2025.05.09
【Q3】オヤジ世代がぐっすり眠れる「入眠習慣」とは?
寝ても疲れがとれない、起きたい時間よりも早く目が覚める。年齢を重ねて、睡眠にまつわるお悩みが増えたのでは? そこで、オヤジさんも多く訪れるという『眠りと咳のクリニック虎ノ門』の柳原万里子院長に、さまざまな疑問に答えていただきました。
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イラスト/STOMACHACHE. 文/大塚綾子 編集/菊地奈緒(Web LEON)
A.就寝前には照明を落とし、明日のことを考えるのはやめてリラックスしましょう

柳原先生(以下、柳原) まず規則正しく寝起きする、日中は頭と同じくらい体も使って頭と体をバランスよく疲れさせる、というのが上手く寝るための土台になります。夜になってからのポイントは、大きく3つあります。
2つめは、上手に体に夜を伝えること。照明がカギとなります。夜の照明は自然界の夕焼けから日没後の時間をイメージして工夫するのがよいと思います。寝る1時間前からは部屋の照明を落とし間接照明などにしてみてください。文字が読めないくらいの明るさが目安です。就寝後の照明は真っ暗でOKですが、真っ暗だと眠れない人は、目元に光が当たらないような位置に照明を置く、たとえばフットライトなどがおすすめです。
私たちは昼行性動物のため、夜中でも眩しい光を目にすると脳が全身へ「起きよう、活動しよう」という指令を出してしまいます。つまり、神経やホルモンが覚醒の方向へ動いて、眠る準備に入れません。よく知られているように、ベッドの中でタブレットやスマホを使うのもやめましょう。
3つめはリラックスすること。心拍数が上がること、アドレナリンが出そうなことを避けるイメージです。たとえば熱いお風呂に入る、激しい運動をする、気がかりなことを心配してドキドキする、スリリングな映画やゲームを楽しむなどです。
── 眠れない時はどうすればいいですか?
柳原 相反するようですが、寝ようとして頑張るのはおすすめできません。残念なことに、寝ようとして頑張れば頑張るほど目が冴えてしまう場合がほとんど。「このまま眠れなかったらどうしよう、明日はこれがあるのに、あれがあるのに」と思い始めると、だいたい余計眠れなくなります。
眠れない時には「上手く眠れない日があっても、眠れている日があるからいいや」と開き直り、ベッドから離れてしまうのも1つの手。せっかくできた自由な時間は、眩しくない環境でリラックスできる好きなことをして過ごしましょう。そのうちに眠気が来たらラッキーくらいのスタンスがいいですね。
もちろん毎日しっかりと眠れるのがベストかもしれませんが、日々いろいろとある中でそうもいかないと思います。そもそも何のために寝るのかと言うと、明日頭も心も体も元気に過ごすため。毎日完璧に眠れなくても、そこそこ元気に日中を過ごせているなら大丈夫です。
── 眠れない患者さんには、睡眠薬を処方することもありますか?
柳原 必ずしも「眠れない=睡眠薬」ではありません。寝つきが悪いケースや途中で何度も目が覚めてしまうケースは、実は不眠症以外の睡眠障害の場合があります。また、眠れていなくても日中の活動に支障がなければ不眠症とは診断されず、睡眠薬を使う必要がないということも。
「歯が痛いから痛み止め薬を飲んだ」と同じように、ただ「眠れないから睡眠薬を処方しました」では対症療法になっても根本的な治療にはなりません。眠れない原因がある場合は原因を解消すれば元のように眠れるようになるはず。眠れなくて疲労困憊の時には即効性の期待できる睡眠薬は役立ちますが、やはり長い目でみて、原因を探して根本治療を検討することが大切です。
── 睡眠薬に怖いイメージをもつ人も多いのですが?
柳原 睡眠薬が敬遠される理由は大きく3つあると思います。1つは依存性。睡眠薬がないと寝られなくなるのではないか、今効いている薬がいつか効かなくなるのではないかという不安です。2つめはふらつき。高齢の方だとトイレに起きた際にふらついて転倒するリスクを心配されます。3つめは将来の認知症のリスクを上げる睡眠薬があると聞いたので怖い、というものです。
1950年代までの睡眠薬はバルビツール系と呼ばれる危険度の高い薬でした。以降、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬や、それらをさらに改良した非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬が主流となっています。2010年にはメラトニン受容体作動薬、2014年にはオレキシン受容体拮抗薬という新しい種類の睡眠薬が登場しました。後者2つは先ほどの睡眠薬が嫌がられる3つの要素のすべてがないと言われています。昔と比べ睡眠薬の安全性や選択肢はどんどん広がっています。

● 柳原万里子(やなぎはら・まりこ)
医学博士。日本睡眠学会総合専門医・指導医。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医。公益財団法人神経研究所睡眠健康推進機構学校訪問型睡眠講座・出張睡眠市民講座事業登録講師。筑波大学附属病院睡眠呼吸障害診療科講師、東京医科大学睡眠学寄附講座客員講師を経て2022年11月に「眠りと咳のクリニック虎ノ門」を開院。皆さまの睡眠と健康寿命を守る、をモットーに女性ならではの丁寧な視点で多岐にわたる睡眠障害の診療と臨床研究、啓蒙活動を行う。著書に「臨床医のための疾病と自動車運転(三輪書店)」「診断と治療のABC 睡眠時無呼吸症候群(最新医学社)」など。

■ 眠りと咳のクリニック虎ノ門
住所/東京都港区虎ノ門1-1-18 ヒューリック虎ノ門ビル1F メディカルスクエア虎ノ門内
TEL/03-6205-7541
診療時間/月・火・木・金曜10:00〜14:00、16:00〜20:00(水曜は不定期) ※受付時間は診療終了の30分前まで
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