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2022.04.01

【vol.16】北大路魯山人/後編

破天荒の巨人・北大路魯山人に「男の美学」を学ぶ【後編】

いい大人になってお付き合いの幅も広がると、意外と和の素養が試される機会が多くなるものです。モテる男には和のたしなみも大切だと、最近ひしひし感じることが多いという小誌・石井編集長(48歳)が、最高峰の和文化体験を提供する「和塾」田中代表のもと、モテる旦那を目指す連載 です。

CREDIT :

写真/トヨダリョウ 文/井上真規子 取材協力/ダイナースクラブ(運営会社:三井住友トラストクラブ)

今回のテーマはマンガ「美味しんぼ」の海原雄山のモデルになった人物としても知られている北大路魯山人です。前編(こちら)は、生前の魯山人と親交のあった黒田陶苑の黒田草臣社長のお話で、魯山人の波乱万丈な半生を振り返りました。後編では「紀尾井町 福田家」の四代目・福田貴之社長にも参加していただいて、お店で使っている魯山人の器や黒田さんにお持ちいただいた魯山人の書などを実際に見せていただきながら、その作品の本質に迫ります。

俺の器を使えばいいと魯山人のひと言で始まった「福田家」

田中 魯山人の後半生を知るうえで欠かせないのが、今日お伺いしている紀尾井町の料亭「福田家」さん。昭和14年創業にした老舗で、内装や器、料理まで、正統な魯山人の遺伝子を受け継ぐお店です。ミシュラン15年連続で2つ星を取り続けるなど、料理も超一流!  そしてこちらが四代目の福田貴之さんです。
▲ 福田家四代目の福田貴之さん。
福田 福田でございます。本日はお越しいただきありがとうございます。

石井 よろしくお願いします!  本当に素敵なお店ですね。窓の外には梅がきれいに咲いています。読者にもぜひ知ってほしいですが、会員制ではないのですか?

福田 ありがとうございます。普通に予約して、食べていただけます。

石井 どういうきっかけで魯山人が携わることになったのでしょうか?
▲ 北大路魯山人(1954年/Wikipedia)
福田 創業者である曽祖母の福田マチが、魯山人に「私は料理旅館をやりたい、どうすればいいか指導してほしい」と直々に手紙を出したことから始まったようです。すると魯山人が「俺の器を使えばいい」と返事を返したそうです。それから魯山人の大量の器を受け継ぎ、料理や内装、仲居さんの教育まですべてに指導を行ってくれたと聞いています。

田中 「星岡茶寮」を追い出されてしまった後だったから、とても力が入っていたんですよね。

黒田 生涯5人の妻を娶った魯山人は今でいうグラマラスな女性が好きで、マチさんはそのタイプだったとか(笑)。

石井 それは面白い話ですね!

田中 魯山人は艶福家としても知られていますからね(笑)。

石井 そこ、LEONに通じますね!
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▲ 黒田陶苑社長の黒田草臣さん。
田中 いまでもこの福田家さんには、魯山人の器が2000点以上存在しているのです。これだけの数を所有して、しかも実際にその器で料理を楽しめるというのは、こちらしかありません。

福田 実ははじめに魯山人から「福亭」という屋号をいただいたのですが、曽祖母は「それでは旅館らしくない、家のようにくつろいで欲しいから」と断って、福田家という名前にしたそうです。

石井 お断りするとはさすが!

黒田 マチさんのお葬式で、魯山人は「マチさんは度胸のかたまりのような人、男だったら総理大臣になれた」とまで言っていたようです。

田中 それだけ魯山人はマチさんのことを買っていたんですね。

【ポイント】

■紀尾井町の割烹「福田家」は、昭和14年創業にした老舗で、内装や器、料理まで、正統な魯山人の遺伝子を受け継ぐ
■創業者である曽祖母の福田マチが、魯山人に「私は料理旅館をやりたい、どうすればいいか指導してほしい」と直々に手紙を出した
■星岡茶寮を追い出された魯山人は、福田家の創業に全力を注ぐ
■魯山人が所有する器も受け継がれ、2000点以上が今も福田家が所有している

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魯山人のお皿で食べる極上の美食体験

福田 ではここで、実際にうちの料理を魯山人の器に盛ってお出ししたいと思います。まずは「桜鯛重ね造り」をどうぞ。

田中 お皿も一緒に楽しみましょう。

石井 緊張しますね!

