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2019.02.19

ブランドビジネスでの失敗。からの大逆転劇【vol.17】

シンガポールを拠点にアジアを巡るエンジェル投資家、加藤順彦ポールさん。この10年、東南アジアを中心に周る中で得た、投資の知識や処世術、そして関わるひととの熱いドラマを展開します。

CREDIT :

文/加藤順彦

広告事業をしながらアパレルを生業とする青年

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2010年1月、何を思ったか僕はTwitterでちょいちょい絡んでくださる方といわゆるオフ会を開催しました。そこで知り合ったのが佐藤俊介さんでした。かつての僕のようにネット広告会社「エスワンオー(現:株式会社ハートラス)」を営んでいる青年でした。

会食後、一人ひとりに感想を訊くと、佐藤さんだけ「つまらなかった。もっと加藤さんと話しがしたかった」と不満の声が。気になった僕はすぐにアポを取り会いに行ったのですが、彼は広告業をやりながら代官山でアパレルもやっていたのです。

それってセレクトショップ? 「いやオリジナルです」と。えーそれ厳しいでしょ。ベンチャーにしてアパレルとは! というのはアパレルは在庫が重い。アシ=賞味期限が短い。しかも日本製は円高がさらに進むし、そもそも日本で生産はナンセンス。ということで、加藤としてはむしろ絶望的に上手くいかない、と事業性そのものを否定する上から目線で入ったのです。

ですが、お話しを聞くほどに、佐藤さんには……

たぐい稀なる独創的ブランドとアイデアと日本の縫製・素材加工の技術の高さに関する深い思い入れと造詣がある。
・ 当時としては先進的だった、Facebookページを使ったマーケティングの取り組みをしていた。
(2010年にすでに2万人超のファンがいた。当時の日本発のページとしては唯一の数字)。
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ブランドビジネスをシンガポールから発信

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そんな剛毅な若々しさを感じつつ、さらにいちゃもん言っても、加藤に反論し喰らいついてくる勢いに魅せられ、しだいに惹き込まれていったのです。そして佐藤さんこそが、僕が夢想していた理想型の経営者だと感じたのです。

そこで思ったことは……
• 日本の経営者を、シンガポールに、会社ごと持ってくる。
• 日本発祥でシンガポール発信の、世界に向けたビジネス創造がなせるのでは!

と感じ、むしろ僕から猛アタック。善は急げと、そのまま6月に僕個人とエスワンオーにて”satisfaction guaranteed"をアジアに展開するブランドの名を冠した販売会社を設立しました。そして翌年11月、エスワンオーからブランド自体をその法人に移管して、資金調達を実行、本格的に世界に出て行こうとしたのでした。

日本発、東南アジア発信のアパレルブランドとしての斬新な展開もさることながら、すごかったのは佐藤さんのアイデアとロジックを軸としたFacebookを使ったファン作りでした。シンガポール法人設立時にも、ブランドのFacebookページの『いいね!』は既に8万を超えていましたが、資金調達以降は一気に加速し、日本人経営のFacebookページとしては最速で100万、300万、やがて500万いいね!の達成へと一気に広がっていったのです。

意外にも、アパレル事業は順調にいかず……

しかしながら、実際の展開自体は波に乗ることはできませんでした。結果として、新作アパレルをシーズンごとに出し続ける展開は早々に断念。大手アパレルメーカーへのブランドライセンシングをはじめ、美容室チェーン、日本の地域ブランディング受託など、様々な多角化へ果敢に挑戦したものの、大きく化けさせることはできず。結果として2014年8月を以て翼を収める段に至りました。僕も取締役を降りるとともに、持っていた全株式を佐藤さんに譲渡。事業は清算へと向かい、僕自身の同社に対する投資としては「失敗」となりました。

個人としてはぶっちゃけ、総額3500万円超を突っ込んだのですが、いま振り返っても大騒ぎできたし、世に爪跡を遺しまくれた気もするし、得られるものはとても大きかったなぁと感じています。あと、やっぱりアパレルというブランドビジネスってほんと難しいな、と。以来、LEONを見る目も大きく変わったと思います。
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オリジナルの管理・解析ツールから起死回生

さて今回のエピソードは、ここで終いではありません。「SATISFACTION GUARANTEED PTE LTD」は当初からそのオリジナリティの核として、Facebookぺージを巧みに運用し、いいね!を押してくれたファンとの繋がりや共感を解析し拡散するための強力な管理・解析ツールを自社で開発運用していました。

2011年からは日本の子会社を本格稼働し、そのツール自体をパッケージとして、他の企業からFacebookページの運用を丸ごと受託する展開も行っていました。Facebookのインサイト解析ツール「social gear」は、ブランド事業同様に営業状況は厳しく軟調な業績が続いてしまい、ともすれば共倒れとなりかけた状況になっていました。ですが、2013年、佐藤さんが個人でケッコーな大枚をはたいて、資金繰りが厳しかった母体を救うという文脈で、「social gear」を分社化し買い取ったのです。軍資金はエスワンオー株式の売却益でした。

SATISFACTION GUARANTEED PTE LTDの事業停止後、ギリギリのダッチロールで運営を続けていたsocial gear社は、なんと2015年にかけて尻上がりの急成長を遂げ、同年「トランス・コスモス」と資本業務提携する運び(後に100%子会社へ)となりました。佐藤さんは同社株の売却で得る資金の多くでそのままトランス・コスモス株式をどーんとオトナ買い。子会社となったSOCIAL GEAR PTE LTDのCEOを務めつつ、親会社の取締役になるミラクルな展開を実現してくれました。

昨年末、佐藤さんのお声掛けで社内勉強会での講演の機会をいただき、そのまま佐藤さんと対談も行いました。 いまや1万人を優に超える組織の長(現:取締役上席常務執行役員兼CMO)となり、同社のイノベーションを管掌しておられるのは、さすが! 御見事としか言いようがありません。

その後の”satisfaction guaranteed"は佐藤さんが社外取締役を務める「株式会社ビーグリー」の運用となっています。こないだCXの深夜番組で、千鳥の大悟さんがロゴ入りのカットソーを着ていらしたのを旧メンバーが連絡してくれました。嬉しかったです。
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● 加藤順彦ポール(事業家・LENSMODE PTE LTD)

ASEANで日本人の起業する事業に資本と経営の両面から参画するハンズオン型エンジェルを得意とする事業家。1967年生まれ。大阪府豊中市出身。関西学院大学在学中に株式会社リョーマの設立に参画。1992年、有限会社日広(現GMO NIKKO株式会社)を創業。2008年、NIKKOのGMOグループ傘下入りに伴い退任しシンガポールへ移住。2010年、シンガポール永住権取得。主な参画先にKAMARQ、AGRIBUDDY、ビットバンク、VoiStock等。近著『若者よ、アジアのウミガメとなれ 講演録』(ゴマブックス)。

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