届け、ソウル市内に入った。
新海監督のサイン会を開催するために訪れたのが、日本でもおなじみのアニメ専門店・アニメイト。10年ほど前に訪れた別のアニメイトの海外店舗のように、「オタク」なファンが集っている雰囲気を想像していた角南常務は、広がる景色に衝撃を受けた。
連日、海外における日本アニメの快挙を知らせるニュースが、ネットやテレビを沸き立たせている。3月に中国でも公開された『すずめの戸締まり』は、現地で興行収入150億円を突破。並行して、4月20日には人気バスケットボール漫画『SLAM DUNK』のアニメ映画も同国で公開され、たちまち同120億円に到達した。
これは一過性の現象ではない。国内で社会現象となった『鬼滅の刃』の劇場版も2021年、米国で公開された外国語映画のオープニング興行成績で歴代1位に輝いた。
一方、ブラジルでは2021年8月からの1年間で、日本アニメの海賊版被害が2000億円規模で発生。業界団体と同国司法省による撲滅の一環で、今年に入って被疑者の家宅捜索が敢行された。
日本アニメは世界で熱狂を飛び越え、混沌すら巻き起こすムーブメントとなっている。
日本のアニメ産業の市場規模は2010年代の序盤まで1兆3000億円程度で停滞していた。
潮目を変えたのが動画配信の普及だ。米国のネットフリックスやアマゾン、アニメ専門のクランチロールなど、続々と日本アニメを買い付けるプレーヤーが台頭。全世界でタイムラグなく日本の人気アニメが伝播するようになった。
1話当たり数億円で制作される米ハリウッドや韓国の実写ドラマに対し、日本のアニメは高くても1話5000万円程度で済む。そのコストパフォーマンスのよさも配信事業者に支持された一因だ。
国内市場がほぼ横ばいで推移する中、海賊版ユーザーが正規市場に流れ込んだ結果、海外のアニメ映像やグッズ販売が急伸し、2021年には市場規模が2兆7422億円に。気づけばこの10年で市場は2倍以上になった。今の日本には数少ない成長産業だ。

『君の名は。』のヒットが転機に
当初、独ベルリンや仏カンヌなどの映画祭にいくら日本の実写映画を持ち込んでも、配給会社との商談スケジュールはなかなか埋まらなかったという。転機は2016年公開のアニメ映画『君の名は。』のヒットだった。
日本の2Dアニメを上映すれば思ったよりも客が入るのだと、世界中で認知が進んだ。その次の新海誠作品『天気の子』を海外に展開するタイミングでは、独立系配給会社を中心に、以前を大きく上回る問い合わせが入った。
続いて『劇場版 呪術廻戦 0』も海外興行収入が100億円を突破すると、海外の関係者も一層「次の日本アニメは何だ」と関心を強めていく。こうした連続ヒットのさなか、『すずめの戸締まり』ではソニー・ピクチャーズが共同配給の一員に加わり、念願の米メジャースタジオによる配給が実現。竹田氏は「営業を始めた頃には、米メジャースタジオと関係を築ける日は来ないと思っていた。アニメがその状況を覆した」と語る。
需要の広がりはまだ期待できる。注目を集めるのが人口14億人のインド。2019年には『天気の子』の劇場公開へ向け5万人もの署名が集まった。コミックス・ウェーブでも、ヒンディー語吹き替えに向けた翻訳に着手している。
「もともと映画の国で、劇場も熱気に包まれる。足元で現地のチケット単価は200〜300円程度だが、これが少しでも日本の水準に近づこうものなら、非常に大きな市場になる」(角南常務)

サウジの皇太子は生粋のアニメファン
2019年からは、サウジアラビア政府などから依頼を受けた電通のプロデュースで、日本アニメの一大イベント「サウジアニメエキスポ」が始まった。
同社のコンテンツビジネス・デザイン・センターでチーフ・プロデューサーを務める新居祐介氏は「現地のファンが日本語でアニメソングを歌うなど、その熱狂はすさまじい。日本アニメで盛り上がりたいのに、その場所がなかった。若いアニメファンが増えている国・地域がほかにもある。同じモデルのイベントなどを横展開したい」と意気込む。
海外でのグッズ展開強化を狙うのがKADOKAWAだ。同社は海外法人と連携し、すでに世界でアニメ化による原作出版物の部数拡大を実現してきた。次のフェーズとして「現地書店には日本の漫画が多く並ぶ。ここにアニメグッズを流通させない手はない」(工藤大丈・アニメ事業局長)。
最近では総合商社もアニメ関連の事業を強化するなど、大企業の投資意欲はますます加速し、人材の争奪戦も起きている。
残る不釣り合いな収益分配
後者は実際の「作り手」だが、多くは潤沢といえない予算で仕事を請け負うだけの中小企業だ。著作権も、制作スタジオではなく製作委員会側が持つ。スタジオ側の市場規模は3000億円に満たず、業界への貢献度に見合った分配がなされているとは言いがたい。
この構図を解決に向かわせようと動く企業もある。その1社が2021年に設立された、世界の動画配信業者などへの日本アニメ配給を目的とするREMOWだ。
大株主の集英社をはじめ、テレビ局や広告系の企業など、多種多様な日本のエンタメ企業が出資する。同社が目指すのは、各国における地場の動画配信サービスも含め、あらゆる流通網に日本アニメを供給することだ。「製作委員会が損をしてまで、スタジオに大幅還元するのは無理な話。売上高を飛躍的に拡大させることしか、本質的な改善策にはならない」と同社の石井紹良社長は強調する。

世界で荒稼ぎする日本アニメ。さまざまな課題が横たわりつつも、市場は沸騰を続ける。
『週刊東洋経済』 2023年5月22日発売号
過去10年で市場規模は2倍以上に拡大──。日本にはそんな急成長産業があります。アニメです。映画では興行収入100億円超えの作品が続々登場するなど、今や国民的カルチャーになりました。動画配信サービスの普及で海外ファンも急増、大企業はアニメへの投資にアクセルを踏んでいます。一方で、アニメ制作現場が利益を得にくい構造や、横行するセクハラなどの根深い問題は依然として残ります。「アニメ『聖地』ランキング」、投資家必見の「アニメ四季報」も掲載。沸騰するアニメビジネスの最前線を徹底取材しました。
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