福田 上に乗っている花びらは大根で、添えてあるのは岡ひじきです。器は、魯山人作「染付扇面型吉字向付」。醤油皿は、同じく「染付け福字小皿」です。

田中 この扇面の器の中には「吉」の字が書かれていますが、料理を全部食べないと字が出てこない。

石井 お洒落ですね(笑)。

黒田 吹墨という技法を使った器です。余談ですが、魯山人は醤油皿にわさびを解くのは好きではなかったんです。

福田 「美味しんぼ」のエピソードにも出ていましたね。

石井 そういえば!  私もお醤油を軽くつけて、わさびなしで食べようと思っていました。

黒田 いいじゃないですか。

石井 桜鯛は噛むとねっとり味が出てきて美味しいですね。
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福田 お次は、甘鯛の揚げ物になります。

石井 美味しそう……。

福田 上にのっているのは、瀬戸内香川県のキャビアです。宍道湖の白魚、鹿児島アイラ産の筍、天豆を薄衣揚げにしています。料理長の出身地、長野県大鹿村でとれた温泉を煮出した塩を添えてあります。つけて食べてみてください。
石井 美味しい!  お塩のミネラル感がいいですね。

福田 このお塩は、ミネラルが普通の10倍くらい多いんです。ちなみに器は魯山人作「瓢箪文黒漆椀」と「柿釉擂鉢向付」です。
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▲ 桜鱒木ノ芽焼【三人前】 山独活伽羅煮 柚子蜜煮
福田 3皿目は桜鱒の木ノ芽焼です。3人分を一皿に盛ってみました。脇に山独活を佃煮風に煮たものと、柚子蜜煮を添えています。

田中 桜鱒は春を代表する高級魚ですね。この魯山人の大皿に乗っているとさらに美味しそうに見えます。

福田 ありがとうございます。こちらは「備前ドラ鉢」という器で、ここから各人の皿に取り分けてお出しします。この小さい皿が「染付福字皿」です。
石井 「福」の字が書いてありますね。これも、とてもいい。そして桜鱒は柔らかくしっとりと脂がのっているところに山椒がふわりと香ってきます。美味すぎて気絶しそうです(笑)。

【ポイント】

■魯山人は醤油皿にわさびを解くのは好きではなかった

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ピカソも欲しがった! 魯山人が焼いた器たち

田中 ここでちょっと魯山人の器の話を黒田さんに伺いましょうか。この「染付福の字皿」は魯山人の皿の中でもとても有名なものですね。

黒田 はい。生前に何千枚と製作されており、よく知られた器です。どれひとつとして福の字体が同じ皿はないんです。

田中 福田家さんの「福の字皿」は10枚揃いの貴重なものです。料亭で「福の字皿」を持っているところは多いですが、これだけ揃っているのは珍しいし、何より現役で使われているのがすごいところです。

福田 この染付は、昭和10年に焼かれたものです。今日は状態の良い3枚をお出ししていて、残りの7枚は欠けて金継ぎしながら使っています。

石井 この渦巻き福、いいですね。

田中 こういうお皿が出てきた時に、魯山人の小咄などできるとカッコいいですよね。
石井 白地に藍の美しい色が映えますね。

田中 福の字は一筆書きみたいに見えますが。よく見ると縁が描いてあります。

黒田 そうですね。「福」の字を、濃い呉須で輪郭を籠字にしてから、内側をダミで埋めています。簡単そうに見えるかもしれませんが、真似しようとしても難しいのです。デザインも使う時のことを考えて作られています。料理を盛り付けても福の字が邪魔にならないですし、仲居さんが置きやすい形になっています。

田中 もう一枚、福田さんに持ってきていただきました。こちらの赤皿は、志野焼の「草平向」ですね。
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▲ 志野焼の「草平向」。
福田 ピカソが気に入って、譲ってくれと言ったと言った器でもあります。

石井 魯山人がピカソの作品をボロカスにけなしたという話を聞いたことがありますが(笑)、ピカソは魯山人の器を欲しがったんですね!

田中 でも確かにこの皿は美しいし、欲しくなります(笑)。

黒田 これは、蝋抜きという手法を使って焼いた器です。すすきの白い部分は蝋を溶かしたもので描きその上に鬼板を掛けています。刺身などを盛る向付で、皿に見えるものでも、魯山人は「平向」と呼んでいました。
田中 蝋でマスキングして、すすきの部分を白く保っているわけですよね。

黒田 持ってみるとわかりますが、見た目よりかなり重い。割れないように丈夫に仕上げるため、ほとんど水を使わずに叩いて制作しています。使うために器を焼いていた魯山人の考え方ですね。

石井 どこを触っても手触りが異なるのが楽しいですね。裏側もざらざらとしています。

黒田 魯山人は肌触りも大事にしていました。わざと削らないで、そのままにしているんですね。
田中 焼きや色、重さ、肌触りなど、均一ではない感じがまたすごくいいですよね。

石井 どこから見ても絵になりますね。
黒田 志野釉の濃淡がすすきに霞が掛かったかのようにも見え、いくら見ていても飽きない器です。

田中 それにしても魯山人の器に対する創作意欲は並大抵ではありません。

黒田 古染や李朝陶などありとあらゆる陶器に挑戦していました。世界の陶磁器のほとんどを、試作や模作していましたから。

石井 それはすごい。やっぱりエネルギーが違いますね。

黒田 魯山人は芸術作品を創っている時は、人を寄せ付けず、狂気じみたものを感じさせるところがあったようです。でも仕事を離れたら、平静を取り戻し、素直に芸術論を語り出したりする。父は、根っからの善人だと言っていましたが。

田中 でも肩書きが嫌いで、人間国宝を断ったこともよく知られています。

黒田 魯山人は陶器のなかでも織部焼をこよなく愛して「昭和の織部」と豪語し、作った数も多いです。昭和30年には「織部焼」の人間国宝の認定を打診されますが、翌年も断り、「それだけは受けたくない。位階勲等は一切お断り」と拒否したんですね。名刺には肩書なしでした。
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▲ 福田家で所有する魯山人の器を一部並べていただきました。
田中 彼は純粋に料理のために器を焼いていたんですよね。よく知られた魯山人の言葉に「器は料理で描く絵である。器は料理の着物だ」というものがあります。

黒田 魯山人ほど、料理と器作りを知り尽くした人はいなかったのではないかと思います。食器が良くなければ料理がどんなに美味くてもだめ、という考え方です。目は舌に先行するからと。食器の選択で料理人の腕が決まるというのが口癖でしたね。

当時の陶芸家の多くは高額の茶碗や香炉、花器など、鑑賞目的を重視して作っていましたが、魯山人は普段使いの食の器を好み、料理をのせることを前提に創っていたんです。暮らしに密接した創作食器を制作することに魂を込めていました。いわゆる生活雑器といわれるものも、芸術的なものに引き上げた功績があると思います。
田中 同じ器で、煮物や果物を盛り付けたり、花を生けたりしていたというのも魯山人ならではですよね。

黒田 まさに用の美ですね。器の多用性を好んだのです。

石井 魯山人の大切にしていたものが見えてきたような気がしますね。

【ポイント】

■「染付福の字皿」は、魯山人が生前に何千枚も製作した有名な作品
■魯山人は、使う時のことを考えて器を作っていた
■芸術作品を創る時は、人を寄せ付けず、狂気じみたものを感じさせた
■肩書きが嫌いで、「織部焼」の人間国宝を断った
■食器の選択で料理人の腕が決まるというのが口癖だった
■生活雑器を芸術的なものに引き上げた
■同じ器で、煮物や果物を盛り付けたり、花を生けたりしていた

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魯山人の書に記されていたのは「いいことばかりいうヤツは……」

田中 今日は黒田さんが魯山人作のお軸も持ってきてくださいました。こちらは中国語の略字を使っているようなので、魯山人の後期の作品でしょうか。

黒田 「無境 ロ」とあるので、晩年に近いころのものです。晩年は箱書も落款を押さなくなりました。
石井 すごい達筆ということしか、わかりませんが(笑)、これはどういう意味ですか?

黒田 「好語(こうご)、説きつくすべからず」と読みます。美辞麗句を語りすぎると、その言葉の価値に深みがなくなってしまう。

田中 いいことばっかり言うやつは信用できないと(笑)。
福田 それからこちらは扇子のお軸ですね。

田中 一度、扇子として仕立てたものを大事だからと、剥がしてお軸に仕立てたものですね。

福田 うちにも何枚か残っていますが、これは保存状態がとても良いですね。

黒田 暗めの茶室にかけたらすごく映えると思います。
田中 皆さんも知りたいと思うので(笑)お聞きしますが、これで、お幾らぐらいなのでしょう?

黒田 春蘭の絵に「春来草自生」と賛があります。60万ぐらいでしょうかね。魯山人の軸装としては、お値打ちだと思います。

石井 本当に?  頑張ればいけますね!

一同 
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福田 うちに残っている魯山人の額も見ていただきましょうか。例えば、こちらの額は「福田」(ふくでん)と言って仏教の教えを説いたものです。良い行いの種をまくと、功徳の収穫を得られる。心(田)を良く耕せば、みのり(福)が得られるという教えです。

石井 遊んでいるばかりじゃなく善行も積まなきゃモテる男にはなれないということですかね(笑)。

田中 魯山人の作品を見るといろんな学びがありますね。

石井 今日は美味しいお料理と、本当に素晴らしい器をたくさん見せていただき、ありがとうございました!   魯山人の知られざる魅力が少しわかった気がします。

福田 最後に、実は店には魯山人が作った織部の便器があるので、よかったら使ってみてください。

田中 他にも作品として展示されているところはありますが、現役で便器として使われているものには滅多にお目にかかれないですよ! 

石井 な、なんて贅沢な! では最後に使わせていただきます!
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● 黒田草臣(くろだ・くさおみ)

1943年、鎌倉市生まれ。明治学院大学経済学部卒業。東京渋谷(株)「黒田陶苑」代表取締役。55年にわたり陶業に携わり、「北大路魯山展」「大備前展」など近現代陶芸家を中心とした展覧会、個展を数多く企画・プロデュースする傍ら、雑誌・単行本等で陶磁器に関する執筆・監修を行っている。著書に「美と食の天才 魯山人」(講談社)、「とことん備前」(光芸出版)、「魯山人おじさんに学んだこと」(晶文社)、「極める技  現代日本の陶芸家125人」(小学館)、「備前焼の魅力探求」(双葉社)、「名匠と名品の陶芸史」(講談社)、「終の器選び」(光文社)、「陶芸家列伝
魯山人おじさんに学んだこと」(講談社)などがある。

● 田中康嗣(たなか・こうじ)

「和塾」代表理事。大手広告代理店のコピーライターとして、数々の広告やブランディングに携わった後、和の魅力に目覚め、2004年にNPO法人「和塾」を設立。日本の伝統文化や芸術の発展的継承に寄与する様々な事業を行う。

紀尾井町 福田家

住所/東京都千代田区紀尾井町 1-13
営業時間/昼11:30-14:40、夜17:00-19:30(入店時間)
定休日/日・祝・土(月1回) ※夏季・年末年始休業あり
TEL/03-3261-8577
HP/紀尾井町 福田家~北大路魯山人の想いを~ 

和塾

豊穣で洗練された日本文化の中から、選りすぐりの最高峰の和文化体験を提供するのが和塾です。人間国宝など最高峰の講師陣を迎えた多様なお稽古を開催、また京都での国宝見学や四国での歌舞伎観劇などの塾生ツアー等、様々な催事を会員限定で実施しています。和塾でのブランド体験は、いかなるジャンルであれ、その位置づけは、常に「正統・本流・本格・本物」であり、そのレベルは、「高級で特別で一流」の存在。常に貴重で他に類のない得難い体験を提供します。

■和塾
HP/http://www.wajuku.jp/
■和塾が取り組む支援事業はこちら
HP/https://www.wajuku.jp/日本の芸術文化を支える社会貢献活動

<ダイナースクラブ会員限定特別イベント>
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醍醐寺とダイナースクラブで取り組んでいる「文化財修復プロジェクト」の一環として行っている観桜会(夜/朝)。ダイナースクラブ会員は、貴重な文化財や天候不順にも負けず力強く花を咲かせるしだれ桜の鑑賞、「朝の観桜会」では、柴燈護摩(さいとうごま)法要を体験いただけます。
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詳しくはこちら HP/https://www.diners.co.jp/ja/event/evt_sakura_daigoji_2022.html

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